多治見ききょう法律事務所

弁護士 木下 貴子 ブログ

民法改正による契約書の見直しポイント1「概要」

民法改正による契約書の見直しポイント1「概要」
いつも読んで下さって,ありがとうございます!
新型コロナウィルスでまだまだ不安な状況だと思いますが・・
3月に入り,暦の上ではすっかり春で,梅の花を見ると春の訪れを感じます♪
そう!春と言えば,「契約」見直しの季節です(←ホントに!?)
就職すれば雇用契約,引っ越しすれば,新しいマンションでの賃貸借契約,旅行をすれば旅行契約…
…実は,私たちの生活は,「契約」であふれていますね。
今回は4月1日施行という間近に迫った民法改正の影響により,
事業主,経営者の方が契約書を見直すとき,どんな点に意識をすればいいのか?
チェックポイントを分かりやすくお話します!
弁護士は,トラブルが起きた場合に解決するために仕事をしています…
ということは,自分にトラブルが無ければ,弁護士には頼まなくても良い……そう,あなたも,「弁護士はできれば一生関わり合いたくない人」と思っていませんか(泣)?
しかし!だからこそ,弁護士はトラブルを防ぐためのポイントが分かるのです。弁護士は,沢山のトラブル(紛争)現場を体験しています。
なので!弁護士がこの知識,経験を伝えることこそ,お役に立てる,と思っています。
…ということで,今回は,120年ぶりの改正と言われる民法改正,特に債権法に関わる改正によって,
何が変わるのか,私の雑感も交えた「概要」をお伝えすることで,トラブル防ぐためにどんなことについて注意したらいいのか,考えてみます。

1.「目的」が大切!

改正民法では,「契約その他の債権(債務)の発生原因及び取引上の社会通念に照らして」という言葉が頻繁に使われています。
また,「契約目的を達することができないとき」に無催告(やってよ~と改めて請求不要)で解除が認められたり,
錯誤(勘違い)が「法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるとき」に
意思表示の取消を認めたりしています。
これによって,「目的」「当事者の属性」「契約締結に至った事情」といったことを契約書に明確に書いておくことが,
トラブルの予防や万一,裁判になった場合の判断要素として大きな意味を持つことがはっきりしたと言えます。

これまで契約書を拝見させていただくと,

現行法での取引基本契約書では「相互の共同の利益増進を図ることを目的として」などという抽象的な「目的」が規定されている場合も多く見受けられました。

しかし,今後は,契約に至った背景,当該契約により売買される目的物の用途などを含め,当該契約の「目的」をより明確に定めることが,
自社に有利な判断を得るための重要なポイントになるものと思われます。

特に売買契約で言えば,買主の立場からは,売買の目的物が,自分が求める契約の「目的」に沿わないことを主張するためにも,契約の「目的」につ
いて細かく決めておくべき場面が増えるでしょう。
例えば,
賃貸物件として,マンションを購入するような場合。
どのような顧客層の方にどのようなサービスを提供するためにマンションを購入するのか,
そのためには,どのような設備が整っていなければならないのか,
どうしてそのマンションを購入することにしたのか
(税金優遇策があるから,日当たりや景色が良好だから,など)
購入する決め手となった重要なポイント,
その機能が無ければ,購入はしなかったと思われる,今回マンションを購入することによって達成したい「目的」
を明示することが大事になります。
そうすることで,買主として,こんなマンションでは意向にそぐわない…「こんなはずではなかったのに(怒)!」
売主として,「え?こんなことが重要だったの?それぐらいのことで解除されたらたまらない(怒)!」
というすれ違いを防ぎ,トラブルを回避することがしやすくなります。
そのため,以前のブログでも,契約の「目的物」にズレが生じないようにすることが大切なことをお話しましたが,
それでも,想定していない事態は起こり得ます・・・
そんなときに,「目的」や契約に至る経緯を出来るだけ詳細に定めて,あなたが何を重視していたのかを明確に分かるように決めておけば,
こういう「目的」の契約なのだから,○○と解釈すべきだよね,という判断をしてもらいやすくなります。

みなさんの契約書には,なぜ,その契約をすることになったのか,
その契約によってどんなことを達成したいのか,その「目的」は明示されていますか?

2.詳細も合意で決めておく!

改正民法では,「定型約款を契約の内容とする旨の合意をしたとき」や「あらかじめその定型約款を契約の内容とする旨を相手方に表示していたとき」に約款の内容についても合意したとして,効力を認める条文を新設しました。

約款は,取引ごとに個別に契約内容を決めると手間やコストがかさむので,鉄道やバスの運送約款,保険契約の約款などで広く使われています。
しかし,インターネット取引で商品を購入する際表示される約款が,小さな文字で書かれていて,注文時に気付かないことでトラブルになるケースが多く発生していました。
そのため,詳細についても,しっかりと「合意」で決めたと言えなければ,無効になることがはっきりしました。

改正民法で言う「定型」約款は,その要件が定められているため,従来「約款」という言葉を使ってきた多くのものの中で,この「定型約款」には該当しないものもあるでしょう。例えば,賃貸借契約は「定型約款」には該当しないでしょう。

