多治見ききょう法律事務所

弁護士 木下 貴子 ブログ

学校での言動がセクハラとして,損害賠償請求される?

学校での言動がセクハラとして,損害賠償請求される?

最近は「セクハラ」の問題性がとりあげられるようになり,お酒の席など,異業種交流会のような集まり,同窓会など職場外での集まりであっても,もしかしたら,この言動は「セクハラ」になるのでは?と気になることもあるのではないでしょうか?

芸能人の方の報道でも問題とされることがありますが・・他方で,これって「セクハラ」と思っても,そのことを他の人に言うと,「名誉棄損」と言われて自分の方が訴えられてしまうのでは?と心配されることもあります。

これまで,雇用の分野,職場内での「セクハラ」について,どんな場合に「セクハラ」となり,損害賠償請求をされるなどの責任が生じるのか,についてお伝えしてきましたが,実は「セクハラ」が問題になるのは職場内だけではありません。

職場以外でも「セクハラ」は生じる可能性はあり,事例によっては,900万円という多額の損害賠償金が認められている事例もありますが,「セクハラ」行為について他の人に伝える場合には注意も必要ですので,併せてご紹介します。

上下関係が問題となりにくい,職場外でもなぜ「セクハラ」が問題となるの?
学校という場所において,「セクハラ」が認められた事例は?
どんな事案で「セクハラ」による多額の損害賠償義務が認められているの?
「セクハラ」被害について,他の人に言う場合に注意すべきことは?

今回も,裁判例も検討しながら,特に学校内でのセクハラを中心に具体的に考えていきたいと思います。

1 セクハラは「人格権侵害」

セクハラとは?「セクハラ」とされる判断基準でご紹介した通り,現在「セクハラ」をすると損害賠償請求の対象となる理由は,相手の「性的自由ないし,性的自己決定権等の人格権」を侵害すると考えられているからです。

当初は,職場内・雇用分野で問題とされることが多かったので,裁判例でも,「職場内」におけるセクハラが認められたものが多いです。

しかし,「セクハラ」(性的な嫌がらせ)で人格権侵害と認められるようなケースは,職場内に限られるものではありません。
そのため,職場外でも,「セクハラは」成立することになります。

この中でも,学校内でのセクハラ(学校も一つの職場ですが,上司,部下といった職場の上下関係がはっきりしていない生徒と先生のような場合)は,職場外でもセクハラが成立するケースとして問題になりやすいのでご紹介します。

2 大学教授の研究補助員に対するセクハラ

大学教授による,女性非常勤研究補助員に対するセクハラが問題とされた事例があります。

大学教授による強制わいせつ行為があったという内容の雑誌への情報提供等があり,これを提供した女性研究補助員に対して,大学教授が名誉毀損を理由とする慰謝料の支払を求めた事例で,原審では,大学教授による女性非常勤研究補助員に対するわいせつ行為はなかったとして,慰謝料等の支払い(慰謝料50万円+弁護士費用10万円)が認められましたが,控訴審で慰謝料等の支払いが否定されました(仙台高秋田支判・平成10年12月10日)。

この事案では,「ホテルの一室で両肩に手をかけただけ」とする教授側の主張と研究補助員の主張する「強制わいせつ行為」の内容に違いがあり,研究補助員が自分の認識に基づいて告発や雑誌記者に情報提供をした行為などが「名誉棄損」となるかどうかが争われていたものです。

控訴審では,「本件各告発行為は,いずれも,被控訴人から強制わいせつ行為を受けた不法行為の被害者である控訴人が,被控訴人から適切な被害回復を得られないために,自分が真実と考えることを主張して加害者である被控訴人を社会的に告発しようとした行為にほかならず,このうち,本件提訴行為及び本件告発行為は,その主張する事実が真実である以上,いずれも正当な権利行使として当然に許される適法な行為であるし,本件送付行為についても,加害者である被控訴人が勤務する職場を所管する県の部局の部長及び課長,職場の学長及び事務局長などの限定された者六名に対して,被控訴人の処分を求めて事件を告発したものであって,その内容においても,事件の詳細が正確に述べられずに抽象的な表現がなされてはいるものの,ことさら虚偽や誇張が含まれているわけではなく,いずれにしろ正当な権利行使の範囲内に止まる行為であって,違法とまでいえないことは明らかである」とされました。

