多治見ききょう法律事務所

弁護士 木下 貴子 ブログ

解雇が有効となる場合,無効となる場合の違いは

解雇が有効となる場合,無効となる場合の違いは

いつも,読んでくださり,ありがとうございます。今回は「解雇の有効・無効」についてお伝えします♪

労働契約が終了する場面は,「解雇,退職など労働契約終了時のトラブル回避に必要なこと」でも記載した通り,トラブルになりやすく,特に労働者が希望しても,一方的に雇用契約(労働契約)が終了してしまう「解雇」については,トラブルが生じやすく,注意が必要です。

この「解雇」について,解雇の有効・無効について,具体的ケースからお話します。

会社運営をしていく中で,会社にとって利益とならない従業員(労働者)を雇用する意味はないので,適切に退職してもらうことで,業績を上げることは重要です。
しかし,労働者は現在の職を失い,収入も失うことになりますから,とても,労働者にとって影響も大きく,法的なトラブルになることも大きい場面です。

不適切な方法で「解雇」が行われれば,無効となり,業務の円滑な執行の妨げになり得ると共に,違法行為として,労働者から経営者,会社が損害賠償請求を受けることになり得ます。
「解雇」が無効となれば,そのまま労働者としての地位があることを前提に,支払われなかった給与を一度に請求されることにもなり得ます。

どのような場合に「解雇」は適法,有効となるのでしょうか?
「解雇」が無効にならないように,普段から注意すべき点は?
「解雇」が有効,無効となる場合の違いは何?具体例は?

1 解雇が無効になる基準

解雇について,労働契約法16条で「解雇権濫用法理」が規定されています。

16条 解雇は,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められない場合は,その権利を濫用したものとして,無効とする。

つまり,解雇する場合には,①客観的に合理的な解雇理由が備わっているか否かをまず判断して,①の要件を満たす場合にも,②解雇をもって臨むことが社会的に相当か,過酷に過ぎないかという観点から判断されるということになります。

もっとも,①と②の要件は,重なり合う部分があり,分けて考える実質的な意義も乏しいものがあります。

それよりも,具体的ケースにおいて,裁判所が,類型毎にどのような判断したかを見ることによって,有効・無効のボーダーラインについてイメージを掴むことが重要だと思いますので,一緒に具体的なケースを見てみましょう。

2 解雇の合理的理由

解雇の理由については,以下のようにケース分けすることができます。

①労働者の労務提供不能・労働能力又は適格性の欠如・喪失

ア 勤怠不良(今回見ていきます)
イ 能力不足(次回検討予定)
ウ 労働能力喪失(次々回検討予定)
エ 労使間の信頼関係の喪失(以下,順番に検討予定)

②労働者の職場規律違反(同上)

③整理解雇(同上)

④ユニオン・ショップ協定に基づく組合の解雇要求

今回は,勤怠不良を解雇理由とした場合に,解雇無効となったケースと,解雇有効となったケースを見ていきましょう。
裁判例を見ていきますので長くなりますがお付き合いいただけたら嬉しいです♪

3【解雇無効】高知放送事件(最判昭和52年1月31日)

①事案の概要

Xは,放送局Y編成局報道部勤務のアナウンサーであったところ,担当する午前6時から10分間のラジオニュースを2週間に2回寝過ごしによる放送事故を起こした。

第1事故は,Xが前日からファックス担当者と宿直勤務して午前6時20分頃まで仮眠していたため定時ラジオニユースを全く放送することができなかった。第2事故は,同様にファックスる担当者と宿直勤務に従事したが,寝過したため,定時ラジオニュースを約5分間放送することができなかつた。Xは第2事故については,上司に事故報告をせず,部長から事故報告書の提出を求められ,事実と異なる事故報告書を提出した。そこで,Y会社は,Xを懲戒解雇とすべきところ,再就職など将来を考慮して普通解雇した。

②裁判所の判断

Xの起こした第1,第2事故は,定時放送を使命とするY会社の対外的信用を著しく失墜するものであり,また,Xが寝過しという同一態様に基づき,特に2週間内に2度も同様の事故を起こしたことは,アナウンサーとしての責任感に欠け,更に,第2事故直後においては卒直に自己の非を認めなかった等の点を考慮すると,Xに非がないということはできないが,⑴本件事故はいずれもXの過失行為によって発生したものであって,悪意ないし故意によるものではなく,また,通常は,ファックス担当者が先に起きアナウンサーを起こすことになっていたところ,ファックス担当者においても寝過しており,事故発生につきXのみを責めるのは酷であること,⑵Xは,第1事故については直ちに謝罪し,第2事故については起床後一刻も早くスタジオ入りすべく努力したこと,⑶寝過しによる放送の空白時間はさほど長時間とはいえないこと,⑷Y会社において早朝のニュース放送の万全を期すべき何らの措置も講じていなかったこと,⑸事実と異なる事故報告書を提出した点についても…強く責めることはできないこと,⑹Xはこれまで放送事故歴がなく,平素の勤務成績も別段悪くないこと,⑺第2事故のファックス担当者はけん責処分に処せられたにすぎないこと,⑻Y会社においては従前放送事故を理由に解雇された事例はなかったこと,?第2事故についても結局は自己の非を認めて謝罪の意を表明していること等から,Xに対し解雇をもつてのぞむことは,いささか苛酷にすぎ,合理性を欠くうらみなしとせず,必ずしも社会的に相当なものとして是認することはできないと考えられる余地がある。

