多治見ききょう法律事務所

弁護士 木下 貴子 ブログ

労働組合との団体交渉の進め方・支配介入とならないための注意

労働組合との団体交渉の進め方・支配介入とならないための注意

いつも,読んでくださり,ありがとうございます。今回も,引続き,集団的労働関係(労働組合関係)として,労働組合との団体交渉についてお話します。

団体交渉に誠実に対応しない場合,法的には「不当労働行為」とされることがあります。
労働委員会が,使用者の行為が「不当労働行為」であると判断した場合には,救済命令を発することができ,この救済命令に従わない場合には,行政罰である過料や刑事罰(一年以下の禁錮もしくは100万円以下の罰金又はその両方)の対象となるので,「不当労働行為」となる対応を避けること,労働組合の団体交渉へ適切に対応することは,重要です。

また,例えば,裁判所によって,労働者の解雇が不利益取扱の不当労働行為であると認定され,確定した場合には,当該解雇は無効となります。
その他,不当労働行為に該当した場合,不法行為として,労働者や労働組合から損害賠償請求をされる対象ともなり得ます。

制裁の対象となる「不当労働行為」のうち,労働組合への「支配介入」とは何でしょうか?
「不当労働行為」とされないよう,労働組合の団体交渉に対して具体的にどのような交渉の進め方をしたらいいのでしょうか?
労働組合との団体交渉,介入が不当労働行為とならないように,注意すべき点は何でしょうか?

今回は,労働組合との団体交渉の具体的な進め方,労働組合へ支配介入をしないための注意点を見ていきたいと思います。

1 団体交渉の進め方

団体交渉の出席者,人数,交渉日時,場所などのルールについては,明確なルールがあるわけではありません。
労働組合の中には,結成通知と同時に,即時の交渉を求めてくることがありますが,これに応じる必要はありません。

また,徹夜やあまりにも長時間の団体交渉に応じる義務もなく,2時間程度で区切ることも合理性があるでしょう。
人数についても,会場の都合からある程度の制限の行うことも可能ですし,労使対等の原則から同数程度とすることも合理的でしょう。

「制裁対象となる労働組合の団体交渉への不当対応。不当労働行為とは?」でお伝えした,「誠実交渉義務」を果たしていると言えるように,社会通念上許容される範囲内で,場所,時間,交渉人数などを設定して,ルール作って進めれば良いです。

労働組合の交渉担当者については,労働組合法6条が「労働組合の代表者又は労働組合の委任を受けた者」が交渉権限をもつと規定されています。
この委任を受けることができる者の範囲について,制限はありません。そのため,他の組合の役員,弁護士,既に解雇された者などのいかなる者でもかまわないことになります。

外部の者が関与することを避けたい,ということであれば,労働協約(労働組合と使用者が行う取り決め,契約)で組合員委員以外の第三者に委任することを禁止する(または,委任した者(組合員に限る))という合意をすることも考えられるところです。労働協約の内容,実際の団体交渉の進め方については,弁護士に相談しながら進めるのが大事です。

2 不当労働行為について

労組法7条に規定される不当労働行為を行ってはならないこと,不当労働行為には,①不利益取扱い(1号),②団体交渉拒否(2号),③支配介入・経費援助(3号),④報復的不利益取扱い(4号)といった類型があることを「制裁対象となる労働組合の団体交渉への不当対応。不当労働行為とは?」で,前回お伝えしました。

今回は,③支配介入について少し考えてみます。
労働組合法7条3号によると,支配介入とは,「労働者が労働組合を結成し,若しくは運営することを支配し,若しくはこれに介入すること」と規定しています。

労働組合の「結成」に対する支配介入となり得る行為としては,組合結成のあからさまな非難,組合結成の中心的人物の解雇や配転,従業員への脱退や不加入の勧告や働きかけ,組合結成に対して親睦団体を結成させることなどが挙げられます。

労働組合の「運営」に対する支配介入となり得る行為としては,組合活動家の解雇や配転,正当な組合活動に対する妨害行為,組合に対する懐柔行為や組合切り崩し,別組合の結成援助や別組合の優遇などが挙げられます。

また,複数の労働組合がある場合,労働協約を締結した労働組合以外,他の労働組合と交渉しなくて良い,ということはありません。
時々,「A労組以外とは団交しない」という条項を労働協約で定めていることがありますが,(これを「唯一交渉団体条項」などと言います)が,この条項を理由として,他の労働組合への加入しないように使用者が働きかけたり,加入した労働組合との交渉を拒否することは出来ないので注意しましょう。