また,雑誌への情報提供行為についても,「控訴人は,自ら積極的に記者に情報を提供したわけではなく,記者の方からの取材申し入れに応じて情報を提供したにすぎないこと,右情報提供行為は,強制わいせつ事件の被害者である控訴人が,加害行為及び事件後の加害者である被控訴人の対応についての情報を提供したものであり,しかも,真実の情報が提供されていること」「事件を記事にするかどうか,記事にするとしてどのような角度から記事にするのか,などについて一切の説明がなされていなかったこと」「記事の内容構成について何らかの影響を及ぼしうるような地位にはなく,本件記事は,控訴人からの取材のみならず,被控訴人や他の関係者からの取材から得られた情報を総合して作成されたものであり,記事の内容構成は」「編集部の権限と責任において行われたこと」などから,「控訴人が本件仮処分事件の裁判記録や本件テープを記者に渡したことは,いまだ違法な行為とはいえないし,本件記事が控訴人の情報提供行為が契機となったものであるとしても,いまだ,右行為と本件記事が作成され被控訴人の名誉が毀損されたこととの相当因果関係を肯定するには至らないというべきである。
以上によれば,被控訴人において,控訴人による被控訴人に対する名誉毀損行為であると主張する行為は,いずれも適法なものであるか,いまだ違法とはいえないものであるか,もしくは,名誉毀損の結果とは相当因果関係を有しないものである」
とされました。

つまり,裁判の結果,被害者が主張する通りの「わいせつ行為」は認められなかったのですが,被害者としてはどのような被害を受けたのかという「事実」,それをどのように裁判所で伝えているのかという「事実」に基づいて,その通りの内容を相当な範囲で人に伝えることは,「名誉棄損」として損害賠償請求されないと判断されたことになります。

もっとも,原審では一部名誉棄損による損害賠償請求が認められていますので,どの範囲まで人に伝えて大丈夫なのか,に被害者としては注意が必要です。

他方で,加害者とされる側にとっては,裁判の結果,被害者が主張するような態様の加害事実(セクハラ行為)までは認められないとしても,「被告がホテルの一室で原告の肩に両手をかける行為をしたことは,被告の主観的意図,動機がどのようなものであっても,原告の人格的尊厳を傷つける行為であって,社会的に許容される行為であるということはできない」と原審で指摘されているので,やはり,大きな信用失墜となる「セクハラ」となりうる行為について,慎重にすべきことが分かります。

3 大学助教授の大学院生に対するセクハラ

大学助教授が大学院生に対して行ったセクハラ行為について,多額の損害賠償金(慰謝料750万円+弁護士費用150万円及びこれらに対する遅延損害金)が認められた事例(仙台高判平成12年7月7日)があります。

原審(仙台地判平成11年5月24日)では,以下のような事実が認定されています。

「原告の修士論文の指導を担当し,さらに修士論文の審査教官でもあった上,原告が博士課程に進学後は名実共に原告の指導教官となったもので,原告の成績を評価し,その研究者としての将来を左右できる立場にあったということができ,被告と原告との間には,教育上の支配従属関係があったと認められる」
「支配従属関係を背景として修士論文の指導を行うに当たり,性的な冗談を言ったり,原告の顔を凝視し続けるといった原告に不快感を与える言動をし,原告が良好な環境の中で研究し教育を受ける利益を侵害した」「出張の際には,原告に恋愛感情を表明して指導教官を降りたいと発言し,原告から指導の継続を懇願されると,原告が指導を放棄されることを恐れて強い拒絶ができないことに乗じて,原告が不快感を抱いていることを知りながら(この点は,行為後に被告が謝罪している点から明らかである。),湖で原告に抱きついたり,帰りの飛行機の中で手を握るといった直接の身体的接触に及んだ上,札幌出張から帰ってからは,自分の研究室で原告に背後から抱きつくといった性的接触を繰り返すなど,原告に対する性的言動を直接行動にまでエスカレートさせ,その結果,原告の性的自由を侵害した」

「原告から不安神経症で通院していることを打ち明けられるや,これを奇貨として,その治療を名目に,大胆にも自分の研究室において,キスをしたり抱きつくといった性的接触を重ねただけではなく,ついには原告の病気に対する不安感を利用して,交際相手と別れて自分と恋愛関係に入るよう迫り,3回にわたってホテルで肉体関係まで結ばせたもので,このような被告の行為が原告の性的自由を侵害するものであることは明らかである。」

