多治見ききょう法律事務所

弁護士 木下 貴子 ブログ

解雇,退職など労働契約終了時のトラブル回避に必要なこと

解雇,退職など労働契約終了時のトラブル回避に必要なこと

いつも,読んでくださり,ありがとうございます。今回は,労働系契約が終了する場面として,「解雇」についてお伝えします♪

労働契約が終了する場面の中で,トラブルになりやすい場面としては大きい「解雇」と解雇以外の終了に分けると,分かりやすいと思いますので,今回は「解雇」についてお話します。

「解雇」は,使用者が一方的に労働契約を終了させることを指します。
解雇以外の終了の場面を,「退職」という総称を使って説明します。

会社運営をしていく中で,会社にとって利益とならない従業員(労働者)を雇用する意味はないので,適切に退職してもらうことで,業績を上げることは重要です。
しかし,「解雇」「退職」によって,労働者は現在の職を失い,収入も失うことになりますから,とても,労働者にとって影響も大きく,法的なトラブルになることも大きい場面です。

不適切な方法で「解雇」行われれば,無効となり,業務の円滑な執行の妨げになり得ると共に,違法行為として,労働者から経営者,会社が損害賠償請求を受けることになり得ます。
「解雇」が無効となれば,そのまま労働者としての地位があることを前提に,支払われなかった給与を一度に請求されることにもなり得ます。

どのような場合に「解雇」が違法となるのでしょうか?
有期雇用契約の場合,「解雇」で,特に注意すべきことは何でしょうか?
「解雇」以外の「退職」場面で,問題になりやすいことは?

労働契約が終了する場面については問題が生じることが多いので,今回は,「解雇」以外の「退職」一般についても,総論として全体をお話して,次回以降に詳細について考えてみたいと思います。

1 解雇とは

解雇とは,従業員(労働者)との合意なく,使用者から労働者に一方的に行われる労働契約解約です。

解雇は,①懲戒解雇,②普通解雇に分かれます。
また,③有期労働契約の場合には別途の考慮が必要になります。

②の普通解雇は,(あ)狭義の普通解雇と,(い)整理解雇に分けて考えることができます。

それぞれ要件が異なりますので,以下見ていきましょう!

2 懲戒解雇,普通解雇,整理解雇の違い

①懲戒解雇とは

懲戒解雇とは,労働者の非違行為(犯罪行為などの違法行為・非行行為)に対して,制裁罰としてなされる解雇です。

労働者の非違行為に対する懲戒処分のうち,最も重いものが懲戒解雇です。

懲戒については,「懲戒処分が適法となる場合,違法となる場合。懲戒すべき場合とは」「懲戒処分の相当性基準は?経歴詐称・パワハラ・セクハラ等による懲戒処分の有効性」でご紹介しました。

懲戒解雇は,懲戒処分としての性格と,解雇としての性格の双方を有するので,解雇予告手当(労基法20条)による解雇規制も働きます。
そうすると,懲戒解雇と普通解雇との差異は,就業規則や合意に基づく退職金不支給・減額の対象となるかどうかという点が大きいといえます。

②(あ)普通解雇とは

普通解雇は,労働者に解雇の原因(勤怠不良,能力不足,協調性欠如等)がある場合の解雇を指します。
労働者に原因がない場合は,①の整理解雇に当たります。

普通解雇に関しては,労基法,労契法によるルールがありますので,これらに抵触することは許されません。
詳細については,次回以降にお話ししようと思いますが,以下の3つの視点からチェックすることが必要になります。

(1)解雇権濫用に当たらないこと(労働契約法16条)

(2)法律上解雇が制限されている場面に当たらないこと(様々な法律で規定されています)

(3)解雇予告の手続きが行われていること(労働基準法20条)

②(い)整理解雇とは

整理解雇は,労働者に原因はないものの,使用者側の経営上の都合で行われる解雇を指します。労働者に原因がないのですから,普通解雇の場面に比べてより高いハードルがあることはイメージしやすいと思います。
整理解雇については,過去の裁判例から,ⅰ人員削減の必要性,ⅱ解雇回避努力義務を尽くしたこと,ⅲ被解雇者選定の妥当性・相当性,ⅳ手続きが妥当性という4つの要件を具備しなければならないとされており,そのハードルはかなり高いものです(東洋酵素事件-東京高判昭和54年10月29日)。

③有期労働契約の場合

期間の定めのある労働契約(有期労働契約)については,あらかじめ使用者と労働者が短期間の契約期間を合意しているので,使用者は「やむを得ない事由がある場合」でなければ,契約期間の途中で労働者を解雇することはできません(労働契約法第17条)。

この「やむを得ない事由」というのは,期間の定めのない労働契約の場合よりも,解雇の有効性は厳しく判断されるので注意が必要です。
そのため,企業(使用者)からのご相談がある場合には,あと数か月であれば,期間満了までは雇用継続して下さいというお話をさせていただくことも多いです。

