多治見ききょう法律事務所

弁護士 木下 貴子 ブログ

セクハラで会社(使用者)が責任を負う場合・負わない場合の違いは?

セクハラで会社(使用者)が責任を負う場合・負わない場合の違いは?

「セクハラ」で使用者である会社はどんな責任を負う?
「セクハラ」で,加害者本人に直接損害賠償請求できない場合とは?
「セクハラ」で事業主が責任を負う法的根拠は?民間事業者と公務員の場合の違いは?

私は,主に企業側,会社側でご相談を受けることが多いのですが,「セクハラ」の被害申告があって損害賠償をするよう請求されているけれど,その場合,会社(使用者)として請求されている通りの金額を支払わないといけないのか,など聞かれることはよくあります。

一方で,私が女性弁護士であることもあって,セクハラ被害を受けた女性からの相談を受けることも時々あるのですが,誰にどのような請求ができるのか,と聞かれることもあります。

セクハラ被害があった場合,被害者は加害者本人に対して請求できる金額と同額の金額を加害者を雇っている企業(会社,事業主)に「使用者責任」として請求することも出来ますので,企業はこの「使用者責任」として慰謝料等の損害賠償義務を負うことに注意が必要です。

では,この「使用者責任」はどのような場合に発生するのでしょうか?
「使用者」として,職員が行った「セクハラ」行為について,責任を負わなくてよい場合もあるのでしょうか?

今回は,そもそもなぜ「使用者責任」が発生するのか,その法的根拠や民間事業者と公務員場合の違い,使用者としての損害賠償請求が認められなかったケースなども検討することで,「セクハラ」を受けたとの申出があった場合の会社の事後対応のヒントにしてもらえたらと思います。

「セクハラ」で会社や大学が損害賠償責任を負う法的根拠は?
「セクハラ」があったと言われても,会社の責任が認められなかった事例は?
「セクハラ」で民間事業者,公務員の場合で,事業主(雇用主)が負う責任に違いはある?

1 会社や大学等に対する請求の法的根拠

セクハラを受けた被害者が,加害者個人でなく,勤務先である会社や学生が就学する大学に対して,損害賠償請求をできる理由はなぜでしょうか?
その法的根拠は何でしょうか?

その法的根拠は,民間の会社,私立大学の場合には使用者責任(民法715条),国公立大学の場合のように国,地方公共団体の場合には国家賠償責任(国家賠償法1条1項)となります。
(セクハラで加害者本人・会社がどのような責任を負うのか,「使用者責任」については,詳しくは「セクハラで加害者本人・企業はどんな法的責任を負うのか?」で記載しています)

法的根拠が違うために,具体的に誰にどのような請求が出来るのか,違いもあります。

会社,大学側等も,その違いを知って対応することも重要になりますので,それぞれについて裁判所がどのように判断しているのか見ていきましょう。

2 民間事業者の場合

セクハラを受けた被害者の勤務先が民間事業者の場合,その「使用者」となる会社(事業者)は,被用者が「事業の執行について」第三者に加えた損害について損害賠償責任を負うことになります(民法715条)。

つまり,会社の職員(被用者)であるAさんが職員のBさん(第三者)にセクハラをしたことによって,Bさんに精神的な苦痛(損害)が生じた場合,そのセクハラ行為が「事業の執行について」なされたと言える場合に,事業者である会社が「使用者責任」として加害者とされるBさんと同様に責任を負います。

それでは,どんな場合に「事業の執行について」なされたと言われるのでしょうか?

実は,裁判例からすると,勤務時間中のセクハラについて,多くが「事業の執行について」なされたと認められています。

一方で,男性看護師が同僚の女性看護師等に対し,勤務中卑猥な言葉を掛け,深夜の仮眠中に大腿等を触ったことについて,行為者の個人的な行為であるから,業務との密接な関連性が認められない,として会社の使用者責任を否定した裁判例(津地方裁判所平成9年11月5日)があります。

また,支店長がロッカーで女性社員の着替えの様子を盗撮した事件で,本件盗撮行為は欲望を満たす行為であって職務上の権限や上司としての地位を利用したものとも言えないから「事業の執行につき」行われたと認めることはできないとして使用者責任を否定した裁判例(東京地方裁判所平成25年9月25日)もあります。

「勤務時間外」であっても,酒席やその帰り道でセクハラが行われ,使用者責任が認められるものも多くあります。
そのため,「勤務時間外」であっても,それだけで使用者責任が生じない,とは言えないことに注意が必要です。

三次会からの帰りにタクシーでキスした場合でも,会社の使用者責任が認められています(東京地方裁判所平成15年6月6日)

企業(使用者,会社)としては,基本的には,広く「事業の執行について」セクハラが行われたと認められやすいことを念頭に対応することが大事でしょう。

もっとも,使用者責任を否定された裁判例のように,事業を執行しているからこそ発生しやすいとは言えないような特殊な状況,加害者の犯罪的な行為などによる場合にまで,偶々雇っていたからと言って会視野に責任を負わせることは過酷と考えられるような場合には,会社として,セクハラ行為を回避することも難しいと思いますので,責任を生じないこともある,と考えるといいのではないかと思います。

