
今回は,交通事故によって複数の後遺障害,介護も必要とする後遺障害が生じてしまった場面を具体的に想定して,その後どのように損害賠償をしていくのか,特に後遺障害の「慰謝料」の金額の決まり方について,まず,保険会社からどんな提案があるのか,それが適切な損害賠償金額なのかどう判断したらいいのか,注意点や問題になる点をお伝えします。
交通事故によって複数の後遺障害が残った場合,慰謝料金額はどのように決まる?
保険会社から交通事故後による後遺障害の慰謝料金額の提案があった場合に,注意すべきポイントは?
介護が必要な後遺障害がある場合,本人以外にも慰謝料は認められる?金額は?
今回は,交通事故によって随時介護を要する後遺障害と外貌に相当程度の醜状が残る後遺障害が生じた場合を想定して,どのように慰謝料金額が計算され,どんな流れで実際に慰謝料金額が相当か判断するのか,適切な慰謝料金額を請求するための注意点などについて,お伝えします。
1 後遺障害等級と慰謝料算定根拠の確認
まず,最初に確認することは,「後遺障害等級」です。
保険会社が後遺障害慰謝料という費目を提示して,示談金を提案しているということは,自賠責保険の後遺障害認定があるということになります。
そのため,認定された「後遺障害等級」が何級の何号だったかの確認をします。
今回のケースでは,事故で脳に重篤な損傷を受け,「随時介護を要するもの」として別表第1の2級2号,の他「外貌に相当程度の醜状を残すもの」として別表第2の9級16号が認定されたとして,考えていきましょう。
このとき保険会社から提示された慰謝料金額は,1203万円は妥当なのでしょうか?
保険会社の提示した慰謝料算定根拠は何か?その確認から始めます。
そうすると,この金額は「自賠責保険」から損害賠償を受ける場合(2級の後遺障害がある場合)の損害の算定方法(自賠責基準)で算定したことが分かります。
今回は2級の後遺障害の他,9級の後遺障害も認定されていますが,この「2級」の自賠責保険から支払われる基準金額が,慰謝料として相当な金額なのでしょうか?
2 複数の後遺障害がある場合の慰謝料金額
このような2種類の後遺障害がある場合の慰謝料額が相当(適正)な金額かどうかを判断するための重要なポイントは3点です。
①自賠責基準ではなく,いわゆる裁判基準(弁護士基準)で請求できる
「交通事故による頸椎捻挫の慰謝料金額は?計算方法と請求の流れ」でも記載した通り,保険会社の提案する金額は,自賠責基準で算定していることが多く,この金額は最低限の補償をする金額であって,実際に裁判になった場合に認められる適正な金額より低くなっています。
そして,
②2種類の後遺障害を併合して第1級の金額に準じた慰謝料金額が請求出来る
一般的には,2種類の後遺障害がある場合,「併合」というルールで,併せて何級に繰り上げる,という自賠責保険の取り扱いがあります。
そのため,「併合」があるケースでは,併合後の等級に応じた「裁判基準」での慰謝料金額が相当額,ということになります。
しかし,今回のケースのように,別表第1(介護が必要な後遺障害)と第2(介護の必要のない後遺障害)の2種類の後遺障害がある場合,実は「併合」による等級の繰上げがない,という取り扱いになっています。
それでは,このような場合,どのような慰謝料金額が「相当」と考えられるのでしょうか?
「裁判基準」で別表第1の2級(2370万円),別表第2の9級(690万円)をそれぞれ(合計3060万円)請求できるのでしょうか?
さすがに,この金額となると,最も重いと考えられている後遺障害1級の慰謝料相当額とされる2800万円を越えてしまうので,第1級の金額(2800万円)に準じて請求できると考えられています。
自賠責保険で別表第1と別表第2にそれぞれ該当する後遺障害がある場合に,「併合」による等級の繰り上げを行わない扱いをしている理由が,この場合に,重い方の後遺障害だけの慰謝料を認めればよいと考えているわけではなくて,あくまで自賠責保険の支払い限度額があるからの扱いに過ぎない,ということを念頭に,任意保険会社との支払いの場合や裁判所での認定される慰謝料額とは関係ないものであることを,任意保険会社との交渉段階では,よく説明する必要があります。
③個別の増額事情を検討
青本・赤い本では,被害者本人の後遺障害慰謝料について,基準が掲載されているので,弁護士としては,これらの基準を参考に慰謝料金額の主張をします。
加害者の悪質性(飲酒・無免許・ひき逃げなど)が高い場合や,被害者の精神的苦痛の大きさ(若いのに将来を絶たれた,介護負担の重さ)が大きい,後遺障害の内容の重さなどによって増額が考えられるところです。
しかし,不貞行為の慰謝料などもそうなのですが,本来はそれぞれ個別の事案ごとに内容は異なるので,慰謝料の基準に絶対的なものはありません。
任意保険会社との交渉段階ではなかなか,一般的な基準金額以上の増額は難しいことが多いですが,人間の尊厳にも関わる介護や見守り(いわゆる下の世話)が必要となった場合や,遺失利益では評価し切れない職業,趣味などの生き甲斐を断念させられていた場合などは,その点も丁寧に本人や家族から事情を聞きとって,意見を汲み取って進めることも大事だと思います。
3 家族固有の慰謝料
今回のケースは,随時介護を要する重篤な後遺障害があるため,被害者本人だけでなく,「家族固有の慰謝料」を請求することも可能です。
家族固有の慰謝料は,青本(「交通事故損害額算定基準」日弁連交通事故相談センター本部編)・赤い本(公益財団法人日弁連交通事故相談センター東京支部発行「民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準 上巻(基準編)」)共に,(死亡慰謝料と異なり)本人の後遺障害慰謝料とは別で請求出来るとされています。
この場合,家族固有の慰謝料は,どのように算定されるのでしょうか?
