多治見ききょう法律事務所

弁護士 木下 貴子 ブログ

交通事故による高次脳機能障害とは?介護費認定の問題点

交通事故による高次脳機能障害とは?介護費認定の問題点

今回からは,交通事故に遭って,被害者が重度の高次脳機能障害となった場合に,被害者の家族が介護をする必要がある場合の介護費用について,どんな場合に認めてもらえるのか,裁判例もご紹介しながら,問題になる点をお伝えします。

被害者本人でない,被害者の家族の介護の負担は,損害として,どのように計算されるのでしょうか?

高次脳機能障害を残した被害者に対する介護の負担の損害が認められるかどうか,はどんな点が問題?
脳機能でない,身体障害がある場合の被害者に対する介護の負担との違いは?
そもそも,高次脳機能障害って何?

今回は,どのような点が,高次脳機能障害の介護の場合に問題になるのか,高次脳機能障害の症状から分析しながら,お伝えします。

1 高次脳機能障害とは?典型症状

高次脳機能障害とは,脳卒中などの病気や交通事故などで脳の一部を損傷したために,思考・記憶・行為・言語・注意などの脳機能の一部に障害が起きた状態です。
外見からは分かりにくい障害のため,周りの人から理解を得ることが難しく,誤解されてしまうこともあります。

2018年5月31日発行の「自賠責保険における高次脳機能障害認定システムの充実について(報告書)」によると,

高次脳機能障害の典型的な症状は,多彩な認知障害,行動障害および人格変化です。

①認知障害

認知障害とは,記憶・記銘力障害(新たに知覚した情報を記憶に留めておくことができなくなる),注意・集中力障害,遂行機能障害などです。
具体的には,新しいことを覚えられない,気が散りやすい,行動を計画して実行することができない,複数のことを同時に処理できない,話が回りくどく,要点を相手に伝えることができないなどとして現れます。

②行動障害

行動障害とは周囲の状況に合わせた適切な行動ができない,職場や社会のマナーやルールを守れない,行動を抑制できない,危険を予測・察知して回避的行動をすることができない,などです

③人格変化

人格変化は,交通事故による受傷前には見られなかった発動性低下と抑制低下です。
具体的には,自発性が低下したり,気力が低下したり,衝動性,易怒性(怒りっぽくなる),自己中心性などとして現れます。

2 高次脳機能障害に対する介護の特徴・違い

これまで,後遺障害を残した被害者が介護を必要とするかどうかの判断は,食事や入浴,用便・更衣等の日常生活に関する自立の程度を重視して行われてきました。
そのため,これとは違う,前記のような典型症状が特徴の高次脳機能障害をある被害者の場合,日常生活動作は自立していて,多くの場合,介助が不要です。

しかし,認知障害や情動障害,人格変化による困難があるため,他人による見守りや声かけを必要とする場合があります。
このような意味で,「看視」等を中心とする介護(看視的付添)が,高次脳機能障害を有する被害者に対する介護の特徴といえます。

従来からの日常生活動作に対する介護は,食事・入浴,排泄等の介助,移動の補助など重労働で時間的にもいつも拘束される他,痰の吸引等の一つのミスが要介護者(被害者)の生命に危険を及ぼす場合もあって,精神的な負担も大きいものです。

一方で,看視的付添は,その内容が被害者を見守ったり,声をかけることで足りる場合が多い。
けれども,被害者の突発的な問題行動に対処しなければならないことが多いので,精神的に休むことができず,日常生活,動作に対する介護の場合と比較して負担が軽いとは言えないと思います。

3 高次脳機能障害の介護費計算の問題点

交通事故の被害者を介護する場合の「介護費」を損害として請求する場合,介護の内容や程度に応じて,介護費用の損害賠償請求が認められます。
この「介護の内容や程度」として,高次脳機能障害がある方への介護は,軽く見られてしまう傾向があるのか,が問題となります。

前記の通り,高次脳機能障害を残した被害者に対する介護は見守りや声かけを内容とする看視的付添が中心となる場合があり,この点が特徴的な点です。
そのため,看視的付添の場合,身体障害がある場合の日常生活動作に対する介護(介護的付添)と比較して,重労働でなく,見守りや声かけだけで済むので,介護の負担が軽い,つまり,損害賠償金額は低くてもよいのではないか?という考え方があります。

一方で,肉体的に重労働ではないとしても,被害者の突発的な行動に備えるために,一時も油断できないから大変,とも考えられるところです。

実際の裁判例で,裁判所は,高次脳機能障害の被害者を介護する場合,将来にかかる介護費をどのように認定しているのか?
看視的付添の負担をどう評価しているのか?その傾向,考え方が問題となりますので,次回から順番に裁判例を見ていきたいと思います。

まとめ 精神的負担の評価

交通事故の場合は,多くは保険会社からの支払いになりますが,支払う側からすれば,正当な契約に基づく損害に限って支払いたいもの。
任意保険に加入する場合,いざという事故に備えて加入するのだから保険金を支払って欲しい,と言われても,契約外の不必要な損害金を支払えば,結果として,支出が多くなり,保険料も上げざるを得ない…ということにも繋がりますから,この判断は厳しくなされます。

まずは,一般的な傾向として,自分のようなケース,交通事故の被害対応の場合,どんな損害が認められそうなのか,知っておくことは重要です。

今回は,「介護」の負担を算定する場合の問題点について,お伝えしました。

精神的負担をどのように測って,どのように反映して損害額を計算するか・・?
不貞行為の慰謝料請求,離婚に伴う慰謝料請求などでもそうなのですが・・精神的苦痛に伴う慰謝料の算定も,大まかにいえば,その精神的苦痛の「内容や程度」で金額を決めることになるのですが,何をその「内容や程度」に関わるものとして考慮するか,が難しいところです。

「いじめ」は,もともと身体的,肉体的な暴力を伴わないものであっても,言葉による暴力,無視などの「関わり方」から大きな痛み,精神的苦痛を負うことが現在では理解されていますし・・・
「DV]でも,「モラハラ」という言葉が少しずつ浸透してきたように,日常的な関係性を悪化させる近親者の言動が,「離婚」「別居」によって,その人,その場所から離れたくなるほどの苦痛を伴うことも知られてきています。

このようなことからすると,高次脳機能障害による人格変化などによって,怒りっぽくなってしまった方をケアするというのは,私はとても大変なことではないかな・・と思っています。

そのため,看視的付添を中心とする介護であっても,介護的付添に劣らない損害の計算をしてもいいのではないか,と個人的には思うところです。

しかし,裁判所がどのように考えているか・・を知らないと,思ったような損害が認められないことに苦しい思いをされてしまうのではないかと思いますので,裁判所の「考え方」,計算方法の傾向を知っておくことは大切です。

知っておくことで,最適な損害回復が出来る可能性が上がります。

これからも,そのための「知識」についてお伝えできればと思います。

それでは,今回も最後まで読んでいただいてありがとうございました!!