多治見ききょう法律事務所

弁護士 木下 貴子 ブログ

セクハラ・パワハラ防止に必要な3つのこと~企業研修講師

セクハラ・パワハラ防止に必要な3つのこと~企業研修講師

今回は,中小企業診断士で人気研修講師でもある伊藤慎悟先生のご縁から,4月1日に企業の職員向け研修として「パワハラ・セクハラ防止研修」の講師として話させていただきましたので,そのシェアをします。

研修テーマは「働きやすい職場づくりのためのパワハラ・セクハラ防止(+マタハラ防止)」です。
私は女性の弁護士でもあることから,女性がセクハラを受けたということで,相談を受け,ご依頼を受けることもあります。
また,企業のご相談として,職場でのパワハラ,セクハラがあったと問題になっているため,どのように対応したらいいのか,ご相談を受けることもあります。

その中で,気がついたセクハラ・パワハラなどの「ハラスメント」を防止するために必要なことの共通点。
セクハラ・パワハラを防止するために,企業内で出来る取り組みについて,お伝えしてきました。

なぜ,セクハラ・パワハラなどの「ハラスメント」は生じるのか?
セクハラ・パワハラなどの「ハラスメント」が生じることによるデメリットは何か?
セクハラ・パワハラなどの「ハラスメント」を防止するためにすべきことは?

私がこれまでのご相談,ご依頼,また裁判結果から感じてきたことから,大事なポイントと思うことを3つお伝えします。

1 裁判所の判断基準とのズレを知る

セクハラ・パワハラなどが問題になる理由は判断基準のズレにあります。
その1番の判断基準のズレは,「これはセクハラにならない」「これはパワハラにならない」という自分自身の判断基準,「正義」の基準といってもいいと思いますが,これと実際の裁判所の判断の基準のずれです。

法的に違法なセクハラ,パワハラと判断されれば,加害者とされる職員は損害賠償請求を受けることになりますし,その使用者である経営者,会社も併せて損害賠償請求をされることになります。
また,加害者とされる行為者は,会社から懲戒処分を受ける対象となり,周囲からの信用も失います。

そのため,どのような言動が違法なセクハラ・パワハラなどの「ハラスメント」行為となるのか,知っておくことが大切です。

被害者である本人がセクハラ,パワハラと言えば,全てセクハラ,パワハラとなるのか?と質問されることも多いのですが・・

その基準は,ひと言で言えば「平均的な労働者」を基準として客観的に判断されます。
そのため,本人がハラスメントといったものが全て,違法なセクハラ,パワハラとなるわけではありません。

しかし,この「平均的な労働者」を基準とした場合,どのような言動がセクハラ,パワハラになるのか?
抽象的な判断基準はありますが,これは実際の裁判での事例などを検討しないと具体的にどのようなケースで違法なハラスメントとなるのか,イメージしにくいです。

そのため,今回は研修で裁判事例などをご紹介させていただきました。
セクハラの裁判事例は,セクハラ問題で従業員から内容証明郵便が届いたときの対処法のページ,セクハラに対する企業の法的責任~セクハラ防止体制構築と損害賠償のページでも紹介していますので,参考にしていただけたらと思います。

みなさんは,セクハラ,パワハラになる具体的な裁判所の判断基準を知っていますか?

2 相手との価値観のズレを知る

1で記載した通り,セクハラ,パワハラの判断は,「客観的」にされるので,被害者本人がセクハラ,パワハラと言えば,全て違法な「セクハラ,パワハラ」となるわけではありません。

しかし,一方で,「ハラスメント」は相手に対する不快な言動により身体的,精神的苦痛を与えるものである以上,被害者の「主観」を出発点とすることになります。

つまり,他者が客観的にみたら,これは「セクハラ」「パワハラ」ではないか,と思うようなことがあっても,被害を受けている本人が嫌な思いをしていない,嫌がっていない,ということであれば「セクハラ」「パワハラ」として問題とされないことがあります。

そのため,「セクハラ」「パワハラ」などのハラスメントは,まず,被害者本人が「セクハラ」「パワハラ」と感じることと,加害者とされる人が考える「セクハラ」「パワハラ」と考えること,その基準のズレにあります。

このズレがなぜ生じるか,というと・・・
それは,一人一人,みんな違うから。つまり,「ハラスメント」と捉える言動の感じ方,価値観,正義の判断基準などが違うからです。

そのため,セクハラ,パワハラを知らずにしてしまうのを防ぐには・・
まずは,相手の判断基準,価値観を知ることが大事です。

どんな言動は嬉しくて,どんな言動は嫌なのか,どんな言動は「セクハラ」「パワハラ」と感じるのか・・・
相手の価値観,基準を知って対応することが,セクハラ,パワハラをしないことに繋がります。

では,そのためにはどうしたらいいのか?
普段から,相手の価値観を知ることが出来るような,コミュニケーションをとっておくことがとても大切です。
ご相談を受けていて感じるのは,特に女性は,嫌だな,と思っても,その場で嫌な雰囲気になること,揉め事になるのを避けたい,という感情が働くことが多いので(生物的に一般的に男性より力が弱い,ということや原始の頃,他者と協力しながら子育てなどをしてきたという背景もあるのかな,と個人的には思いますが)我慢してい嫌だと言えないことも多い,ということです。

そういうことも踏まえて,本当のことを出来るだけ気軽に言える安心安全な雰囲気,環境を整えておく,ということも会社としては大事なハラスメント防止のための対策になると思いますので,お伝えしました。

みなさんは,目の前の相手の価値観に興味を持ったことがありますか?
一緒に仕事で過ごす方が何が好きで,何が嫌なのか,知っていますか?

