多治見ききょう法律事務所

弁護士 木下 貴子 ブログ

具体的にどのような言動がセクハラになるのか?

具体的にどのような言動がセクハラになるのか?

セクハラ。つい最近も,私にとっても身近な岐阜県内,岐南町で弁護士を委員とする第三者調査委員会の調査により,町長に「99のセクハラ行為」が認定される調査報告書が提出され,町長から辞職届が提出されています。
調査報告書では「セクハラ」だけでなく「パワハラ」についても指摘されていますが,その背景には,いずれも「地位の圧倒的な優劣関係を前提としながら,それに加えて,町長が,(意識しているかはともかくとして)「性別による役割の違い」という「強固な固定観念」を有していたことが,その発生原因となったものと考える。」として言及されています。

認定されているセクハラ事実をみると,現在では,典型的に注意すべきとされている言動も少なくないのですが,いわば古い価値観に基づいた「性別による役割の違い」という「強固な固定観念」があると,客観的に自己の言動の問題点を振り返りづらいのを感じます。

しかし,当該事案からしても,企業として,ハラスメント被害を生じさせない職場環境,とともに,ハラスメントの被害申告があった場合の事前対応をどうすべきか,について誤ると,大きく信頼を失墜して,代表者等としての地位を自ら辞退しないような場面も生じる場合があること,損害賠償責任を負う可能性があること,など,とても重要であることも改めて実感されているのではないかと思います。

このような結果を避けるには,少なくとも,「現在」の基準で「セクハラ」行為となりうる言動について,意識して対応することが最低限必要不可欠です。

そこで今回は,具体的にどのような行為がセクハラ行為になるのか,現在の国の指針,基準では,どのような言動を「セクハラ行為」として意識すべきと考えているのか,についてお伝えします。

具体的にどのような行為が「セクハラ」になるの?
国が考えている「セクハラ指針」によるセクハラの具体例は?
公務員の場合に「セクハラ」となりうるものとしてあげられている具体例は?

今回も引き続き,「セクハラ」について,お伝えしていきたいと思います。

1 セクハラ指針による具体例

男女雇用機会均等法11条に基づき事業主が講じるべき措置に関しては,厚生労働大臣が具体的な指針を定めています。

「セクハラ・性被害が生じる理由と適切な予防策・トラブルを回避するための注意」記載の通り,「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置についての指針」(平成18年厚労省告示第615号)として,いわゆる「セクハラ指針」が定められています。
ここでは,職場におけるセクハラを「対価型セクハラ」と「環境型セクハラ」とに分け,それぞれ以下のような行為をセクハラになる行為の典型例としてあげています。

(1)「対価型セクシュアルハラスメント」の典型例

職場において行われる労働者の意に反する性的な言動に対する労働者の対応により,当該労働者が解雇,降格,減給等の不利益を受けることであって,その状況は多様であるが,典型的な例として,次のようなものがある。

  1. 事務所内において事業主が労働者に対して性的な関係を要求したが,拒否されたため,当該労働者を解雇すること。
  2.  出張中の車中において上司が労働者の腰,胸等に触ったが,抵抗されたため,当該労働者について不利益な配置転換をすること。
  3. 営業所内において事業主が日頃から労働者に係る性的な事柄について公然と発言していたが,抗議されたため,当該労働者を降格すること。

(2) 「環境型セクシュアルハラスメント」の典型例

職場において行われる労働者の意に反する性的な言動により労働者の就業環境が不快なものとなったため,能力の発揮に重大な悪影響が生じる等当該労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じることであって,その状況は多様であるが,典型的な例として,次のようなものがある。

  1. 事務所内において上司が労働者の腰,胸等に度々触ったため,当該労働者が苦痛に感じてその就業意欲が低下していること。
  2.  同僚が取引先において労働者に係る性的な内容の情報を意図的かつ継続的に流布したため,当該労働者が苦痛に感じて仕事が手につかないこと。
  3. 労働者が抗議をしているにもかかわらず,事務所内にヌードポスターを掲示しているため,当該労働者が苦痛に感じて業務に専念できないこと。

この男女雇用機会均等法11条とセクハラ指針自体は,私法上の効力を持つものではないと考えられていますが,このような言動をした場合には,セクハラ行為と認定され,法的な責任を生じる可能性は高くなるでしょう。そのため,これらに該当する言動を独自の判断基準,固定観念で「セクハラ」ではない,とするのは危険です。

