多治見ききょう法律事務所

弁護士 木下 貴子 ブログ

交通事故の後遺障害。どんな損害を賠償請求できる?損害賠償請求手続と損害の認定方法

交通事故の後遺障害。どんな損害を賠償請求できる?損害賠償請求手続と損害の認定方法

今回は,交通事故に遭って,後遺障害がある場合,どのような損害賠償金が発生するのか,損害賠償額の算定方法についてお伝えします。

交通事故によって,怪我をした場合,病院に通院するなどして回復するように治療をします。
しかし,治療をしても,事故前の状態にまで完全に回復せず,不具合が残ってしまう場合,この症状を「後遺症」と言います。

そして,交通事故によって負った精神的・肉体的な怪我が,将来においても回復が見込めない状態となり,交通事故とその症状との間に,相当因果関係が認められ,その存在が医学的に認められて労働能力の喪失や低下を伴い,その程度が自動車損害賠償保障法施行令別表に定める等級に該当するものを「後遺障害」と言います。

後遺障害がある場合,どのような損害が生じるのでしょう?
後遺障害の損害額を算定するための大まかな手順は?
治療をしても治らなくて苦しいと感じるとき,それは,どのような項目として賠償してもらえる?

今回は,交通事故に遭って後遺障害が生じている場合に,普段弁護士がどのように損害を算定して,どのように請求しているか,大まかにどのような損害がどのような手順で賠償してもらえるのか,知っておくと安心できると思う点について,お伝えします。

1 後遺障害診断書の作成

後遺障害としての損害賠償を請求したい場合,まずは,「後遺障害診断書」を医師に作成してもらう必要があります。
完治する(元の身体状態に戻る)ことなく,治療終了することになった場合,まだ身体,精神機能の不調が残っているものの,これ以上治療をしても症状の回復が見込めない状態として,「症状固定」といいます。
この「症状固定」と医師から言われたら,「後遺障害診断書」を作成してもらうことになります。

「後遺障害診断書」の書式は,保険会社の担当者に送ってもらうか,インターネットでダウンロードできます。

この「後遺障害診断書」の記載内容を見て,後遺障害等級が認定されます。
この後遺症認定の手順,方法による違いは,「交通事故で「むち打ち」。補償してもらうためのポイントは?」に記載しています。

2 後遺障害等級の認定

「後遺障害等級」とは,事故による怪我で体に残った後遺症を症状に応じて1~14までの等級に分類したものです。
1級が最も重い症状となり,数字が大きくなるにつれて軽くなります。
最も軽いのは,14級で,むち打ちなどが該当しています。

後遺障害等級を認定している理由は,事故による被害に対する損害賠償金に不公平が出来るだけ生じないようにするためです。

今回は,実際には,どのように後遺障害等級が認定されるのか,弁護士は後遺障害等級をどのように判断しているのか,をお伝えします。

例えば,相談者が膝をけがして,後遺症が残った場合で考えてみましょう。

この場合,膝は「1下肢の3大関節中の1関節」となるので,「器質的な損傷によって可動域制限が残った場合」10級11号の「1関節の機能に著しい障害を残すもの」と,12級7号の「1関節の機能に障害を残すもの」のどちらかに該当することが考えられます。
(これを弁護士は,赤い本といわれる「民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準」(日弁連交通事故センター東京支部編),青本と言われる「交通事故損害額算定基準」(日弁連交通事故相談センター本部編)などから検討しています)

どちらに該当するか,これらの資料だけで分からない場合,「労災補償 障害認定必携」という本で調べて検討します。
交通事故の後遺障害等級の基準は,自賠責保険の基準ですが,この支払基準で「後遺障害による損害」については,「等級の認定は,原則として労働者災害補償保険における障害の等級認定の基準に準して行う」とされているため,労災の本を使って検討してることになります(青本の注釈にも,「労災補償 障害認定必携」の障害認定の基準が載っているので,それを参考にして検討することもあります)

これで調べた場合に,例えば相談者には,「膝関節が曲がらない」という後遺症が残っていれば,「下肢の機能障害」となり,10級と12級の違いは「関節の可動域の違い」と分かるので,それによって,ご相談者のケースが,どちらの等級となりそうか判断します。

3 逸失利益と慰謝料

後遺障害が認定された場合に,損害として賠償請求できる主なものは,①逸失利益と②慰謝料です。
どちらも相当に高額になりますが,後遺障害として認定された等級によって金額が大きく変わってくるので,納得できる損害賠償請求金額にしてもらうには,まずは,後遺障害の実態にあった高い等級の認定を目指すことが大切です。

