多治見ききょう法律事務所

弁護士 木下 貴子 ブログ

自殺の多い日本,幸せで世界に通じる大人になるのに必要なスキルは?

自殺の多い日本,幸せで世界に通じる大人になるのに必要なスキルは?

いつも読んでいただき,ありがとうございます。今回は,教育委員として,岐阜県市町村教育委員連合会の研究総会に参加した際「社会の変化と教育~自律と対話」というテーマで話して下さった工藤勇一先生(元公立学校教諭・元千代田区麹町中学校校長・現横浜創英中学・高等学校校長で「学校の『当たり前』をやめた」などの多くの書籍の著者でもある)の講演内容から,大きく変わっている社会の中で,世界の子ども達と比べて,日本の子どもたちにとって大きな課題なのは何か,そのために身に着けるべきスキルは何か,どのような教育がなされるべきか,について,気づいたことをシェアします。

未来でも,日本人が生き残っていくために必要なスキルは?
自殺の多い日本。その理由と,改善のために教育で出来ることは?
子ども達に必要なスキルを身に着けてもらうためにかけるべき言葉は?
私たち親,教育に関わるものは,21世紀を生きる子どもたちのために何を意識していけばいいのか?

について,3つ気づいたことをお伝えします(私なりの解釈です!)。

1 主体者・当事者意識

先生が悪い,社会が悪い,政治が悪い…
何か問題があった場合に,つい,他のもの(環境),他の人のせいにしてしまう。これは,主体者意識がないから。

平成元年の頃は,日本企業が世界のトップ企業として上位20社に何社も入っていたけれど,今は20社以内には一つもない。50社以内にトヨタ一つだけが入っている。
マクドナルドのビックマックの価格も,2000年は5位だったのに,2022年7月では41位の低価格になってしまっている。
日本は賃金も物価も安い国となってしまっていて,日本に稼ぎに来る外国人への魅力も無くなってしまう・・
日本企業がこれほど世界の成長から置いて行かれてしまったのはなぜなのか・・・?

これは,日本人の「自己決定する力」の欠如にある。

以前は,人口が大きく増えている時代があって,このときには,他の人の上手く成功している方法を「まね」ればよかった。
しかし,日本が今迎えている人口激減社会では,人の「まね」では上手くいかない。意識の変革が必要。
どうしたら「人の役に立つのか」「社会の役に立つのか」自分で考える力が大事。

日本人は,「自分を大人だと思う」,「自分は責任がある社会の一員だと思う」,「自分で国や社会を変えられると思う」,と考える割合が,他の国と比べて著しく低い。(日本財団 社会や国に対する意識調査,インド・インドネシア・韓国・ベトナム・中国イギリス・アメリカ・ドイツ・日本の各国の17歳~19歳男女対象調査)
日本人は,他の諸外国と比べて,幼い,大人になっていない。誰かが決めてくれるのを待っている,上手く決めてくれない他者が悪い,と思いがちなのかな,と改めて思いました。

そして,それは「教育」方法によるところも大きい…

教育の目的は,学力やスポーツの成績で評価されることそのものではなくて,世の中で生きていくことが出来るようにすること。
成績を伸ばすことは,そのための「手段」のはずなのに,成績を伸ばして評価されること自体が「目的」になっている。
日本の教育は,15歳までの学力としては最近でも世界トップなのだけれど,高校,大学になった場合,世界での評価は大きく下がってしまう。

今の教育は,「手段の目的化」が最大の課題。このままの教育だと,本来の目的の世の中で生きていくためのスキルが身につかない。
社会の変化の中で生き抜くためには,当事者意識をもって,主体的に決定していける力が必要…ということかな,と理解しました。

社会が悪い,あの人が悪い,って言っていても,それを直接変えることは出来ないのだから,自分で自分の環境は変えていくことが出来る,そのためにどうしたらいいか,自分が「当事者」として主体的に,楽しく取り組んでくれたら親としても嬉しい。
この教育が目指す「目的」をいつも忘れないようにして,「手段」をどうしたらいいのか,考えていきたいな,と思いました。
みなさんは,自分の子ども達がどのような大人になって欲しいですか?日本がどのような国になっていったら良いと思いますか?

2 自己決定の機会を増やす

これからの時代を生きぬくために子どもに必要とされる教育・身に着けるべきスキルは?主体的・対話的で深い学び~アクティブラーニングでも,紹介されていた内容と共通しますが,主体者,当事者意識を持つには,「主体的」な学びが大切。
自己決定の機会を増やすことが大切,と理解しました。

手をかけるほど生徒は「自律」出来なくなる。やめなさい,という声掛けは,自分で行動する力を弱くする,出来ないことを環境のせいにするようになる。
自分が上手くいかないことを誰かのせいにするようになる。与え続ける教育はダメ。

