多治見ききょう法律事務所

弁護士 木下 貴子 ブログ

女性から男性に対するセクハラ・同性同士のセクハラはある?基準と裁判例

女性から男性に対するセクハラ・同性同士のセクハラはある?基準と裁判例

セクハラって,女性が被害者になることばかりとりあげられるけれど,男性が被害者になることもあるんじゃないの?
モラハラについても,男性の被害者がいる,女性の加害者もいることをいる,ということを言われることも少なくありません。

「セクハラ」は男性に対しても生じうるのでしょうか?
また,今は性的指向が多様であることも社会的にも認められているようになっていますが,同性から同性に対する言動も「セクハラ」になりうるのでしょうか?

「セクハラ」になるとして,男性が女性に対してする言動と判断基準に違いはあるのでしょうか?

今回は,裁判例も検討しながら,被害者が男性であっても「セクハラ」と認定されるのか,同性同士でも「セクハラ」とされるのか,判断基準に違いがあるのか,具体的に考えていきたいと思います。

これを知っておくことで,「現在」の基準で,損害賠償責任を負わないように注意するだけでなく,ハラスメント被害を生じさせない職場環境を意識することで,職員が安心安全に職務を行えるようにすることは,とても重要です。

男性に対しても,同性同士でも「セクハラ」になる?
女性が被害者となる場合と男性が被害者となる場合で「セクハラ」の判断基準は同じ?
最近特に意識が必要なLGBTに関わる「セクハラ」とは?

今回も引き続き,「セクハラ」について,お伝えしていきたいと思います。

1 公務員のセクハラの場合

平成10年11月13日人事院規則10-10運用通知で,セクハラ被害者を「他の者」または「他の職員」と記載しており(同規則第2条1項),女性に限定していません。

そのため公務員の場合,女性から男性に対する発言,行動も,同性に対する発言,行動も,同規則で定めているセクハラに該当すれば,セクハラとなります。

女性から男性に対するセクハラが問題となった裁判例としては,大阪高判平成17年6月17日判決があります。この事例は,一審で「セクハラ」が認められて15万円の損害賠償請求が認められています(大阪地判平成16年9月3日判決)が高裁では取消されて,損害賠償は認められませんでした。
防犯パトロール中の女性職員が,勤務時間に男性用の浴室に入っている人がいるため,不審に思ってノックをせずに入った(男性は上半身のみ裸)という事案ですが,その後,状況の聞き取りをした総務課長の態度も問題とされています。

女性職員の職務内容や状況からすると,ノックをせずに男性用の浴室に入るのもやむを得ない点もあると思いますが,これが被害者側が女性職員,加害者側が男性職員だった場合,感覚的には「セクハラ」として認められてしまう傾向が高そうな感じもしますが,みなさんは,どんな感覚でしょうか?

これは,私自身のアンコンシャスバイアス(無意識の思い込み)かもしれないので,注意が必要だなと思いました。

セクハラ被害は男性にも生じうることを前提にして,被害状況を聞き取る際には,女性と同様に配慮した聞き取りに注意する必要があると同時に,ノックせずに入る必要性があったのかどうか,などに関わっては,男女の体格差,緊急性なども関係するところもあると思いますので,予測できる範囲で緊急時には,どのように対応する(トイレや浴室も無断で入ることもあるのか)という指針を定めて伝えておく,のも重要でしょう。

2 民間労働者のセクハラの場合

男女雇用機会均等法11条1項及び「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置についての指針」(平成18年厚生労働省告示第615号。以下,セクハラ指針といいます)セクハラでは,セクハラの被害者を「労働者」と定めていて,女性に限定していません(セクハラ指針2(1))

また,セクハラ指針は「セクハラ」が同性に対するものも含まれることも明らかにしています(同セクハラ指針2(1))

そのため,民間の労働者の場合も,男性や同性に対する発言・行動であっても男女雇用機会均等法やセクハラ指針で定めている「セクハラ」に該当するものは,セクハラとなります。

同性間である男性から男性の発言・行動が,「セクハラ」に該当することを前提としている裁判例(大阪地判平成15年1月21日)があります。
もっともこの裁判例では,原告の「腰から尻の辺りを軽く1回叩いたもの」は原告の「人格権が侵害されたとまではいえず」,「違法な行為であるということはできない」と認定されています。

