
「セクハラ」事実が認められなかったのは,どんなケース?
日記は「セクハラ」の証拠になる?
メールのやりとりから「セクハラ」認められない場合とは?
私は,主に企業側,会社側でご相談を受けることが多いのですが,「セクハラ」の被害申告があって損害の賠償をするよう請求されているけれど,その場合,請求されている通りの金額を支払わないといけないのか,そもそも本当に「セクハラ」被害はあったと認めていいのか,など聞かれることはよくあります。
一方で,私が女性弁護士であることもあって,セクハラ被害を受けた女性からの相談を受けることも時々あるのですが,誰にどのような請求ができるのか,と聞かれることもあります。
セクハラ被害があった場合,被害者は加害者本人に対して請求できる金額と同額の金額を加害者を雇っている企業(会社,事業主)に「使用者責任」として請求することも出来ますので,企業はこの「使用者責任」として慰謝料等の損害賠償義務を負うことに注意が必要です。
「セクハラ」被害を申告されても,セクハラが認定されないのはどんな場合なのでしょうか?
「セクハラ」があったという被害者に矛盾するような言動がある場合,どう考えたらいいのでしょうか?
今回は,「セクハラの立証に必要な証拠は?証拠確保の注意点」「セクハラ被害者の供述・証言は信用できる?信用性判断の7つのポイント」に引き続き,セクハラに基づく損害賠償請求が認められなかったケースを検討することで,日記,メールなどの証拠の評価や注意点,特に被害者の供述・証言の信用性の判断基準を検討することで,「セクハラ」を受けたとの申出があった場合の事後対応のヒントにしてもらえたらと思います。
「セクハラ」があったことを否定されやすい被害者の言動は?
「セクハラ」があったという被害者の日記は,証拠としてどう評価される?
「セクハラ」の有無の認定に影響の大きいメールのやり取りとは?
1 被害後の言動等から信用性を否定した裁判例
①東京地判平成17年1月25日
原告が被告に「昔,私のアマデウスだった方へ」と書かれたメールを送っていたことから親密な関係性を推認し,両当事者の身長・体重の比較から,「被告より無理やりホテルに引きずり込まれた」旨の原告供述は信用し難く,事後の和解交渉のため二人きりで飲酒を伴う食事をしたこともセクハラの被害者の行動としては疑問があるとした一方,被告の供述は全く不自然なものとは言えないとし,慰謝料請求を棄却しています。
女性でセクハラを受けたという被害者のご相談を受けていると,一見すると「セクハラを嫌がっていなかった」と思われてしまうような態度以上に,積極的に好意を示していると見られかねない言動をしている場合があります。
この点も,複数の方が共通して見られるので,やはり積極的に迎合するような行動をしてしまうことも一定数あるのではないかと感じています。
しかし,セクハラ行為が行われる前に好意的な言動をしているだけではなく,セクハラ行為があったとされる時期以降にも,親しい関係でなければ通常はしないであろう言動(本件で言うと,二人きりで飲酒を伴う食事など)をしているケースでは,供述の信用性が否定されやすいことが分かります。
また,「お食事連れて行ってくださいね!」などの他の事例,他の女性でもあり得そうな表現ではなく,一般的には多くの人が使うわけではない表現を使って,親しい関係性を認めるような言動をしていたりすること,具体的な体格から「引きずり込む」などが難しいと認定して供述の信用性を評価していることも分かります。
他方で,被告の供述の信用性(不自然ではない)も検討しているため,原告より被告の供述の方が信用できる≒原告の主張するセクハラ事実は認められないと判断する根拠の一つにしています。
