多治見ききょう法律事務所

弁護士 木下 貴子 ブログ

セクハラ・性被害が生じる理由と適切な予防策・トラブルを回避するための注意

セクハラ・性被害が生じる理由と適切な予防策・トラブルを回避するための注意

今,どうして,性被害が問題となっているのでしょうか?そもそも,なぜこのようなことが起きるのでしょうか?
それは,残念ながら,これまで「性的自由」に対する意識が低い方が企業内に一定数おられた一方,それまでは「仕事のために」やむを得ないと黙って我慢してしまいがち,見てみぬふりをしがちだった,ハラスメント行為,性的自由・性的な自己決定権を奪う行為に対して,このままではいけない,という問題意識が高まってきているからだと思います。

そのため,企業としては,現代に適合した性的なハラスメント行為をしないこと,身近な言葉で言えば,「セクハラ」をしない対策がいかに重要なのかが分かります。
また,注意しなければならないことは,職場におけるハラスメント問題が生じた場合には,対応を誤ると,職場環境を更に悪化させ,企業にとって致命的なダメージが生じかねないということです。

昨今の報道からしても,ハラスメントの被害申告があった場合の事後的対応が,いかに難しいかを物語っていると思います。
そして,企業としては,ハラスメント被害を生じさせない職場環境,いかに事前対応をするかが,とても重要であることがお分かりいただけると思います。

「セクハラ」ってそもそも何?どんな言動があてはまるの?
職員がセクハラをすると,事業主,会社にはどんな責任が生じるの?
セクハラによる被害の予防,回復のために事業主,会社は,どんなことをしないといけないの?

今回は,色々と話題になるハラスメント,特に,セクシュアルハラスメント(いわゆるセクハラ)について,生じる原因と被害を予防,回復するための方法をお伝えします。

1 セクハラとは?

職場内に限らない,「セクハラ」については,実は明確な定義はありません。
友人同士の会話でも指摘されることのある「セクハラ」は,「相手の意に反する性的言動」と一般的には捉えられるでしょう。

法律上は,男女雇用機会均等法11条に,「職場における」セクハラについての規定があります。

「職場において行われる,性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受けたり,または当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されたりすることのないよう,雇用管理上必要な措置を講じなければならない」と定めています。

ここで,職場とは,就業場所に限らず,取引先,出張先,業務の延長と考えられるものも含まれます。

また,性的な言動の主体は,上司に限られるものではなく,同僚も行為者となり得ますし,男性・女性とも行為者になり得ます。

よくセクハラは,相手方の受け取り方によるという言い方がされます。
セクハラが「相手の意に反する性的言動」である以上,相手方の受け止め方によるというのは間違いありません。
しかし,意に反するかどうかという相手の内心は分かりませんから,セクハラに該当しうると一般的には考えられる言動は慎むべきということになります。

職場におけるセクハラには,2つの態様があるとされています。

一つは,性的な言動を拒否したことで,解雇,降格,減給などの動労条件につき不利益を受けるという「対価型セクハラ」

もう一つは,当該性的な言動により職場の環境が不快なものとなったため,労働者が就業する上で見過ごすことができない程度の支障が生じる「環境型セクハラ」です。

詳しくは,セクハラに対する企業の法的責任~セクハラ防止体制構築と損害賠償に,法律の条文定に記載されている具体的な文言の意味をそれぞれ紹介していますので,併せて参考にしていただけると,分かりやすいと思います。

それでは,どのような性的言動,つまり①性的な内容の発言や,②性的な行動がセクハラに当たるのでしょう?

①性的な内容の発言としては,性的な事実関係を尋ねること,性的な内容の情報(噂)を流布すること,性的な冗談やからかい,食事やデートへの執拗な誘い,個人的な性的体験談を話すことなどが挙げられます。

②性的な行動としては,性的な関係を強要すること,必要なく身体へ接触すること,わいせつ図画を配布・掲示すること,強制わいせつ・強姦などは当然です。

どのような言動がセクハラに当たるのか,会社で議論などしてみると,理解が深まります。
セクハラ・パワハラ防止に必要な3つのこと~企業研修講師でご紹介しているような企業研修を実施することで,認識のずれを減らし,共通の理解を深めることも大切です。

