多治見ききょう法律事務所

弁護士 木下 貴子 ブログ

制裁対象となる労働組合の団体交渉への不当対応。不当労働行為とは?

制裁対象となる労働組合の団体交渉への不当対応。不当労働行為とは?

いつも,読んでくださり,ありがとうございます。今回は,集団的労働関係(労働組合関係)についてお話します。

労働法の分野で集団的労働関係法はとても重要であり,かなりのウェイトを占めていますが,一般的にはなかなか馴染がないものだと思います。
しかし,ある日突然,労働者が組合に加入して,労働条件について,団体交渉が始まるということは,どの会社においても起こり得ることです。

団体交渉に誠実に対応しない場合,法的には「不当労働行為」とされることがあります。
労働委員会が,使用者の行為が「不当労働行為」であると判断した場合には,救済命令を発することができ,この救済命令に従わない場合には,行政罰である過料や刑事罰(一年以下の禁錮もしくは100万円以下の罰金又はその両方)の対象となるので,「不当労働行為」となる対応を避けること,労働組合の団体交渉へ適切に対応することは,重要です。

また,例えば,裁判所によって,労働者の解雇が不利益取扱の不当労働行為であると認定され,確定した場合には,当該解雇は無効となります。
その他,不当労働行為に該当した場合,不法行為として,労働者や労働組合から損害賠償請求をされる対象ともなり得ます。

制裁の対象,解雇無効の原因ともなる「不当労働行為」とは何でしょうか?
「不当労働行為」とされないよう,労働組合の団体交渉に対して,会社,経営者は,どのような「誠実」な交渉をする義務があるのでしょうか?
そもそも,「労働組合」とは何か?何のためにあるのでしょうか?

今回は,労働組合や団体交渉についての基本的な事項から見ていきたいと思います。

1 労働組合とは

労働組合は,憲法28条を根拠とする団体であり,労働組合法は,その結成や運営に関する事項を規定しています。
労働組合は,一般的に労働三権と言われる,①団結権(組合を組織して団結すること),②団体交渉権(企業と団体として交渉する権利),③団体行動権(争議行為=ストライキ)を行うものです。

労働組合の種類について,大きく分けると,①企業内組合(一般的な形態),②産業別・職業別組合(同一産業・職業ごとに横断的に組織される組合),③合同労組(特定地域において企業・産業にかかわりなく多様な労働者が加入する組合),④ナショナルセンター(労働組合の全国中央組織)に分けられます。
企業の垣根を越えた労働者で結成される労働組合,「企業外組合」は,「ユニオン」と言われます。

2 団体交渉への対応

(1)義務的団交事項と任意的団交事項を意識する

団体交渉とは,労働組合が使用者と対等な立場で交渉を行い,労働条件の維持改善を確立する行為であり,組合の存立を左右する重要な行為ですが,何でも団体交渉として取り上げればよいのではありません。

対象事項は,団体交渉に応じる法的義務が生じる「義務的団交事項」と,任意に団体交渉のテーマとして取り上げるに過ぎない「任意的団交事項」とを分けて考える必要があります。
「義務的団交事項」について団交拒否することは不当労働行為となるため,ここはしっかりと意識する必要があります。

「義務的団交事項」とは,①団体交渉を申し入れた労働組合の組合員の労働条件その他の待遇,または②労働組合と使用者との団体的労使関係の運営に関する事項であって,③使用者に処分可能なもの,と解されています。

①団体交渉を申し入れた労働組合の組合員の労働条件その他の待遇

組合員の労働条件であれば,広く義務的団交事項に当たるということであり,賃金,労働時間,休暇,安全衛生,災害補償,職業訓練などが含まれます。
個々の組合員の人事に関する事項も,組合員の労働条件などに影響を与えるので義務的団交事項となります(東京高判昭和57年10月7日)。
また,非組合員(例えばパートタイマー)の処遇変更が結果的に組合員に影響する場合も義務的団交事項に当たり得ます。

組合員の配転,懲戒,解雇なと゛の人事の基準や手続についても労働者の労働条件に該当します。
労働者を解雇した場合,解雇された元労働者(従業員)から,解雇無効に関する団体交渉が申し込まれたような場合,既に従業員ではないこと,「労働者」ではないことを理由に,その者の解雇に関する事項は,「義務的団交事項」には該当しないとして,団体交渉を拒否してしまう,という事があります。

しかし,このような場合も,当該労働者(従業員)は解雇という重大な労働条件を問題として団体交渉を求めていることになり,義務的団交事項に該当すると考えられますので,注意しましょう。

他方,経営戦略や生産方法の決定に関する要求など,労働者の労働条件に関係しないものは,除かれます。

②労働組合と使用者との団体的労使関係の運営に関する事項

例えば,組合事務所・掲示板の貸与,団体交渉の手続,争議行為の手続などが該当します。

③使用者に処分可能なもの

例えば,使用者に処分不可能な事項は対象とならないということです。
自社で決められない他者に決定権がある労働条件などが当たり得ます。派遣労働者の労働条件などでは,問題になり得ます。

