多治見ききょう法律事務所

弁護士 木下 貴子 ブログ

セクハラとは?「セクハラ」とされる判断基準

セクハラとは?「セクハラ」とされる判断基準

ハラスメント。今,様々な種類の「ハラスメント」が「言葉」「用語」として,使われるようになっています。
パワーハラスメント(パワハラ),セクシュアルハラスメント(セクハラ),マタニティハラスメント(マタハラ)/パタニティハラスメント(パタハラ),モラルハラスメント(モラハラ),ロジカルハラスメント(ロジハラ),時短ハラスメント(ジタハラ),エイジハラスメント(エイハラ),ジェンダーハラスメント(ジェンハラ),リモートハラスメント(リモハラ),ソーシャルハラスメント(ソーハラ),スモークハラスメント(スモハラ),スメルハラスメント(スメハラ)などなど・・・

どうして,これほど,「ハラスメント」が問題となっているのでしょうか?

やはり,ひと言で言えば,「時代の価値観の変化」が大きいのではないか,と私は思っています。
以前は,問題とされていなかったような言動が,実はよく考えると,昔であっても,誰かを傷つけたり,不快な思いをさせたりするということが,現在の価値観では問題であることが意識され,それは,夫婦,親子,職場,学校などの近しい関係であっても,我慢したり,させたりすることが許されることではなく,してはいけないことである,ということが意識されてきたからだと思います。

「性的自由」に関しては,「セクハラ」として,問題とされるようになってからしばらく経ちますが,今でもご相談を受けることは少なくなく,この意識が低い方が企業内に今でも一定数おられる一方,それまでは「仕事のために」やむを得ないと黙って我慢してしまいがち,見てみぬふりをしがちだった,ハラスメント行為,性的自由・性的な自己決定権を奪う行為に対して,このままではいけない,という問題意識が高まることで,問題として表面化してきたのだと思います。

そのため,企業としては,現代に適合した性的なハラスメント行為をしないこと,身近な言葉で言えば,「セクハラ」をしない対策がいかに重要なのかが分かります。
また,注意しなければならないことは,職場におけるハラスメント問題が生じた場合には,対応を誤ると,職場環境を更に悪化させ,企業にとって致命的なダメージが生じかねないということです。

昨今の報道からしても,ハラスメントの被害申告があった場合の事後的対応が,いかに難しいかを物語っていると思います。
企業としては,ハラスメント被害を生じさせない職場環境,いかに事前対応をするかが,とても重要であることがお分かりいただけると思います。

改めて「セクハラ」ってそもそも何?どんな「人権」を侵害するの?
違法な「セクハラ」行為とされるかどうか,その判断基準は?
セクハラによる被害の予防,回復のために事業主,会社は,どんなことを意識するといい?

今回から,連続してセクハラについて,お伝えしていきたいと思います。

1 セクハラとは?

「セクハラ・性被害が生じる理由と適切な予防策・トラブルを回避するための注意」でもお伝えしていますが,職場内に限らない,「セクハラ」については,実は明確な定義はありません。

セクハラとは,英語の「セクシャルハラスメント」を略した言葉で「性的な嫌がらせ」を意味する言葉です。
セクハラは当初雇用の分野において問題とされることが多かったため,ここではまず,雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律及び人事院規則の各規定を通じて雇用の分野におけるセクハラの位置づけについて,改めて見ていきます。

2 雇用分野におけるセクハラ

法律上は,男女雇用機会均等法11条に,「職場における」セクハラについての規定があります。

「職場において行われる,性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受けたり,または当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されたりすることのないよう,雇用管理上必要な措置を講じなければならない」と定めています。

また,人事院規則10条ー10,第2条において,セクハラは,「他の者を不快にさせる職場における性的な言動及び職員が他の職員を不快にさせる職場外における性的な言動」と定められています。

職場におけるセクハラには,2つの態様があるとされています。

一つは,性的な言動を拒否したことで,解雇,降格,減給などの動労条件につき不利益を受けるという「対価型セクハラ」と言われるものです。
もう一つは,当該性的な言動により職場の環境が不快なものとなったため,労働者が就業する上で見過ごすことができない程度の支障が生じる「環境型セクハラ」です。

この分類の根拠として,男女雇用機会均等法11条1項及び「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置についての指針」(平成18年厚生労働省告示第615号。以下,セクハラ指針といいます)では,セクハラは,「職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け,又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されること」と定めています。

