多治見ききょう法律事務所

弁護士 木下 貴子 ブログ

人に車を貸す場合の交通事故における責任と注意・ウェブサイトで確実に保険加入するために注意すべきこと

人に車を貸す場合の交通事故における責任と注意・ウェブサイトで確実に保険加入するために注意すべきこと

今回は,交通事故に遭った場合,事故を起こした車の運転手以外に誰にどのような請求が出来るのか,また,交通事故による損害賠償請求を受けることを想定し,しっかりと補償ができるよう,保険の加入をする際にどのような点に注意すべきかについて,具体的な裁判例をご紹介しながら,問題になった点をお伝えします。

交通事故によって被害者が死亡してしまった場合,遺族は誰にどのような請求が出来るのでしょうか。
自分の車を他の人に貸す場合に注意すべき点は?貸した車で交通事故を起こされてしまった場合,所有者が負う責任は?

死亡事故の場合,特に損害賠償責任として支払う金額は大きな額になることが想定されますが,そのために,任意保険をどのようにかけておくことが重要でしょうか。
ウエブサイトで契約する場合に,保険契約を確実に成立させ,損害賠償金を支払ってもらうために,保険加入時に注意すべきことは?

今回は,実際にこれらのことが問題になった裁判例をみながら,交通事故の被害者,加害者として損害を回復するために出来ること,知っておくと交通事故が発生したときの負担を軽減できる,と思う点について,お伝えします。

1 神戸地判令和2年8月27日(交民53巻4号1022号)の事例

ウェブサイトで契約した自動車保険の始期が事故翌日と認定された事例です。
具体的には,父Y2から車を借りたY1が平成28年7月24日にドライブへ行くことになり,7月20日に保険会社Y3のウェブサイトにスマートフォンでアクセスして,自動車保険契約の申込みをし,保険料を支払った。ドライブ前日の7月23日,Y1は加害車を運転して洗車場へ行った際に事故を起こし,被害者が死亡したことから,その相続人らが加害者運転者のY1,車の所有者Y2,保険会社Y3を被告として損害賠償請求訴訟を提起した。

その際,保険期間の始期が申込翌日(事故の2日前)であったのか,ドライブ予定日(事故翌日)であったのかが争われた。
裁判所は,「本件保険契約の始期は,7月24日(ドライブ予定日)であり,本件事故はその前日に発生したものであるから,Y3社は,本件事故について保険金の支払い義務を負わない」とされた。

2 運転者及び所有者の責任

交通事故が起こった場合に,被害者は,加害者たる運転者(民法709条)にまず,損害賠償請求が出来ます。
しかし,運転者が任意保険に加入しておらず,十分な賠償能力がない場合などに被害者は困ってしまいます。

そこで,自動車損害賠償法3条により,「自己のために自動車を運行する用に供する者は,その運行によって他人の生命又は身体を害したときは,これによって生じた損害を賠償する責に任ずる」と定めて,いわゆる人身事故があった場合には,運転者だけではなく,「自己のために自動車を運行する用に供する者」である「運行供用者」にも損害賠償請求が出来ることを定めています。

その詳しい判断基準は,人身事故で損害賠償してもらえない~加害者以外に請求できる場合で記載した通りですが,車の所有者(本件では運転者Y1の父親であるY2)は原則として子の運行供用者にあたりますので,損害賠償義務を負うことになります。

また,物損事故の場合は,「運行供用者」としての責任追及の対象にはなりませんが,物損事故で車両管理者・所有者が責任を負う場合とは?に記載したように,「車両管理者」としての責任追及をされることもあります。

そのため,人に自分の車を貸す場合には,貸した人が交通事故を起こしてしまった場合,このような責任を負うことがあることに注意しましょう。
反対に,人身事故による被害を受けた場合には,運転者以外にも請求できる人がいることを知っておくことは,損害被害を回復する手段として重要です。

3 確実な保険加入のために必要なこと

本件のような死亡事故による損害賠償金額は大きな金額となることが予想されます。
そのために,個人の財産だけでは十分な補償が出来ないことが想定されるため,任意保険に加入しておくことが重要です。

しかし,本件ではウェブサイトでした契約で,契約内容とされた「保険期間の開始日」について,Y3以外の当事者(損害賠償を請求している相続人も)は,事故発生の前であったから保険金が支払われるべきと主張していたけれど,裁判所に「保険期間の開始日」は,事故発生後であったと認定されてしまったため,保険金としては支払ってもらえませんでした。

ここでは,Y1,Y2が提出したY3から送信されたとする「保険期間の開始日」が7月21日(事故前)となる契約内容の確認メールのスクリーンショットが証拠として提出されましたが,改ざんが可能であること,メールの受信日時がY1が保険契約を申し込んでから相当時間が経過した日時で,Y3のウェブサイトの契約手続き上通常起こりえないこと,Y1,Y2は事故後に弁護士に相談しながら原メールを消去してしまうなど,当事者として理解しがたいことを行っていることなどから,Y3以外の当事者の主張は採用できない,とされています。

「事実」として,本当はどうだったのか・・・という問題はありますが,今後ますます増えていくと思われるウェブサイトでのオンライン手続きによる保険加入で保険加入者として確実に保険金を支払ってもらうためには,紙面による証拠が残らないため,特に契約内容をきちんと確認することのほか,その裏付けとなる資料の保存をしっかりとすることが大事になります。

被害者としては,この事案では加害者が任意保険に加入していなかった,という状況になりますから,加害者に損害賠償をする力が不十分と考えられる場合には,交通事故で加害者が任意保険に入っていなかったら?傷害,後遺障害,死亡による損害賠償請求で記載したような,自賠責保険へ被害者請求として直接請求すること等も考えていくことになります。

まとめ 知識があると選択が増える

交通事故の場合は,多くは保険会社からの支払いになりますが,支払う側からすれば,正当な契約に基づく損害に限って支払いたいもの。
任意保険に加入する場合,いざという事故に備えて加入するのだから保険金を支払って欲しい,と言われても,契約の対象外の不必要な損害金を支払えば,結果として,支出が多くなり,保険料も上げざるを得ない…ということにも繋がりますから,この判断は厳しくなされます。

そのため,今運転して交通事故を起こしてしまったら,どのような責任が発生するのか,今,自分の車を貸して運転させたらどのような責任が発生するのか,保険の支払い対象となるためにはどんな契約にしておくことが必要で,契約内容の何を確認し,契約内容を後に立証するためにどんな証拠を保存しておけばいいのか,など,確実に「知識」として知っておくことで,その責任を回避,軽減,責任に従って損害を回復するための方法を選択することが出来ます。

実際の事例を知ることで,どんな点が問題になることがあるのかを知ることが具体的にイメージして分かるので,それを踏まえて対策を考えておくことは重要です。

細かな算定方法,裁判での手続きなどは分からなくても,大まかな流れやどんなことが裁判では問題になるのか,などが分かることで,自分の場合はどのような点を意識して,保険契約をしたらいいのか,交通事故後は何に気をつけて手続きを進めたらいいのか,他にも損害賠償金を請求出来る相手がいるのではないか,という疑問,不安や不満を解消して,被害回復の回避,回復ために出来ることを知るヒントとなると思って,お伝えしています。

知っておくことで,最適な損害回復が出来る可能性が上がります。

また,「知識」知っておくことで,自ら「選択」して,万一加害者として交通事故を引き起こしてしまった場合にも,相手に十分な賠償金額を支払ったり,自分自身も十分な補償を受けられることに繋がります。

これからも,そのための「知識」についてお伝えできればと思います。

それでは,今回も最後まで読んでいただいてありがとうございました!!