(2) 不当労働行為をしない

労組法7条に規定される不当労働行為を行ってはなりませんので,まずは,どのような行為が不当労働行為に該当するかを理解しておかなければなりません。
この場合には,司法救済のみならず,労働員会による救済命令等がなされることになります。

① 不利益取扱い(1号)

労働者が,労働組合の組合員であること,労働組合に加入しようとしたこと,労働組合を結成しようとしたこと,労働組合の正当な行為をしたことを理由に,労働者に対して,使用者が,解雇・懲戒解雇,配置転換,賃金・昇進等の差別,嫌がらせ,組合員と非組合員を差別することが該当します。

② 団体交渉拒否(2号)

使用者が,労働組合と団体交渉することを正当な理由もなく拒否すること,です。

また,この7条2号から,「誠実交渉義務」が導かれます。
どのような対応が「誠実」な交渉と言えるのか,の判断が難しいところですので,詳しくは3でお話します。

③ 支配介入(3号)

会社側が,労働組合の結成や運営に支配・介入することはできません。
具体的には,非組合員に対して組合に入らないよう働きかけたり,組合員に対して脱退を要請するなどして妨害することはできません。

④ 報復的不利益取扱い(4号)

労働者が,不当労働行為の申立てをしたこと,労働委員会に証拠を提示したり発言したことを理由に,会社側が,その労働者を解雇したり不利益な取扱いをすることが該当します。

3 誠実交渉義務とは

労組法7条2号は,「使用者が雇用する労働者の代表者と団体交渉をすることを正当な理由がなくて拒むこと」を不当労働行為として禁止しています。
したがって,使用者は,団体交渉に応じなければなりません。それだけでなく,使用者には,誠実に団体交渉に応じることも求められています。

使用者は,組合の要求や主張を聞くだけでなく,それに対し,その具体性や追求の程度に応じた回答や主張をなし,必要によっては,それらにつき論拠を示したり必要な資料を提示すなどして誠実に対応し,合意達成の可能性を模索しなければなりません(カールツァイス事件・東京地判平成元年9月22日)。

例えば,合意達成の意思のないことを最初から明確にした交渉態度や,実際上交渉権限のない者による見せかけのだけの団体交渉,拒否回答や一般論に終始して実質的検討に入ろうとしない交渉態度,組合の要求や主張に対する回答・説明・資料提示などの具体的対応の不足は,誠実交渉義務違反となります。

もっとも,誠実交渉義務は,妥結まで強制するものではなく,労使双方が議題につき自己の提案・議題・説明を出尽くし,これ以上交渉を重ねても進展の見込みがない段階に至った場合の使用者の団体交渉打ち切りは,義務違反になりません(池田電器事件・最判平成4年2月14日)。

法の趣旨,「考え方」を知る~まとめ

雇用契約の「考え方」は,現在でも,会社,使用者,経営者の方が力を持ち,優位であることを前提に,力の弱い労働者,従業員が対等に交渉するには,団結し,「団体」として交渉することを保障しなければ,労働者の権利が正当に守られないとして,労働者の権利として,憲法上も「団結権」「団体交渉権」「団体行動権」の3つの権利を認めています。

時代によって,実際として,立場による「強さ」に変化はあると思いますが・・・
大きな意味では,この関係,「考え方」は,今後もなかなか変わらないかな,と思います。

そのために,まずは,労働組合はなぜあるのか,団体交渉はなぜなされるのか,なぜ,団体交渉に誠実に対応しないと,不当労働行為とされるのか,など,憲法でこれらの権利が定められている趣旨,労働法が制定されている趣旨,基本的な「考え方」を知ることで,安易な判断によって,不当労働行為をしてしまうことによる制裁や損害賠償義務を負う事を避けることが出来ます。

その意味で,まずは,今回お伝えした法の趣旨,「考え方」を知っておくことが,大きな判断の間違いを避けるために重要です。

法律上,団体交渉の申入れがあった場合,対応として会社は何が求められていて,何は許されないのか,対応を間違えると,どんな損害が生じる可能性があるのか,被害が生じた場合にどんな賠償責任があり得るのか,団体交渉の対応として,特に注意しないといけないのか,トラブルを回避するために法的にとりうる手段は何なのか,を知っておきましょう。

そうすることで,万一の時に,「こんなはずじゃなかった」というダメージの発生,トラブル発生のリスクを減らしつつ,より魅力的な会社として,職員が気持ちよく業務ができる会社になると思います。

もっとも,実際の現場で団体交渉時に生じる労働条件の交渉の内容,交渉方法などは,どれ一つ全く同じものはありません。
そのため,それぞれ個別の事案で,今回は実際にどのような対応をするのが,「誠実交渉義務」を果たしたことになるのか,判断していくことになります。
判断に迷う場合には,弁護士に相談しながら進めて行くことも大切だと思います。

次回は,もう少し具体的に,団体交渉の実際の進め方について,補足してお話したいと思います。

今回も最後まで読んでいただいてありがとうございました!