多治見ききょう法律事務所

弁護士 木下 貴子 ブログ

民法改正による交通事故の損害賠償金の増額と必要な備え

民法改正による交通事故の損害賠償金の増額と必要な備え

いつも読んでいただきありがとうございます。先日,自動車の任意保険の更新があり,保険会社から2020年4月に施行された民法改正により,多額の損害賠償金の支払い事例が発生しているので,保険内容を見直しをした方がいいと言われました。

具体的には,私の場合,人身傷害保険の補償金額をあげるように言われたのですが,これはなぜでしょうか?

実は,民法改正によって,「ライプニッツ係数」に変動が生じたことが原因です。
交通事故を起こした場合に,負担しなければいけない損害賠償金額の支払い額が上がる可能性があれば,それでも支払いができるよう,保険内容を検討することが必要になります。
自分自身に支払われる補償金についても,支払われる金額をあげられる可能性があれば,交通事故を生じた場合に自分自身の被害回復も出来るよう,保険内容を検討するのも大切です。

それでは,具体的に「ライプニッツ係数」が変動することにより,賠償金や補償金の支払い額がどのように増えるのでしょうか?
そもそも,「ライプニッツ係数」って何でしょうか?

今回は,民法改正によって生じた交通事故の損害賠償金額の影響,「ライプニッツ係数」の変動による影響について,お伝えします。

1 損害賠償金算定の仕組み
(後遺障害等級第1級の場合)

交通事故に遭って,寝たきりになってしまうようなケースを考えてみましょう。
この場合,労働能力は全くなくなった(労働能力喪失率100%)と判断される障害等級第1級となります。

その当時,あなたが40歳だとして,年収500万円だったとすると,もし働けていたとすれば,働けなくなるまでもらえるはずであった年500万円の収入が後遺障害によって,得られなくなった,ということになります。
この交通事故が無ければ,得られたはずの将来の収入相当分(逸失利益といいます)が損害となります。

現在は,就労可能な年齢を67歳まで,と考えていますので,働けなくなった期間は,67歳-40歳=27年となります。従って,500万×27年分が,逸失利益として損害となりそうです。

2 ライプニッツ係数とは

しかし,実際には,「就労可能年数」である「27」年という数値を単純にかけるのではなく,将来得られる収入から利息分を割り引くための,係数をかけます。
この年数に対応してかける係数のことを,「ライプニッツ係数」といいます。

もう少し,分かりやすく言いますと,年収は,本来,一度に取得できるものではなく,今から将来にかけて27年という長い年月をかけて取得するものですが,これを,今の時点で一括して将来分まで取得するために,そのままの年数をかけるのは損害金の算定方法として過大になる,

一時金で今取得すれば,それを運用することで得られるであろう利息分を差し引くことが,公平である,という考えから,利息分を差し引いて損害賠償額を決めている,ということになります。

(一時金を取得したら,その一時金を資産として運用可能であるから,27年後の100万円と現在の100万円は価値が違うという経済学的な「考え方」になります)

民法改正により,この「利息」の割合に変更がありました。
民法改正前は,法定利息が5%であったものが,改正後は今の現実的な状況に近づけるため,3%となったのです。

このため,この利息を元に係数を計算している,ライプニッツ係数にも変動があり,結果として,損害賠償金額が変動することになったのです。

3 交通事故による損害賠償金の増額

今回の例題である27年(40歳)に相当するライプニッツ係数は,
民法改正前(法定利息5%)は,14.6430になります。
民法改正後(法定利息3%)は,18.3270になります。

この場合にどれくらい,損害賠償金額に差が出るのか,計算してみましょう。

民法改正前は,年収500万円×14.6430=73,215,000円
民法改正後は,年収500万円×18.3270=91,635,000円

差額は,18,420,000円となります。

そのため,全く同じ状況で,同じ事故を生じ,同じ後遺障害を生じたとしても,民法改正前と改正後では,
2000万円弱の損害賠償金が増えることになります。収入,年齢にもよりますが,これよりも大きな差が出る場合もあります。

このように考えると,あなたが被害者となった場合には,以前よりも大きな損害賠償金を請求できることになり,
加害者となった場合には,以前よりも大きな損害賠償金を請求される可能性があることになります。

まとめ 損害賠償金増額に応じた備えを

交通事故は自動車の性能,自動運転技術などにより減少することが考えられていますが,民法改正は保険会社にとって,損害賠償額の増額化を意味することになり,補償金についても,支払う保証金額の増額を意味することになります。

そのため,私が加入している自動車の任意保険会社の代理店さん(東京海上さんです)が,保険内容の変更を私に勧めた,ということになります。

私の場合は,すでに,対人賠償(交通事故をした場合に,相手方となる被害者の方に支払う賠償金)は無制限にしていたため,こちらの変更を勧められることは無かったのですが,
無制限でない方は,民法改正によって,今まで以上に負担しなければいけない損害賠償金が増える可能性があるので,本当にこれまでと同じ賠償金額の設定でよいのか,検討が必要だと思います。

私の場合は,自分自身の被害回復に関わる人身傷害保険もライプニッツ係数によって補償額を決めているので(こちらは無制限にしていませんでした),事故時に今までよりも,補償できる金額が増えるため,補償金額の設定の見直しを勧められた,ということになります。

これまでもお伝えしていますが,最も大切なことは,自転車事故を発生させないように交通ルールを遵守することです。

しかし,交通事故が生じた場合の具体的な賠償金額の算定の方法,どんな被害が生じるのか,を知っておくことで,被害の回避をしたり,回復が出来る可能性が上がります。
そして,知っておくことで,万一加害者として交通事故を引き起こしてしまった場合に,相手に十分な賠償金額を支払ったり,自分自身も十分な補償を受けられることに繋がります。

これからも,そのための「知識」についてお伝えできればと思います。

それでは,今回も最後まで読んでいただいてありがとうございました!!