多治見ききょう法律事務所

弁護士 木下 貴子 ブログ

交通事故で「むち打ち」。補償してもらうためのポイントは?

交通事故で「むち打ち」。補償してもらうためのポイントは?

いつも読んでいただきありがとうございます。突然ですが,交通事故にあって,治療を続けても,以前のような体の状態に戻らない,と感じたことはありますか?
ご家族,友人で,交通事故後,以前に比べるとずっと具合が悪く,つらそうにしている方はいらっしゃいますか?

交通事故のご相談は,当事務所が以前から力を入れて取り組んできた分野ですが,現在も引き続き,ご相談,ご依頼がありますので,改めて,こういう場合に関係する補償方法として,むち打ちと後遺症についてご紹介したいと思います。

むち打ちで苦しんでみえる方々の症状が改善して完治すればそれが一番望ましいのですが,残念ながら,完治する(元の身体状態に戻る)ことなく,症状固定(これ以上治療を継続しても症状の回復が見込めない状態)として治療終了となってしまうことも多いのが実情です。
それでは,これ以上回復が見込めない場合は,その不便,苦痛に対して何らかの補償をしてもらえるのでしょうか?そのためのポイント,手続き,注意点は何でしょうか?

1 後遺障害とは?

「後遺障害」とは,交通事故によって受傷した精神的・肉体的な傷害が,将来においても回復の見込めない状態となり,交通事故とその症状固定状態との間に相当因果関係が認められ,その存在が医学的に認められるもので,労働能力の喪失を伴うもの,その程度が自賠法施行令の等級に該当するものをいいます。

つまり,後遺症の中でも,自賠責保険で保護される対象となるものが「後遺障害」ということなのです。
「症状固定」となった場合には,「後遺障害」に当たるかどうかの手続きに入ることになります。
「後遺障害」に該当することになれば,その点についての補償をしてもらえますので,「後遺障害」の認定がされるかどうか,が重要になります。

2 後遺障害等級認定手続き

では,その後遺障害の等級というものは誰が認定するのでしょうか?

これは,裁判になれば裁判所が認定するのですが,示談交渉の過程では損害保険料算出機構の下部組織である自賠責損害調査事務所という機関が認定しています(以前は,JA共済は独自の損害調査組織がありましたが,近年統合されました)。
自動車の事故で誰かに怪我をさせたり,死亡させた場合,支払をしてくれる保険は2つの構造から出来ています。
2階建て構造になっていて,1階部分が強制加入である自賠責保険,2階部分が任意加入である自動車保険(対人賠償責任保険)になります。
自賠責保険で補償してくれる金額には,限度がありますので,多くの自動車運転手は自賠責保険の他に任意保険に加入しており,この2階部分の任意保険は,自賠責保険で足りない補償分を支払ってくれることになります。

加害者が任意保険に加入している場合,本来は,自賠責保険で足りない部分についてだけ支払い義務があるのが任意保険の会社になるのですが,実際には,その任意保険会社が窓口になって,自賠責保険(1階部分)の支払い分もまとめて一括で支払っています(これを一括払制度といいます)
この場合,任意保険会社は被害者へ支払ったものを後に,自賠責保険会社に対して自賠責の補償範囲内で支払ってもらいます(求償と言います)。

認定を受ける手続には①事前認定と,②被害者請求による認定とがあります。

(1)事前認定

「事前認定」とは,加害者に対人賠償保険があり,一括払い(本来ならば自賠責保険会社が支払うべき自賠責保険分も含めて,対人賠償保険会社が被害者に支払うこと)がなされる場合に,対人賠償保険会社が,調査事務所に関係書類を送付して後遺障害等級認定を受ける制度です。
つまり,交通事故の相手方が,任意の損害保険に入っていて,人身事故を起こした場合には,この加入している相手方の保険会社から自賠責保険で補償されない部分について被害の回復がされることになりますが,この保険会社がその支払いのために資料を持っているので,その資料を事前に保険会社から調査事務所に送付して,認定してもらうという手続きになります。
「事前認定」のため,最終的に保険金(賠償金)を受け取れるのは,相手方(加害者)の保険会社との示談が成立したときになります。