2 セクハラ対策として求められる雇用管理上の措置

男女雇用機会均等法11条に基づき事業主が講じるべき措置に関しては,厚生労働大臣が具体的な指針を定めています。

「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置についての指針」(平成18年厚労省告示第615号)です。

指針では,事業主が職場におけるこのようなセクシュアルハラスメントを防止するために講じなければならない措置として,

① 事業主の方針の明確化およびその周知・啓発
② 相談(苦情を含む)に応じ,適切に対応するために必要な体制の整備
③ 職場におけるセクシュアルハラスメントに係る事後の迅速かつ適切な対応(事実関係の迅速かつ正確な確認,行為者および被害者に対する適正な措置,再発防止に向けた措置)
④ ①~③の措置にあわせて講じるべき措置(相談者・行為者等のプライバシーの保護,相談や事実確認への協力を理由とする不利益取り扱いの禁止の周知・啓発)
を定めています。

この指針は,経営者の方であれば必読です。

ご自身の会社が,指針を満たしているかをチェックしてみて下さい♪

事業主がこれらの措置を講じない場合,厚労大臣による行政指導,公表,過料などの対象となります(男女雇用機会均等法29条以下)。

よくある間違いは,セクハラ問題をあくまで当事者間の問題と捉えて,解決を当事者任せにしてしまう事例です。

セクハラに対する企業の法的責任~セクハラ防止体制構築と損害賠償で記載した通り,職場におけるセクハラ被害が生じた場合,被害者は,加害者に対して民法709条に基づく不法行為責任を追及できるだけではなく,これが事業の執行について行われた場合には,企業に対して使用者責任(民法715条)を追及することができます。また,企業が,セクハラ被害の申告があったにもかかわらず,適切な対応をとらず,これを放置した結果,職場環境が悪化したような場合には,職場環境配慮義務違反(民法415条)に基づいて,損害賠償責任が認められることになります。

セクハラ問題は,当事者間のトラブルではなく,会社の問題であることを意識して,当事者意識をもって対策を講じ,対応をしなければならないことを会社,事業主,使用者は,肝に銘じましょう。
懲戒処分の相当性基準は?経歴詐称・パワハラ・セクハラ等による懲戒処分の有効性で記載したような注意点を意識しながら,適切な懲戒処分も含めた対応が必要になります。

3 セクハラ被害が生じてしまった場合の対応

セクハラ被害への対応についても,上記指針において定められています。

具体的には,相談の受付→相談後の処置→調査→措置という順序で進めますが,スピード感をもって進めることが何より重要です。
事後的な対応の流れ,注意点については,「セクハラ(セクシュアルハラスメント)トラブル対応」「セクハラ問題で従業員から内容証明郵便が届いたときの対処法」にも記載していますので,適切な事後対応方法として参考にしてもらえたらと思います。

ここでは,対応における注意点を書いておきたいと思います。

まずは,いわゆる二次被害の防止です。

被害者が被害申告したにもかかわらず,大したセクハラではないのではないかと決めつけ,被害者の行動を責めるなどして,被害者が二次的に傷付けられることを「二次被害」と言います。

二次被害を防止するためには,被害者の心理状態や対処行動を理解して相談者を責めないこと,相談者の意思を尊重する姿勢を示すこと,どうしたらいいか一緒に考える姿勢を示すことが重要です。

二次被害と関連しますが,被害者の心理状態に寄り添うことが必要です。
被害者の心理状態について重要な指摘があります。

それは,労災の認定における「心理的負荷による精神障害の労災認定基準指針」の中にあります。
この指針は,以下のように指摘しています。

2 セクシュアルハラスメント事案の留意事項

セクシュアルハラスメントが原因で対象疾病を発病したとして労災請求がなされた事案の心理的負荷の評価に際しては,特に次の事項に留意する。

① セクシュアルハラスメントを受けた者(以下「被害者」という。)は,勤務を継続したいとか,セクシュアルハラスメントを行った者(以下「行為者」という。)からのセクシュアルハラスメントの被害をできるだけ軽くしたいとの心理などから,やむを得ず行為者に迎合するようなメール等を送ることや,行為者の誘いを受け入れることがあるが,これらの事実がセクシュアルハラスメントを受けたことを単純に否定する理由にはならないこと。