③解雇が無効になったポイント

解雇権濫用法理を確立させた重要判例ですが,事例判断としても重要です。形式的には,就業規則上の解雇事由に該当しても,Xのこれまでの勤務状況や本件に関する状況や結果を具体的にみると,解雇とするのは実質的には客観的合理性を欠き,社会的相当性もないと判断しています。このようなミスが繰り返されていれば,解雇も相当となったでしょうが,一度(2週間に2度)のミスではなかなか解雇とするには酷ということでしょう。解雇が有効となるのはなかなか難しいことが分かります。「懲戒処分の相当性基準は?経歴詐称・パワハラ・セクハラ等による懲戒処分の有効性」で勤怠不良(勤務懈怠)の場合の懲戒処分についても書いていますが,解雇を有効にするためには,それ以前に,勤怠不良行為について,指導などをしてきたということも重要だと思います。

4【解雇有効】東京海上火災保険事件(東京地判平成12年7月28日)

①事案の概要

Xは,損害保険Y会社に総合職の従業員として雇用され,システム開発・保守に関する業務に従事していたが,通勤途上の負傷(傷病名は,左足関節捻挫,左立方骨剥離骨折)により4か月間,その他私傷病により約5年5か月のうちに約2年4か月を長期休暇により欠勤し(5か月間,1年間,6か月間など),最後の長期休暇の前2年間の出社日数のうち約4割が遅刻であったなど遅刻を常習的に繰り返していた。また,Xは長期休暇明けの出勤にも消極的態度で,離席時間も多かった。

これに対し,Xの上司らは,再三にわたり面接を含めた指導注意を行ったが,その態度は改まらず,むしろ反発することすらあった。そこで,Yは,Xが,就業規則「労働能率が甚だしく低く,会社の事務能率上支障があると認められたとき」に該当するとして解雇した。

②裁判所の判断

Xの上司らが指導を続けてきたことは前認定のとおりであり,それにもかかわらず,Xの勤務実績,勤務態度は変わらなかったものであるし,本件解雇時まで継続していた本件欠勤では,出勤して労務提供を提供する意欲がXに見られなかったのであるから,YがXを解雇せざるを得ないと判断したことには客観的に合理的な理由があるのであって,本件解雇が解雇権の濫用に当たるとはいえない。

③解雇が有効になったポイント

本件では,就業規則の「労働能率」の意義について,Xが会社の許可を得て病気欠勤をし,あるいは有給休暇を取得した期間は,労働能率の判断から除外されなければならないと主張しました。この点について,裁判所は,「能率」を「一定の時間に出来上がる仕事の割合」と定義づけるとしても,「一定の時間」から傷病欠勤の期間を除外する理由はない。むしろ,雇用契約においては,労務の提供が労働者の本質的な債務であり,Yとしては,ときには傷病等で欠勤することがあるにせよ,Xが長期にわたりコンスタントに労務を提供することを期待し雇用したと解されるところ,私傷病欠勤が多く,労務を長期にわたって提供できないことを,従業員(労働者)としての適格性判断の材料にできないというのは不合理であるからである。と述べています。私傷病そのものは,責められるものではないと思いますが,労働契約は,労務を提供してもらうことがその本質であるので,長期間提供出来ない,ことに加え,勤務できるときでも,精いっぱいやっている様子がなく,反抗的,消極的態度で提供が不十分な状態が続けば,雇用を続ける意味がない,ということで,解雇が認められる方向になりそうです。

5【解雇有効】高島屋工作所事件(大阪地判平成11年1月29日)

①事案の概要

Xは,家具の製造販売及びインテリア設計施工等を業とするYに勤務していたが,Xの遅刻等の回数は,平成4年が29回(すべて遅刻),平成5年が23回(遅刻19回,私用外出4回),平成6年が16回(遅刻9回,私用外出5回,早退2回),平成7年(ただし,3月まで)が6回(早退4回,私用外出2回)であること,遅刻の理由の大部分は腹痛又は自己都合であり際だって多いこと,遅刻・私用外出に関する上司の指示に従わなかったこと,勤務態度において上司の業務命令にしばしば従わなかったこと,同僚との間でも口論が絶えなかったことから,「技量又は能率が著しく低劣であって職務に適せず,配置転換も不可能で就業の見込みがないと認めたとき」,「やむを得ない会社の業務上の都合」を理由に解雇された。

