多治見ききょう法律事務所

弁護士 木下 貴子 ブログ

人身事故で損害賠償してもらえない~加害者以外に請求できる場合

人身事故で損害賠償してもらえない~加害者以外に請求できる場合

いつも読んでいただきありがとうございます。人身事故,つまり,けがをするような交通事故にあった際,被害が回復されにくい場合があります。それはどのような場合でしょうか・・?

実は,交通事故の相手が「任意保険に加入していない場合」です。
自動車保険には,法律上加入しなければならないことになっている自賠責保険(強制保険)の他に,加入するかどうかは自由である任意保険があります。
多くの場合では,万一交通事故を起こしてしまった場合に,被害者の方,自分自身の被害を回復するために任意保険に入っています。

しかしながら,時に交通事故の加害者が任意保険に入っていないケースがあります。
この場合,自賠責保険で被害を回復してもらうのは限界があるため,トラブルが生じやすいです。
任意保険にも加入していない方であるため,被害回復に十分なお金を持っていないことも多く,被害者としては加害者に被害回復のための損害賠償請求をしても,実行を期待できないことが多いのです。

お金のない人は強い,と言いますが,
それでは,このような場合,諦めるしかないのでしょうか・・?

自動車事故により人身傷害が発生した場合には,実は,加害者以外にも,交通事故の被害者が責任追及することが出来る相手方があり得るので,お伝えします。

1 使用者責任・運行供用者責任

事故が起こった場合に,被害者は,加害者たる運転者(民法709条)にまず,損害賠償請求が出来ます。
しかし,運転者が任意保険に加入しておらず,十分な賠償能力がない場合などに被害者は困ってしまいます。

ここで考えられる損害賠償の相手としては,運転者の使用者(民法715条)があります。

事業主(会社)が雇っている従業員が業務中の交通事故により第三者に損害を与えた場合と言えれば,直接的な加害者でない雇用主(会社,事業主)に損害賠償請求ができることになります。
この制度は,人を使うことによって利益を得ている者はその損失も負担すべきという考え方(報償責任の原理)や,人を使用することにより対外的に危険を発生・増大させた者はこれにより生じた危険について責任を負うべきという考え方(危険責任の原理)などを基礎としており,「使用者責任」と言われます。

業務上の交通事故である場合,事業主にも請求できることが多いですが,実際に請求できるのか,は弁護士に相談して,検討すると良いと思います。

さらに,法律は,「運行供用者」という主体に対しても賠償請求することを認めています。
それでは,この「運行供用者」とは何なのでしょうか?

自動車損害賠償法3条によれば,「自己のために自動車を運行する用に供する者は,その運行によって他人の生命又は身体を害したときは,これによって生じた損害を賠償する責に任ずる」と定めています。

この「自己のために自動車を運行する用に供する者」を運行供用者といいます。

この責任は,危険責任や報償責任の考えに基づくものです。運行供用者責任は,①自己および運転者が自動車の運行に関し注意を怠らなかったこと,②被害者または運転者以外の第三者に故意または過失があったこと,③自動車に構造上の欠陥または機能の障害がなかったことの3つの事項を証明しない限り免責されません(同条但書)。被害者の救済を実現するため,自動車事故についての故意・過失の立証責任を被害者から加害者に転換しているのです。

まず,確認しておかなければならない点は,この運行供用者責任は,「他人の生命又は身体を害したとき」,つまり人身事故による損害のみに問えるとされていることです。
ですので,物損事故では問題となりません。この点は,使用者責任と異なります。

2 運行供用者の判断基準

では,どのような場合に「運行供用者」とされるのでしょうか。
この点について,判例は,自動車の運行を支配し(運行支配),その運行から利益を得ている(運行利益)者が「運行供用者」となる,という二元説的考え方をしています。

そして,その判断については,相当拡大され,抽象化して判断されています。

例えば,自動車の所有者(名義人),自動車を他人に貸した者,レンタカーの貸主,子会社が親会社に専属して業務を行っている場合の親会社,従業員の自動車を雇用主が業務用に使用させている場合の雇用主などは,運行供用者になり得ます。

ただ,このあたりはどうしても事案に則した評価の問題となるので,個別の裁判例を参考にして具体的に検討することになります。

「運行供用者」の責任は,使用者責任と同様に危険責任や報償責任といった法の趣旨から導かれるものですが,交通事故の被害者救済のために,車両の運行供用者であれば原則として責任を負うものとし,併せて自賠責保険の強制加入の制度を設けることによって,人身損害について一定の賠償を担保するものです。

そのため,「運行供用者」であると認められれば,運転者に過失があったことを立証しなくても原則として責任が肯定されます。
「運行供用者」が責任を免れるには,運転者に過失がなかったことなどの免責要件を立証することが必要となりますので,人身事故については,裁判実務上,被害者は,運行供用者責任を根拠とする請求の方が使用者責任による請求をするよりも認められやすいことになります。

3 運行供用者の責任が認められた判例

自動車の盗難事例について,所有者が車を降りるときに忘れずに鍵を抜くなどして管理に問題がなかったにもかかわらず,盗難に遭い人身事故を起こした場合には,法の趣旨からしても,一般的な感覚からしても運行供用者には当たらないと思います。

一方,エンジンキーを付けたまま,車を公道上に放置するなど所有者に管理上の過失が認められ,盗難と事故との時間的間隔が密接しているなどの事情が認められる場合には,所有者に運行供用者責任が認められてしまうこともあります(最高裁昭和57年4月2日判決)。

少し前の事例では,20歳の女性が父親所有の乗用車を乗り出し,飲酒・泥酔したため,一緒に飲酒した友人が当該女性を車に乗せ運転した際の事故につき,泥酔していたとはいえ,友人の運転には当該女性の容認があり,娘が乗り出した以上,所有者である父親の「容認の範囲内にあったと見られてもやむを得ない」として,当該女性の父親に運行供用者責任を認めたものがあります(最高裁平成20年9月12日判決)。

そのため,広い範囲で運行供用者責任が認められる可能性がありますので,意識しましょう。

まとめ 加害者と同じ責任を負わないようにも注意

冒頭にお伝えしたように,人身事故で被害を受けた場合に,事故の加害者本人だけでは十分に被害回復がされない,という場合には,他に請求できる相手がいないのか?という視点を持っておくことで,被害回復の可能性が上がるので,知っておくことが重要です。

一方で,会社の事業主(使用者)や,事業主でなくとも,車を所有,管理している人は,その管理を怠ると,自分自身が起こした事故でないにもかかわらず,加害者と同様の損害賠償義務を負うことになり得ることにも,意識が必要です。

車を所持,管理する人,車を事業に使っている人には,自分自身が運転していなくとも,当該車の運転者による交通事故によって,責任が生じることを知っておくことも重要だと思います。

知っておくことで,被害の回復が出来る可能性が上がります。
そして,知っておくことで,防ぐことが出来る事故,避けられる損害賠償の負担もあります。

これからも,そのための「知識」についてお伝えできればと思います。

それでは,今回も最後まで読んでいただいてありがとうございました!!