② 被害者は,被害を受けてからすぐに相談行動をとらないことがあるが,この事実が心理的負荷が弱いと単純に判断する理由にはならないこと。

③ 被害者は,医療機関でもセクシュアルハラスメントを受けたということをすぐに話せないこともあるが,初診時にセクシュアルハラスメントの事実を申し立てていないことが心理的負荷が弱いと単純に判断する理由にはならないこと。

④ 行為者が上司であり被害者が部下である場合,行為者が正規職員であり被害者が非正規労働者である場合等,行為者が雇用関係上被害者に対して優越的な立場にある事実は心理的負荷を強める要素となり得ること。

セクハラはもちろん男性が被害者となることもあるのですが,多くのケースでは女性が被害者となっています。
セクハラを受けたと相談される女性は,身体的な力,腕力が弱いこともあり,真っ向から対立して被害が大きくなってしまうこと,場の空気が悪くなって,その後,職場で働きづらくなることなどの懸念もあり,迎合的に捉えられやすいメールを送っているケースはとても多いです。
また,夫が心配するからという理由で,セクハラを受けているけれど,退職まで何も言わずに我慢して過ごすという決断をしたうえで,いざという場合には,セクハラとして認めてもらえそうなのか,というご相談に来られる方もいます。

離婚相談で,夫のモラハラがあったと言われるケースでも,女性は男性からしたら,おそらく全く怖いと思う言動をしているつもりがなくとも,相手(夫)が不機嫌になることが怖い,避けたい,という思いから,気持ちを伝えないこともとても多いので,女性は,場の雰囲気を悪くするような言動をしづらい,ということを是非念頭においてもらえたらと思います。

また,昨今の性被害の事例を鑑みると,男性であっても年齢が低く,幼かったり,知識が不十分であったり,自分自身の発言が自分の今後の仕事や会社の評価にも大きな影響を与えそうな場合,心理的に言えない状況があることも分かるのではないかと思います。

セクハラ相談窓口で対応される方も,是非このような視点をもって,なぜ直ぐに相談しなかったのか,とか,迎合的なメールを送ったのか,などと責める言動は,これられの理解がされていないという意味でさらに問題となり得ます。被害者のためにも,注意をして,対応していただければと思います。

4 2つのギャップ・ズレを減らす~まとめ

え,こんなはずじゃなかったのに・・・と思うこと,私も沢山あります。
そして,弁護士の事務所って,そういう「思わぬことが起きた」場合に,対処に困って相談に来るところかな,と思います。

「こんなはずじゃなかったのに」,を減らすことが出来たら,法的なトラブルは減るでしょう。

では,
「こんなはずじゃなかったのに」って,どんなときに生じてしまうのでしょうか・・?

それは,やはり,それまでの「自分の認識」とトラブルとなった「相手の認識」にギャップ・ズレがある場合です。

そして,法的なトラブルとして,法的な責任が発生してしまって,損害賠償義務を負うような場合も,「こんなはずじゃなかったのに」とい言われることが多い場面。
これは,自分が「正しい」「問題ない」と思って行った言動が,法的には「違法」「問題がある」というギャップ・ズレがあるから,生じます。

そうすると,この2つのギャップ,相手との認識のズレ,と法的な「正しさ」とのズレを出来るだけ理解して,合わせていくことが出来れば,トラブルは減っていくと思います。

(弁護士の業務も減ってしまうかもですが(笑),人はみな違う,ことからすれば,これらのズレが全くなくなることはないと思います)

出来るだけトラブルは事前に回避したい・・と思われる方に,これからも,トラブルが生じる相手方のズレがどのような認識の差から生じるのか,法的にはどのように考えられているのかを伝えていきたいと思っています。

セクハラのケースでは,被害者とされる相手との認識のズレを意識すること,会社,事業主としては,職員がセクハラをすることを防止するためにどのような義務,責任が会社に求められているのかというズレ(知識)を知っておくことがとても大切だと思います。

セクハラの相談を受けた際の事後対応を間違えることで,トラブルが悪化するケースもあるので,どのような対応をすべきか,判断に迷う場合には,弁護士に相談しながら進めて行くことも大切だと思います。

そうすることで,万一の時に,「こんなはずじゃなかった」というダメージの発生,トラブル発生のリスクを減らしつつ,業務ができる会社になると思います。

今回も最後まで読んでいただいてありがとうございました!