(2)被害者請求

「被害者請求」とは,被害者が自賠責保険会社に請求書を提出することによって,後遺障害等級認定を受け,自賠責保険会社を通じて調査事務所の通知を受ける制度です。
つまり,被害を受けたご本人が,直接請求をして,認定してもらうことになります。加害者が任意保険に加入していない,被害者の過失が大きい場合などは,(1)による一括払制度を利用できないので,被害者自身で立て替えた治療費等を自賠責保険へ直接請求するという場合に利用されます。

相手(加害者)が任意保険に加入している場合には,その手間などから(1)の制度を利用する被害者が一般的ですが,相手方の保険会社の対応が遅い,などの場合には,こちらの方法を利用される場合もあります。もっとも,自分で書類を整えて申請をするため,手間がかかります。
しかし,自分で書類を整えて手続きをするため,透明性が高く,納得がしやすい点,等級認定された場合,結果の通知と共に保険金を受け取れる点などのメリットがあり,被害者はどちらを選ぶことも出来ます。。

いずれの方法であっても,調査事務所が後遺障害等級の認定をすることになります。
これは原則書面審査なので,提出される資料が同一である限りは,結論は変わらないはず,ということになります。ここでは,どのような資料を準備して,提出するのか,ということが重要になります。

3 むち打ちの後遺障害等級

むち打ちの場合には,その症状に従い,12級,14級などに該当する可能性があるものの,非該当とされることも多いです。

ここで,12級に該当する場合とは,「局部に頑固な神経症状を残すもの」,つまり,症状が神経学的検査結果や画像所見などの他覚的所見(≒自分が感じるだけではない客観的な所見)により,医学的に証明できるものをいいます。
したがって,他覚的所見が一般的に乏しいむち打ちでは,12級と認定されることが難しいことになります。

一方,14級に該当する場合とは,「局部に神経症状を残すもの」,つまり,受傷時の状態や治療の経過などから連続性や一貫性が認められて,医学的に証明できないまでも説明可能な症状であり,単なる被害者の誇張ではないと医学的に推定されるものをいいます。
したがって,確実な他覚的所見がない場合であっても,14級に該当する可能性はあるということになります。

そのため,交通事故の態様そのもの,受傷部位と症状が合理的に説明可能で,自然であること,被害者の事故当初からの発言,行動,受診状況などを注意深く見ていくことが大事になります。
時々,お仕事が忙しくて,事故後すぐに病院には行かなかった,という事案にも遭遇しますが,このようなことからすると,当初から可能であれば受診しておくことも重要だと感じます。

なお,裁判例においては,後遺障害は非該当であるものの,症状の程度は無視する事はできないとして,慰謝料及び逸失利益の一部を認めたものもありますので,後遺障害に該当しない場合であっても,裁判になれば補償をされる可能性はあります(横浜地判平成20年11月14日など)ので,「慰謝料」として,検討していくということも大事になります。

4 後遺障害等級認定に不服がある場合

不服を申し立てる手段として,認定の再検討を求める異議申立ての制度があります。

また,裁判外紛争解決手続(ADR)として,一般財団法人自賠責保険・共済紛争処理機構に対する不服申立手続もあります。
同機構は,自賠責保険会社・共済組合の結論の適確性を判断することから,新たな資料を送付しても審議対象としない,としているため,新たな医証(医師による証明)を提出するような場合には,異議申立てを先にしなければなりません。また,同機構への不服申立てによって時効は中断しないので注意が必要です。
同機構のサイトによると,平成30年度では808件の申立てがあり,63件の後遺障害等級が変更されたようです。後遺障害以外での変更事案もありますが,これまでの実績を見ると,約1割程度は変更される可能性がありそうです。

むち打ちで苦しんでみえる方々とお会いすると,その辛さが少しでも理解してもらえ,「何とか適正な補償がなされるようにしたい」と思います。
しかし,実際にはなかなか難しいことも多いので,それはなぜなのか,どのようなことが認めてもらう際のポイントになるのか,ご紹介しました。

「むち打ち」の場合の後遺障害認定は,なかなか難しいという印象ですが,身体が基に戻らなという「つらさ」に対する補償として,「慰謝料」と共に,研究していく必要があると思っています。

今回も,最後まで読んでいただき,ありがとうございました!!