事業承継で経営権を握るために必要なこと~遺産共有と遺留分

みなさま,おはようございます!
最近,公的機関の立場で事業承継における法的な課題(法務課題)について,講習会の講師をすることが多かったので,
改めてこの対策をしないと,事業に支障が生じてしまう,法的なトラブルになってしまう,と気づいたことをお伝えします♪

株式会社の社長が,何の対策もせずに,亡くなってしまった場合,後継者が経営権≒株式を取得できないことがあります。
既に後継者として経営を進めていたはずなのに,株式を取得していないと,経営者,社長としての地位が奪われてしまうことがあります。
その結果,会社の経営が滞ったり,経営者交代などによって混乱し,そこで働くスタッフの生活まで脅かされることにもなりえます。

どんな点が問題となり,どんな対策をしておけば,経営権をしっかりと把握することが出来るのでしょうか?

今回は,経営権の承継=株式を承継する際に特に気を付けるべきポイントをお伝えします。

 

1 遺産共有の問題

株式所有者が何も対策をしないで亡くなった場合,その株式は,相続人の共有になることから,思わぬトラブルが生じます。

具体的な事例で考えてみましょう~

株式会社○○商事 総株式数100株 代表取締役のA 60株 後継者予定の長男B 40株 次男C 0株 三男D 0株(Aの妻は既に死亡)


ここで,Aが亡くなった場合,この60株の株式は,どのように相続されるでしょうか・・・?

子どもが3人なので,60株を3分の1ずつ,つまり20株ずつ相続して,B60株(元々あった40株+20株),C20株,D20株となると思いませんか・・?
もしそうなら,一応後継者のBは過半数の株式(100株中60株)を所有しているので,経営の主な意思決定が出来そうです・・

ところが,実は,そうはならないのですね。


このAの遺産である株式60株は,1株ことにB,C,Dの3人が3分の1ずつ共有して持つ,
そういう株式が60株ある,という状態になるのです。

この場合,会社の意思を決定する「議決権」は1株ごとに行使することが出来るのですが,その1株をどのように行使するかについては,共有者が話し合って,過半数で意思決定します。

すると,CとDは,2人で3分の2の割合を持っていますから,2人が結託すれば,共有している60株分について,つまり過半数以上の株式について,CとDの意思で全て決められることになってしまうのです。


そうすると,Aが亡くなる前に,すでに事実上Bが後継者として実権を握っていた,もしくは,すでに代表取締役社長になっていたとしても,C,Dに不服があれば,
突然Bを代表者としない,という意思決定も出来てしまい,その地位が奪われてしまうこともあるのです・・・

CとDは,経営に関わりたい,というわけでなかったとしても,このような立場をもって,Aの遺産をより多く取得できるよう,強気でBに交渉できる,ということになります。

中小企業庁の調査によると,中小企業経営者の個人資産の中で,自社株式,事業用不動産などの事業用の資産が占める割合は6割以上とされているので,(総資産1億5000万円なら,そのうち,9000万円は,事業に関わる資産なので,分割困難,ということになります)
事業に関わりのない財産で,C,Dに分けてあげられるAの資産は少ない・・・というのが通常です。

また,何とか話合いで解決できたとしても,「遺産分割協議」「遺産分割調停」は最高裁判所の司法統計によれば,解決までに1年以上かかってしまうのが6割以上であり,私が関わったケースでも10年以上かかるものもあって,解決までの時間がかかってしまうことが少なくありません。

そのため,円滑な会社の意思決定が出来ず,経営の継続に支障が生じてしまうケースもあります・・・

ホームページにも記載していますので,参考にしていただけたらと思います。)

みなさんは,株式が共有されてしまう,という問題,知っていましたか??
分かりづらく,弁護士でも,時々間違っている例も見受けますので,注意が必要ですね~

 

 

2 遺留分の問題

そこで,対策としては,遺言を書いて,後継者Bに株式はすべて相続させる,と指定しておく方法もあります。
また,確実に生前に引き継いでおく,ということで,売買または贈与でBに株式を渡しておく,という方法が考えられます。

まずは,これらの対策が必要になります。

しかし,遺言や贈与のように,言わば「タダ」で渡す場合には,渡した場合なのに,後でその効果をひっくり返されてしまうことがあり得ます・・・

それが,「遺留分」の制度です。


「遺留分」は遺族の最低限の生活保障,相続人間の公平,という観点から,一定割合の相続分を保証しているもので,
その範囲では,Aさんが全て自分の資産を自由に処分するということを認めず,
最低限の割合については,相続人の人たち(ケースで言うとCやD)が自分たちにも渡すように言える,という制度です。

