多治見ききょう法律事務所

弁護士 木下 貴子 ブログ

成年後見制度を利用したとき,よくある問題は?より適切な制度は?

成年後見制度を利用したとき,よくある問題は?より適切な制度は?

あなたは,年をとっても,できるだけ今の自宅で過ごしたいですか?施設に入ったとしても,大好きな喫茶店に週1度は通い続けたいですか?
今回は,令和6年1月27日,岐阜県多治見市にある,とうしんまなびの丘エールで開催された権利擁護シンポジウム「日常生活自立支援事業と成年後見制度の現状と課題~高齢者障害者の生活を地域で支えるための連携について考える」についての報告です。

このシンポジウムは毎年1回開かれているもので,私が監事をしている東濃成年後見センターのほか,多治見市・土岐市・瑞浪市・恵那市・中津川市の社会福祉協議会などが共催しています。

冒頭の質問をされたら,もし私だったら,そうしたいと思うだろうな・・と思います。

一方で,立場を変えて家族としてサポートする側になって考えると,例えば父や母が自宅で過ごすのは,家事などもできないし,火の元とかも心配だから難しいし・・
「喫茶店に行きたい」をかなえるために,毎週自分が仕事を休んで喫茶店に父や母を連れていくのも現実的ではないな・・と思うことが正直なところです。

私自身も,娘や息子に「迷惑をかけたくない」というのは強いので,冒頭の自分の希望があったとしても,施設に入れてくれていい!仕事も休まなくていい,と思っています。
そして,少子高齢化も進む中で,そもそも結婚はせず,子どももいない状況の場合,そもそもこれらを頼れる人を見つけるのは難しい。

・・そう考えると,現代の社会で,誰もが年を重ねて判断能力が低下したり,障害があったりしても「自分らしく」「幸せに」生きるためには,どうしたらいいのか?

「これからの時代に必要とされる力~成年後見,職場環境,先生」で記載した通り,禁治産制度から成年後見制度に変わってかなり時間が経過し,さらに現状の問題点を解消するために法制度の変更,運用の変更がされてきています。
そして,現制度の課題と解消のための法律,運用を知ることで,認知症などで判断能力が低下した方に対する「権利擁護」の最先端の考え方に触れることも出来,時代の変化に適応して現在の「考え方」にあったサポートの方法,現在の「考え方」からは避けるべきこともわかります。

また,成年後見制度を利用する際の注意点,自分自身や自分の両親のケースでは,成年後見制度以外にどんなサポートを利用できるのか,など比較しながら,後悔しない適切な判断ができます。

現在の成年後見制度を利用して困る場合と注意点は?
成年後見制度を利用するよりも,適切な制度ってほかに何がある?
身寄りがない場合,判断能力の低下などによって一人で生活できなくなったらどうしたらいい?

是非みなさんも,自分だったら,どうされたいかな?という立場になって考えてみて下さいね!

1 成年後見制度の問題点

同志社大学社会学部教授永田祐先生のお話。

最高裁判所「成年後見関係事件の概況令和4年1月~12月」よると,

利用者数は増加しているものの,申立件数は,ほぼ横ばいで潜在的に必要な人のニーズを充分に満たしていると言えないことが推測される。
後見人候補者となれる親族の減少に伴って第三者後見人が圧倒的に多数となっている(令和4年は80.9%)
結果として行為能力の制限が強い包括的な代理権が付与される「後見類型」が多数となっている(割合は若干減少しているものの申立ての70.47%は後見類型)

市町村や弁護士などの専門職としては,成年後見制度は虐待等の緊急時や在宅での暮らしが著しく困難になった時点で申立てるという意識で適切な時点で申立てがなされない。
本人や親族にとっては,法定後見は誰が後見人になるかわからないリスク,選任された後見人に報酬を払い続けなければならない(終わらない後見)一度申立てをしたら後戻りはできない。柔軟性のなさへの不安もあって,申立てを躊躇する。
後見人になった人も意思決定支援よりも本人の保護を最優先しなければならない状態で選任される(柔軟な運用は困難)。
専門職や行政は制度を利用して地域社会への本人の参加を図るというより,本人の代わりに決める人を求める傾向にある。

