多治見ききょう法律事務所

弁護士 木下 貴子 ブログ

懲戒処分が適法となる場合,違法となる場合。懲戒すべき場合とは

懲戒処分が適法となる場合,違法となる場合。懲戒すべき場合とは

いつも,読んでくださり,ありがとうございます!今回は,「懲戒処分」についてお伝えします。

「懲戒処分」とは,労働者が会社の秩序を乱す行為をした場合に,これに対する制裁として行われる措置です。

会社運営をしていく中で,労働者の非違行為が発覚して,どのような懲戒処分が適当か,どのような手続で懲戒処分をすればよいか迷うことも多いと思います。
しかし,運送事業者における飲酒運転は業務との関係で重大な非違行為に当たるでしょうし,セクハラの事実が確認されたとき企業がどのような処分で臨むかといったことを考えていくと,速やか,かつ適切な懲戒処分は,その企業としての姿勢が問われ,顧客からの信頼にも関わる大事な場面,重要な問題です。

一方で,不適切な場面,不適切な方法で懲戒処分が行われれば,懲戒処分は無効となり,労働者からの信頼を失って,業務の円滑な執行の妨げになり得ると共に,違法行為として,労働者から経営者,会社が損害賠償請求を受けることになり得ます。

どのような場合に懲戒処分が許されるのでしょうか?
どのような場合に懲戒処分すべきなのでしょうか?
懲戒処分が違法とならないように,注意すべきポイント,守るべき手順は?
懲戒処分が無効となってしまう場合とは?

順番に見ていきたいと思います。

1 懲戒処分に関する法律条文

懲戒処分に関する法律の条文規定では,以下の通り定められています。

労働契約法15条 ①使用者が労働者を懲戒することができる場合において,②当該懲戒が,当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして客観的に合理的な理由を欠き,③社会通念上相当であると認められない場合は,その権利を濫用したものとして当該懲戒は無効とする。

つまり,①にあてはまる場合に限って懲戒処分が出来ることになりますが,②,③により無効になることがあるので,注意が必要ということになります。①から③の内容について見ていきましょう。

2 ①懲戒することができる場合において

会社が労働者に対して懲戒処分をするには,就業規則の根拠規定が必要になります。

事業場単位の労働者が10人未満であれば就業規則の届出義務はありませんが,懲戒処分をするためには,やはり就業規則の根拠が必要になります。

したがって,労働者に対して懲戒処分を検討する場合には,まず,就業規則において,その種類及び程度に関する規定がどのようになっているのか確認することになります。
労働者が非違行為(一般的な違法行為の他,就業規則の規定違反行為,と捉えてもらえればいいです)をしてから就業規則をチェックするのでは遅いので,予め会社として,どのような行為が業務の支障になるのかを検討し,労働者に禁じる行為を意識的に就業規則に定めておくことで,常時から把握しておきましょう。

懲戒処分の種類については,軽いものから以下の順序で定めている会社が多いと思います。

戒告 将来を戒めるのみで始末書の提出を求めない処分
譴責(けんせき) 始末書を提出させて将来を戒める処分
減給 上限があり1回の額が1日分の半額を超え,総額が月次給与総額の10分の1を超えてはなりません(労働基準法91条)
出勤停止 上限はありませんが1か月程度を上限とする会社が多いようです。賃金は支払われないのが一般的ですが,就業規則にその旨規定しておくことが必要です
降格 制裁を目的として労働者の役職や職能を低下させる処分。降格に伴い給与が下がるため重い処分です
諭旨解雇 勧告に応じない場合には懲戒解雇することを前提として即時退職を勧告して自主退職の形式とすること。退職金は支給されるのが通常です。
懲戒解雇 最も重い処分です。退職金の全額・一部を支給しないとの規定を設けている会社が多いです。

3 ②客観的合理的理由があること

①就業規則に労働者が守るべきこととして,根拠となる規定があるだけではなく,明確に,当該非違行為が就業規則に定めた懲戒事由に該当する必要があります。

もっとも,裁判所は,形式的に懲戒事由に該当する行為があったとしても,実質的に企業秩序を乱すおそれのない行為であれば,懲戒事由に該当しないという限定解釈することがあります(目黒電報電話局事件-最判昭和52年12月13日)。

そのため,企業内の秩序風紀を乱すおそれのないような軽微なものについて,不相当な懲戒処分をすると,違法となり得るので注意が必要です。

また,懲戒処分後に別の非違行為が発覚した場合,当該懲戒処分の理由として追加することは認められませんので注意が必要です(山口観光事件-最判平成8年9月26日)。

つまり,懲戒処分をした非違行為だけでは,懲戒をするのに不相当であったとしても,後に懲戒相当となる非違行為をしたのだから,どちらにしても懲戒で問題ないでしょ,とはならないので,懲戒処分をする場合には,懲戒処分の時点で,十分な懲戒処分の理由があることが必要です。