子どもさんの場合の遺留分は,元の相続分(このケースで言うと3分の1)の半分になります。


先ほどのケースで,Aさんの総資産が1億5000万円(そのうち自社株式の評価が9000万円)だったとすると,Aさんが仮にすべての遺産をBに相続させる,生前贈与する,と言っても,
CとDには,3分の1×2分の1=6分の1の遺留分があるので,各2500万円(2人合計で5000万円)は,Aから取り戻すことが出来る,ということになります。

自社株式で分けると経営権の支障が出てしまうので,株式の9000万円を除いた残りの6000万円から,Aは,5000万円のお金を支払わないといけないことになりますが,税金などもありますし,
残りの資産も自宅不動産など金銭換価しづらい財産もありますし,いずれにしても,とてもその後の運転資金などに困りそうですね・・・


さらに,問題としては,遺留分の計算はAの亡くなった時点でされる,ということです。
例えば,10年前にBに代表者交代をしていた場合,当時の株価は3000万円だったけれど,その後にBの頑張りのおかげでAの死亡時には株価がその3倍の9000万円になった場合,3000万円ではなく,9000万円をもとに遺留分の計算をする,ということです。

3000万円であれば,遺留分は,その他資産6000万+3000万円×6分の1=1500万円ずつであったのが,株価が上がったために,2500万円ずつ払わなければならなくなり,2000万円もの負担増になってしまいます。

(それでも,前提として,生前贈与や遺言書がなければ,法定相続分3分の1ずつ5000万円ずつ支払わないといけなったのですから,この対策をしておくことで,2500万円分はBの負担が減ったことになるので,遺言などの対策もとても大切です!)


仮に,Aの生前,代表者を譲った10年前に株式を全てBに贈与していたとしても,
その遺留分算定の場合の評価は,Aの死亡時の評価になってしまうのです・・


これでは,自分が頑張れば頑張るほど,遺留分として沢山の金額を他の相続人にあげなければいけないことになり,モチベーションが下がってしまいますね・・

しかも,遺留分の計算の対象(持ち戻して計算する)となるのは,Aさんの死亡前1年などではないか,税務の関係もあって,3年までではないか,などと言われることもあるのですが・・
相続人に関する贈与については,「特別受益」という考え方をされており,基本的には,どこまでも遡って算定評価の中に入れられてしまうのです・・

(売買での買取であれば,有償なので,遺留分の問題は生じません)


寄与分,という遺産を形成するにあたって貢献した相続人については,
その分を多めに相続させてもらえる,という制度もあるのですが・・
これも,遺留分を侵害するまでの「寄与分」を認めることはできない,という考え方を裁判所はしています。

そのため,寄与分については,遺留分(このケースでは二人で5000万円)を除いた1億円の範囲でAに多めの遺産を与えることで考慮しているから,遺留分の計算の際には,加えては考慮しない・・ということなのですね。(ちょっと,難しいですが)


驚きではありませんか・・・?

 

皆さんは,経営権を後に覆しかねない遺留分の計算方法,問題点,知っていましたか?
モチベーションを下げないように,後継者の方に頑張ってもらうには,どうしたらいいのでしょうか?

 

 

3 民法特例


このような遺留分の問題があることで,事業承継に支障が生じてしまうことを避けるために作られたのが「民法特例」です。

簡単に言いますと,今まで記載したような問題があるために,民法上の原則を変更し,特例として

自社株式を「遺留分」を算定する際の計算から外してもらう(除外合意),または,贈与時の評価で固定してもらう(固定合意)が出来る,という制度が作られました。


中小企業における経営権の集中,維持が目的なので,後継者が過半数の株式を取得する,ということが大前提にはなるのですが・・
(詳しくはこちら


遺留分の問題への対策として使える制度だと思います。
全国でも実施されている件数はあまり多くはないのですが・・・実際の利用実績はあります。

節税対策よりも,こちらの対策をしてもらえる,ということで経営の安定が図られる,遺産を確実に安心して取得できる,ということもあって,特に後継(予定)者からは人気もあり,
これをきっかけに,このような対策をしてくれない従来の顧問税理士事務所から,総合的な対応をしてくれるコンサルタントファーム,会計事務所に顧問先を変更する,というようなきっかけにもなっているようです。


