多治見ききょう法律事務所

弁護士 木下 貴子 ブログ

交通事故で家事が出来ない,10歳代~80歳代までの損害算定の違い

交通事故で家事が出来ない,10歳代~80歳代までの損害算定の違い

今回も,引き続き,交通事故に遭った場合,被害者が家事従事者(主婦,主夫)である場合に,家事労働が損害としてどのように評価されているのか,最近の裁判例をご紹介しながら,問題になる点をお伝えします。

家事が出来ないことによる損害は,金銭に換算するのが難しそうですが,損害として認めてもらえるのでしょうか?
家事労働が一時的にできなくなった場合(休業損害),どのように計算され,どのような金額を請求できるのでしょうか?
今後も家事労働について継続的に支障が出る場合(逸失利益)どのように損害は計算され,どのような金額を請求できるのでしょうか?
年齢別に損害額の計算の仕方に傾向はあるのでしょうか?傾向があるとすると,理由は,なんでしょうか?

今回は,平成29年から令和3年までの裁判例(227件)で,被害者の家事労働を検討・評価しているものを分析して下さった結果から分かる年齢ごとの損害額について,交通事故で家事が出来ないことによる損害算定方法~年齢による違い・最近の傾向で記載した一般的な算定方法の基準を前提に,被害者の年齢ごとの具体的な傾向について,お伝えします。

1 10歳代~50歳代の傾向

①10歳代・20歳代

女性学歴計全年齢平均賃金(学歴,年齢を問わない女性全般の平均賃金)による算定が100%。減額されている事例なし。

②30歳代

女性学歴計全年齢平均賃金(学歴,年齢を問わない女性全般の平均賃金)で算定,割合による減額なし,が93%。
女性学歴計全年齢平均賃金(学歴,年齢を問わない女性全般の平均賃金)で算定,家事分担・支障の程度,割合によって減額されている事例3%。
女性学歴計「年齢別」平均賃金で算定,割合による減額なし,が3%。

③40歳代

女性学歴計全年齢平均賃金(学歴,年齢を問わない女性全般の平均賃金)で算定,割合による減額なし,が91%。
女性学歴計全年齢平均賃金(学歴,年齢を問わない女性全般の平均賃金)で算定,家事分担・支障の程度,割合によって減額されている事例4%。
女性学歴計「年齢別」平均賃金で算定,割合による減額なし,が2%。

④50歳代

女性学歴計全年齢平均賃金(学歴,年齢を問わない女性全般の平均賃金)で算定,割合による減額なし,が85%。
女性学歴計全年齢平均賃金(学歴,年齢を問わない女性全般の平均賃金)で算定,家事分担・支障の程度,割合によって減額されている事例5%。
女性学歴計「年齢別」平均賃金で算定,割合による減額なし,が2%。(その他5%)

10歳代~50歳代は,50歳代でやや減少するものの,女性学歴計全年齢平均賃金(学歴,年齢を問わない女性全般の平均賃金)で算定,割合による減額なし,で計算されていることが多い。

2 60歳代~80歳代の傾向

①60歳代

女性学歴計全年齢平均賃金(学歴,年齢を問わない女性全般の平均賃金)で算定,割合による減額なし,が28%。
女性学歴計全年齢平均賃金(学歴,年齢を問わない女性全般の平均賃金)で算定,家事分担・支障の程度,割合によって減額されている事例47%。
女性学歴計「年齢別」平均賃金で算定,割合による減額なし,が8%。(その他6%)

②70歳代

女性学歴計全年齢平均賃金(学歴,年齢を問わない女性全般の平均賃金)で算定,割合による減額なし,が12%。
女性学歴計全年齢平均賃金(学歴,年齢を問わない女性全般の平均賃金)で算定,家事分担・支障の程度,割合によって減額されている事例6%。
女性学歴計「年齢別」平均賃金で算定,割合による減額なし,が71%。
女性学歴計「年齢別」平均賃金で算定,家事分担・支障の程度,割合によって減額されている事例12%

