多治見ききょう法律事務所

弁護士 木下 貴子 ブログ

「美人」とほめること,名前の呼び方でもセクハラになる?裁判例の紹介

「美人」とほめること,名前の呼び方でもセクハラになる?裁判例の紹介

セクハラって,大学内で行われていることも多いのですね。この4月から娘が大学生になったこともあり,改めてセクハラが認められた裁判例を検討していて実感しました。

それはなぜなのか・・?今回は,裁判例を検討しながら,どのような言動が「セクハラ」と認定されるのか,具体的に考えていきたいと思います。

これを知っておくことで,学生,その親,職員などの信頼を失って当該大学を志望する人を減らしてしまうことや,損害賠償責任を負わないように注意するだけでなく,ハラスメント被害を生じさせない職場環境を意識することで,職員や学生の環境を守って,安心安全に学業や職務を行えるようにすることは,とても重要です。

大学だけでなく,民間企業でも,同様に損害賠償請求を回避し,求められる安心な職場とするためには「現在」の基準で「セクハラ」行為となりうる言動について,意識して対応することは必要不可欠です。

具体的にどのような行為が裁判上,セクハラ行為として認定されてしまうのでしょうか?

大学教授が「女性研究者は出産とかで何年も空くと,戻りづらい」というのは,「セクハラ」?
女性職員を下の名前で呼び捨てにするのは「セクハラ」?
「美人」とほめるような言葉でも「セクハラ」になる?

今回も引き続き,「セクハラ」について,お伝えしていきたいと思います。

1 性的な関心・欲求に戻づく発言等のセクハラ

前橋地裁平成29年10月4日判決では,大学教授が女性(K助教)に対し,
①大学院生と年齢が近いことを指摘して「恋愛問題を起こしそうだ」などと発言した行為
②結婚又は出産で休職する予定がないかを複数回尋ねたこと
③「女性研究者はこういう出産とかで何年も空くと,やっぱりなかなか戻りづらい」などと発言した行為
④大学教授がG大学を提出する場合には一緒についてきてほしいなどと発言した行為
⑤K助教が過労により風邪をこじらせ内科受診後に出勤することとなった際,他の研究員に対し「助教は妊娠したんじゃないか。様子を見てこい」と発言した行為

がいずれもハラスメント(セクハラ)に当たるとされています。

したがって,「軽い気持ち」「冗談」などというつもりであっても,「具体的にどのような言動がセクハラになるのか?」で示した基準からして,性的な関心・欲求に戻づく発言・性別により差別しようとする意識等に基づくものとして,「セクハラ」となることに注意しましょう。

もっとも,この事案では,大学が当該教授を当該セクハラ行為等を理由に懲戒解雇処分としたことは重過ぎるとして無効と判断しています。
諭旨解雇から懲戒解雇に切り替えたこと自体について,教授の利益(諭旨解雇の勧告に応じるか否かの検討機会)を侵害したものとして,不法行為にあたり慰謝料15万円の支払が認められていますので,「セクハラ」として懲戒理由になると考えられる場合であっても,企業側としては懲戒解雇をしていい事案なのかどうか(有効となるのか),は別途注意が必要です。

2 名前の呼び方・美人という呼称のセクハラ

東京地判平成29年10月20日,東京高判平成31年1月23日判決では,大学教授が特定の女性職員に対し,
①呼びかけやメールなどで下の名前で呼び捨てあるいは様付けで呼んだこと
②「東方三美人」などと呼称した行為

職場においてファーストネームで呼ばれることは親密さを過度に求められるように感じることや容姿と関係のない職場において美人との表現を使用することは性別を強調されるようで不快に思うことを踏まえるとセクハラに該当するとされています。