これも被害者側が女性の場合どうなのかな‥と思うと,やはり違う判断もあり得そうかなと思いました。

男性被害者でもセクハラとなりうることを前提にしつつも,相手が女性の場合にはより注意が必要,相手が女性でもするのか・・?と考えて,相手が男性の場合にも,同様に慎重であるのがセクハラを回避するためにはベストかなと思います。

3 セクハラでLGBTに対する配慮

これまで書いた通り,セクハラは同性に対するものも含まれます。

そして近年は,いわゆるLGBT(女性同性愛者=レズビアン,男性同性愛者=ゲイ,両性愛者=バイセクシャル,トランスジェンダー=出生時に診断された性と自認する性の不一致,の各単語の頭文字を組み合わせた表現)のような性的マイノリティに位置づけられる立場の労働者に対する配慮が注目されています。

この点,人事院規則10-10運用通知(最終改正平成28年12月1日)で,「性的な言動」とは,「性的な関心や欲求に基づく言動をいい,性別により役割を分担すべきとする意識又は性的指向若しくは性自認に関する偏見に基づく言動も含まれる」とされています(同通知第2条関係3項)

また,セクハラ指針(最終改正平成28年8月2日)でも,「被害を受けた者(以下「被害者」という。)の性的指向又は性自認にかかわらず,当該者に対する職場におけるセクシュアルハラスメントも,本指針の対象となるものである」(同指針2職場におけるセクシュアルハラスメントの内容(1))とされています。

これらから,LGBTに関する発言および行動もセクハラとなり得ることを明らかにしていますので,従来の意識にあった,いわゆる「いやらしい」というような性的な接触や性的な発言だけでなく,男女の従来型の固定概念による役割分担をもとにした言動も「セクハラ」となること,さらに,LGBTに関わって「性的指向」「性自認」に関する言動も「セクハラ」となることにも注意が必要です。

「セクハラ」となる範囲の拡大を意識して~まとめ

ゴールデンウイークの連休中,私は少し前に話題となっていた「不適切にもほどがある!」のドラマを一気に観ました!
昭和生まれの私は,確かに昔はこんなことあったな~とか,今は確かにこれって許されていないな~(学校職場内の喫煙,体罰,女性への暴力を違和感なく歌っている歌詞など)と時代によって「常識」が移り変わっていく様子を味わいました♪

笑いだけでなく,泣ける場面もあって・・その中で,私たちは今をどう生きたらいいのか,考えさせられるお勧めのドラマです。

今回お伝えしたLGBTの話なども,以前からこうした性的マイノリティの方はいらっしゃったはずですが,今のように配慮がされたことはなく,以前は今よりも大変だったのではないかな・・と改めて思いました。

身体的な接触も,「言葉」も「セクハラ」になるのを防ぐには慎重にならざるを得ない,つまり他者との関りを減らさざるを得ないのが今の世の中。
でも,それではあまりにさみしすぎる・・それは,ドラマを観ながらも感じる実感です。

自分の中の「常識」が現在では「不適切」となっていないのか,いつも振り返りながらも,間違ってしまうことはあるから,そのときは,気づいたとき謝る。
多くのケースでは,現在ではそれは「不適切」となりますよ~,あらかじめ知っておくとトラブルを防ぎやすいですよ,は私も伝えたいテーマで,このブログもそのための一つとして書いています。

職場での上下関係がある場合や,女性から男性に対して,「それは嫌です」「やめてください」は,なかなか言いにくいこともあるのだけれど,言わないとわからない部分もやっぱりあるから,気軽に言えるような職場の雰囲気づくり,どんな「言葉」ならいいやすそうか,なども,これから私も探していけたらいいな,と思っています。

そうすることで,「セクハラ」行為をした,ということで行為をした本人及び雇用主が損害賠償請求などの責任をとらなければならなくなったり,職場環境が悪化して働きづらい職場になってしまうリスクを減らしつつも,職員同士の温かい交流が続けられて,職員も経営者も,よりやる気が出るような会社を作るためのお手伝いが出来たら嬉しいな,と思います。

引続き,近年意識されている「セクハラ」について,お伝えしていきたいと思います。

今回も最後まで読んでいただいてありがとうございました!