多治見ききょう法律事務所

弁護士 木下 貴子 ブログ

有期雇用契約の雇止めの有効性と無期転換ルール

有期雇用契約の雇止めの有効性と無期転換ルール

いつも,読んでくださり,ありがとうございます。今回は,「無期労働契約への転換と定年~就業規則見直し」「非正規雇用労働者(パート,嘱託,臨時職員)を雇う場合の注意点」などで,何度かお伝えしてきた有期雇用契約の終了(雇止め)についてお伝えします♪

労働契約が終了する場面は,やはり,トラブルになりやすく,「解雇」と同様に,労働者が希望しても,一方的に雇用契約(労働契約)が終了してしまう「雇止め」については,トラブルが生じやすく,注意が必要です(「雇用契約」は民法上使われる用語,「労働契約」は,労働関係諸法規で用いられる用語ですが,判例上は厳格な区別をしていないと思われる状況なので,今回は,より一般的な用語と思われる「雇用契約」を使います)。

この「雇止め」を考える前段階として,有期雇用契約の無期雇用契約への転換(無期転換ルール)についても,お話します。

会社運営をしていく中で,会社にとって利益とならない従業員(労働者)を雇用する意味はないので,適切に退職してもらうことで,業績を上げることは重要です。
しかし,労働者は現在の職を失い,収入も失うことになりますから,とても,労働者にとって影響も大きく,法的なトラブルになることも大きい場面です。

不適切な方法で「雇止め」が行われれば,無効となり,業務の円滑な執行の妨げになり得ると共に,違法行為として,労働者から経営者,会社が損害賠償請求を受けることになり得ます。
「雇止め」が無効となれば,そのまま労働者としての地位があることを前提に,支払われなかった給与を一度に請求されることにもなり得ます。

どのような場合に「雇止め」は適法,有効となるのでしょうか?
有期雇用契約の場合,どのような場合に無期雇用契約に転換されるのでしょうか?
有期雇用契約から,無期雇用契約に転換をされないようにしたい場合,注意することは,何でしょうか?

無期転換のルールが施行されてからしばらく経ちますが,以前は,有期雇用契約を続けながら,労働者の勤務状況を見て,もし,可能ならそのまますべての職員に働き続けてほしい,という気持ちで契約をしていたけれど,企業の状況などもあり,全ての労働者が無期転換(≒正社員化)をすると事業が成り立ちえないので,原則的には,何度か有期雇用契約を続けたとしても,ある一定期間で雇用契約を終了させることを前提にしたい,と言われることもあります。

そこで,今回は改めて,無期転換のルールについて振り返って,考えてみます。

1 無期転換ルールについて

平成25年4月1日施行の労働契約法改正により,無期転換ルールが法定されました。
無期転換ルールにより,有期雇用契約が反復更新されて通算5年を超えた場合,労働者の申込みにより, 期間の定めのない労働契約に転換されることになります。
通算契約期間のカウントは,平成25年4月1日以後に開始する(更新する場合を含む)有期雇用契約が対象となっています。

そのため,平成30年4月1日から,無期転換の発生がされる事例があり,当時,有期雇用契約をしていた労働者はに関して,会社としての制度の検討,就業規則の整備などの対応をし,この際に,労働契約の解消がされた方もありました。

無期転換ルールは「契約自由の原則」に対する修正です。
「契約自由の原則」からすれば,契約期間1年の労働契約を繰り返すことで,期間が無期に変更されることはあり得ません。

しかし,このような法改正に至ったのは,有期雇用契約が無期雇用契約となっている実態があること,それにもかかわらず有期雇用契約による雇用不安定に対する危惧が広がっていることに対して,いよいよ国が乗り出したということです。

そのため,会社としては,この法改正を消極的に受け止めるのではなく,有期雇用の社員が会社の事業運営に不可欠で定常的な労働力であることを直視して,実際に働き続けてもらいたい場合には,有期雇用による労働者のモチベーション向上のために,必要な改正と捉えて対応することが必要になります。

