多治見ききょう法律事務所

弁護士 木下 貴子 ブログ

高次脳機能障害による将来介護費・具体的な損害認定額は?

高次脳機能障害による将来介護費・具体的な損害認定額は?

今回も,交通事故による高次脳機能障害とは?介護費認定の問題点に引き続き,交通事故に遭って,被害者が重度の高次脳機能障害となり,被害者の家族が介護をする必要がある場合の介護費用について,どんな場合に認めてもらえるのか,裁判例をご紹介しながら,問題になる点をお伝えします。

高次脳機能障害の場合,介護をする方は,従来から想定されている日常生活動作を介護する場合と異なり,「見守り」「声かけ」中心とする「看視的付添」が中心となりますが,損害の算定額,方法に従来型の「介護的付添」による損害算定と違いがあるのでしょうか?

被害者本人でない,被害者の家族の介護の負担は,損害として,どのように計算されるのでしょうか?
高次脳機能障害を残した被害者に対する介護負担の損害は,実際の裁判例で,どのような金額で算定される?
同じ「看視的付添」が中心となる他の障害の場合と高次脳機能障害の場合で,介護の損害額の計算に違いはある?

今回は,高次脳機能障害がある場合の,介護負担の損害について認めた裁判例をご紹介しながら,具体的な損害認定額についてお伝えします。

1 裁判例における介護費の違い

平成30年1月から令和5年4月までの裁判例で高次脳機能障害の後遺障害等級が別表第1の1級か2級に認定された事例(比較的重後の遺障害認定がされている事例)と高次脳機能障害は3級だけれど,ほかの障害とあわせて,併合1級か2級に認定された事例を対象に裁判例での損害算定の傾向をご紹介します。

また,「看視的付添」が必要となる場面として,高次脳機能障害以外のせき髄の障害による後遺障害が残った事例(別表第1の2級以上)についても,損害額について検討をする(30件の脳外傷による精神障害に関する事例,高次脳機能障害に限らず,遷延性意識障害の事例を含む)と比較対象になるせき髄の障害の事例10件の合計40件の裁判例を分析の中から,傾向についてご紹介します。

将来必要な「介護費」の損害は,介護の場所による違い,在宅介護の場合と施設介護の場合で異なります。
また,介護の主体による違い,近親者介護か職業介護の違いもあります。
介護の程度・頻度による違い,常時介護が必要なのか,時々必要となる随時介護かの違いでも異なります。

この中で,施設介護の場合,将来介護費の認定額は,裁判を提起し,口頭弁論の終結する時までに,実際に施設や病院に支払った額を基準に算定されるケースがほとんどです。
その金額には,治療費が含まれることも多く,介護の負担と将来介護費の認定額は直結しない部分があるので,「在宅介護」の事案で介護費用の認定傾向を見ていきたいと思います。

2 将来介護費の認定額の傾向

在宅介護の事案の中でも,近親者(家族)による介護か職業人による介護か,平均余命まで一律で変更されない金額を認定するのか,今後は介護体制が変わることを前提に認定するのかによっても,認定額が本来は異なってくるのですが,大まかに「在宅介護」の事例で将来介護費の認定額(日額)をみると,イメージは以下のような感じになります。

①遷延性意識障害の事例

遷延性意識障害とは,意識があることを確認できない状態が継続していて,意思疎通ができない身体症状のことを言います。
一般的には「植物状態」とよばれています。

1級 10,857円~27,640円(平均18,583円)

②高次脳機能障害の事例

1級 6,000円~22,000円(平均16,820円)
2級 6,000円~18,000円(平均8,772円)
3級(併合1級) 8000円~30,000円(平均15,667円)
3級(併合2級) 4000円(1件のみ)

③せき髄の障害の事例

1級 8,000円~15,000円(平均10,500円)
2級 4,500円~13,000円(平均8,917円)

在宅で介護している場合の日額の介護費の損害額として,この認定額はどのように感じられるでしょうか?
今回検討している高次脳機能障害と,他の場合の事例と比較して,大きな認定額の違いの傾向はあまり見られないように思います。

3 事例から分かる介護費認定額

同じ後遺障害等級でも,事案によって認定額に大きな差もあります。

例えば,症状固定時に43歳の男性が,高次脳機能障害による言語障害,記銘力障害等のほか,両下肢,両上肢に麻痺を残した事案で,日常生活動作の身体的介助のみでなく,看視・声がけを含む他人の介護が必要であるとして,日額18,500円(職業介護と近親者介護の併用)が認定されています(札幌地判令和4年3月17日・別表第1・1級1号とされた事案)

症状固定時,14歳男子中学生が,高次脳機能障害および四肢麻痺を残した事案で,一定程度の意思疎通能力があるが,常時の看視を要する状態にあるとし,日常生活動作の一部(食事,上衣の更衣,車椅子操作)は自立しているとして,日額6000円(近親者介護)が認定されている(大阪地判平成31年4月24日・別表第1・1級1号とされた事案)

症状固定時,25歳女性(全盲の障害者)が高次脳機能障害3級3号,外貌醜状7級等で併合1級を残した事例で,高次脳機能障害により日常生活に介助を要する上,不規則なてんかん発作や重責発作が発生した時は付添いに一人で対応することが困難で,入浴時や外出時等は2人体制をとることもあるが,他方で介護は,見守りを中心とするもので重積発作頻度が高いともいえないから,一定の精神的緊張を常時伴うものの,負担が重いとまでは言えない,との判断で被害者の父母が67歳になるまでは,日額1万2000円(近親者介護),その後被害者の平均余命までは日額3万円(職業介護)を認めているものもある。
重責発作に備え2人による介護が想定され,裁判所は一般的な付添いの1.5倍が相当との認定(2人分を認めていない)をしている(広島高判令和3年9月10日)

同じ後遺障害1級という障害認定がされた事案でも,具体的な被害者の状況,介護の状況,介護主体によって,認定される金額が違うことが分かります。

まとめ 損害額の差が何から生じるか

今回は,看視的「介護」の負担を算定する場合,具体的にどのような金額が認定されているのかについて,お伝えしました。

しかし,実際には,認定額に「幅」があり,ご自身が交通事故の被害を受けたとき,どのような金額になるのか,想像しにくい部分があるかなと思います。
その金額の差は何から生じるのか・・少しでも,差が生じる理由,根拠を出来るだけはっきりさせることで,それぞれの事案で他の事案と比べて公平感のある,適切な損害額が認定されるよう,考えていきたいと思います。

裁判所がどのように考えているか・・を知らないと,思ったような損害が認められないことに苦しい思いをされてしまうのではないかと思いますので,裁判所の「考え方」,計算方法の傾向を知っておくことは大切ですので,引き続きご紹介したいと思います!

このまま紛争を継続して裁判になった場合の結果を予測しながら,それでも,自分の事案では事情が異なるから納得できないとして裁判を選択するのか,など決めていくことが重要だと思います。

細かな算定方法,裁判での手続きなどは分からなくても,大まかな流れやどんなことが裁判では問題になるのか,などが分かることで,自分の場合はどのような点を意識して交通事故後の手続きを進めたらいいのか,不安や不満を解消して,被害回復の回避,回復ために出来ることを知るヒントとなると思って,お伝えしています。

知っておくことで,最適な損害回復が出来る可能性が上がります。

また,「知識」を得ることで,自ら「選択」して,万一加害者として交通事故を引き起こしてしまった場合にも,相手に十分な賠償金額を支払ったり,自分自身も十分な補償を受けられることに繋がります。

これからも,そのための「知識」についてお伝えできればと思います。

それでは,今回も最後まで読んでいただいてありがとうございました!!