3 使用者の意見表明が支配介入となる場合

労働組合のあり方や活動に対する使用者の意見表明について,どういった場合に支配介入となるかというのは,非常に難しい問題です。なぜなら,使用者にも言論の自由があるからです。

この点については,現在の実務上は,①発言の内容,②それがなされた状況,③それが組合の運営や活動に与えた影響,④推認される使用者の意図などを総合して,支配介入の成否を具体的に判断するとされています。

会社代表者が,従業員とその父兄の集会において,労働組合が「連合会」に加入したことを非難し,脱退しなければ人員整理もあり得ると述べたことは,組合運営への明白な支配介入であるとしています(最判昭和29年5月28日,山岡内燃機事件)。

①労働組合の自主性に関する運営の方針について,②組合員多数の参加する集会において,③不利益の具体的内容を示唆していることから,④支配介入の意図があり,支配介入と認められるわけです。

郵便局長が,自宅で職員たちの懇談するなかで,組合の闘争活動を批判し,同席した課長補佐も当時結成準備中の別組合への加入を進めた行為について,確かにその公正さは疑われるが,使用者にも言論の自由があるので,支配介入には当たらないとしたものもある(最判昭和58年12月20日)

①労働組合の争議行為といった運営に関する事項ではあるけれども,②自宅における懇親会の中での発言であり,③組合の運営や活動に大きな影響を与えたものとはいえず,④局長の意見表明も保護されなければならない反面,支配介入の意図も認められないということでしょう。

他に,よく問題となるのは,組合のストライキの動きに対する使用者の意見表明です。

組合のストライキの動きに関しては,使用者側にも,事業運営についての意見や方針を表明して協力を求める自由がありますので,そのような表明・協力の要請はできます。
ただ,それを超えて,組合員を威嚇したり,動揺させたりするには至った場合には,支配介入となりますので,注意しましょう。

例えば,会社が経営危機に直面しており,その打開策を従業員に訴える中で,ストライキをやれば会社は潰れるなどと発言した事案について,不穏当な部分はあるが全体としては会社の率直な意見表明の域にとどまるとされたものがあります。

一方,会社が,団体交渉の決裂後,車両声明文を掲載してストライキに対する会社の重大な決意を表明したところ,ストライキ反対派の動きが強まり,ストライキの中断することが,やむなきに至った事案について,社長声明は組合執行部批判派を勇気づけスト頓挫をもたらした支配介入行為に当たると判断されたものも存在します。

4 対等に交渉できるライン~まとめ

雇用契約の「考え方」は,現在でも,会社,使用者の方が力を持ち,優位であることを前提に,力の弱い労働者,従業員が対等に交渉するには,団結し,「団体」として交渉することを保障しなければ,憲法上の権利として,労働者の権利が正当に守られないとして,労働者の権利として,「団結権」「団体交渉権」「団体行動権」の3つの権利を認めています。

時代によって,実際として,立場による「強さ」に変化はあると思いますが・・・
大きな意味では,この関係,「考え方」は,今後も変わらないかな,と思います。

そのため,友達同士の話合いのように,元々「対等」な関係であることを前提に話し合いを進めて行く場合と異なり,元々は労働者が力が弱いことを前提に考えられていることを意識して,どこまで使用者が意見表明をしても,「対等」に交渉できるラインを越えてしまわないのか,団体交渉の方法で,どこまで人数や場所などを限定しても,「対等」「誠実」な交渉と言えるラインの範囲なのか,を考えていくのが大切です。

法律上,団体交渉の申入れがあった場合,対応として何が求められていて,何は許されないのか,労働組合の結成や運営に,どこまでは使用者は意見表明をしていいのか,その希望が認められるのか,団体交渉や労働組合の運営への対応として,特に注意しないといけないのか,トラブルを回避するために法的にとりうる手段は何なのか,を知っておきましょう。

そうすることで,万一の時に,「こんなはずじゃなかった」というダメージの発生,トラブル発生のリスクを減らしつつ,より魅力的な会社として,職員が気持ちよく業務ができる会社になると思います。

もっとも,実際の現場での労働組合の内容,団体交渉時に生じる労働条件の交渉の内容,交渉方法などは,どれ一つ全く同じものはありません。
そのため,それぞれ個別に,どのような対応をするのが,「誠実交渉義務」を果たしたことになるのか,判断していくことになります。
労働組合の存在,今後の交渉などを予測し,労働協約の締結をすべきかどうか,文言をどうすべきか,なども,判断に迷う場合には,弁護士に相談しながら進めて行くことも大切だと思います。

今回も最後まで読んでいただいてありがとうございました!