2 無期転換ルールによる注意点・事前準備

まず,法律の規定を見てみます。

労働契約法18条 同一の使用者との間で締結された二以上の有期労働契約(契約期間の始期の到来前のものを除く。以下この条において同じ。)の契約期間を通算した期間(次項において「通算契約期間」という。)が五年を超える労働者が,当該使用者に対し,現に締結している有期労働契約の契約期間が満了する日までの間に,当該満了する日の翌日から労務が提供される期間の定めのない労働契約の締結の申込みをしたときは,使用者は当該申込みを承諾したものとみなす。この場合において,当該申込みに係る期間の定めのない労働契約の内容である労働条件は,現に締結している有期労働契約の内容である労働条件(契約期間を除く。)と同一の労働条件(当該労働条件(契約期間を除く。)について別段の定めがある部分を除く。)とする。

労契法18条1項前段によると,無期転換ルールの対象は,「同一の使用者との間で締結された二以上の有期労働契約」なので,週2日で5時間ずつの勤務を続けているパートタイム労働者も2回以上の有期雇用契約を締結して,契約期間の通算が5年を超える,という要件を満たせば対象となります(2つの雇用契約の間に雇用契約の無い空白期間がある場合は,通算することができる要件が別途あります)。

そして,無期転換後は「同一の労働条件」となりますが,「当該契約について別段の定めがある部分を除く」とされているので,使用者が無期転換後の労働条件として,所定労働時間を週4日以上6時間以上といった水準を定めることは可能です。

この「別段の定め」には,労働協約,就業規則,個別の労働契約の3つが考えられます。
ここで重要なのは,労契法18条1項前段が,要件に該当した労働者から無期転換の申込があったときに,使用者は承諾したものとみなすとされていることです。
申込の時点で,現に締結している労働条件と同一の労働条件で無期転換しているので,その後に就業規則において「別段の定め」をしても遅いということです。
会社としては,無期転換する場合に,労働時間といった労働条件について一定の水準を設定する場合には,早めに準備しておかなければならないので注意が必要です。

無期転換後の労働条件について「別段の定め」をしておくべきなのですが,これまで1年更新が繰り返されてきた労働者が,いきなり無期となると,雇止めのリスクが減少することから,モラルリスクが生じることを心配する声もあります。
その場合には,給与面において業績を反映させたものとするなどの工夫も必要でしょう。
また,所定労働時間や職種・勤務地の異動があるといった労働条件について見なおすことも可能です。
しかし,無期転換を思いとどまらせる目的をもった労働条件の設定は公序良俗に反し無効ですし,人材の流出は会社にとってマイナスです。
円滑に無期転換ルールを導入できるような制度設計にしていきましょう。

3 雇止めが無効となる場合

有期労働契約において,使用者が契約更新を行わず,契約期間の満了により雇用が終了することを「雇止め」といいます。
雇止めについては,重要な最高裁判例があり(最判昭和49年7月22日ー東芝柳町工場事件,最判昭和61年12月4日ー日立メディコ事件),一定の場合に雇止めを無効とするルール(雇止め法理)が確立していたところですが,これが労働契約法第19条に規定されました。

労契法19条 有期労働契約であって次の各号のいずれかに該当するものの契約期間が満了する日までの間に労働者が当該有期労働契約の更新の申込みをした場合又は当該契約期間の満了後遅滞なく有期労働契約の締結の申込みをした場合であって,使用者が当該申込みを拒絶することが,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められないときは,使用者は,従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申込みを承諾したものとみなす。

①当該有期労働契約が過去に反復して更新されたことがあるものであって,その契約期間の満了時に当該有期労働契約を更新しないことにより当該有期労働契約を終了させることが,期間の定めのない労働契約を締結している労働者に解雇の意思表示をすることにより当該期間の定めのない労働契約を終了させることと社会通念上同視できると認められること。
② 当該労働者において当該有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものであると認められること。

