
「セクハラ」は被害者が言えば,すべてセクハラ認定される?
「セクハラ」を訴える被害者の話をそのまま信じていいのか?
「セクハラ」があったと言っていますが,ずっと被害者は加害者と仲良くしていたのですが・・
私は,主に企業側,会社側でご相談を受けることが多いのですが,「セクハラ」の被害申告があって損害の賠償をするよう請求されているけれど,その場合,請求されている通りの金額を支払わないといけないのか,そもそも本当に「セクハラ」被害はあったと認めていいのか,など聞かれることもよくあります。
一方で,私が女性弁護士であることもあって,セクハラ被害を受けた女性からの相談を受けることも時々あるのですが,誰にどのような請求ができるのか,と聞かれることもあります。
セクハラ被害があった場合,被害者は加害者本人に対して請求できる金額と同額の金額を加害者を雇っている企業(会社,事業主)に「使用者責任」として請求することも出来ますので,企業はこの「使用者責任」として慰謝料等の損害賠償義務を負うことに注意が必要です。
どんな証拠があれば「セクハラ」があったと認定されるのでしょうか?
「セクハラ」があったという被害者に矛盾するような言動がある場合,どう考えたらいいのでしょうか?
今回は「セクハラの立証に必要な証拠は?証拠確保の注意点」に引き続き,セクハラに基づく損害を認められたケースで必要とされる立証の方法,証拠の評価や注意点,特に被害者の供述・証言の信用性の判断基準を検討することで,「セクハラ」を受けたとの申出があった場合の事後対応のヒントにしてもらえたらと思います。
「セクハラ」の証拠として被害者の供述を信用できるか判断する7つのポイントは?
「セクハラ」があったという被害者が矛盾するような言動をする心理は?
「セクハラ」の証拠が被害者の供述のみの場合でも,セクハラと認定される?
1 信用できる供述証言
この人の証言は信用できると判断されるための要素は何か?
他の民事裁判でも共通しますが,一般に,裁判官は以下のような要素(ポイント)で信用性を判断しています。
- ①供述・証言内容の一貫性
- ②供述・証言内容の具体性
- ③供述・証言内容の迫真性
- ④供述・証言内容の合理性
- ⑤供述・証言内容の他の事実との整合性
- ⑥供述態度の真摯性
- ⑦供述者の利害関係(嘘を言う動機の有無)
などの要素を総合的に考慮し,信用性を判断します。
そのため,被害者の供述内容が,経験則に照らして不自然であったり,核心部分に変遷があると,信用性が低いものとなります。
従って,被害者として供述を信用してもらうためには,事件直後から,「いつ」「どこで」「どうやって」「セクハラを受けたか」について記憶を整理し,事件前後に関する幅広い事実を思い出して,事件の実在をうかがわせる証拠を収集したり,証言をしてくれる協力予定者の方とその認識と食い違いや矛盾がないか等の確認が重要になるでしょう。
さらに,「セクハラに抵抗できなかった」「長期間継続した」「記憶が曖昧」,などの事案では,セクハラへの対処行動・援助を要請する行動には個人差があること,事件のことを忘れたいという思いから記憶が曖昧になることもありうること等を,性犯罪被害者の実態に関する研究論文の提出や心理学の専門家の「意見書」などによって裁判官に理解してもらうことも重要になります。
女性でセクハラを受けたという被害者のご相談を受けていると,一見すると「セクハラを嫌がっていなかった」と思われてしまうような態度が共通して話されることが多いので,やはり「心理的」に直ぐに行動できない,迎合的な行動をしてしまうことがあると感じています。
「モラハラ」「DV」を夫から受けてきたケースなどでも,「記憶が曖昧」となっていることも少なくなく,こちらもセクハラと同様に「忘れたい」という心理的な影響があるのを感じます。
企業としては,セクハラ事実があったのか,無かったのか,を改めて客観的に検討する必要があり,その際,被害者の供述態度や供述内容などに着目して判断し,対応することが必要です。
もっともその際には,「セクハラ・性被害が生じる理由と適切な予防策・トラブルを回避するための注意」でも触れたとおり,被害者が「迎合的」と思われる言動をしていたり,直ぐに「嫌だ」と言って行動していないからといって「供述」が直ちに信用できないわけではないことに注意が必要でしょう。
2 被害者供述の信用性と被害者心理