他方で,学習塾の規約,スポーツクラブの規約,レンタル会員の規約,施設貸の規約では,「規約」「規程」という言葉を使っているものを見受けますが,これらは,「定型約款」には入ることが多いでしょう。

改正民法では不特定多数の方に一律に当てはまるような定型的なものでさえ,しっかりと合意の中身にすることを明示しないといけないという趣旨ですので,それに至らない個別性の高い事項も含まれるような規程,規約(約款)の場合,契約書の中で規約(約款)についても,合意していることを明示しなければ,どちらにしても,契約書の合意として効力が発生しないことになるでしょう。
今までは,これらの「規約」「約款」は契約書の作成とは別に,契約後に注意事項として渡されたり,
掲示物として表示してあったり,というようなことも見受けられましたが,今後は,契約時に,「契約書」の文言の中に具体的に「○○規程の定めにより・・・」と定めた上で,規程も契約書に添付することが大切になります。
申込み,注文画面であれば,「○○規程を承諾の上申し込みます」とし,
○○規程がすぐに見られるようにしておくことが必要です。
1のところでも書きましたが,こうした改正民法全体の流れを見ると,出来るだけトラブルの内容に合意で詳細を定めましょう,
定めておけば,色々効力を認めてあげましょう・・という「考え方」を感じます。
詳細はまた別途書きたいと思いますが,以前は,認められにくかった,転売によって得られる利益や遅延による具体的な損害金も請求しやすくなると思います。例えば,先ほどのマンション購入が転売目的なのであれば,それを明示しておくことまで請求しやすくなると思います。
自分もそのマンションの一角に住むことも目的にしているのであれば,居住開始が遅れたことによる不利益(別のマンションを借りたことによる家賃相当分)なども請求できるように定めることも可能になり得ると思います。
みなさんの契約書は,「規程」「規約」も合意の中身になることを明確に定めていますか?
その内容をしっかりと相手にも明示していますか?

3.重い責任には予測可能性を!

今回の改正民法の中でも,多治見ききょう法律事務所が関与している顧問先で一番影響が大きいこと・・
それは「保証債務」についての変更だと思っています。
これまで金融機関の貸付金の保証をする際には,
予測もしなかった大きな負担をすることで,トラブルになっていました。
自分自身が借りたわけではないのに,
ある日何千万,何億の保証債務を求められ,個人資産もすべて失う・・ということも。
このようなことから,先に貸金についての保証については,厳しい定めがされています。
今回の改正によって,さらに,「貸金」だけではない「保証」についても,
決まりを守った保証契約にしなければ,無効になってしまうことが決められました。
これは,賃貸借契約の保証人が,家賃を支払ってくれない賃借人の代わりに支払いを請求される際,
それまでに多額に家賃を滞納しており,その金額に驚く,というようなトラブルもあったことが背景にあると思います。
しかし,賃貸借契約だけでなく,医療業務のうちの入院費,介護施設の利用費など,
継続的に支払いが生ずる場合に保証人になってもらう場合にも,その責任が予測できるようにすることが求められました。
この影響は,従業員を雇う際につけていただくこともある「身元保証」にも関わってきます。
こちらもまた別の機会に詳しくお話したいと思います。
保証人の責任の範囲が予測できるような「契約書」になっていますか?
「保証人」は本契約書で主債務者が負担する「一切の負債」について保証する,となっていませんか?

4.まとめ 契約書はあなたを守るためにある!

以前も書きましたが・・・
弁護士は,契約書の確認を依頼されると,目の前のご相談者にとって,権利を守るためにはどうしたらいいのか,を考えます。
契約書は,自分の権利を守り,自分のかなえたいことを実現し,トラブルになるのを防ぎ,トラブルになったとしても,被害が最小限になるようにつくるものです。
相手の権利を守るためだけになされる「契約書」は自分にとっては,不要ですね。
…そう考えると,相手方が作成した契約書は「相手方の権利を守る」契約書になっていることも多いことがわかります(笑)
…特に,相手方の「弁護士」が作ってきた契約書は要注意(笑)
少しでも,不安や疑問を感じたら弁護士に相談して下さいね。
改正民法の全般を流れる「考え方」を私なりに要約してみると・・・
「あなたが何を重視しているのかをちゃんと明示して,そして,相手にもそれが分かるようにして」
「そうでなければ効力は与えない,けれど,明示してくれたら効力を与えるよ」
ということかな,と思いました。
なので!
これからより一層,事業主の方がどんな思いでこの契約をするのか?
どんなことは絶対避けたいのか・・・?
どんな「目的」で契約するのかお聞きさせていただきながら,一緒に契約書を作り上げていけたら嬉しい,と思います!

 

このブログが,「契約書のどこをチェックしたらいいのか分からない」という経営者の皆様,会社で総務を担当する部署の方々のお役に立てますように…

引き続き,民法改正による契約書の見直しポイント,伝えていけたらと思います。

今回も最後まで読んで下さって,ありがとうございました!