19条①は,有期契約が反復更新されて期間の定めのない労働契約と実質的に異ならない状態となった場合(東芝柳町工場事件のタイプ)で,②は①のようには言えない場合でも労働者が雇用継続につき合理的期待を有していたと認められる事情がある場合(日立メディコ事件のようなタイプ)です。

②については,制度創設以来自己都合退職以外には更新拒否が行われた例がない会社において,1回目の更新で認められた例もあります(大阪高判平成3年1月16日)。1回であれば,合理的期待がない,ということになるわけではありませんので,それまでの会社での対応が重要となります。

雇止め法理にひっかからないためには,①更新手続を厳格に行うことが何より重要です。また,②更新を期待させる言動を行わないことが重要になると思います。

これまでの運用から,通算の雇用期間が5年となるまでは,厳格に判断することなく,更新継続し,5年となる直前で雇止めをしたりするのは,無期転換を避けるためだけの脱法的なものとされ,無効とされてしまう可能性があるので注意が必要です。

1年の有期雇用契約とする一方で,更新の可能性があることも記載した上で,ただ,最大でも5年を越えることは無い,と定めておくことはどうなのか?というような問題もありますが,労働者にとっては,最大の雇用期間を予測したうえで働くかどうかを決められること,それ以上の更新を期待させない,という効果もあることになりますが,このような定めも無期転換を避けるための違法な契約とされる可能性があるので,やはり,それよりも,更新時期(有期雇用契約終了時)毎に,継続するかどうかの判断基準を定め,実質的な判断をして,更新するかどうかを厳格に決めていくことが大切だと思います。

4 時代と会社の状況を踏まえた対応を~まとめ

法改正は,これまでの状況では問題,課題がある場合に,それを解決するためにされるものです。
そのため,有期雇用契約者の不安定な雇用を守った方が良い,と問題解決のための判断があったと思われます。

しかしながら,昨今の状況を考えると,コロナ等による影響など,会社の状況も,変化が短期間で大きく生じることもある,と思われる中で,有期雇用契約と無期雇用契約をうまく組み合わせて使うことが必要なこともあるところです。

日本の労働者の賃金は,海外に比べて上がらないことも問題になってきている昨今ですが,やはり,その背景には,日本の場合,一度雇用すると,解雇するなどの労働契約の終了をさせることが難しいため,会社,企業側に,雇う際に,簡単には辞めさせられないことを前提に賃金支出についての覚悟をする必要がある,ということもある,と思います。

このようなことから,やはり,今の法制度で出来ることを考えると,上手く,有期雇用契約を使うことが必要な場合もあると思います。

「雇止め」は,今後も継続して雇ってもらえる,と思って働いている人にとっては,大きなダメージとなりやすいので,恣意的な判断と言われないよう,出来るだけ明確な基準,客観的な基準によって判断することが大切でしょう。

一方,会社の状況にも応じて,ある程度は柔軟に対応できる仕組み作りがないと,結果として,事業が破綻してしまい,多くの従業員や取引先にもダメージを生じさせることもありますので,法的に適法,可能な範囲で,準備し,対応することも重要です。

経営者としては,やはり,現在の雇用契約の重点や法改正には注視して,時代の要請に応じた就業規則,規定を定め,体制を整備するとともに,それでも,問題が生じた場合には適宜見直すなど,適法かつ有効な人事権の行使を検討し,対応していくのが重要だと思います。

法律上,どんな人事権の行使が許されていて,何は許されないのか,どんな損害が生じる可能性があるのか,被害が生じた場合にどんな賠償責任があり得るのか,今はどんなことに特に注意しないといけないのか,トラブルを回避するために法的にとりうる手段は何なのか,を知っておきましょう。

そうすることで,万一の時に,少しでも「こんなはずじゃなかった」というダメージの発生,トラブル発生のリスクを減らしつつ,より魅力的な会社として,職員が気持ちよく業務をしていただけたらと思います。

それでは,今回も最後まで読んでいただいてありがとうございました!