本来の成年後見制度の基本理念は,本人保護だけでなく,ノーマライゼーション(障害をもつ者ともたない者とが平等に生活する社会を実現させる考え方),自己決定権の尊重にあったけれど,実際には「周りの都合で使う」(支援者にとって便利な)制度になってしまっていないか?という問題点がある。

そのため,充分利用されていないだけでなく,本来の理念にあった適切な利用につながっていないということで,2016年に成年後見制度の利用の促進に関する法律(成年後見制度利用促進法)が施行され,2017年には成年後見制度利用促進基本計画が閣議決定された。
基本計画では改めて制度の趣旨であるノーマライゼーションと自己決定権の理念に立ち返りその運用の在り方を見直すことが明記され,改めて本人の「意思決定支援」も重視する視点をが明記された。

確かに,私も,申立人である親族が「自分が選任されると思っていたのに,弁護士が後見人になってしまって,報酬がずっと発生するからやめたい」などの相談を受けることもある。
これまで本人のために柔軟に使えていたお金も使えなくなってしまい,本人の意思にも反するのではないか?と言われたり,そのために,とても不便と言われることもある。
裁判所に報告をするのも手間がかかる,なども言われる。

それでは,これらの問題を踏まえて,現在は,他にどんな制度が利用できるのでしょうか?

2 日常生活自立支援事業

多治見市社会福祉協議会によると,日常生活自立支援事業は,「自らの判断では様々なサービスを選択したり,契約をしたりすることが困難な方に対して,適切な援助により,福祉サービス利用についての本人の意思決定を助け,地域で安心して生活できるように支えていくことを目的とした支援事業」とされていて,都道府県社会福祉協議会が行う事業の一つです。

支援事業の内容,費用について判断する判断能力があることが前提で利用される。

この制度の場合,本人の意思によって本人との契約に基づき開始し利用をやめることもできる。
判断能力が不十分な人が,本人の意思に基づいて権利行使することを支えていくことができる=本人の意思を尊重できる。
他の事業では実施しづらい金銭管理支援もする。
地域住民が参加することでつながりが作れる。関わる生活支援員は専門職ではなく研修等を受けた地域住民であることが多い。定期的な支援を通じて社会関係の維持や回復が期待できる。
他にも生活の変化の察知や必要なシーンへのつなぎの役割を果たしている。

成年後見制度の課題である本人の意思が尊重されにくい,一度始めたら終われない,柔軟性に欠けるなどの問題点について対応できるので,現在は,この制度を利用するため,実施体制の強化を考えているところです。

シンポジウムでの話を聞いて,この事業の契約の意味が理解できることが必要なことや日常生活についての支援しか利用できないこと,現在の制度,キャパシティでは,財源,専門員の負担から限界があることが課題ではあります。

しかし,この事業を利用できそうな場合には,成年後見制度の前にメリット・デメリットを考えて選ぶ選択肢として考えられると思いましたので,両親や自分自身の判断能力が低下して,通帳の管理なども心配,支払いなどの手続きも難しい,誰かにサポートしてほしい,と思った場合には,一度検討してもらえたらと思います。

3 身寄りのない人(頼れない人)は

これまでは慣例的に家族や親族が保証人になることが当然とされてきたが,それに頼れない人が増加している。
入院入所等で身元保証人がいないことで困ってしまう人が増加している。
判断能力があっても,頼れる身元保証人がいないと入院,入所ができないことがある。
財産が多い方なら,民間の身元保証等高齢者サポート事業をしている業者との契約をしたり,弁護士と契約したりして支援を受けられる。

判断能力がない,という状況になれば成年後見制度で入所手続きは何とかなることが多いけれど,そのはざまのグレーゾーンがあって,判断能力はあるけれど,財産が少ない方のサポートは十分にされない。

