多治見ききょう法律事務所

弁護士 木下 貴子 ブログ

交通事故による家事労働の損害額が減額される理由は?具体的ケース

交通事故による家事労働の損害額が減額される理由は?具体的ケース

今回も,引き続き,交通事故に遭った場合,被害者が家事従事者(主婦,主夫)である場合に,家事労働が損害としてどのように評価されているのか,最近の裁判例をご紹介しながら,問題になる点をお伝えします。

交通事故で家事が出来ないことによる損害算定方法~年齢による違い・最近の傾向,交通事故で家事が出来ない,10歳代~80歳代までの損害算定の違い,で裁判所が家事労働ができないことによる損害を算定する一般的な基準,被害者の年齢ごとの算定方法の傾向についてお伝えしました。

では,

年齢別に損害額の計算の仕方に違いがあるのは,なぜでしょうか?
個別の事情により,家事が出来ないことによる損害額が減額されるのは,どういう場合でしょうか?
家事労働が減額される場合,どのような計算方法がされるのでしょうか?

今回も,平成29年から令和3年までの裁判例(227件)で,被害者の家事労働を検討・評価しているものを分析して下さった結果から分かる年齢ごとの損害額について,で記載した一般的な算定方法の基準,傾向はあるのですが,さらに,被害者の個別の理由によって,減額がされている理由(割合認定をされている理由)について,詳しくお伝えします。

1被害者の病気等により家事労働能力の制限がもともとあった

被害者が50歳代以前のケースでは,被害者の個別事情を考慮して割合認定されたものとして,

  • ①事故前に精神障害2級に認定されていたこと(30歳代・65%認定)
    ②事故前にうつ病を発症し事故後も治療を受けていたこと(40歳代・60%認定)

等があります。

交通事故前から,病気などによって,家事労働が制限されていたと思われる場合には,年齢ごとの一般的な傾向の算定基準による損害額から,元々制限されていた部分については,交通事故によって生じた損害ではない,という考え方から,元々家事労働が制限されていた割合を想定して,損害額を減額していると思います。

2 他に家事を担う同居者がいるので,被害者の家事負担は少ない

①全年齢を基礎として割合認定をしたもの

  • ア:両親・妹と同居していて,母親も相当程度家事を担っていたとしたケース(40歳代・70%認定)
    イ:娘2人と同居していて,娘が家事を手伝えない理由が明らかではないとしたケース(50歳代・70%認定)
    ウ:他人が夕食の準備をしていたと認められたケース(60歳代・70%認定)
    エ:母・妹と同居していて,同居の母が一定の家事を行っていたとされたケース(60歳代・60%認定,60歳代・80%認定)

②年齢別を基礎として割合認定したもの

  • ア:娘・孫と同居していて,娘も家事分担をしていたとされたケース(60歳代・50%認定)
    イ:腰痛のため家事の一部を夫に手伝ってもらっていたとされたケース(60歳代・80%認定)

年齢が低いケースでは,一般的な算定基準として「学歴,年齢を問わない女性全般の平均賃金」,年齢が高いケースでは,「年齢別の平均賃金」による算定をしたうえで,個別に被害者が担っていた家事の内容,他の家族がいる場合に,被害者が担っている負担割合などを考慮して,割合による減額がされています。

3 80歳代以降

80歳代以降は,年齢別を基礎とした算定をした上で割合認定による減額をしたものが大部分です。
家事の全部を負担していたことを踏まえても,90%の割合認定で減額されたものもあります。
20%の割合認定敷かされなかったものも2件あり,被害者が要介護1の認定を受けていたこと,娘・孫と同居していて家事労働を行っている部分は多くないとされたものもあります。

年齢が高くなると,家事労働も他の仕事と同様に一般的には,若いころほどできなくなってくることを前提に,減額がされるのが公平と考えらえている,と思われます。
高齢者の就労能力,家事能力は個人差が大きくなると考えられ,裁判所は割合認定をする減額をすることで,年齢に加えて,個別事情を加味して損害の算定をしていると思います。

まとめ 具体的なケースでイメージを

交通事故の場合は,多くは保険会社からの支払いになりますが,支払う側からすれば,正当な契約に基づく損害に限って支払いたいもの。
任意保険に加入する場合,いざという事故に備えて加入するのだから保険金を支払って欲しい,と言われても,契約外の不必要な損害金を支払えば,結果として,支出が多くなり,保険料も上げざるを得ない…ということにも繋がりますから,この判断は厳しくなされます。

まずは,一般的な傾向として,自分のようなケース,年齢,交通事故の被害対応の場合,どんな損害が認められそうなのか,知っておくことは重要です。

もっとも,一般的な傾向だけでは決まらない,個別の事情として,どのようなことが具体的に減額される理由となるのか,どのくらいの割合で減額されるのか,を知ることで,ご自身の事案で,減額されそうな事情がありそうかどうか,似ている事案ではどのように算定されているのかをイメージでき,公平の感覚も磨かれます。

今回は,具体的に損害額が減額されているケース,その減額されている割合などをお伝えしました。これを知ると,ご自身が思う「公平」「納得」のできる損害の計算額と裁判所考えている「公平」と思っている損害の計算額とのズレがあるかどうか,その意識ができるので,より裁判所が考える「公平」の感覚により近づき,結果の予測も,大きく外れにくくなると思います。

交通事故に遭って被害を受けた場合,どのような損害が認定されそうなのか,その予測をすることで,希望する損害の賠償が認められる可能性が少ない事案で徒労に終わる紛争を継続することによる,時間の無駄遣いや精神的負担の継続を避けられると思います。

交通事故の損害算定時の一般的な傾向の他に,具体的な事案を通じて,減額されるケースの内容,減額された具体的な理由知ることで,このまま紛争を継続して裁判になった場合の結果を予測しながら,それでも,自分の事案では事情が異なるから納得できないとして裁判を選択するのか,など決めていくことが重要だと思います。

細かな算定方法,裁判での手続きなどは分からなくても,大まかな流れやどんなことが裁判では問題になるのか,などが分かることで,自分の場合はどのような点を意識して交通事故後の手続きを進めたらいいのか,不安や不満を解消して,被害回復の回避,回復ために出来ることを知るヒントとなると思って,お伝えしています。

知っておくことで,最適な損害回復が出来る可能性が上がります。

また,「知識」知っておくことで,自ら「選択」して,万一加害者として交通事故を引き起こしてしまった場合にも,相手に十分な賠償金額を支払ったり,自分自身も十分な補償を受けられることに繋がります。

これからも,そのための「知識」についてお伝えできればと思います。

それでは,今回も最後まで読んでいただいてありがとうございました!!