「セクハラ被害者の供述・証言は信用できる?信用性判断の7つのポイント」に記載した通り,被害者が加害者とされる人に対して「迎合的」「好意的」な言動をしているからと言って,それだけでセクハラが否定されるわけではない,ということになりますが,その言動が多くの被害者にとっても違和感を感じるような,一般的な被害者はしないのではないか,と感じる言動,仮に.ほかにも多くの被害者が同様の言動傾向があるとしても,さすがに,そのような言動をしている被害者に対して加害者が「無理やり」性的な行為をしたと気づくのは難しく,これを「セクハラ」として責任を負わせるのは酷に感じるもの,については,裁判所もセクハラ事実を否定する方向になりやすいのではないかな・・と思います。
企業としては,セクハラ事実があったのか,無かったのか,を分析的に,多角的に客観的な事実(加害者,被害者の言動等)を検討する必要があるでしょう。
もっともその際には,やはり「セクハラ・性被害が生じる理由と適切な予防策・トラブルを回避するための注意」でも触れたとおり,被害者が「迎合的」と思われる言動をしていたり,直ぐに「嫌だ」と言って行動していないからと言うだけでは「供述」が直ちに信用できないわけではないことには注意が必要でしょう。
2 被害者の日記・証人の証言の信用性を否定
セクハラ行為の証拠として,被害者自身が書いた日記,被害に関する話を聞いた人(証人)による証言を使った場合のケースとして,いずれも信用性が高いとは言えないとして,セクハラ事実を認めなかった裁判例があります。
②福岡高判平成19年3月23日
原告が作成した日記のようなノートや,携帯電話を通じて被告の性的発言を聞いたとする証人の証言が,いずれも信用性が高いとは言えないと判断され,慰謝料請求が棄却されたものがあります。
③東京地判平成23年9月16日
原告が作成していた日記が証拠として提出されたが,作成するに至った経緯や主観的な感情の表白を伴う日記という性質に照らして,脚色されている可能性を払拭できず,セクハラを裏付けるには足りないと判断されています。
セクハラ行為が実際に行われている現場で録音・録画をすることは難しいことも多いため,証拠としては事後的な「日記」の記載,誰かに話したこと,見聞きした人がいる場合による証言などが考えられるところです。
確かに,これらの証拠と被害者である原告本人の供述そのものを証拠としてセクハラの事実認定がされることもあるのですが,「セクハラ被害者の供述・証言は信用できる?信用性判断の7つのポイント」に書いた供述の信用性と同様に記載内容や証言内容が信用できるかどうか,で判断が分かれるところになります。
企業(使用者,会社)としては,日記の作成経緯や内容,見聞きしたと言う人の証言内容,加害者や被害者自身から聞き取りをする場合には,録音するなどしてこれらを記録として残して,信用性を判断することも重要でしょう。
3 メール内容から信用性を否定
芸能人に関する性的な被害の場合にもよく問題とされる「メール」や「LINE」などでのメッセージのやり取り。
原告から送ったメールの内容からして,通常「性的被害」「セクハラ」にあったのであれば,送らないのではないか?ということを被告側から主張されることは少なくありません。
実際に,「メール」の内容から,原告の供述(が矛盾するものとして)セクハラ事実があったことを認めなかった事例もあります。
④東京地方平成19年12月5日
原告が送信したメール(同僚や被告に対するもの)から,原告の供述の信用性を認めることはできないとされ,慰謝料請求が棄却された事案があります。
⑤東京地判平成22年9月15日
原告が事件直後に送付したメールの信用性を否定し,慰謝料請求が棄却された事案があります。
⑥東京地判平成25年9月18日
性交渉の強要があったかにつき,原被告間のメールが証拠として重視され,強要は認められないと認定され,慰謝料請求が棄却された事案があります。
⑦東京地判平成26年8月7日
性交渉の合意があったかにつき,メールのやりとり等から,性交渉が原告の意思に明らかに反するものではなかったと推認され,慰謝料請求が棄却された事案があります。
メールのやりとりは,日記のような個人的なメモと異なり,誰かに向けての発信となるため,証拠になりやすいものです。
その内容が,原告の供述と一致している,矛盾しなければ原告の供述の信用性が上がり,セクハラ事実が認定されやすい一方,一致していない,矛盾している,被害者であれば,通常はこのようなメールをしないはず,と思われるような内容の場合,原告の供述が信用できずセクハラ事実が否定されやすくなります。
