多治見ききょう法律事務所

弁護士 木下 貴子 ブログ

セクハラが生じやすい4つの誘因・特にセクハラを注意すべき場面は? 

セクハラが生じやすい4つの誘因・特にセクハラを注意すべき場面は? 

最近はなんでも「ハラスメント」と言われる。職場で「セクハラ」しないように気を付けるべきことは分かる。けれど,ずっとプライベートな場面でも,自分の言動に注意し続けるのは,気が休まらない感じでしんどい・・何を言っても,何をしても「セクハラ」と言われるのではないか?

「ハラスメント」の話をきくとしんどいな・・そう思っていらっしゃる方も少なくないと思います。

もし,「セクハラ」をあまり意識しなくていい場面と「セクハラ」を特に意識した方がいい場面が分かるとしたら,少しは気が楽になるのではないでしょうか?

これまで,雇用の分野,職場内での「セクハラ」を中心にお話してきましたが,「学校での言動がセクハラとして,損害賠償請求される?」で記載した通り,職場外でもセクハラは生じます。

では,学校内以外では,どんな場合に「セクハラ」が問題になりやすいのでしょうか?問題になりにくい場面はあるのでしょうか?

職場以外で「セクハラ」が認められているケースの特徴は?
「対等」な関係であっても,「セクハラ」が認められやすい場合とは?
「セクハラ」が生じやすい場面として注意すべき4つの条件は?

今回も,裁判例も検討しながら,職場外でのセクハラを中心に具体的に考えていきたいと思います。

1 顧客・取引先におけるセクハラ

職場外でのセクハラとして,顧客や取引先との関係においてもセクハラが成立することを認めた裁判例があります。

観光バス会社の運転手と取引先会社の添乗員(大阪観光バス事件,大阪地判平成12年4月28日)では,運転手の添乗員に対するセクハラ行為が懲戒解雇事由にあたるとされた事案があります。

また,医師と保険会社の従業員(東京地判平成19年9月28日),塾講師と塾生(広島地判平成24年10月31日),マッサージ施術者と被施術者(東京地判平成25年5月20日),医師と患者(東京地判平成27年8月28日),弁護士と依頼者(東京地判平成28年3月29日)といった関係においてセクハラの成立が認められています。

取引先相手の場合や,今後の仕事の依頼などにも関係したり,講師と生徒,施術者と被施術者,医師と患者,弁護士と依頼者のように自分が勉強を学んだり,体などの状況をよい状態にするために相手にお願い,依存するような関係(サービスを受ける顧客)にある場合には,相手との関係が自分の「利益」にも関わることもあり,やめて欲しいと言いづらい関係,その意味で「非対等」,優位性がある関係になり,「支配」が及びやすく,セクハラが生じやすい構造であることに注意が必要だと思います。弁護士と依頼者も・・「虎に翼」にも描かれていましたが,現実でもありますね・・

2 「優位性」が低いと思われる場合のセクハラ

学校内や取引先以外のケースで,関係としては比較的「対等」であり,どちらかに「優位性」があると認められないような場合でもセクハラの成立が認められたものもあります。

女性市議会議員と男性市議会議員(千葉地松戸支判平成12年8月10日)の関係で,男性市議会議員の言動についてセクハラが認定されています。
「男いらず」と呼びかけた行為について,金10万円,その呼びかけた行為について,非常に不愉快と伝えているにもかかわらず,被告の活動報告誌で原告(女性議員)の名の上に「オトコいらず」とルビを振り配布したため,その行為について金30万円の慰謝料が認められています。「名誉毀損・人格権侵害の不法行為をしたもの」として,「被告の執拗さ・害意の強さ」も指摘されています。

女性である私からすると・・男性議員の言動に驚く部分も多いですが・・・
やはり「セクハラ」は「性的自由ないし,性的自己決定権等の人格権」を侵害するものという,「人権」の侵害という意識をもって,優位性があるとは言えない関係,いわゆる職場内での上下関係のない間柄であっても,相手が女性でなければ,このような言動はおよそなされないことからすると・・・「性的」な言動として人格を傷つけるという「感性」を持つことは重要です。

中学校校長とPTA役員(東京高決平成18年9月28日),警察官と事情聴取を受けた参考人(那覇地判平成19年5月28日)でセクハラが認められているものもあります。
県警察官の事情聴取の際の言動についてセクシュアルハラスメントに当たるとして訴訟が提起され,県に対し損害賠償金の支払いを命じる判決が出ています。

宗教法人の代表役員(主任牧師)と信者(東京地判平成26年5月27日),ケースワーカーと生活保護受給者(水戸地判平成28年1月28日),市議会議員と市の職員(宇都宮地判平成29年10月25日)などでセクハラが認められた事例もあります(この事案は,「美人」とほめること,名前の呼び方でもセクハラになる?裁判例の紹介の 4市議外議員の市職員に対するセクハラの事案です)

取引先や顧客というような明確な利害関係がない場合,お互いに言いたいことや本音を気軽に言える関係,「対等」な関係として「冗談」「からかい」や「好意」を表示するものとして性的な言動も許されていいのではないか・・?と思われがちですが,直接とは言えなくとも,信者さんや生活保護受給者,市職員さんのように,相手の方が「社会的」地位が高いと感じてしまったり,言動に反発することで受給に影響があったり,働く環境などが悪化するのではないかと考えがちな立場の場合や,継続的に関わる関係にあるため,相手との関係を悪化させたくないという気持ちが働いてしまうような場合,慎重な言動が求められます。