最近はよく問題として取り上げられるようになったと感じる日本の自殺者の多さ。先進国では群を抜いて多い。
1位のロシアを次いでワースト2位とのこと。

これもなぜなのか・・?と考えると,やっぱり,主体性を失っているから。
何もできない,と感じる自分も他人も嫌になり,不幸な気持ちになる。

でも,自分で決定することで,変えていくことが出来るという経験を子どもの頃にできたら,自分の力を信じられる。
自己肯定感に繋がり,自殺者の減少にもつながるのでは・・ということだと思いました。

具体的な機会としては,①学び方を選べる,②学校経営に関わる,場面。

①数学では,Qubena(キュビナ)を使って,個別最適な学習をしていて,寺子屋のように自分にあった学び方が選べる,という紹介があった。
ノートの取り方も,手書きが難しい子には,タブレットでのまとめを許可したら,とても分かりやすいまとめノートを取れるようになった。
②修学旅行の行き先を自分たちで旅行会社と話をしながら生徒たちが決めていく,という紹介もあった。

そして,日常「自己決定する力」を伸ばすには,声掛けも大事。
「どうしたの?」「君はどうしたいの?」「何を支援してほしいの(何か手伝えることある?」と尋ねてみる。

脳科学的には,「心的安全性」がとても大切で,これがないと思考が停止し,不適切な行動を止められなくなる。
なので,ADHDの子などの行動に,どなって行動を規制するほど「心的安定性」が害され,行動を止められなくなる。

走り回る子どもに,「こら~走り回るな!戻れ!」というのではなくて,「どうしたの?」と尋ねて,何が起きたのかを聞いたら,「どうしたいの?教室戻りたい?」などと尋ねて,「もし難しいなら,別室を用意することは出来るけどどうする?」と支援の提案をして,決めてもらう。
自分で決められた,と感じて,自分で環境をよくできた,という実感が出来ると自己肯定感も上がる。
自分がどう思っているのか?気づけて,どうしたらいいのか?を次第に考えられるようになる。ありのままの自分の「トリセツ」を自分で作る。

みなさんは,お子さんが望ましくない行動をしたとき,どんな声掛けをしていますか?
私は,以前は,「やめて!」とすぐに行動を規制しがちだった気がしますが,少しずつ,声掛けを変えられてきた気がします。
自殺したりしないためにも,自分で自分の環境や世界は変えられる,と信じられる機会,「自己決定」の機会を親としても,教育委員として教育に関わる立場としても意識して伝えていきたいなと思いました。

3 対立を対話的に解決する

これからの時代を生きぬくために子どもに必要とされる教育・身に着けるべきスキルは?主体的・対話的で深い学び~アクティブラーニングでも,ご紹介しましたが,未来を生き抜く力を育てるために必要な学び方とされる「対話的な学び」。
この「対話」を通じて,課題を解決することで,みんな違っていることを全体に,当事者意識をもって解決出来るようになる。

日本人,日本の教育は,これまで対立,トラブルも思いやりの心で解決,という感じ。「心」を大事にする。これは,世界では通用しない。
でも,対立することを怖れない覚悟がいる。それを「対話」で解決する「スキル」を身に着けることの方が大事。

例えば,生徒AとBが喧嘩をしたら,先生が間に入る場面。
Aに聞くと,Bは,いきなり殴ってきたからやり返しただけ。いつも自分勝手で言うことを聞かない。
Bに聞くと,いつもAは小突いてきて嫌だからやり返しただけ。

Aの親は,Aはやり返しただけで悪くない。Bを出席停止にして,などと要望。
Bの親は,Aはいつも問題行動がある。別のクラスに移動して,などと要望。

これは,「いじめ」として最近問題としても,私自身も,弁護士として対応について相談される場面でもあります。

こういうとき,法的にどういう責任があって,法的な対応をどうすべきか,は弁護士としてお話しできるのだけれど,それで,学校現場,子ども達の学び環境が直ちによくなることに繋がらないな…と思っていました。

こういうとき,とりあえず,それぞれに謝らせて終わらせる,というのは間違い,とのこと。
それぞれが,納得いかないまま不満を持ち,親には逆切れされてしまうことも。当事者意識を生まない指導は逆恨みされることさえある。

ではどうしたらいいか?

「利害」に注目をして,AとBがどうしたいか?それぞれを聞く。
「これからA君とどうしたいの?」と聞いてみて,「平和に過ごしていきたい」という答えが得られたら,
「それならどうしたらよさそう?」と聞いてみて,子ども達が自分で主体的に相手と「対話」をして,解決することを選択できるように声掛けをする。

よく言われる「みんな仲良く」は無理。仲よくするのは難しいよね,でも,仲よくできたら素敵だね,というスタンスで。
多数決は,マイノリティ(少数派)の意見を切り捨てることを気付かせることも大事。

A案,B案でどちらでも,みんながいいというなら多数決でもいいけれど,誰か困る人がいるならC案を考える考え方。
例えば,学園祭でダンスをしたい人8割,劇をしたい人2割のとき,多数決でダンス,にしてしまうのではなくて,運動が苦手で恥ずかしい思いをするのはつらい,と思っている人がいるのなら,例えばミュージカルで,どちらも得意な人がそれぞれできそうなものを考える,というような発想。