①逸失利益とは,後遺障害によって,将来の失われた減収部分です。
交通事故が無ければ得られたであろう収入が,後遺障害が生じることによって,労働能力が喪失され,その分収入も減ってしまうために生じる損害となります。
(もっとも,「後遺障害があるが,減収がない場合にも損害(逸失利益)を認めてもらうには」で記載した通り,現実には減収がない場合も,認められることはあります)

例えば,後遺障害等級12級の場合,労働能力喪失率は「14%」となります。
14%分の収入が失われたものとして,「逸失利益」の損害を計算することになります。
(具体的な計算方法は,「民法改正による交通事故の損害賠償金の増額と必要な備え」に記載しています)

②慰謝料とは,後遺障害による精神的苦痛に対する損害賠償金です。
例えば後遺障害等級12級の場合,赤い本の基準によれば290万円,青本によれば,250万~300万円です。
保険会社から提案される慰謝料は,自賠責基準の94万円です。

そのため,この差があることを認識して,弁護士は赤い本,青本による慰謝料相場(≒裁判での基準),相当額を請求していくことになります。

加入する義務がある自賠責保険の保険金には,後遺障害の等級ごとに「限度額」が定められています。
後遺障害等級12級の場合,被害者が自分で手続きを行う「被害者請求」の方法によって後遺障害等級認定の申請をすると,後遺障害等級認定を受けると同時に自賠責保険の保険金を支払ってもらえます。その限度額は,224万円です。これは,間違えられやすいですが,②慰謝料だけの限度額ではなく,①逸失利益も含んだ限度額です。

そのため,不足する部分がやはり,加害者の負担となるために,任意保険にも加入して,支払い義務が発生したときに備えておくと安心,ということになります。

まとめ 損害賠償請求のイメージを

これまでも書きましたが,損害賠償金額を決める場合,支払う側からすれば,本当に現実に生じた損害額に限って適切な範囲で支払いたいもの。
交通事故の場合は,多くは保険会社からの支払いになりますが,それは保険会社も感じるところだと思います。

本来交通事故に遭わなかったら,もっと多くの収入を得られていたはず,望むように仕事が出来ないという苦しい気持ちを分かってもらえないのか,と言われても,現実に,将来得られるべき収入は少ないはず,という蓋然性が高いのであれば,その範囲で逸失利益の金額は払えばよいはず,不必要な損害金を支払えば,結果として,支出が多くなり,保険料も上げざるを得ない…ということにも繋がります。

けれど,もし,この交通事故が無かったらどうなっていたか・・という未来は現実には存在しません。
誰にも,未来は分からないことになるので,存在しない未来を前提に計算することができないはず。

その中で,どのように計算したら「もし,この交通事故が無かったら」と得られたであろう未来とほぼ同じ,近づいていると言えるのか,を探していくのが,交通事故における損害賠償請求の手続きになると思います。

交通事故によって後遺障害があることは,精神的な苦痛を伴うので,その回復も必要となりますが,これは,元の状態に戻すことは出来ないため,その苦痛を金銭的に換算するとすれば,どのくらいと考えればいいのか・・・他の事例などと比べながら,出来るだけ,公平となるように後遺障害等級から算出する,という方法が用いられている,ということになります。

後遺障害がある場合には,どのように損害が決められ,何が損害として賠償の対象となるのか,損害賠償金をもらうのは具体的にはどんな手続きをしたらいいのか,損害賠償金はどのように決められているのか,を知っておくことで,疑問が解消され,安心して進めて行くことが出来ます。

細かな算定方法などは分からなくても,大まかな流れが分かり,損害賠償請求の流れがイメージできることで,自分のケースではどのように手続きを進めたらいいのか,本来請求できる損害賠償金を請求出来ていないのではないか,もっと,損害賠償金が認められてもいいのではないか,という不安や不満足感を解消できるヒントとなると思って,お伝えしています。

繰り返しになりますが,どのような計算方法が「正しい」のか,「公平」なのか,実際の損害額の算定に近いのか,人によって感覚も違う中,裁判所の判断も明確でないところもありますので,損害賠償請求をする被害者側としては,それぞれのケースで最大限に,自分の命,能力,損害を評価してもらえるように損害賠償が出来るもの,その請求方法を知った上で,自分で納得しながら請求していくということも重要です。

弁護士として,納得感,公平感のバランス感覚を磨きながら,依頼者の方にとって,少しでも納得してもらえるようなお手伝いができたらと思っています。

当事者となる被害者の方も,自分自身やお子さん,ご両親などが交通事故に遭った場合,どの点を意識して損害を主張することが大切なのかを知っておくことで,最適な損害回復が出来る可能性が上がります。

また,知っておくことで,万一加害者として交通事故を引き起こしてしまった場合にも,相手に十分な賠償金額を支払ったり,自分自身も十分な補償を受けられることに繋がります。

これからも,そのための「知識」についてお伝えできればと思います。

それでは,今回も最後まで読んでいただいてありがとうございました!!