遺留分を持つ相続人間で合意をすることが前提なので,難しそうではありますが・・・
まだ親であるAが生きているときならば,比較的子どもたちの協力も得られるようです。親の手前,言いづらい・・というのが本音かもしれませんが・・・
(親が亡くなった後は,親への遠慮もしなくてよくなるので,紛争が大きくなる・・というのは,弁護士をしていると実感するところです)

ただ,遺留分という法律上保護された権利を奪うことにはなるので,相続人間の公平を図るための約束をすること(親の介護費用を長男Bが負担していく,など,通常行われているようなことでもある程度よさそうです)
や家庭裁判所での許可が必要になります。


固定合意については,後に後継者の事業系系がうまくいかず,
株価の評価が下がった場合でも,固定したときの評価で遺留分を計算するので,
場合によっては,不利になることもありえます。

弁護士などに相談しながら,進めて行くのがいいと思います。


みなさんは,経営権の集中のために,遺留分対策していますか?
後に覆されて会社の意思決定に支障が生じないよう,予め合意することで,安心して経営を承継できる,という方法も考えてみてはどうでしょうか?

 

まとめ


法律的な「遺産」の考え方,遺留分計算のもととなる資産の考え方は,
税務上の相続財産,遺産の計算方法,考え方とは違っているので・・・混乱が生じやすいと思っています。


今回は,経営権≒株式の承継問題を取り上げましたが,事業用資産である工場,土地なども,社長個人の名義であれば,
同様の問題が起こりえます。

なので,普段から会社の経営者の方は,自分の個人資産は何があるのか,その内訳,その中で,何が事業に欠くことのできない資産なのかを把握し,このまま対策をしないと,どんな問題が起きそうか・・・?シュミレーションしてみるといいのではないかな,と改めて思いました。


弁護士のところには,残念ながらトラブル,問題が生じてからしかご相談がないことが多いので・・・

そうなる前から,企業とお付き合いをしている公認会計士,税理士の先生,中小企業診断士,社会保険労務士の先生などの専門家の方々や中小企業を支援してくれる身近な支援機関である商工会議所,商工会,取引先金融機関の方々に

「法的課題」どんなケースで,法的なトラブルが起きるのか,という視点を伝えられたらいいな,と思っています。

 

事業承継に関して言うと,何の対策もしないまま,相続が生じてしまってからでは,出来ることはかなり限られてしまうので・・・
(というか,遺言書など死亡後では書けませんし,民法特例も,死後では使えませんから,単に時間をかけて遺産分割の話合いをするしかない,というベースになってしまうので・・)
トラブルが生じる前に予防する考え方が広まっていくといいな,と心から思っています。


ここ5年,10年で事業承継適齢期を迎える経営者が集中しており,国としても,
今が最も事業承継に力を入れる時期,と考えています。
どこで,お話を聞いても,経済産業省関連の方は,多くの方が,この事業承継問題が中小企業の取り組むべき課題の1丁目1番地と言っていらっしゃいます・・


私は地元が大好きなので,地元の企業が確実に経営権を承継し,安定して経営をしていくこと,
事業承継を成功させるお手伝いをすることで,
地元の企業が継続,発展し,雇用が確保され,地元に人が居続けてくれる,活気ある地元を残すことに少しでも役にたちたい,と思っています。


是非是非,中小企業の社長さんのお知り合いがいらっしゃる方には,この情報を広めていただけたら嬉しい・・・と思います。

 

このブログが,60歳を越えた経営者の方々,30歳を越えた後継予定者がいる方,そういう方々を知っていらっしゃる方々にとって,株式の承継問題ではどんなことが起きるのか,
どんな対策を取ればいいのか,法的な課題に気づいていただくヒントとなりますように~

 

今回も,最後まで読んで下さって,ありがとうございました!

この記事を書いた弁護士

木下貴子
木下貴子
岐阜県多治見市で初の女性弁護士となり19年目。
岐阜県立多治見病院など地元事業者の顧問弁護士を務め,法律のみならず経営に関するアドバイスも行っています。
個人のお客様には,離婚,相続,不動産案件を多く取扱っています。
著書「離婚調停は話し方で変わる」は,Amazonランキング「法律」部門ほか5部門で第1位を獲得。
相談は,親身,気軽,自分で決めるをモットーとしています。お気軽にご相談ください。

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