多治見ききょう法律事務所

弁護士 木下 貴子 ブログ

整理解雇が有効,無効の判断基準となる4要素は?

整理解雇が有効,無効の判断基準となる4要素は?

今回も,労働能力喪失を理由とする解雇が有効となる場合,無効となる場合経歴詐称,横暴な言動等による信頼関係破壊を理由とする解雇が有効になる場合,無効になる場合経営者を誹謗中傷をするなど,ルール違反をする社員を解雇できる?に引き続き,「解雇の有効・無効」について具体的ケースから考えたいと思います♪

労働契約が終了する場面は「解雇,退職など労働契約終了時のトラブル回避に必要なこと」でも記載した通り,トラブルになりやすく,特に労働者が希望しても,一方的に雇用契約(労働契約)が終了してしまう「解雇」については,トラブルが生じやすく,注意が必要です。

今回は,「解雇が有効となる場合,無効となる場合の違いは」でお伝えした解雇の合理的理由の中から③整理解雇を理由に解雇無効となったケースと,解雇有効となったケースを見ていきます。

会社運営をしていく中で,会社の利益を上げるのが難しい場合,従業員(労働者)を適切な範囲で退職してもらうことで,会社の存続させ,利益を確保する必要,経営破綻によって,全ての雇用が失われることを避ける必要が生じます。
しかし,解雇される労働者は現在の職を失い,収入も失うことになりますから,とても,労働者にとって影響も大きく,法的なトラブルになることも大きい場面です。

解雇には客観的合理的理由が必要です。

不適切な方法で「解雇」が行われれば,無効となり,業務の円滑な執行の妨げになり得ると共に,違法行為として,労働者から経営者,会社が損害賠償請求を受けることになり得ます。
「解雇」が無効となれば,そのまま労働者としての地位があることを前提に,支払われなかった給与を一度に請求されることにもなり得ます。

「整理解雇」とは何か?「整理解雇」する場合,どのような基準で適法,有効となるのでしょうか?
「整理解雇」を理由とする解雇が無効にならないように,守るべき手順,解雇時の注意すべき点は?
「整理解雇」が有効とされるための,4つの検討事項(要件)とは?

労働者側に問題がある場合でなく,会社側の都合による解雇である「整理解雇」が有効になるためには,何が必要になるのか,ポイントと注意点をお伝えします。

1 整理解雇とは

整理解雇とは,企業が経営上必要とされる人員削減のために行う解雇です。
これまでに見てきた解雇とは,労働者側には特段落ち度がないという点で決定的に異なるものです。
時代が変わりつつありますが,これまでは,長期雇用慣行が一般的である日本においては,整理解雇に当たっては,解雇権濫用法理の適用に当たって,より厳しく判断すべきものと考えられてきました。
今のところ,現在も,この傾向は続いていると思います。

整理解雇を行うための要件について法律に規定はありません。
しかし,これまでの裁判例を検討していくと,整理解雇が有効となるための検討事項として,

① 人員削減の必要性があること

 ② 解雇回避努力が尽くされていること

 ③ 解雇される者の選定が合理的であること(人選の合理性)

 ④ 事前の説明・協議を尽くしていること

という4要件(要素)を総合考慮して,その有効・無効を判断しています。
4つは要件なのか要素に過ぎないのかといった議論がありますが,具体的判断について明確な差が生じるわけではないので,その点を掘り下げる必要性は低いです。

それよりも,整理解雇を検討する場合に,具体的にはどのような点に気をつければよいのか?が重要ですので,各4つの事項について,以下詳しく考えます。

2 ①人員削減の必要性

そもそも,経営上の人員削減の必要性から解雇するわけですから,まず検討されるべき事項になります。
人員削減の必要性がないにもかかわらず,整理解雇をすることは出来ません。

問題は,どの程度の人員削減の必要性が求められるのかという点です。

この点については,裁判所は,当該措置をとらなければ「倒産必至の状態」であることまでは求めず,多くは,債務超過や赤字累積に示される高度の経営上の困難から当該措置が要請される程度で足りると考えているようです。
裁判所は,企業の経営判断を尊重する傾向にあると言えます。

3 ② 解雇回避努力が尽くされていること

整理解雇は,企業側の都合による解雇であるため,整理解雇が有効になるためには,企業において整理解雇を回避するための努力を尽くしたことが必要とされます。
特に重要な要件(要素)になります。

