
交通事故によって,後遺症が残り,将来的にこれまで通りに働けなくことによる損害(逸失利益)が生じた場合,この損害を回復するために損害賠償請求をすることができることになります。
しかし,後遺症があっても,収入減少がない場合には,その「損害」は発生していないように見えますが,損害を受けたとして損害賠償請求はできるのでしょうか?
減収がない場合の消極損害(後遺症逸失利益)の認定として,争われることがあります。
減収がなくとも「逸失利益」としての損害が認められるのは,どんな事情がある場合でしょうか?
減収がない場合,「逸失利益」が認められにくい事情として,どんな事情があるのでしょうか?
減収がない場合,減収がある場合との逸失利益の損害額に違いはある?
減収がない場合,逸失利益が否定されやすい3つの事情は?
減収がない場合でも,逸失利益を請求していい?
「交通事故による後遺障害。事故前より減収しなくても逸失利益の請求出来る?」「交通事故で減収無し。逸失利益が認められる場合・認められない場合」「後遺症によって収入が減らなくとも損害が認められる2つの要素」「交通事故による後遺障害。減収がない場合の損害算定方法は?」に引き続き,最近の裁判例の判断内容を検討しながら,逸失利益が認められる場合と認められない場合・損害額の違いなどを考えていきたいと思います。
1 認定を否定する事情・一部のみ認める事情
多くの事案で減収がなくとも逸失利益が認められる傾向があると言えそうだけれど,すべての事案で逸失利益について,全て認められているわけではありません。
「減収がない」として逸失利益が否定されている裁判例や逸失利益を一部のみ認めた裁判例もあります。
その際,共通していると言える認定を否定する事情,一部のみ認める事情が存在していると言えます。
減収がなくとも,安易に逸失利益は認められるはずと思わず,どのような事情があると認定されなかったり,「一部」しか認定されないのか意識しておくことも重要です。
2 逸失利益を否定されやすい3つの事情
(1)稼働の可能性があるとは言い難いこと
否定的な判断をした裁判例は,従前の被害者の生活状況から,今後も稼働する可能性が無いと判断して,逸失利益の存在を否定しています。
従来の稼働経過からして,将来的にも稼働の可能性がないかどうかは,逸失利益の存在を否定するかどうかの判断の一要素になっています。
もっとも,事故時においては,無職であったとしても年齢等によっては,将来における稼働の可能性が当然否定されるものではありません。
このような事案では,なぜ現在働いていないのか,今後は十分働く可能性があることなどについて,主張立証を尽くすことが大事でしょう。
(2)既存障害があること
既存障害の存在を考慮して,逸失利益を否定した裁判例または,一部のみ肯定している裁判例が存在しています。
もともと既存障害があって,事故に遭う前とあった後の状態で,実質的に変わらないと判断された事案では,逸失利益について否定的な判断がなされているものがあります。
(3)後遺障害の内容
後遺障害の内容自体が労働能力にどれほど影響するかという点も,逸失利益の有無を判断するにあたって勘案されています。
その内容によっては,逸失利益の存在が認められても,その範囲が限定されることもあります。
例えば,外貌醜状(頭部,顔面部,頸部といった手足以外の通常人目に触れる部位に,人目につくような傷痕が残ってしまった状態)の場合は,この後遺症によって労働能力に影響はないのではないかということもあり,認定を否定されたり,一部しか認められないこともあります。
後遺障害の等級が低く,比較的に軽度の後遺障害と言われる場合にも,その傾向がみられるところです。
このような事情がある場合には,認定を否定されたり,一部しか認められないことがあり得ることをふまえて,主張,立証を意識したり,損害金額の認定で折り合いがつかない時,最後まで裁判で係争を続けるのか,という点を考えることも重要です。
3 後遺障害による逸失利益を認める判断基準
これまでみてきたことからすると,裁判所が減収がなくとも後遺障害による逸失利益を認めるかどうか,の判断では以下の点を検討していると思います。
- 逸失利益を肯定する方向での事情
- 逸失利益を否定する方向での事情
これらの事情について,それぞれどんな点があるのか具体的な点を挙げてを対比しながら,裁判例は逸失利益を判断していると言えるでしょう。
全体的には,減収がなくても遺失利益が認められている事例は数多く存在しているので,傾向としては減収がなくとも,遺失利益を認める裁判例の方が多いと言えると思います。
そのため,後遺障害等級が比較的軽度の12級や14級でも,個別の事情を丁寧に拾って逸失利益を主張することは十分あり得ると思います。
減収がないからといって,すぐに「後遺障害による逸失利益」の主張を諦めなくてよいと思います。
そして,実際にそれぞれの方が体験する個別事案での判断は,現在減収がない事情や,将来の影響も検討しながら,基本的には逸失利益を認める方向で検討しつつ,今回お伝えした否定する方向で働く事情も検討して,具体的な逸失利益の有無,その際の金額が決められる,と言えると思います。
この裁判所の傾向をふまえて対応することで,「こんなはずではなかった」というような「予想が外れる」ということが少なくなるのではないかなと思います。
まとめ 予想の意味
今回の減収がない場合であっても,後遺障害による逸失利益が認められるのか?という判断に限らず,交通事故の被害者となった場合の損害として請求できる金額は,いったいどれだけなのだろう?と疑問が生じることは多いです。
交通事故に遭ってこんなにつらい思いをしているのに,たったこれだけしか損害賠償金が認められないのか・・?
反対に,こんなに損害賠償金が認められるのか・・
その受け止め方も被害者の主観的な感覚,人によって違うところです。
そんなとき,どんな計算方式でどのように裁判所は判断しているのか,その傾向が分かれば,「予想」が立てやすくなると思います。
この「予想」を立てる意味はどこにあるのか・・?
振返って考えてみると,「後悔しない」「間違いのない」判断をしたい,というところになるのかなと思います。
自分の感覚としては「不満」もしくは「満足」なのだけれど,一般的な基準からすれば妥当なのか?
提案されている損害賠償金で受け取ってしまって,自分は損をしないのか?
その判断をするために「予想」をすることになると思います。
・・とはいえ!裁判官も様々ですし,それぞれの事案は,全く同じものは一つもありませんので,「予想」はやはり「予想」でしかなく,外れることもあります~
その中で,少しでも裁判例を検討して,裁判所の判断基準,裁判所が判断する際に重視している事情を知ることで,できるだけ「予想」の精度を高めていくことが「後悔しない」選択をした,と自信をもって言えるため,ひいては心の安心のために必要なことなのではないかと思っています。
そのために,それぞれの事案で裁判所が妥当な「結論」を導くために,どのような判断基準で「損害額」を計算し,認めているのか知っておくことは重要です。
このブログでも引き続き,「予想」の精度を上げるための情報をお届けできたらと思っています。
それでも不明な場合には是非,弁護士に相談した上で,弁護士の予測も聞きながら,裁判等まで争っていくのか,検討をしてもらえたらと思います。
交通事故が生じた場合の具体的な賠償金額の算定の方法,どんな被害が生じるのか,被害を回復してもらうために注意しておくべきことは何か,どんな選択があるのか,などを知っておくことで,被害の回避をしたり,回復が出来る可能性が上がります。
これからも,そのための「基準」「考え方」についてもお伝えできればと思います。
それでは,今回も最後まで読んでいただいてありがとうございました!!