この指針では,労働者の意に反する性的な言動に対する対応により,その労働者が解雇,降格,減給などの不利益を受ける場合が「対価型セクハラ」と分類されています。
また,労働者の意に反する性的な言動により労働者の就業環境が不快なものとなったため能力の発揮に重大な悪影響が生じる等,その労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じる場合が「環境型セクハラ」と分類されています。

一方で,セクハラの中にはこれら2つの分野のいずれかに該当すると判断するのが困難なケースも多くありますので,実際の問題がセクハラに当たるのか否かをこれら2つの分野のみで判断しようとすることには注意が必要です。

詳しくは,セクハラに対する企業の法的責任~セクハラ防止体制構築と損害賠償に定義に記載されている具体的な文言の意味をそれぞれ紹介していますので,併せて参考にしていただけたらと思います。

3 裁判例によるセクハラの判断基準

それでは,どのような性的言動,つまり①性的な内容の発言や,②性的な行動がセクハラに当たるのでしょう?
実際に裁判所が,どのような基準で,判断しているのかを確認すると,その判断基準が分かりますので,ご紹介します。

裁判例では,セクハラは,「労働者の性的自由ないし,性的自己決定権等の人格権」を侵害するものとして位置づけられています。

問題とされている行為が,この人格権を侵害するかに関しては,会社代表者が自宅で家政婦として仕事に従事していた女性従業員に対し,体を触ったり,性交を求めたりしたという事案において,一つの判断基準を示していて,これを参考に考えるのが良いと思います(名古屋高金沢市判,平成8年10月30日,最二小判,平成11年7月16日,上告棄却により確定,金沢セクハラ事件)

この判決では,職場において男性の上司が部下の女性に対しその地位を利用して女性の意に反する性的言動に出た場合これがすべて違法と評価されるものではなく,

①その行為の対応,②行為者である男性の職務上の地位,③年齢,④婚姻歴の有無,⑤両者のそれまでの関係,⑥当該言動の行われた場所,⑦その言動の反復・継続性,⑧被害女性の対応等を総合的に見てそれが社会的見地から不相当とされる程度のものである場合には性的自由ないし,性的自己決定権等の人格権を侵害するものとして違法となる(番号は木下が記載)」と判断しています。

これらの基準からすると,単に性的な言動をした人の言動の内容だけでなく,年齢,職務上の地位などの社会的立場,⑤の普段,日常からの関係性や⑧被害女性の対応等も影響することが分かります。このあたりに,同じ言動であっても,人によって「セクハラ」となるかどうかは違う,Aさんは問題とならないけれど,Bさんは問題になる,等と言われる原因もあると思います。

4 セクハラは人格権の侵害~まとめ

私は,弁護士なので,比較的,以前からセクハラ被害を受ける場面に遭遇するのは少なかったと思いますが・・

同級生と話をすると,職場の飲み会で,当然のように女性がビールを注いでいたし,体を触られたりすることもあった,という話を聞いていました。
そして,人によっては,「膝に乗って」と言われて乗って座ったりすることもあったけれど,当時はあまり嫌ではなかった,お酒の席でもあって気にならなかった,という話をされたこともあります。

最近は,こういうことはかなり減ったと思っていますが・・

「セクハラ」という言葉も浸透し,「セクハラ」行為が「性的自由ないし,性的自己決定権等の人格権」を侵害するものという,「人権」の侵害という「考え方」を裁判所もすることが,理論的に明確になってきたことがあると思います。

これによって,これまでは,職場,雇用分野で「セクハラ」は多く問題とされてきましたが,雇用分野以外の場面でも,問題とされることが多くなってきましたので,また,順番にご紹介したいと思います。

セクハラは,現在の考え方では,「人格権」を侵害しているということを意識することで,「性的な自由」に関する言動について注意して「言葉」を発したり,「行動」したり出来るので,とても大切だと思います。

そうすることで,「セクハラ」行為をした,ということで行為をした本人及び雇用主が損害賠償請求などの責任をとらなければならなくなったり,本人が問題行動として,部署の変更や降格処分などをされてしまうこと,これによって,雇用主,会社が事業の円滑な遂行に支障が生じるなど,というダメージの発生,トラブル発生のリスクを減らしつつ,業務ができる会社になると思います。

引続き,近年意識されている「セクハラ」について,お伝えしていきたいと思います。

今回も最後まで読んでいただいてありがとうございました!