原審,控訴審のいずれも「セクハラ」と認められていますが,控訴審では「東方三美人」等の呼称について敬意を込めた表現であるとの原告(教授)の主張も排斥されています。

また,控訴審では,その他にも
③英語で「96」を「無いねセックス」と発音するように指導し,女子学生らにその旨発音させ,その後も,数回にわたって,同様のことを繰り返したなどの行為
④数回にわたって,助手や特定女性職員に対し,「バッグを買ってあげるから一緒にお出かけしよう。」「買い物に行きませんか。」などと執拗に買い物に誘った行為
⑤突然モノマネをするように指示し,同人にその意思に反して学生らの前でこれをさせた行為
⑥居酒屋において,女性職員が同席しているにもかかわらず,別の研究科教授と「○○さんは,ジョッキーの旦那さんと結婚して退職した。今は,○○さんの方が馬乗りになっているのでは。」「騎乗位ってことですか。」などと談笑した行為
⑦資料室において,前屈みになって印刷・製本作業をしていた特定女性職員の後ろを通りながら「お尻を触りたくなる。」と発言した行為
⑧資料室において,数回にわたって,特定女性職員及び他の女性教職員に対し,同人らの着衣の素材を尋ねたうえ,「ちょっと触らせて。」と言って,同人らの着衣の肩や腕の辺りを触った。」
⑨資料室において,自らの手を特定女性職員の腕に伸ばそうとし,同人が「触らないでください。」と言うと,近くのデスク上の箱をバンと大きな音を立てて叩いたうえ,激しい口調で「もう絶対触らないからない。」と怒鳴った行為
⑩資料室において,特定女性職員に対し,大学を辞めるのか辞めないのかはっきりさせるよう部屋の外まで聞こえるような大声で怒鳴った行為
⑪当時本学学生であった○○に対し,同人1人を映画に誘って,同人の意向を無視して洋服を買い与え,映画館内では同人の手を握り,拒否されたにもかかわらず映画館外に出た後も身体を密着させようとし,また,語学研修の際,同人の意思に反して金員を渡した行為
⑫研究室において,助教に対し,同日ハラスメント防止対策委員会の事情聴取があったことやその内容について話をするなどした行為

について,「男性教授による女子学生や若手女性職員に対するセクハラ行為があることは,教育機関としての信用を失墜させ,学校法人の経営自体にも大きな悪影響を及ぼす行為である」とされ,セクハラ行為以外のパワハラ行為やアカハラ行為についても同様であるとされ,11項目が「ハラスメント」として認定されています。

なお,この事例も,大学が教授の当該セクハラ行為等を理由に懲戒処分をしたことの有効性が問題とされています。
この点,原審では,被告が主張する懲戒事由のうち,懲戒事由に該当する行為の存在とハラスメントの該当性が認められるものは懲戒事由〔10〕のみであって,懲戒事由〔1〕から〔9〕まで及び〔11〕は行為の存在が認められないか又は行為があってもハラスメントに当たるとは認め難い。そして,懲戒事由〔10〕(木下注:前記①と②の行為)がそれほど悪質なものとはいえないこと,原告にこれまで懲戒処分歴はないことに照らすと,懲戒解雇は重きに失し,相当性が認められないとされましたが,控訴審では,11項目の懲戒事由の存在を認定したうえで,「第1審被告(大学)の教育機関としての信用や評判を落とすリスクも非常に高かったこと(同種行為の再発リスクも非常に高かったこと)を併せて考慮すると」懲戒免職処分を選択に裁量権の乱用・逸脱はなく,有効とされました。
「懲戒処分の相当性基準は?経歴詐称・パワハラ・セクハラ等による懲戒処分の有効性」で触れているセクハラを理由とする懲戒解雇の有効性の一つの判断基準になる事例だと思います。

3 壁ドン・頭を撫でるなどのセクハラ

東京地判平成30年1月12日判決では,
①大学教授が,大学職員の正面に近づいて唐突に両手を同人の背中に回して同人を抱きしめるような体制を取って数秒間にわたって自己と職員の体を近づけて励ましの言葉を述べた行為
②大学教授が,大学内の教室までの廊下において,周囲に学生もいる中で悪ふざけをしようと考え,壁を背にして立っていた職員に近づき脈絡なく壁ドン!と言いながら同人と正対した状態で,片方の手の平を同人の頭部付近の壁に押し当て,同人が身動きできない状態にして,同人に不安を感じさせた行為
③職員は立ち仕事をしていた際,自らの腰部をトントンと叩いたが,大学教授が職員に背後から近づき,何も声をかけないで,同人の腰部を数回にわたって手の甲でトントンと叩いた行為
④大学教授が,座って作業をしていた職員の隣に座って,同人をほめながらポンポンと頭を撫でたり,若年の女性教職員らおよび女子学生らに対し,礼を述べる際に頭を撫でる,肩に触れる,手を握るなどの慣れ慣れしい言動を繰り返していた行為

はいずれもセクハラに該当するとしました。

他方で,

大学教授が,職員との間で頻繁に業務用のチャットや電子メールで連絡を取り合って業務とは関連しない雑談を交わしていた行為に関して,同人のことをチャットでくだけた表現として〇〇様などと呼びかけたり,「〇〇様がオールヌードの時に紙が来る」というチャットしたことは大学教授としての品位に重大な疑問を感じさせるものの,職務上の権威を振りかざしたり,何らかの不利益を示唆したりして,連絡や雑談を「繰り返しを強いて」いたというに足りる具体的な言論を認めるに足りないことから,社会通念上,その客観的な性質,態様,程度等に照らして,相手に不利益や不快感を与える,又はその尊厳を損なう人格侵害に当たると断定することに疑問が残り,セクハラその他のハラスメントに該当するとは認めるに足りないとしました。