身元保証人には何が求められているのかを考えてみると,①医療施設への入院の際の連帯保証②介護施設等への入所の際の連帯保証③入院,入所,退院,退所時の手続きの代理④死亡または退去時の身柄の引き取り⑤緊急連絡先の指定先及び緊急時の対応⑥日常生活支援に関連したサービス⑦死後事務などがある。

けれど,これは本当は,身寄りのない人だけの問題ではない。
身寄りがあったとしても,これらをすべて一人の人に担ってもらうのは現実的でない。
身寄りがあったとしても・・講師の永田先生も言ってくださって「確かにそう!」と思ったのだけれど,いくら自分の父親が施設入所したとしても,例えば,関西にいる自分に関東までまんじゅうを届けてくれ,と言われても,1500円くらいの饅頭のために数万円の交通費や時間をかけることになる・・
専門職として後見人をしていても,遠方に出張中に亡くなったのですぐ来られますか?等と言われても,対応できない場合もある。

後見人にも他の仕事もあり,プライベート(自分自身の私生活)もあるから,すべてのことを一人で担うのは無理だな・・と改めて思った。

なので!

今国は,公的な機関,民間事業者や当事者団体等の多様な主体による生活支援等のサービスが本人の権利擁護支援として展開されるよう意思決定支援等を確保しながら取り組みを広げるための方策を検討しています。
その際,身寄りのない人も含め「誰もが安心して」生活支援等のサービスを利用できるよう,運営の透明性(身元保証機関についての注意は「介護ビジネスの罠?身元保証のリスク~東濃成年後見センターシンポジウム」に書いています)や信頼性の確保の方策,地域連携ネットワーク等の連携の方策についても検討すること,意思決定支援を確保しながら「誰もが安心して」利用できるような権利擁護支援を社会福祉制度として「総合的な権利擁護支援策の充実」を図るため,令和4年度から予算事業として「持続可能な権利擁護支援モデル事業」が実施されています。

今は,モデル事業を行っているところしか利用できないけれど,今後は,地域の人や専門家,本人自身が参加する形で多様な背景を持つ人が関わりながら,多機関が協働しながら支援していくことが望まれています。

4 まとめ~誰もが意思を尊重される

以前に老いても意思が最大限尊重される社会へ~東濃成年後見センターシンポジウムでも書きましたが,私はずっと本人の「意思決定の尊重」が必要だと思っていました。
それは,判断能力が低下した方や障がいのある方だけでなく,普段私が関わっている離婚などの案件で言えば「子ども」自身も。
判断力が不十分だから,「この方がいい」とか,私が困るから,私が希望するから「こうして欲しい」と周りの方が意見を押し付けてしまうのではなくて,真摯に意思を引き出すことって,とっても大変で手間がかかることだけれど,本人にとっては,「自分らしく」「安心して」生きるためにとても大切なこと。

ご本人の意向どおりにすると,周りの人の負担が増えてしまったりするから・・その調整も必要だと思う。
相手に十分な判断能力がある場合でも,双方の利益,権利が衝突してしまう場合,調整は必要だから,相手に障がいがあったり,判断能力が低下していてサポートが必要な状態だったとしても,それをすべて特定の人が我慢してかなえてあげないといけないわけではない。

支援する立場の方も,支援される立場の方も双方が持続可能に,それぞれの「幸せ」を感じながら生きるためには,今考えられているような多様な機関,多くの人が関わることによって,多角的にご本人の意思をとらえながら,負担を分散しつつサポートをするのが望ましいと思う。

教えてくださったシンポジウムに参加してくださった先生,皆様方,ありがとうございました!

ご本人の意思を反映した形でのサポートについては,「任意後見制度」も使えますので,こちらにについては,お気軽に多治見ききょう法律事務所まで,ご相談下さいね♪

今回は,おちのない,まじめな話でしたが,最後まで読んで下さって,ありがとうございました(笑)!