4 ③社会通念上相当であること

①就業規則に根拠規定があり,②懲戒事由に該当したとしても,処分の内容や手続が社会通念上相当なものでなければなりません。

(1)処分内容の相当性

懲戒処分を科す場合には,社会通念上の相当性が必要です。「問題のある社員だから今回だけ重い処分をしよう」ということは許されないということです。その判断は,行為の内容,結果の重大性,頻度,期間,業務内容,過去の処分歴,行為者の反省の有無などを総合してなされますが,類型ごとに難しい判断を迫られることになります(詳しくは,次回以降に見ていきたいと思います。)。

(2)処分手続きの相当性

懲戒処分は,一種の制裁ですから,手続的相当性も重要な要素です。

重い処分をする際の懲戒手続についても定めがない会社が多いと思いますが,仮に就業規則等で定められた手続がある場合に,これを踏まずに科された処分については無効となる可能性が高いでしょう。一方,手続規定がない場合であっても,適正手続保障の観点からすると,重い処分をする際には,弁明の機会を与えることが望ましいと言えます。これらの手続き保障がされずになされた懲戒処分は無効になることがありますので注意が必要です。

5 事前の警告や軽い処分の重要性

重い懲戒処分をする前に,軽い懲戒処分を科さなかったことを,懲戒処分無効の理由の一つとしている裁判例もあります。

したがって,懲戒処分に際しては,まず注意・警告を行い,あるいは,戒告や譴責などの懲戒を検討するべきでしょう(早急に重い処分をしなければ企業秩序維持が困難となる場合は除きます。)。

それにもかかわらず,労働者が同様の行為を繰り返してしまう場合には,より重い懲戒処分も相当という方向になります。ただし,懲戒処分を科した行為については,二重処罰禁止の原則により再度処罰することはできないので注意が必要です(懲戒処分ではない注意・警告レベルであれば,その非違行為を含めて懲戒処分を科すことは許されます。)。

また,後に紛争となる場合の資料として,また,次回からの懲戒処分の適正判断の資料として,これらの経過については,文書にて行い,記録として保管しておくことが重要です。

6 時代傾向やリスクに応じた懲戒処分規定を

最近,企業(会社経営者)からのご相談で増えてきたのは,職員によるSNS発信などによるトラブルです。
職場の施設内の写真(掲示物など)や他の職員を写真撮影して無断で投稿したり,職場状況(他の職員,上司,職場環境など)を批判するなどの投稿をすることによるトラブルです。

これは,企業に対する顧客の信頼の低下に繋がったり,批判された他の職員のモチベーションの低下に繋がったりするなど,企業の秩序を乱すことによる影響が少なくないにも関わらず,就業規則上明確に非違行為とされていない場合もあります。

SNS投稿が一般的になる前には就業規則で改めて定めておくことは無かったかもしれませんが,今の時代にあったリスクに対応できるよう就業規則,懲戒処分規定を定めると共に,職員に別途文書などでも,禁止事項を通知しておくことも重要でしょう。
企業内の業務遂行マニュアル,ノウハウ等でも,企業秘密として外部に公開するのは避けたいものもあるでしょうから,情報を公開しないように定めておくことも重要でしょう。

就業規則だけでなく,誓約書を記載してもらったり,ガイドライン等で会社の基本姿勢を定めて伝えておくのも大切です。

セクハラ,パワハラなどについても,近時の時代傾向から,非違行為者には,懲戒処分を含め,速やかに適切な指導をすることが求められます。
被害を放置すると,特に一緒に働く職員の信頼を失い,退職などにも繋がってしまいやすいですし,企業としても被害を受けた職員から損害賠償請求等をされることにも繋がりますので,注意が必要です。

他方で,不適切,違法な懲戒処分をすることは,職員の企業に対する信頼を失わせることに繋がり,損害賠償請求の対象となり得ます。

そのため,不適切,違法な懲戒処分となることは避けつつも,企業の信頼や働きやすい職場環境維持,これによる円滑な業務の遂行のために,的確,迅速な懲戒処分が必要です。

経営者としては,予め今の時代の要請,リスクに応じた就業規則,懲戒処分規定を定めるとともに,それでも,問題が生じた場合には適宜見直すなど,適法かつ有効な懲戒処分を検討し,対応していくのが重要だと思います。

法律上,どこまでの懲戒処分が許されていて,何は許されないのか,どんな損害が生じる可能性があるのか,被害が生じた場合にどんな賠償責任があり得るのか,トラブルを回避するために法的にとりうる手段は何なのか,どのタイミングで,どんな手続きを踏んで懲戒処分をするべきか,を知っておくことが重要です。

そうすることで,万一の時に,少しでも「こんなはずじゃなかった」というダメージの発生,トラブル発生のリスクを減らして,気持ちよく業務をしていただけたらと思います。

それでは,今回も最後まで読んでいただいてありがとうございました!