②裁判所の判断

Xには,上司の指揮命令に従って誠実に業務を遂行しようとする意識ないしは同僚と協調して業務を遂行しようとする意識に著しく欠けていたことが認められるのであって,その程度は,業務の円滑な遂行に支障をきたすほどのものであったというべきである。そして,これらの事実は,Xが,協調性は欠くのみならず,職業人ないし組織人としての自覚に著しく欠けることを示すものであり,従業員としての適格性がないものと評価されてもやむを得ないと考えられる。そして,かかる状況に鑑みれば,原告の配転が困難であったことも首肯することができる。

さらに,Xの勤務成績は,過去5年間で,全従業員の中で最低又は最低から二人目であって,著しく低く,前記認定にかかるXの勤務状況に照らせば,右評定が不合理なものであるともいえない。

これらの事実に,Yの業績悪化に伴う赤字部門の整理統合により,Xが所属していた部門が廃止され,その事務部門に所属していたXが余剰人員となったことを併せ考慮すれば,本件解雇は合理的なもので,これが著しく社会的相当性を欠き解雇権を濫用するものであるとはいえないというべきである。

③解雇が有効になったポイント

解雇に当たり,労働者に対して何度も繰り返し注意・指導を繰り返したにもかかわらず,労働者が正当な事由なく勤怠不良を繰り返し,それによって業務への支障が生じ,労働者が反省を示しておらず,もはや解雇しか選択の余地がないというレベルまで達している必要があることを示すものです。解雇の有効・無効が争われる場合には,証拠に基づいた事実認定が行われますので,注意・指導を繰り返したことを示す客観的証拠が必要となるケースがあります。しかし,口頭による注意を行い,そのことが記録化されていないことが多いという感覚があります。実務的には,記録として残る文書やメールによることが望ましいですが,口頭注意をする場合にも,業務日誌等に記録化しておくことが重要です。また,配置転換の可能性なども問題とされることがあるので,それが困難であること等についても,説明できるようにしておくこと,普段からの勤務成績を客観的に評価して残しておくことも重要でしょう。

6 時代の流れを感じつつ今の取扱いを前提に~まとめ

これまで,お話してきた通り,今の時代の労働者となる方がどんなことを考えているのか,また,どのような働き方を目指して,法改正がなされているのか,その背景や時代の流れを知ることで,トラブルにならない対策,対応方法のヒントに繋がります。

現在は,一カ所,一つの会社で働き続ける,というよりも,より,ステップアップをするためにドンドンと勤務先を変更していく,ということが労働者にとっては,当たり前に考えられている,ということを前提に,労働者の方からは,いつ退職をされても良いように,準備しておくことは重要です。

しかし,一方で,会社から労働者を退職させる「解雇」については,まだまだそれが当たり前とは考えられていない,軽く認められる取扱いにはなっていない・・と感じます。
なので,もっと時代が進んで行けば取扱いも異なっていく可能性があると思いますが,それ以前には,やはり,「今」はどのように取り扱われているかを把握して,その前提でも,どうしたら,柔軟により良い組織,会社に変えていけるのか,「今」出来ることで対策を考えるのは重要だと思います。

「解雇」は,今後も継続して雇ってもらえる,と思って働いている人にとっては,大きなダメージとなりやすいので,恣意的な判断と言われないよう,出来るだけ明確な基準,客観的な基準によって判断することも大切でしょう。

経営者としては,やはり,現在の雇用契約の重点や法改正には注視して,時代の要請に応じた就業規則,規定を定め,体制を整備するとともに,出来る限り柔軟な組織変更が出来るための対策も大事だと思います。そして,それでも,問題が生じた場合には適宜見直すなど,適法かつ有効な人事権の行使を検討し,対応していくのが重要だと思います。

解雇も含め,法律上,どんな人事権の行使が許されていて,何は許されないのか,どんな損害が生じる可能性があるのか,被害が生じた場合にどんな賠償責任があり得るのか,今はどんなことに特に注意しないといけないのか,トラブルを回避するために法的にとりうる手段は何なのか,を知っておきましょう。

そうすることで,万一の時に,少しでも「こんなはずじゃなかった」というダメージの発生,トラブル発生のリスクを減らしつつ,より魅力的な会社として,職員が気持ちよく業務をしていただけたらと思います。

それでは,今回も最後まで読んでいただいてありがとうございました!