③80歳代

女性学歴計全年齢平均賃金(学歴,年齢を問わない女性全般の平均賃金)で算定したもの,0%
女性学歴計「年齢別」平均賃金で算定,割合による減額なし,が27%。
女性学歴計「年齢別」平均賃金で算定,家事分担・支障の程度,割合によって減額されている事例64%

60歳代以降は,全年齢ではなく,年齢別の平均賃金で計算する事例が多くなり,さらに,70歳代,80歳代になると加えて割合による減額がされる傾向がみられます。

3 割合による減額がされている(割合認定)理由

割合による減額がされる理由は,おおむね以下のような点です。

  • ①被害者の病気等により家事労働能力の制限がもともとあった
  • ②他に家事を担う同居者がいるので,被害者の家事負担は少ない
  • ③高齢者(80歳代以降)は能力に個人差があるため,個別に減額したと思われるもの

年齢が高くなると,家事労働も他の仕事と同様に一般的には,若いころほどできなくなってくることを前提に,減額がされるのが公平と考えらえている,と思われます。
また,次回に,具体的にどのような理由で裁判所は減額しているのか,お伝えします。

まとめ 時代・個別事情と公平感のバランス

交通事故の場合は,多くは保険会社からの支払いになりますが,支払う側からすれば,正当な契約に基づく損害に限って支払いたいもの。
任意保険に加入する場合,いざという事故に備えて加入するのだから保険金を支払って欲しい,と言われても,契約外の不必要な損害金を支払えば,結果として,支出が多くなり,保険料も上げざるを得ない…ということにも繋がりますから,この判断は厳しくなされます。

交通事故に遭って被害を受けた場合,どのような損害が認定されそうなのか,その予測をすることで,希望する損害の賠償が認められる可能性が少ない事案で徒労に終わる紛争を継続することによる,時間の無駄遣いや精神的負担の継続を避けられると思います。

そのために,一般的な傾向として,自分のようなケース,年齢,交通事故の被害対応の場合,どんな方法で損害が計算され,どんな損害が認められそうなのか,知っておくことは重要です。

他方で,一般的な傾向が背景としている事情,なぜ,そのような算定方法を使っているのか,という「考え方」を知ることで,そのような事情,背景が違うご自身の事案では,違う損害額の算定が出来るのではないか,という「個別の事情」を,違いを踏まえた納得感のある損害を請求できることもあります。

今回は,年齢毎の損害算定の傾向についてお伝えしましたが,これは,以前は60歳で定年退職することが一般的であり,この地点を境に「家事」労働についての算定も切り替えるのが公平,と考えられてきたところもあると思います。

しかし今は,徐々に定年延長もなされ,定年後に再雇用の形などで60歳以降も働く元気な方々も増えているので,「時代」の傾向として,家事労働についても,60歳で急に算定方法を変えるのは,現実に沿わない,という点を伝えていくことも考えられますし,あなた自身は,当時実際に元気で,様々な家事労働をしていた,という「個別の事情」を伝えていくことも大事でしょう。

交通事故の損害算定時の一般的な傾向を知ることで,このまま紛争を継続して裁判になった場合の結果を予測しながら,それでも,自分の事案では事情が異なるから納得できないとして裁判を選択するのか,など決めていくことが重要だと思います。

家事労働の損害額の算定についても,その算定方法を採用した具体的な事情を知ることで,どんな点が問題になることがあるのかを知ることが出来るので,それを踏まえて対応を考えることができます。

細かな算定方法,裁判での手続きなどは分からなくても,大まかな流れやどんなことが裁判では問題になるのか,などが分かることで,自分の場合はどのような点を意識して交通事故後の手続きを進めたらいいのか,不安や不満を解消して,被害回復の回避,回復ために出来ることを知るヒントとなると思って,お伝えしています。

知っておくことで,最適な損害回復が出来る可能性が上がります。

また,「知識」知っておくことで,自ら「選択」して,万一加害者として交通事故を引き起こしてしまった場合にも,相手に十分な賠償金額を支払ったり,自分自身も十分な補償を受けられることに繋がります。

これからも,そのための「知識」についてお伝えできればと思います。

それでは,今回も最後まで読んでいただいてありがとうございました!!