また,有期労働契約においては,契約期間が過ぎれば原則として自動的に労働契約が終了することとなりますが,3回以上契約が更新されている場合や1年を超えて継続勤務している人については,契約を更新しない場合,使用者は30日前までに予告しなければならないこととされています(「有期労働契約の締結,更新及び雇止めに関する基準」<厚生労働省告示>)。

さらに,反復更新の実態などから,実質的に期間の定めのない契約と変わらないといえる場合や,雇用の継続を期待することが合理的であると考えられる場合,雇止め(期間満了時に契約が更新されないこと)に,客観的・合理的な理由がなく,社会通念上相当であると認められない場合には,従前と同一の労働条件で有期労働契約が更新されることになるので注意が必要となります(労働契約法19条。日立メディコ事件-最判昭和61年12月4日-)

3 退職について

①合意解約とは

「合意解約」は,使用者と労働者の合意によって労働契約を解約することです。
合意ですので,一方からの申込と,相手方の承諾という意思表示の合致によって成立します。
当事者双方の意思によるので,解雇予告(労働基準法20条)などの制限はありません。

合意解約については,退職願を提出した労働者が,後になってそれを撤回したり,退職の意思表示の瑕疵を主張するというような形で問題となることが少なくありません。
労働者からの合意解約の申込みの場合,特段の事情のない限り,使用者の承諾の意思表示があるまでは撤回を認められます。

そのため,使用者側としては,使用者側の誰がどうした場合に承諾となるか,合意解約の申込を労働者から受ける際の説明をどのようにして,どういった記録を残しておくかという点が重要となります。

②辞職とは

「辞職」は,労働者が一方的に雇用契約を終了させることをいいます。
使用者側が一方的に労働契約を終了させる「解雇」と反対の場面です。

上記「合意解約」と比較すると,使用者に到達した時点で,解約告知としての効力が生じ,撤回はなし得ないという点が異なります。

そうすると,問題となるのは,労働者の辞職の意思表示に瑕疵(強迫,錯誤,詐欺など)がある場合ということになります。

なお,期間の定めのない労働契約においては,労働者は2週間の予告期間をおけば理由を要することなくいつでも労働契約を解約することができるとされています(民法627条1項)。

4 「考え方」が違う前提で対策を~まとめ

「解雇・労働契約終了時のトラブル回避策」にも記載をし始めているところですが,メンタル面で長期間出勤できない場合の雇用継続,解雇なども会社(使用者)にとっては悩ましい問題です。

また,「副業が認められる範囲は?競業避止義務違反」で記載した会社の利益と対立することに繋がるような行為や,「懲戒処分が適法となる場合,違法となる場合。懲戒すべき場合とは」で書いたSNSへの投稿など,以前なら,「普通」こんなこと許されないでしょ,と少し前の私たちのようなおねえさん世代(笑)では思えることの感覚も,どんどん世代によって変わってきているのを感じます。

働き方に関する「考え方」も,本当に多様になってきましたので,今の時代,これからの時代を生きる方,働く方が何を大切にしているのか,を知って対応するのが重要です。
そのためには,多様な「考え方」「捉え方」があることを前提に,出来るだけ疑義が起こりにくい文言,誰が読んでもそのように読めるよね,という形で会社の目指す方向や,懲戒処分の前提ともなる,就業規則などの守ってもらうべきルールを定めるのが大切だと思っています。

時代の流れによって,以前は問題とされることも無かったことが,現在では,大きな問題になるので,解雇や退職についても,今の時代にあった「考え方」を知って,対応するのが重要だと思っています。

「解雇」は,働く人にとっては,大きなダメージとなりやすいので,恣意的な判断と言われないよう,出来るだけ明確な基準,客観的な基準によって判断し,労働者に重い非違行為があり,懲戒権の行使として「懲戒解雇」が認められるような場合でなければ,合意による退職の調整,普通解雇を検討した上で,やむを得ない場合にすることが望ましいでしょう。

しかし,「懲戒」や「解雇」は,業務の円滑な進行の上で必要であるからこそ,なされるのですから,もちろん適切に,速やかに行使すべき場面はあります。
特に,セクハラ,パワハラの対応として適切な対応が求められるときに,懲戒処分などを躊躇をすれば,他の職員のモチベーションを下げてしまうことにも繋がるので,このバランスを考えて適切に行使することが,とても重要です。

経営者としては,やはり,多様な考え方があることを前提に,予め今の時代の要請に応じた就業規則,規定を定め,体制を整備するとともに,それでも,問題が生じた場合には適宜見直すなどして,対応していくのが重要だと思います。

法律上,解雇,退職のような労働契約終了時には何が許されていて,何は許されないのか,どんな損害が生じる可能性があるのか,被害が生じた場合にどんな賠償責任があり得るのか,今はどんなことに特に注意しないといけないのか,トラブルを回避するために法的にとりうる手段は何なのか,を知っておきましょう。

そうすることで,万一の時に,少しでも「こんなはずじゃなかった」というダメージの発生,トラブル発生のリスクを減らしつつ,より魅力的な会社として,職員が気持ちよく業務をしていただけたらと思います。

それでは,今回も最後まで読んでいただいてありがとうございました!