セクハラ行為を直接証明しうる客観証拠がなく,当事者の供述と間接事実によって事実認定された事案で,供述と間接事実の関連付けや,信用性の比較,心理面の立証活動をすることで「セクハラ」が認められたものとして,参考になる以下のような裁判例があります。
①熊本地判平成9年6月25日
被害者心理に関して「フェミニストカウンセラー」という専門家を尋問するなどの立証活動を行なって,セクハラが認められました。
②東京高判平成9年11月20日
20分にわたるわいせつな行為を受けた被害者が,抵抗せず,助けを呼ばなかったとしても不自然ではないことを裏付けるために,アメリカの性被害に関する研究論文を提出しました。
それによって,一審では敗訴した被害者が逆転勝訴しています。
③仙台高秋田支判平成10年12月10日
職場における性的自由の侵害行為の場合には,職場での上下関係や同僚との友好関係を保つための抑制が働くために,これらの抑制が被害者が必ずしも身体的抵抗という手段を取らない要因として働く可能性があるとの研究成果を証拠として提出しました。
裁判所は,その研究成果を採用した上,事後において事件の実在をうかがわせる間接証拠(会話録音)も存在し,他に事件を客観的に明らかにするような証拠がない以上,控訴人の供述を採用するほかないと判断し,一審では敗訴した被害者が逆転勝訴しています。
セクハラを認める,認めない,という裁判所の事実認定が変化していることから,「供述」以外の客観的な証拠があまりない中で判断することの難しさを感じます。
しかしながら,高裁の裁判例の傾向からすると,やはり「被害者の心理」傾向については,専門家の判断,研究を重視して尊重し,被害者の供述を信用しない根拠としないことを意識していることがうかがわれます。
企業(使用者,会社)としては,加害者がセクハラ事実を否認している場合には,その供述状況の録音,被害者とのメール等のやり取りの確認,セクハラを受けた被害者としての言動として一般的にはしないであろうことなど被害者の言動に不審な点があれば,これらを記録として残すことが重要となると共に,それは被害者「心理」からすれば不自然ではないのではないか,と振り返って検討することも重要でしょう。
3 被害者供述の信用性の判断ポイント
④東京地判平成15年9月30日
原告(被害者)の供述の方が被告(加害者)の供述よりも相対的に信用性が高いとされ,セクハラが認められました。
⑤大阪地判平成24年11月29日
主に原告(被害者)の供述のみから事実を認定し,セクハラが認められました。
⑥東京地判平成26年12月16日
セクハラの直接証拠が一部を除いて原告(被害者)の供述のみであったため,原告の供述の信用性を中心に検討し,セクハラがあったと認定されました。
⑦名古屋高判平成28年7月20日
原告(被害者)の携帯電話の通話料が,被告のつきまとい以降に急増していること(通話料金記録)及び警察への相談の内容が原告の供述と合致していることから,原告の供述に十分高い信用性が認められるとしてセクハラが認められました。
「モラハラ」「DV」を原因に離婚を求める際にも,その証拠が以前は本人の記憶による「供述」しかないことも少なくありませんでした。
「モラハラ」や「セクハラ」について,現在は録音などが証拠となることも多いですが,実際になされた行為そのものをタイミングよく録音,録画するのは簡単ではありません。
そのため,被害者の「供述」のみを証拠として「セクハラ」が立証できるかどうかは,現在でも問題とされるところです。
裁判例をみると,被害者の「供述」だけであってもセクハラが認定されているものもあることが分かりますし,被告(加害者)の供述と比べてどちらが信用できるのか,被害者の供述内容とその他の記録と一致などから信用できると評価して,セクハラを認定していることが分かります。
一般的には嘘を言う動機がないことを前提とすると,何も事実がないにもかかわらず,被害申告をすることは考えにくいことから,会社としては加害者の供述を無条件に信用するのではなく,他の証拠や加害者(とされる方)の供述内容や態度などと照らして,客観的に慎重に判断することも重要になります。
どんな人の話が信用できる?~まとめ
裁判所はセクハラ行為があったという「事実認定」が出来た場合,これに基づいて損害賠償を認めるなどの判断をする。
どんな「証拠」があったら,セクハラ行為があったと認定できるのか?