さらに,昨今の報道や「セクハラで加害者本人・企業はどんな法的責任を負うのか?」で紹介した傾向からすれば,「経済的・社会的関係の地位に基づく影響力で受ける不利益を憂慮している」という状態があることは社会一般の常識,社会通念になっていると考えられますから,実際に「解雇」や「不利益」な配置転換,降格をしなくても,これをすることをほのめかすだけでもセクハラに当たると判断するのが相当でしょう。

また,「腰,胸等に」「触る」というような行為は,それ自体,同意なくされれば犯罪に該当し得る行為ですし,不必要な身体接触ですから,「度々」触るというようなことがなくとも,セクハラに当たると判断するのが相当でしょう。

岐南町の調査報告書で指摘されている「頭をポンポンと触る行為」も「頭」は一般的には性的な部位とはとらえられていませんが,不必要な身体接触は嫌がる人が多い,ということは,社会常識,社会通念になっていることも意識することが大事です。

2 人事院規則10-10運用通知による具体例

国家公務員については男女雇用機会均等法とは別に人事院規則で,人事行政の公正の確保職員の利益の保護及び職員の能率の発揮を目的としてセクシャルハラスメントの防止及び排除のための措置並びにセクシャルハラスメントに起因する問題が生じた場合に適切に対応するための措置に関し必要な事項を定めています。
そして,人事院規則中,セクシャルハラスメントの防止等の運用(平成10年11月13日人事院規則10-10運用通知)で,セクハラになりうる言動として以下のような行為を典型例として挙げています。

職場内外で起きやすいもの

(1) 性的な内容の発言関係

 ア 性的な関心,欲求に基づくもの
  1. スリーサイズを聞くなど身体的特徴を話題にすること。
  2. 聞くに耐えない卑猥な冗談を交わすこと。
  3. 体調が悪そうな女性に「今日は生理日か」,「もう更年期か」などと言うこと。
  4. 性的な経験や性生活について質問すること。
  5. 性的な噂を立てたり,性的なからかいの対象とすること。
イ 性別により差別しようとする意識等に基づくもの
  1. 「男のくせに根性がない」,「女には仕事を任せられない」,「女性は職場の花でありさえすればいい」などと発言すること。
  2. 「男の子,女の子」,「僕,坊や,お嬢さん」,「おじさん,おばさん」などと人格を認めないような呼び方をすること。
  3. 性的指向や性自認をからかいやいじめの対象としたり,性的指向や性自認を本人の承諾なしに第三者に漏らしたりすること。

(2) 性的な行動関係

 ア 性的な関心,欲求に基づくもの
  1. ヌードポスター等を職場に貼ること。
  2. 雑誌等の卑猥な写真・記事等をわざと見せたり,読んだりすること。
  3. 身体を執拗に眺め回すこと。
  4. 食事やデートにしつこく誘うこと。
  5. 性的な内容の電話をかけたり,性的な内容の手紙・Eメールを送ること。
  6. 身体に不必要に接触すること。
  7. 浴室や更衣室等をのぞき見すること。
イ 性別により差別しようとする意識等に基づくもの

女性であるというだけで職場でお茶くみ,掃除,私用等を強要すること。

主に職場外において起こるもの

 ア 性的な関心,欲求に基づくもの

性的な関係を強要すること。

イ 性別により差別しようとする意識等に基づくもの

  1. カラオケでのデュエットを強要すること。
  2. 酒席で,上司の側に座席を指定したり,お酌やチークダンス等を強要すること。

こちらは,冒頭の調査報告書で認定されている事実の中で,ほぼそのまま該当するといえるようなものもありますので,上記言動が「セクハラ」に該当するという認識があれば,してはいけない,という判断になるでしょう。

民間の企業の場合でも,これらの言動がセクハラに該当し得ると考えて,同様に注意することが必要でしょう。

3 裁判例によるセクハラの具体例

近時の裁判でセクハラと認められた具体例を知ることによって,さらにどんな言動が「セクハラ」に該当し得るかの判断基準になります。
この点は,また次回お伝えしようと思います。