セクハラとは認められなかった言動も,「品位に重大な疑問を感じさせる」とは認定されており,ただ「人格侵害」とまで断定するには疑問が残る,という判断であるため,立場,関係を考えると,避けるべき言動だったと思われます。

なお,この事例も,これらのセクハラ行為を理由とする懲戒免職は無効であるとして,教授側から大学に対して地位確認(今でも雇用されていることの確認)と賃金等の請求及び損害賠償を請求した事案です。
裁判所は,前記の通り,セクハラの事実を認定し,損害賠償は否定しましたが,免職は無効として賃金等請求は認めていますので,やはり,セクハラ行為を理由とする懲戒免職については,注意が必要です。

4 市議外議員の市職員に対するセクハラ

宇都宮地判平成29年10月25日判決では,
市議会議員が懇親会において同人の席の隣に座って選曲のためにカラオケの本を見ていた市職員に対し,同人の背中や腰に手を回したり,背中全体をなでるように触ったり,被害者の耳元に口を近づけたりした行為はセクハラに該当するとしました。

この事案は,職員からの損害賠償請求をされている事案で,「職員の意に反して行われたことは,行為のとき職員が背中をそらすなどして不快感を示していることや本件懇親会後あまり期間が経過していない時期に他の職員や弁護士に話をしていることなどから明らかであり」,「相手の意に反する不快な性的言動と認められ,セクハラに該当するものであり,これは職員の性的自由ないし人格権を侵害するものであるから,不法行為が成立し,このような議員の職員に対するセクハラの態様・程度,職員がその後不安障害になったと診断されていること等から,職員が被った精神的苦痛を慰謝する金額は30万円をもって相当と判断する」とされています。

発言だけでなく,身体への接触行為もあるので,比較的「セクハラ」と分かりやすい事案かなと思います。

慰謝料金額としては多額とは感じないかもしれませんが,その後の職務継続に多大な影響が生じることなどを考えると軽視できませんし,職員の「性的自由・人格権」を侵害する重大な不法行為であることの意識が重要です。

5 「セクハラ」の事前回避と事後対応~まとめ

改めて,「具体的にどのような言動がセクハラになるのか?」でも触れた岐南町の「頭をポンポンと触る行為」なども,「不必要な身体接触」は「セクハラ」になる,ということの認識が必要だと思いました。
また,男性同士では,「冗談」「悪ふざけ」としてあまり気にしていない,むしろ楽しんで話しているようなことが,女性がいる席での言動では注意が必要なことが分かります。
女性にお金や物を渡したり,「美人」とほめたりするなど,女性にとっては嬉しいことなのではないか?と思えるようなことも,職場のように「力関係が上」の人が目下の「女性」をかわいがろうとする,と捉えられやすい場面では,注意が必要です。

改めて,上司から部下に対して,男性から女性に対しての,不必要な「身体接触」はとくに注意が必要だと思います。
具体的な裁判例で「セクハラ」と認定されている言動を知ることで,企業,組織内で「セクハラ」が生じないよう啓発することは重要です。

また,「懲戒処分の相当性基準は?経歴詐称・パワハラ・セクハラ等による懲戒処分の有効性」で触れたとおり,他の職員の企業への信頼も失うため,事後対応としても,セクハラ行為をする職員に懲戒など適切な処分をすることも重要です。
一方で,懲戒解雇については,違法,無効とされ,解雇をした職員から企業側が損害賠償請求をされてしまうこともあるので,その判断にも注意が必要です。

「美人ですね」と言ったり,ねぎらいのつもりでプレゼントを渡すことまでがセクハラとなってしまうのか・・?と思うと、ほめたり,ねぎらったりする言動にも「ビクビク」してしまうことがあるかと思いますが,相手が女性,男性を問わず,また,特定の個人に偏らず,ほめたり,ねぎらったりする言動をしているか・・?に公平感があれば,「セクハラ」と言われてしまうリスクを減らせると思います。

事前回避のための方法や事後対応で迷う場合には,弁護士に相談しながら実施していくことも大切だと思います。

そうすることで,「セクハラ」行為をした,ということで行為をした本人及び雇用主が損害賠償請求などの責任をとらなければならなくなったり,本人が問題行動として,辞職せざるを得なくなったり,部署の変更や降格処分などをされてしまうこと,これによって,雇用主,会社が事業の円滑な遂行に支障が生じるなど,というダメージの発生,トラブル発生のリスクを減らしつつ,業務ができる会社になると思います。

引続き,近年意識されている「セクハラ」について,お伝えしていきたいと思います。

今回も最後まで読んでいただいてありがとうございました!