他に客観的な証拠が少ない場面が多い「セクハラ」では「被害者の供述」はその事実認定が出来るかどうかに大きな影響がある「証拠」となります。
では,どんな場合なら「被害者の供述・証言」を信用していいのか?証拠として採用していいのか?
これは・・・結論としては,一般人の感覚として,「あ,この人の話って信用できる!」と思えるかどうか,に近いものだと思っています。
ただ,「なんとなく」(雰囲気で)(主観的に)「信用できそう!」と感じたという理由では納得してもらい難いので・・
1の①~⑦の基準で客観的に判断している,という説明をすることになるかなと思います。
みなさんは,どんな人の話なら信用できますか?
普段からその人のことを良く知っていれば,その人の普段の言動から判断することも多いと思いますが,もし初対面の方だとしたら?
①さっき言っていたことと話が変わる(一貫性がない)
②こんなような感じだったと思います(あいまいで抽象的な発言に留まる)
⑤好意はなかった,と言っているのに好意をうかがわせるメールを送っている(他の事実との不整合)
例えば,こういう相手だとあまり信用できないな・・と思うのではないでしょうか?
反対に,
①いつ聞いても矛盾のない同じ回答をする(一貫性がある)
②③あのとき,「あ!」と叫んだら相手は足を滑らせてドーンとその場に倒れたんです!(具体性・迫真性がある)
⑤とても嫌な思いをしたことを伝えるメールを親に送っている(他の事実との整合)
この人が言うことは信用できるかも!と思いやすいのではないかなと思います。
この「信用性」の判断基準を出来るだけ分解して考えようとする裁判所の判断基準って面白いと思うし,日常生活でも人はどのようにしてその人の話,その人自身を信用するのか・・を分析する感じで面白くて,私が裁判所の手続きに関わる中でとても興味深い,面白さを感じる部分でもあります。
セクハラで会社が訴えられてしまうケースでは,「面白い」などと呑気に言える場面ではないかもしれませんが,少し離れて冷静に,分析的に検討することは大事だと思っています。
セクハラで損害賠償請求を受けないよう,配慮すべきことは何か?
被害者にどんな間違った対応をすると,企業の損害が拡大してしまうのか?
企業や会社が「セクハラ」対応をする際に,不安に思ってしまった場合や,会社側からの視点だけで誤った対応をしてしまわないよう,これからも伝え続けていきたいと思います。
セクハラ被害の発生予防や発生後の被害拡大を避けるために・・
何が現在の基準に当てはめると「セクハラ」となるのか,どんな証拠があると「セクハラ」と認定されやすいのか,加害者本人や会社にどんな損害が生じるのか,セクハラ被害が発生後にどのような対応が必要になるのかなど,これからも伝えていきたいと思います。
そうすることで「セクハラ」行為をした,ということで行為をした本人及び雇用主が損害賠償請求などの責任をとらなければならなくなったり,信頼を大きく失ったり,人間関係が悪くなってしまうリスクを避けつつ,人と人が温かい交流が続けられて,安心して過ごせる空間づくりをするお伝いが出来たら嬉しいな,と思います。
今回も最後まで読んでいただいてありがとうございました!