明確な基準はないですが,事例をみてみると,夫に300万円,子に各50万円が認められている裁判例があり,状況によってもちろん一律ではないですが,200~400万円程度が相場かなと思います。
青本・赤い本と緑本(大阪地裁交通部における交通事故慰謝料算定基準である大阪基準)では,家族固有の慰謝料の取り扱いが異なっているので,どの資料を基に主張していくのか,も注意が必要です。
まとめ 慰謝料の目的
「慰謝料支払え!」これは,交通事故事案以外でも,時々使われる言葉です。
なぜ,法律的に「慰謝料」を請求できるのでしょうか?
「慰謝料」はどんな目的で支払われるのでしょうか?
慰謝料とは,不法行為(交通事故,不貞行為,暴力など)によって受けた精神的苦痛(心の痛み)を金銭で賠償する損害賠償金のことです。
民法709条では,「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は,これによって生じた損害を賠償する責任を負う」と定めているため,不法行為によって他人の権利を侵害した人(加害者)は,損害賠償責任があり,損害賠償金を支払う必要があります。
この「損害」は車の修理代などの経済的な損害以外にも,交通事故による後遺障害による今後の不安や生活の不便を強いられる苦しみなど,金銭では評価しにくい「心の損害」があり,これを回復する(慰謝する)目的があります。
「心の損害」について,どれくらいのお金をもらったら回復できるのか・・?
そもそもお金をもらっても回復などできないのではないか・・?
と疑問もあるところだと思いますが,金銭以外での賠償は困難のため,このような取り扱いになっている,と思ってもらえたらいいかなと思います。
そのため,本当は個々の事案や被害者の特性・性格などによって回復に必要な慰謝料金額は違うと思いますが,それでは解決が困難なため,また類型的には多い交通事故事案で,被害者の特性によって慰謝料金額があまりに異なるのは「不公平」「不平等」となりますので,一定の基準を使って裁判所が判断している,というところになります。
とはいえ!やはり,それぞれの事案は個々で異なりますので,後遺障害等級○級だから,慰謝料はこの金額になるとしてしまわず,その人の個別の事情についても大切にしていきたいと思っています。
もっとも,「相場」を知りながら,見通しをもって行動をすることは大切なので・・
これからも,一般的な「相場」「基準」と共に,個別の事情をどの場面でどのように取り入れていけばいいのか,少しでも分かりやすい言葉で,伝えていけたらと思います。
交通事故の場合は,多くは保険会社からの支払いになりますが,支払う側からすれば,正当な契約に基づく損害に限って支払いたいもの。
任意保険に加入する場合,いざという事故に備えて加入するのだから保険金を支払って欲しい,と言われても,契約外の不必要な損害金を支払えば,結果として,支出が多くなり,保険料も上げざるを得ない…ということにも繋がりますから,この判断は厳しくなされます。
裁判所がどのように考えているか・・を知らないと,思ったような損害が認められないことに苦しい思いをされてしまうのではないかと思いますので,裁判所の「考え方」,損害算定方法の傾向を知っておくことは大切です。
細かな算定方法,裁判での手続きなどは分からなくても,大まかな流れやどんなことが裁判では問題になるのか,などが分かることで,自分の場合はどのような点を意識して交通事故後の手続きを進めたらいいのか,不安や不満を解消して,被害回復の回避,回復ために出来ることを知るヒントとなると思うので,これからもお伝えしたいと思います。
知っておくことで,最適な損害回復が出来る可能性が上がります。
また,「知識」を得ることで,自ら「選択」して,万一加害者として交通事故を引き起こしてしまった場合にも,相手に十分な賠償金額を支払ったり,自分自身も十分な補償を受けられることに繋がります。
これからも,そのための「知識」についてお伝えできればと思います。
それでは,今回も最後まで読んでいただいてありがとうございました!