特に,「不快」と伝えているのに繰り返したり,続けることは,害意があり,「行為」が悪質と認定されやすいので注意しましょう。

3 セクハラ被害者と加害者の関係

セクハラは「性的」な嫌がらせということで,「性的」な言動という点に特徴があります。
これがなぜ生じるかと言えば・・やはり,相手方(被害者)に対して「性的」な視点で見ていること,接していることがあります。

職場であっても,取引先であっても,そういう「視点」を全く外すことは難しいし・・
「性的」に相手に興味を持ち,「好き」になることもあるので,それを「セクハラ」になるのが怖いために,伝えられないのは望ましいことではありません。

だからこそ,どのような場合に注意した言動が必要か,という基準,視点があると少し安心かなと思います。

これまでの裁判例などの傾向を見ると,一つは,加害者が被害者に対して,取引先で言えば発注する側,専門性があるサービスを提供する側のような側のような優位的な立場にある場合,が多いと言えると思います。

そして,二つ目は,教育関係者と学生,受講生,学生同士,宗教関係といったように人間関係が,外の社会から「閉鎖的」な環境になりやすい場合も注意が必要です。

三つ目は,学校内もそうですが,顧客や取引先のように人間関係が「継続的な」場合もセクハラが生じやすいと考えるのも重要です。

四つ目は,二つ目の「環境」の一つともいえるかなと思いますが,実際にセクハラがおこなれる「場所」については,マッサージ施術者のケースのように,外部の目に触れない「密室的」な場所において行われるものについては,「セクハラ」になりやすいという意識も必要だと思います。

これらの4つについて,被害者と加害者の関係で特に注意した方がいい理由は何か・・?と考えると,人間関係が「閉鎖的」「継続的」であるため,関係を悪化させたくない,人間関係をよい状態に保とうという気持ち,心理が働きやすいからです。また,「優位」な地位にある人には,関係を悪化させることが自分の働く環境,生活において不利益につながりやすいと予測されることもあって,同様に相手との人間関係を悪化させないように意識しやすいからです。

そのため,加害者に対する抗議や抵抗を差し控えたり,躊躇したりしてしまいます・・

こういった人間関係の「優位性」「閉鎖性」「継続性」や「密室性」といった点は,加害者としては,知らないうちに加害への抵抗が薄くなりがち,被害者としては被害に対して受け容れがちになる要因として,セクハラを招きやすいもの,セクハラの「誘引」になりやすい注意ポイントとして意識が必要だと思います。

つまり,開放的なところでする職場とは関係のないつながりの飲み会,自由参加のイベントに参加した際の言動などは比較的問題になりにくい一方,職場外で仕事以外で会うとしても,相手が普段は職場が一緒で継続的に関わるような場合や,取引先,顧客の場合,宗教などの特定の団体の中での言動,特に言動がなされる場所が「密室性」が高い場合には,特に注意して関わる意識が,トラブルを避けるために重要だと思います。

「誘因」への意識・感性~まとめ

こういう話を書くと何をしても「ハラスメント」と言われるばかりで生きづらい・・
もう「ハラスメント」の話はいい,と言われることも多いです。

確かに「パワハラ」にも共通するところですが,「セクハラ」も,これを避けるため誰かと関わることに慎重になりすぎてしまうのは,人間の生存本能,愛ある深い人間関係を他者と結ぶことの幸せから遠ざけてしまうことになり,望ましくないところです。

しかし,やっぱり,気づかないところで,自分には悪気がなくとも,「ユーモア」「冗談」のつもりであっても,不快な思いをしたり,傷ついてしまう方がいるのも事実なので・・
これを避けるための意識は,誰もが過ごしやすい社会となるためには重要だと思っています。

職場では,いわゆる上下関係があるケースが多いので,「セクハラ」が生じやすいことが比較的分かりやすいのですが,そうでなくとも,これまでご紹介した学校内のことや顧客・取引先との間,前記2記載のような関係でも「セクハラ」が生じやすいケースのポイントが分かると,注意ができると思います。

「相手の意に反する性的言動が,社会的見地から不相当とされる程度のものであり,性的自由ないし性的自己決定権等の人格権侵害と認められる」ような場合,「セクハラとは?「セクハラ」とされる判断基準」の3で紹介したように,職場外であってもさまざまな場面においてセクハラが成立することになります。

そのため,「社会的見地から見て不相当とされる」のは何なのか・・?その判断基準,傾向を裁判例などを通じて知っておくことは重要だと思うので,引続きお伝えしていきたいと思います。

自分が,うっかり「セクハラ」をしてしまっていないか?気づくためのポイントは,今回お伝えした3に関わるような「セクハラ」が起こりやすい「誘因」に敏感になれるかどうか,かな・・と思いました。
今「密室」だから,つい,相手の自由な意思を十分に確認せず,「セクハラ」(≒性的自由,性的自己決定権を侵害)をしようとしてしまっていないか・・?,相手はこれからも取引を続ける関係だから断りづらい(性的自己決定が十分にできない状況)のではないか・・?等と意識できると,セクハラをしてしまうことを防ぎやすいと思います。

人間は多様なので,一律の扱いをすればいいわけではないから難しいけれど・・

セクハラの「誘因」がある場面なのかどうかにも着目して,私自身も,常に意識しつつ,相手が嫌な思いをしないように発言に気を付け,身体に触れるときも,特に注意をしていきたいなと思います。

そうすることで,「セクハラ」行為をした,ということで行為をした本人及び雇用主が損害賠償請求などの責任をとらなければならなくなったり,信頼を大きく失ったり,相手との関係が悪くなってしまうリスクを避けつつ,人と人が温かい交流が続けられて,安心して過ごせる空間づくりをするお伝いが出来たら嬉しいな,と思います。

引続き,近年意識されている「セクハラ」について,お伝えしていきたいと思います。

今回も最後まで読んでいただいてありがとうございました!