3 国または地方公共団体の場合

セクハラを受けた被害者の勤務先が「国公立大学」や行政機関など,国または地方公共団体の場合,「公務員」のセクハラが,「その職務を行うについて,故意または過失によって他人に損害を与えた」と言える場合,国家賠償法1条1項に基づいて,国または公共団体が賠償責任を負います。

この点は,職場が民間事業者である場合と同様に,雇い主の責任が発生するというような構造と捉えやすいと思います。

しかし,この場合,「公務員」となる加害者本人は(原則として)民事上の損害賠償責任を負いません

民間事業者と違い,原則として加害者個人が責任を負わない理由はなぜでしょうか?

これは,一つは被害者保護にあると考えられています。
資力が乏しい可能性がある公務員個人ではなく,確実に支払いが見込める国や地方自治体に対して損害賠償を求めることが出来ると定めておく方が,より確実に権利を保護できるからです。
他には,そもそも「公務員」の職務執行は,公務員個人の意思ではなく,国や地方公共団体という「法人」の意思に基づいて行われているため法人が責任も負うべきこと,公務員が「ミスをしたら個人で巨額の賠償金を支払わなければならない」と恐れず,安心して本来の職務(公的なサービス)に従事できるようにするためです。

「職務を行うについて」の要件については,使用者責任の「事業の執行について」の要件と同様,広く捉えられる傾向にあります。

横浜地方裁判所平成16年7月8日では,休日に課長の自宅で課の職員が集まって,職員から徴収した会費によりバーベキューパーティーを行った場合であっても,全員参加が想定され,その主たる目的が親睦を深め,円滑な職務執行の基礎を形成することになったと言えることなどから,パーティーにおける職員の行為に「職務執行行為」性が認められています。

国,または地方公共団体としては,広く「職務執行」と捉えやすいこと,また積極的に被害者を保護すべき立場となることを前提に,真摯に対応することが重要です。

法律で守る利益~まとめ

裁判所はセクハラ行為があった場合,加害者本人だけでなく,雇用主「使用者」である会社にも損害賠償請求出来るように認めることで被害者を保護している。

それならば,加害者が公務員の場合であっても,国や地方公共団体は当然のこととして,加害者本人にも請求できるようにした方が,より被害者保護になり,加害者個人も責任を負うことで,同様のセクハラ行為の被害を防ぐことも出来るのではないか?と思う方もいらっしゃるのではないでしょうか?

・・・でも。

「公務員」は誰のために,何のために働いているのか・・?と考えると,それは「国民」「地域住民」の生活を守るため。
公務員の仕事は「全体の奉仕者」として,安全な暮らし,社会インフラ整備,福祉サービスなど,民間事業者が行う「営利目的」では難しい「誰かがやらなければならない仕事」を公平・公正に提供する。
人間だから,ミスをすることもあるけれど,失敗による損害賠償額は,「公務」の場合,多額になってしまうことは少なくない。

だから,公務員個人の責任を重くすることで,安心してこの仕事が出来なくなると,ひいては,国民,地域住民の「利益」が守られないことが生じてしまう。

また,限定的にはなるけれど「事業の執行」「職務を行う」とは言えない場合まで,使用者,国や地方公共団体が責任を負うことが無いように,「使用者」側の「守る利益」も考えている。

難しいことだけれど,立場の違いで様々に考えられる「利益」について,多面的,多角的に「守る利益」をバランスよく守れるのかを考えながら,「法律」って出来ているんだな・・と考えると,私は素敵だな~と思っています。

今回の「使用者責任」と言われる部分も,会社としてどこまで対応する必要があるのか?

迷う場合には,弁護士に相談しながら決めてもらえたらと思います。

セクハラで損害賠償請求を受けないよう,配慮すべきことは何か?
被害者にどんな間違った対応をすると,企業の損害が拡大してしまうのか?

企業や会社が「セクハラ」対応をする際に,不安に思ってしまった場合や,会社側からの視点だけで誤った対応をしてしまわないよう,これからも伝え続けていきたいと思います。

セクハラ被害の発生予防や発生後の被害拡大を避けるために・・

何が現在の基準に当てはめると「セクハラ」となるのか,どんな証拠があると「セクハラ」と認定されやすいのか,加害者本人や会社にどんな損害が生じるのか,セクハラ被害が発生後にどのような対応が必要になるのかなど,これからも伝えていきたいと思います。

そうすることで「セクハラ」行為をした,ということで行為をした本人及び雇用主が損害賠償請求などの責任をとらなければならなくなったり,信頼を大きく失ったり,人間関係が悪くなってしまうリスクを避けつつ,人と人が温かい交流が続けられて,安心して過ごせる空間づくりをするお伝いが出来たら嬉しいな,と思います。

今回も最後まで読んでいただいてありがとうございました!