4 「力関係」と「性別による差異」~まとめ

岐南町の「頭をポンポンと触る行為」が「セクハラ」になる,という認定事実をみて,ふと,つい先日みたテレビ番組「世界一受けたい授業」のことを思い出した。
私も見ているアニメ「葬送のフリーレン」の話を取り上げていた。
私自身,見ていて,とっても大好きなアニメで,「ああ~この感情分かる」と共感することも多い。

そこで主人公フリーレンの行動で癒される,といわれるものがある,それは何か?というような問題(質問)があった。

それは・・(私もこれだろうと思ったのが当たったのだけど!)「頭をなでること」だった。

フリーレンは「エルフ」(≒妖精)なのだけれど,性別的には「女性」という扱いだと思います。
「女性」が「男性」の頭をなでる,触る,という行為は,一般的にはあまり「セクハラ」と捉えられる場面が少ない気がしました。

それはなぜなのかな・・と考えたとき,多くの場合,男性の方が女性よりも「力関係」が上,職場上の地位も上であることが多いからかな,と思いました。

「女性」が「男性」の頭をなでる,という場面でも,やはり,女性社長が男性の新入社員の頭をなでていたら,やっぱり「セクハラ」にはなりそう・・と思うと,この「力関係」「上下関係」を意識することは重要だと改めて思いました。

フリーレンのお話では,フリーレンとそのほかの仲間の間には,「上下関係」は感じられない「対等」な仲間だと感じるし,その場合,物理的な力としても,弱そうに見える小さな女性的なキャラである「フリーレン」(実際には,ものすごく年も取っていて,すごい魔法使いで力はあるのだけど)から大人の男性に向けてなされるから,「セクハラ」とは感じないのだと思った。

そして,その場合には,それ以上に「癒し」,よい「身体的接触」と感じられる場面がある・・・

働く場所,職場は「性的」なニーズを満たすところではないから,確かに不必要な身体的接触はすべきではない。
でも,一方で,一切の身体接触がなくなってしまったら,殺伐としてしまいそうな面もあって,どのような接触はいいのか考えると意外と難しいと思った。

そこではやはり,「上下関係」「力関係」を意識することが重要だと改めて思う。
上司から部下に対して,男性から女性に対しての,不必要な「身体接触」はとくに注意が必要かなと思います。

「フリーレン」では,フリーレンの弟子でもある女性(フェルン)がフリーレンを膝枕するシーン,反対にフリーレンがフェルンを膝枕するシーンなどもあるのだけれど,「男女で区別ない」身体的接触があるのか,も判断の基準に関わるかなと思いました。
「フェルン」は「フリーレン」のことを「フリーレン様」と呼んでいる。
だから,「フリーレン」はある面では,上下関係で,「下」ともいえる同性からの接触も許していて,これも和むシーンの一つ。そう考えると,信頼している相手,「好きな相手」ならある程度の身体的接触は許される,という気がする。

でも,相手が自分のことを好きかどうか,は見抜くのは難しいから,やっぱりある程度の「基準」を意識して対応することは大事だと思う。

その人が男性にだけは接触するけれど,女性には接触しない,女性には接触するけれど男性には接触しない,という「差別ある接触」をしていると,「セクハラ」と捉えられやすいようにも思った。
同じ接触行為でも「性別による差異」を感じられると,性的な意味に捉えられやすく,「セクハラ」になりやすい。

現在の「価値観」では,社会通念上,どのような言動が「セクハラ」と感じられるのか・・?ということを意識しておくこともとても重要で,時代によって,この「価値観」は変化していきますので,自分の「価値観」が古くなっていないか見直すことも大事です。私自身もつい,自分が育ってきたときの価値観で判断してしまいがちなので,この点は,改めて意識していきたいと思いました!

そうすることで,「セクハラ」行為をした,ということで行為をした本人及び雇用主が損害賠償請求などの責任をとらなければならなくなったり,本人が問題行動として,辞職せざるを得なくなったり,部署の変更や降格処分などをされてしまうこと,これによって,雇用主,会社が事業の円滑な遂行に支障が生じるなど,というダメージの発生,トラブル発生のリスクを減らしつつ,業務ができる会社になると思います。

引続き,近年意識されている「セクハラ」について,お伝えしていきたいと思います。

今回も最後まで読んでいただいてありがとうございました!