老いても意思が最大限尊重される社会へ~東濃成年後見センターシンポジウム

IMG_0282[1]いつも読んでいただき,ありがとうございます。

今回は,平成27年2月15日,岐阜県多治見市にあるセラミックパークMINOで開催された権利擁護シンポジウム「権利擁護と意思決定支援のあり方」についての報告です。

このシンポジウムは毎年1回開かれているもので,私が監事をしている東濃成年後見センターのほか,多治見市・土岐市・瑞浪市・恵那市・中津川市の社会福祉協議会などが共催しています。
「セミナー」や「講演」と違い,ディスカッションをする「シンポジウム」の良さは,異なる知識,見方をする人の意見を聞き,議論を聞くことで,自分の価値観が明確になってくる!ということですね。

私は,このように多角的,多面的な見方ができ,自分の価値観が動かされていく感じが大好きです。

世界の情勢を知ることで,認知症などで判断能力が低下した方に対する「権利擁護」の最先端の考え方に触れることも出来,視野が一気に広がります!
成年後見人としての立場,これまで母の世話をし,今後も面倒を看ていくつもりであったが,弁護士が後見人となってしまった方の代理人という立場を自分が体験し,「これで本当に成年被後見人(認知症で判断能力の低下した方)にとって幸せなのだろうか」と悩むことも多いのです…

今回のシンポジウムを聞いて,今後弁護士として,何が出来るのか?と考えてみました。

是非今日はみなさんも,具体的ケースを通じて,自分だったら,どうされたいかな?という立場になって考えてみて下さいね!

 

1 事例と問題点

あなたは,今84歳のおばあさんです。
これまで,娘が20年以上前から,夫,子供たちと一緒に自宅に住んで面倒を看てくれました。
身体の衰えが来て,歩けなくなると,娘が病院の送迎,食事の世話をしてくれました。
病気のため,自分で排泄ができなくなると,娘が介助をしてくれました。旅行にも付き添って連れて行ってくれました。
そんな娘を信頼し,あなたは,10年くらい前から娘に自分の預金を管理してもらうようになりました。アパートを貸していたので,その管理も任せました。そして,不動産の管理や日常の世話をしてもらうお礼に娘の家庭の生活費も支払うようになりました。
娘には障がいのある子がいたので,その子が施設に通う費用も負担しました。
しかし体力が更に衰え,次第に認知症が進んで,自宅での介護が困難となり,83歳の時に施設に入所することになりました…
娘は,その後も施設に子と一緒に何度も訪問し,着替えの準備,家族しか申請が困難な手続きをやってくれました。
…ところが,少し離れたところにいた息子(娘の兄)が,会社を退職し,娘が判断能力がなくなったあなたの財産を勝手に使っているので,他の人に財産管理をして欲しい!

と家庭裁判所に成年後見の申立をしました。
娘は,自分が成年後見人なることを希望しましたが,裁判所は息子の希望から,第三者である弁護士を成年後見人にしました…

あなたは,成年後見人となった弁護士に「自分の財産を守る」ために,今後娘の生活費は一切払ってほしくないですか?

これまで誰よりも親身に世話をしてくれた娘,今でも必要な手続きをし,面会に来てくれる可愛い孫たちの生活費,少なくとも面会に来てくれる費用くらいはみてやってほしいと思うでしょうか?

そもそも,引き続き娘に不動産の管理や面倒を看てもらいたかった,のではないでしょうか?

 

2 意思決定尊重へのパラダイムシフト

日本の民法の考え方では,
成年被後見人には判断能力がない
意思決定不可能→
成年後見人がかわりに「保護」してやってあげる→
但し,できるかぎり「被後見人の意思を尊重」する。

先ほどの事例では,財産を守るために今後娘の生活費一切を支払わないというのが,成年後見人弁護士の判断でした。
これまで負担してきた町内会費,亡き夫の法事の費用なども支払えない,面会に来たり,世話をしてくれてもその費用は支払えない…
私は,娘の代理人の立場で交渉し,民法でも「成年被後見人の意思を尊重」するとなっているなどと伝え,孫の分については認めてもらうことができました。
自分も成年後見人をしている場合,とても悩むので,,成年後見人の弁護士の判断もよく分かります…

しかし!世界の情勢としては「意思決定支援」が大原則となっています!
つまり,原則として人は意思決定能力がある
可能な方法が全部ダメだったら初めて意思決定困難とみなす→
賢明で無いこと(ギャンブル,飲酒,タバコなど)をしたからといって,能力がないと判断してはいけない(これだと,みんな判断能力無しになる!?笑)→
その人の「最善の利益のため」に意思決定支援,代行決定をする→
代行決定をする場合であっても,権利,自由の制限は出来るだけ小さい方法をとる=本人が決定したことは取り消さない

…この原則からすれば,あなたがこれまで娘に面倒を看てもらい,生活費を負担すると決めた「意思決定」を今後も尊重してもらっても良かったのかも知れませんね。
(もちろん,あなたの財産がなくなってしまい,施設にいられなくなるような事態は避けることになりますが)。
もし,私だったら,今まで面倒をかけ,これからも世話をしてくれる娘に「ただ」で来てもらうのは申し訳ない…可能な範囲でお礼はしたいな…と思うし,せめて自分の夫の法事費用は負担したい,と思います。