「この間,原告の自宅に執拗かつ頻繁に電話を掛ける等して,原告の私生活に過度に干渉し,原告を困惑させて私生活の平穏をも害していた」「原告から距離を置いてほしいと明言されるや,従前の評価を一変させて締切り間際の論文の書き直しを命じており,これは,指導教官としての権限を濫用した報復と認める外ない。」

「被告は,原告の指導を離れた後においても」「原告に自殺をほのめかすような異様な電話を掛けたり,用もないのに院生室に出入りするなど,原告に不快感を与える行為を続け,その私生活及び研究教育環境の平穏を害し,その結果,原告の人格権を侵害した」

「被告の不法行為は,長期に及び多様である上,教育に携わる者としてあるまじき振る舞いであり,特に原告が不安神経症に苦しんでいることに乗じて,妻子ある身でありながら,自己の身勝手な欲望を満足しようと図り,原告に性的接触を受忍させ,ついには肉体関係まで結ばせたことは,悪質という外なく,このような被告の行為によって原告が将来にわたって拭い難い精神的苦痛を受けた」「また,関係を拒絶されるや,論文の書き直しを命じて報復した上,研究科の調査に対しても,当初偽造の診断書を提出したり,他大学の教官に偽証まで依頼して自己の責任を免れようと図るなど,事後の態度も卑劣かつ狡猾と言わざるを得ない」

比較的高額な損害賠償請求が認められた事情としては,「支配従属関係」があったこと,これを背景に次第に性的に不快な言動をエスカレートさせていき,病気につけこんで,肉体関係に及んだこと,私生活にも過度に干渉したこと,関係を拒絶されると報復行動に出ていること,長期間で多様な行為に及んでいること,その後の対応の悪質性などから認められたと思います。

これらの裁判例を読むと,女性としては痛ましい気持ちになりますが・・・
やはり,セクハラで加害者本人・企業はどんな法的責任を負うのか?でもお伝えした通り,暴行や脅迫を受けなくても,恐怖のあまり動けなかったり,相手との関係性で抵抗できなかったりするのが実態として,「被害者の状態や加害者側との関係性」が考慮されて,教師と生徒など「経済的・社会的関係の地位に基づく影響力で受ける不利益を憂慮していること」による同意のない性的行為も犯罪となっている現在。学校内の性的言動は,多くの場合「社会的関係の地位に基づく影響力を受ける不利益を憂慮している」ケースとなるので,弱い立場,弱っている状況の相手に対する性的言動は注意が必要です。

学校内・教育現場でのセクハラに注意~まとめ

今回ご紹介したセクハラは,大学内で行われるもので,アカハラ(アカデミックハラスメント:大学や大学院などの研究教育機関で,立場が強い教員や研究者が学生や同僚に対して行うハラスメント行為)とも言われます。

その他にも,大学教授から大学職員へのセクハラ(仙台高判平成13年3月29日・慰謝料200万円),中学校の部活の顧問から部活に所属する女性に対するセクハラ,大学院通信教育プログラムの教員から学生へのセクハラ,小学校教諭から女子児童へのセクハラといった関係でも,セクハラの成立が認められています。

また,男子高校生から女性教師に対するものとしてのセクハラ,高校の寮における生徒同士のセクハラの成立が認められています。これらの事例は,教師から生徒という支配従属関係になりやすいものだけでなく,男性から女性への言動は抵抗し難いものになりやすいこと,特に支配従属関係が無いと思われる生徒同士でもセクハラになりうることが分かります。

人間は多様なので,一律の扱いをすればいいわけではないから難しいけれど・・

引き続き,上下関係がある場合や,男性から女性に対しての言動は特に注意をする必要があるかなと思います。
その上で,友人関係など対等といえるような関係であっても,相手がどんなタイプの人なのか・・私自身も,常に意識しつつ,嫌な思いをしないように発言に気を付け,身体に触れるときには,特に注意をしていきたいなと思います。

そうすることで,「セクハラ」行為をした,ということで行為をした本人及び雇用主が損害賠償請求などの責任をとらなければならなくなったり,信頼を大きく失ったり,相手との関係が悪くなってしまうリスクを避け,人と人が温かい交流が続けられて,学びを受ける学生も先生も,学校で働く職員も,安心して過ごせる空間づくりをするお伝いが出来たら嬉しいな,と思います。

引続き,近年意識されている「セクハラ」について,お伝えしていきたいと思います。

今回も最後まで読んでいただいてありがとうございました!