3 ハラスメント防止の仕組みづくり

ハラスメントを防止するためには,1,2のようなズレを生じないようにするための仕組み作りの他,実際に生じてしまった場合の対応としての仕組み作り,が大事です。

まずズレを生じないようするための仕組みづくりとしては,今回私がさせていただいたパワハラ,セクハラなどのハラスメント防止研修も有効です。

2019年の法改正により,職場におけるパワーハラスメントやセクシュアルハラスメント及び妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントを防止するために,職場におけるハラスメントの防止のために,法及び指針において,事業主や労働者に対して,主に以下の事項について努めることとする責務規定が定められています。

【事業主の責務】
1) 職場におけるハラスメントを行ってはならないことその他職場におけるハラスメントに起因する問題に対する自社の労働者の関心と理解を深めること
2) 自社の労働者が他の労働者に対する言動に必要な注意を払うよう,研修その他の必要な配慮をすること
3) 事業主自身(法人の場合はその役員)が,ハラスメント問題に関する理解と関心を深め,労働者に対する言動に必要な注意を払うこと

【労働者の責務】
1) ハラスメント問題に関する理解と関心を深め,他の労働者に対する言動に必要な注意を払うこと
2) 事業主の講ずる雇用管理上の措置に協力すること

また,実際にパワハラ,セクハラと言われる事態が生じた場合の対応としての仕組みづくりも重要です。
多治見ききょう法律事務所の顧問先には,パワハラ,セクハラがあった場合の対応方法の流れについて,フロー図をお渡ししています。

職場におけるパワーハラスメントやセクシュアルハラスメント及び妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントを防止するために,事業主が雇用管理上講ずべき措置として,厚生労働大臣の指針に定められています。事業主は,これらの措置について必ず講じなければならない,とされています。

例えば,パワハラで言えば,事業主の方針の明確化及びその周知・啓発,相談(苦情を含む)に応じ,適切に対応するために必要な体制の整備,職場におけるパワーハラスメントへの事後の迅速かつ適切な対応などがあり,相談窓口の設置や周知,発生後の迅速,正確な事実確認,加害者への適正な措置,再発防止措置が必要とされます。

セクハラに関する防止体制,仕組みづくりについてのポイントは「セクハラ(セクシュアルハラスメント)トラブル対応」にも書いていますので,参考にしていただけたらと思います。

みなさんの会社は,セクハラ,パワハラなどのハラスメント防止,事後の適切な対応の仕組みがありますか?

まとめ 幸せに生きるために

職場で過ごす時間は,8時間労働だとすると,寝る時間(仮に8時間くらい)を除けば,平日の半分を占める時間です。
人生の中で,かなりの多くの時間を職場で過ごすことになる方が多いと思いますので,その時間が気持ちの良い環境であることは,人生にとっても幸せを感じられるかどうか,に大きく関わると思います。

でも,幸せって・・・人によって違う。
考えれば当たり前のことかもしれませんが,私は以前このことをコンサルタントの柳生先生に教えてもらって,なるほど!と衝撃を受けました。

何をしたら,どんなことを言われたら幸せを感じるのか,は人によって違う・・・

それはなぜか・・・?

それは,人によって「価値観」が違うから。
何を好きで何を嫌いか,どんな言動をされると嬉しくて,どんな言動をされると嫌なのか・・・人によって違う。

そして,好きなこと,嬉しいことを沢山出来る人生はもちろん,楽しくて,幸せを感じるけれど,そういうことを出来ていても,一方で,嫌なこと,つらい思いを避けられない状況があったとしたら,やっぱり幸せには感じられないのではないだろうか・・・

よく考えてみると,好きなことをする以上に,嫌なこと,つらい思いをすることを避けられることは,人生にとって幸せを感じられるかどうか,幸せに生きられるか,にとても重要なのではないかな,と思いました。

いじめ,嫌がらせ,人間関係の問題は,悩むことによって,健康を害したり,場合によっては,死を選んでしまうことさえある。

その意味で,いじめ,嫌がらせを意味する「ハラスメント」を避けられることは,幸せを感じられる働き方,幸せを感じられる人生にとって,とても大きな意味があるのではないかなと思います。

会社,職場で幸せに過ごせたら,家庭にもストレスを持ち込まず,家庭でも穏やかに過ごしやすくなると思いますし,自分自身がハラスメントを避けるスキルを身に着ければ,家庭,友人関係などのプライベートの場面でも,相手の嫌がることを避けられるようになり,幸せに過ごせる場面が多くなるのではないかな,と思います。

家庭の場合,離婚問題で私もよく関わる「モラルハラスメント」が問題になることが少なくありませんが,これも「ハラスメント」として,生じる原因と,避けるためのスキルは,パワハラ,セクハラと共通しているところがあるので,夫婦円満,家庭円満にもつながるのではないかと思いました。

法的に必要があるから,セクハラ,パワハラ防止対策を「すべき」「しなければならない」と思うと,重く負担を感じるところがあるかな,と思いますが,より,職員も自分自身も,職場でも家庭でも幸せに過ごすための方法を知って,身に着けるための楽しい方法と思うと,軽く,楽しく考えられるかな,と思いました♪

まだまだ,セクハラ,パワハラなどのハラスメント防止の研修を実施している中小企業は多くはない印象ですが,今回研修を実施された企業は,その意味でとても大事で,良い取り組みだと思いました!

このブログを読んで下さった経営者の皆さまが,セクハラ,パワハラ防止対策のための研修や仕組みづくりをする素敵なメリットに気づくきっかけとなり,働く職員の方もハラスメント防止研修を受けることのメリット,楽しさ,を感じるきっかけとなりますように…
そして,大事な人生の時間を「幸せ」に過ごすためのヒントとなりますように!

今回も最後まで読んで下さって,ありがとうございました!