具体的にどのような措置を講じるべきかについては,一般的に,ア)希望退職者の募集,イ)新規募集の停止,ウ)配転・出向・転籍の検討,エ)役員報酬の減額,オ)賞与や昇給の停止,カ)時間外労働などの削減,キ)パート社員等の雇止め,ク)派遣・業務委託など外部労働者の整理という点が挙げられます。

このうち,ア)希望退職者の募集については,一般的に,整理解雇に先立って行われるのが通常であることや,従業員のダメージが少なくなることから,重視されます。
これを行わないまま整理解雇を行った場合には,解雇回避努力義務を尽くしていないと判断されやすい傾向になるため,注意が必要です。

4 ③ 解雇される者の選定が合理的であること(人選の合理性)

労働者にとっては重大な解雇という効果をもたらす以上,なぜ,その人を対象としたのか合理的に説明できる状態にする必要があります。

具体的な基準として,勤務地・所属部署・担当業務,勤務成績,会社に対する貢献度,愛就職可能性,年齢や家族構成等を勘案して選定されることになります。
いずれにしても,恣意的な人員選定は認められず,客観的・合理的な基準により,公平・公正に人選がなされる必要があります。

例えば,整理解雇に仮託して,労働組合員だけを殊更解雇するような場合には,解雇は無効と判断されることになります。

5 ④ 事前の説明・協議を尽くしていること

整理解雇を実施するのであれば,事前に労働者や組合に対して,なぜ整理解雇が必要なのか,その時期や規模といった内容を説明して協議することで,納得を得られるよう努力する必要が生じます。
これらの事前の説明・協議の内容を踏まえて,該当性の検討を行うことになります。
整理解雇は,労働者側に問題がない解雇ですから,労働者側から解雇無効を主張されるリスクがあります。
よって,安易な判断は行わず,専門家と相談しながら進めなければならないでしょう。

6 早期の判断と手順の重要性~まとめ

会社では,今後の経営状況を見据えて,人員削減の必要性があるかどうか,早期に判断していくことが大切です。
会社の都合による「解雇」となる「整理解雇」では,決断してすぐに解雇をしても,有効とされるのは難しいです。
職員への説明,協議の期間,解雇回避のための施策実施など,が必要となりますから,これを見据えて必要な手順が踏めるよう,計画的に進めて行くことが重要です。

会社から労働者を退職させる「解雇」については,まだまだそれが当たり前とは考えられていない,軽く認められる取扱いにはなっていない・・と感じます。
会社の経営状況からすれば,整理解雇をしない限り,経営破綻してしまうなど,結果として,労働者を雇用し続けられる状況でなくなることの大きな不利益を考えると,柔軟に人員を整理して,必要な労働力を有する労働者を雇用したい(守りたい),とも考えられるところですが,一方で,解雇によって仕事を奪われる労働者の不利益も大きいため,このようなバランスを考えた上で,「解雇」の有効,無効は判断されることになります。

「解雇」する場合には,今後も継続して雇ってもらえる,と思って働いている人にとっては,大きなダメージとなりやすいので,恣意的な判断と言われないよう,出来るだけ明確な基準,客観的な基準によって判断することは,「整理解雇」の場合も大切な判断要素です。

「整理解雇」を理由とする場合,ひと言で言えば,経営者としてやるべきことを尽くしても,どうしても,整理解雇するしか方法がなく,人選も適切である,と感じるられる行動,手順だったのか,が有効な解雇となるかどうかのポイントかなと思います。

そのために,経営者にとっては,やるべきことをやりつくしたと言えるようなことが分かる行動の蓄積,証拠,客観的な判断基準で解雇する人を選んでいることが分かる証拠などを準備しておくことが大切です。評価基準がある場合には,採用時に伝えておくことも大切でしょう。

解雇も含め,法律上,どんな人事権の行使が許されていて,何は許されないのか,どんな損害が生じる可能性があるのか,被害が生じた場合にどんな賠償責任があり得るのか,今はどんなことに特に注意しないといけないのか,トラブルを回避するために法的にとりうる手段は何なのか,を知っておきましょう。

そうすることで,万一の時に,少しでも「こんなはずじゃなかった」というダメージの発生,トラブル発生のリスクを減らしつつ,より魅力的な会社として,職員が気持ちよく業務をしていただけたらと思います。

それでは,今回も最後まで読んでいただいてありがとうございました!