この点も,被害を受けたとする女性側の話を聞いていると,どうして被害を受けたのにそのような好意的なメールを送ってしまうの?と思うケースもあります。
これも,被害者の心理傾向と言えるかな・・と私自身は思っています。
そのため,被害女性の「主観的」な気持ちとしては納得していない,というところはあると思うのですが,明らかに矛盾するような好意的なメールを送ってしまうと,裁判所としてはセクハラ事実を認めるのは難しい,とされるところになるでしょう。
一般的には,何も事実がないにもかかわらず,被害申告をすることは考えにくいことから,会社としては加害者の供述を無条件に信用するのではなく,真摯に被害申告を聞く必要がある一方で,メールのやりとりなど他の客観的証拠や加害者(とされる方)の供述内容や態度などと照らして,慎重に判断することが重要です。
法的責任と会社対応の要否~まとめ
裁判所はセクハラ行為があったという「事実認定」が出来た場合,これに基づいて損害賠償を認めるなどの判断をする。
これは,加害者の法的責任を認めることになるから,客観的な基準で判断される。
被害者本人が「セクハラ」だと言っても,性的接触に同意があったのかどうか,など供述の信用性,供述以外の証拠の有無,信用性から慎重に判断される。
だから,法的には「被害者がセクハラと言えば,セクハラ」ということで,責任が発生するわけではない。
一方で,本人が「セクハラ」があったと被害申告をしてきた場合には,会社として加害者に「法的責任」は発生しないとしても,被害者が「嫌だ」と感じる言動はやめるように指導をすべき場面はあり得ます。
一般人の感覚,社会通念(≒多数意見という感覚)では,それを通常「セクハラ」とは思わないよね,というものであっても,被害者本人がそれを「セクハラ」と感じ,嫌だと感じるのであれば,職場環境の安全を配慮するという立場から指導したり,部署を変更するなどの適切な対応をすべき場面はある。
でも,法的な「セクハラ」もないのに,被害者のいわゆる「わがまま」に付き合って,会社は対応しないといけないの?
これもよくある疑問だと思うのですが,確かにすべての「わがまま」に付き合う必要はない。
けれど,職場環境が良くなることで職員が働きやすくなり,仕事としての生産性も上がっていくのであれば,会社としては望ましい部分もあるはず。
このあたりを考えながら,法的責任を生じる「セクハラ」がない場合でも,どの範囲でどこまで積極的に対応していくのかは,各会社が考えていい,と思っています。
今回の被害者の「セクハラ」の申告は,被害者の単なる「わがまま」だから,会社としての対応は考えられない・・
対応しなくても,法的に問題はないのか?どこまで対応する必要があるのか?
迷う場合には,弁護士に相談しながら決めてもらえたらと思います。
セクハラで損害賠償請求を受けないよう,配慮すべきことは何か?
被害者にどんな間違った対応をすると,企業の損害が拡大してしまうのか?
企業や会社が「セクハラ」対応をする際に,不安に思ってしまった場合や,会社側からの視点だけで誤った対応をしてしまわないよう,これからも伝え続けていきたいと思います。
セクハラ被害の発生予防や発生後の被害拡大を避けるために・・
何が現在の基準に当てはめると「セクハラ」となるのか,どんな証拠があると「セクハラ」と認定されやすいのか,加害者本人や会社にどんな損害が生じるのか,セクハラ被害が発生後にどのような対応が必要になるのかなど,これからも伝えていきたいと思います。
そうすることで「セクハラ」行為をした,ということで行為をした本人及び雇用主が損害賠償請求などの責任をとらなければならなくなったり,信頼を大きく失ったり,人間関係が悪くなってしまうリスクを避けつつ,人と人が温かい交流が続けられて,安心して過ごせる空間づくりをするお伝いが出来たら嬉しいな,と思います。
今回も最後まで読んでいただいてありがとうございました!