みなさんの家庭や職場では,トラブルや問題があったとき,「対話」で解決をしていますか?
私の場合,夫は,私が冷静に話している限りは,話を聞いてくれるので,次の日まで紛争を持ち越したくない,こんまりさんと旦那さんの川原さんが言っていた「ときめく」生活をするには,翌日に喧嘩のもやもや感を残したくないので,「対話」することをお願いしています。
相手が職場の部下の場合でも,配偶者の場合でも,子どもの場合でも,自分より知識がない,未熟だと思っていると,特に,自分の意見が正しい,として,「○○でしょ!」と決めつけがち(これは私ですが・・)対話させてもらえないと,相手に不満をもって,果ては嫌いになり,離れたくなったり,恨んでしまいそうなので,安心して「対話」をしてもらえる能力も磨いていきたいとあらためて,思いました~~

まとめ 幸せな人生を切り拓ける人

みなさんは,自分たちのお子さんがどんな大人になって,どんな生き方をして欲しいと思いますか?
日本に,どんな大人が増えたら,望ましいと思いますか?

以前,塾の講師の先生が親に聞いてみたとき・・・

ちゃんと自立して,生活できるようになってほしい,ということ。

勉強して欲しい,いわゆる「いい学校」に行って欲しい,というのも,本当は「手段」で,そうすれば望むような生活を子どもがしてくれること。
じゃあ,なぜ自立して生活できるようになってほしいか…というと,やっぱり,それは子どもに「幸せ」になって欲しいから,ということにいきつく,という話をきいた。

私もやっぱり,子ども達には,生きていて幸せ,と思える人生を過ごしてほしい。

そして,今回の工藤先生のお話を聞いて,そのためには幸せが誰かから降りそそぐのを待っているのではなくて,主体的に当事者として,自分で決めて切り拓く力を身に着けるのが大事かなと思いました。

オックスフォード大学などの調査結果では今後10〜20年の間で約半数の仕事が消える可能性がある,とのこと。

こういう社会の変化が激しい時代に,何が幸せにつながるのか,前例をそのまま使うことは出来ない。
そうすると,今までのように誰かから言われたことをして,指示を待って,誰かのまねをするだけだと,幸せな人生を切り拓くのは限界があるのかな,と思いました。

実際には,今安心安全に暮らせること自体,大きな幸せで当たり前のことではないことに気づくことも大事だと思うし,どんな生徒も,誰もがいきなり「自己決定」をする,というのは難しいと思うから,安心して何でも言っていいんだよ,ということを伝えつつ,決めるための支援を先生方や親,周りの大人が続けていくことも,とても大切だと思う。

それを繰り返しながら,何か課題があって,もっとこうなったらいいな,と思ったら,そのための方法を自分で考えて,他者と「対話」を通じて対立を乗り越えたり,協力をしたりしながら,より良いと思う方向へ向かっていける力を子ども達がつけてほしい,と改めて思いました。

そのために私も,今回教えてもらった「手段の目的化をしない」という意識,「考え方」を子どもたちも出来るよう,親としても気をつけていきたいなと思います。
なぜ,これを学ぶのか,どうしてこの方法で学ぶのか,やっぱり,最終的には,幸せな人生を生きるため,自信と生きる力に繋がる自己決定できる人になるため,そのために,この「手段」でいいのか,という視点をいつも持っていようと思いました。

ただ,何でも自分で主体的に解決する!が行き過ぎると,人がトラブルにあっている場合(もめている場合)にまで,自分が何とかしなきゃ!と主体的に仲裁しようとしてしまいそう。
でも,そうではなくて,あのトラブルは,あの当事者の二人が主体的に解決していくこと,私が解決することではない,という意識で,どのような主体的な解決の支援を自分が出来るのか,ということを考えるのが大事なんだなと思いました。

工藤先生の話にそのまま当てはまらない事例もあるし,実際に,現場ではどうしたらいいのか,難しい場面ももちろんあると思いますが,少しずつでも,子供が何かの場面で決定できる場面,「対話」によって課題を解決できる場面を作ってもらえるといいな,そのために私も先生方にも伝えていきたい,と思いました。
学校の組織運営でも,最も大切にする最上位目標を生徒や教員,親など関係者全員で納得した上で,共有して,そこにいつも戻ってくる,という話もされていて,組織運営においても,「目的」の設定と共有化がとても大切だと思いました。

それでは,

このブログを読んで下さったお父さん,お母さん,学校の先生方など教育に関わる方々がどうしたら,未来の社会でも役に立つ人となるための学び,スキルを身に着けることが出来るのかとなるのか,ワクワク楽しみながら,考えるヒントとなりますように・・・

事業主の皆様は,未来を担う子供たちに自分たちが教えてあげられることは何なのか?仕事としては,どのようにしたら異なる意見を活かしつつ,対立を克服しながらら,今はまだないような革新的なアイディアを協力しながら実現できるチーム作りが出来るのか?を考えるヒントとなりますように…

今回も最後まで読んで下さって,ありがとうございました!