この事案では,娘さんはこれまで献身的に面倒を看て,財産も管理し,これからもずっと母の面倒を看ていくつもりだったのに,兄弟とのトラブルがきっかけとなって,成年後見の申立がされ,全て取り上げられた,という事実に憤りを感じていました…

 

3 今できる「自己決定」尊重のための対策とこれからの動き

日本は,「障害者の権利に関する条約」を批准し,これを守る義務を負っています。ここには,障害者の「意思決定の尊重」が重要視されており,外務省・厚生労働省などではその方向での整備が進められているらしい…
他方,法務省管轄の民法では,この反映が未だ難しい・・・というのが現状のようです。

なにがなんでもとにかく「お金を守る」という現在の成年後見の考え方から,成年被後見人の最善の利益は何か?どのような状態が幸せと感じるのか?という「意思決定」をいかにくみ上げていくかが,これからの問題だな…と思います。

一時的な場面でしか関わらない裁判所(裁判官)や弁護士が,その人の「本当の意思」「本当の幸せ」をくみあげるのは限界があると思います…
これまで関わってきた親族,医師,介護者,周りの友達等の方が,むしろ適切なのかも知れません・・

私が,現時点で利用できる可能な方法はやはり,「任意後見制度」だと思っています。
今回の事例でも,私は代理人として介護契約(介護し,同居する代わりに生活費を支払っていくとの合意)だったのです,等と言いましたが,「証拠」がない,と成年後見人から言われました。
判断能力が低下してからでは意思を確かめることが出来ないので,これを明確に残すための書面=任意後見制度の利用がつくづく必要だと感じます。
自分が判断能力が低下したときに誰に面倒を看てもらいたいのか,お金を管理して欲しいのか,どんなことにお金を使って欲しいのか…
もし,施設入所することになった場合はどうしたいのか…などまで書いてあれば,自分の意思を最後まで尊重してもらえます。

今回の事例も,自宅介護ではなく,施設入所した場合でも娘の生活費を負担したいと思ったのか,などが明確ではなく…問題が難しくなったと思います。

言い方が極端ですが,

第三者が成年後見人となれば,これまであなたの人生の殆どを知らなかった人残りの人生をお任せすることになるのです。
弁護士が成年後見人となれば,当然その費用もかかりますので,面倒を看てくれる子供たちに残す財産も減ることになります。
他方,全てを子供たちが行うのは負担が重い,ということであれば,「任意後見制度」を利用して,不動産管理,金銭管理など法的部分は弁護士等の専門家に依頼し,介護部分の決定は自分の子供たちに託す,なども自分の意思で決められます。

 

4 まとめ

これは,私の全く独自の気持ちですが…
私自身は,自分のお金や生活の仕方は自分の意思を最大限に尊重して欲しい!そんなことに無駄遣いするのか!とか,チョコレートばっかり食べてるな!とか,子供に服なんて買ってあげなくていい!とか言われても,生きていけなくなるくらい財産がなくなったり,病気になるほど健康を害さない限りは,私の好きにさせて欲しい…

お金を単に守ってもらう,ことではなくて,私が「幸せ」と感じることのためにお金を使って欲しい!!

これからは,誰でも一定の歳になったら(例えば65歳),判断能力が低下した場合にどこで住みたいのか,どんな施設に入りたいのか,だれにお金を管理して欲しいのか,面倒を看て欲しいのか,妻,夫や子の生活費は払っていくのか,子供の結婚祝い,進学,出産祝い,香典は?医療行為(延命措置,胃ろうなど)はどうしたいのか,どんなことにお金を使って欲しいのか(株式投資や誰かへの寄付など),不動産などを処分していいのか,など,これまでの成年後見事例のなかで問題になった点をふまえて意思を確認し,書面に残す,というのがシステムとしてあればいいな,と思います。

判断能力が低下してしまった段階では,どうしてもだれかが代わりに「想像する」しかなくなってしまうので…
…「成年被後見人の意思」はっきり分からない成年後見人(弁護士)はどうしても保守的(財産を守る)にしか判断できないのが現実です。

あ!でも,「必ず書面で残しなさい」と法制度化すると,それはそれで書面に残したくない!という意思決定を尊重していないのか!?
…などと永久ループに入りますが… 「勝手にあとのことは誰かが決めてくれ」と残すことでいいかな(笑)!?

シンポジストとして参加して下さった,先進的なシステムを持つ岡山の竹内俊一先生,皆様方,ありがとうございました!

任意後見制度については,お気軽に多治見ききょう法律事務所まで,ご相談下さいね♪

今回は,おちのない,まじめな話でしたが,最後まで読んで下さって,ありがとうございました(笑)!

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この記事を書いた弁護士

木下貴子
木下貴子
岐阜県多治見市で初の女性弁護士となり19年目。
岐阜県立多治見病院など地元事業者の顧問弁護士を務め,法律のみならず経営に関するアドバイスも行っています。
個人のお客様には,離婚,相続,不動産案件を多く取扱っています。
著書「離婚調停は話し方で変わる」は,Amazonランキング「法律」部門ほか5部門で第1位を獲得。
相談は,親身,気軽,自分で決めるをモットーとしています。お気軽にご相談ください。

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