多治見ききょう法律事務所

弁護士 木下 貴子 ブログ

副業が認められる範囲は?競業避止義務違反

副業が認められる範囲は?競業避止義務違反
いつも読んで下さって,ありがとうございます!
遅くなりましたが・・今年初のブログ。改めて明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願い致します♪
おみくじは久しぶりの「大吉」だったので,楽しみです~
笑いのあふれる年にしたいな,と思っています。
さて,最近私は,労働者の競業避止義務について話をすることがあり,弁護士でも意見が分かれるんだな・・と知りました。
なので!最近は認めることも多くなってきた副業。これをテーマに副業をする場合に注意すべきこと,について考えてみたいと思います。
いくら「副業」を認めていたとしても,社員が自社と同じ仕事をして,顧客を奪うこと(競業)が許されるのか?
競業を止めることが出来るのか?について,考えてみます!

1.原則は競業できない

以前,記載した退職後の「競業避止義務」と異なり,在職中に競業することは許されていません。

たまに副業を認められていて,「競業禁止の特約をしていないからしていいはず!」と言われることがありますが・・・
そのような「特約」がなくとも,「労働契約の付随義務又は信義則上の義務として競業避止義務を負う」と考えられています。

これは,なぜそもそも従業員を雇うのか・・・と考えると明確になると思うのですが,
会社は労働者を雇用することで,より自社の事業を拡大し,利益も拡大しよう,としているのですから,

そこで働く従業員は,会社との間で,会社の利益に配慮し,誠実に行動する義務を負っているからです。
経済産業省でも,「在職中の競業行為が認められないことはもちろんだが」と述べた上で,退職後の競業禁止について解説をしています。

なので,従業員の方は副業を認められていたとしても,競業するような事業をすることはできないので,注意しましょう。
経営者の方は,「特約」をしていなかったとしても,競業を禁止することは可能になりますので,そのようなケースがありましたらご相談いただけたらと思います。

会社が得意とする分野について,それで培った技術,ノウハウを生かして職員が会社と同業の(競業)会社で勤務したり,
自分で自営業をして,顧客を奪っていったとしたら,納得できるでしょうか?

2.意外とあいまいな競業の範囲

しかし,実は私自身の経験もあって・・
この「競業の範囲」ということが意外とあいまいになりがちなのだなと実感しました。

例えば,私たち弁護士のような士業。医師,看護師のような専門職の場合。
雇用主が「個人事件」として,仕事を受けるのを認めている場合があります。

例えば,従業員である司法書士に対し,雇用している司法書士事務所が事務所としての案件ではなく,
個人として司法書士業務をすることを認めているような場合,どうなるでしょうか?

つまり,事務所に勤務司法書士として勤めながら,個人で裁判所に選任された法定成年後見人として業務を受ける,というような場合が典型です。

勤務先から指示された業務以外を仕事とするわけですから,これも「副業」の一形態です。

司法書士さんも,現在は登記業務だけをしているわけではなく,
相続案件,後見案件,民事信託案件など特徴を持った業務をしているケースも多いです。

このとき,例えば,「個人事件」を認められているから,
個人として相続案件を受任したり,任意後見人に個人としてなろうとしたり,民事信託を個人で取り扱おうとしたら・・・

それは「競業」になるのではないか,と私は思います。

なぜかと言えば,先述したように,そもそも「競業」が禁止されるのは,働く従業員は,
雇用主との間で,雇用主の利益に配慮し,誠実に行動する義務を負っているからです。

明らかに雇用先が重点的に行っていると分かる業務(例えば,当事務所であれば注力している分野の一つである離婚など)を
雇用先ではなく,個人のお客として受けようとしたら,雇用主の利益を害し,誠実義務に反すると社会通念上考えられるのではないでしょうか?

どうしても「個人事件」としてこれらの事案を受けたいのであれば,個別の同意を雇用主に求めるべきでしょう。

ましてや,営業広告を使って,自分の個人事件を増やそうとするのであれば
雇用主の明確な同意がなければ許されないでしょう。

(何をもって「個人事件」として取り扱うかも明確な定義はありませんから,どういうルートで依頼されたものを個人事件として許容するかも雇用主が決められると私は思っていますが)・・・

そもそも,「個人事件」を認めていると言っても・・・
弁護士同様に司法書士も,登録事務所以外での営業はできませんから,雇用主の事務所を使わせていただくことになります。

なので,当然,雇用主が「個人事件」を認めているからと言って,
どのような形態,どのような営業方法,どのような利用方法で事務所を使うこともすべて自由に認めている・・ということにはならないでしょう。

少しケースは変わって,勤務先の事業所は使わなくても事業が出来るような場合・・・

例えば,医師,看護師さんが勤務時間外のアルバイトとして,他のクリニックに勤めることが許されている,と言っても,
どんな形態でもアルバイトが認められているわけではないでしょう。

例えばアルバイト先の場所などを考慮して,勤務先である耳鼻咽喉科と競合し得る他の耳鼻咽喉科の医院に努めるような場合であれば,
事前に明確に同意を得る必要があるでしょう。

WEB製作会社に勤務している社員が自宅での副業を認められている場合,
個人でHP製作します!と言って,チラシをまいたり,インターネット集客をするような場合も,

そのチラシをまく地域,インターネット集客での競合性(地域や取り扱い分野で検索したときに比較対象として表示されるかどうかなど)を考えて,
競合可能性があれば,個別に勤務先の同意を得なければ,競業避止義務に反すると私は思います。

なぜかと言えば,繰り返しになりますが,原則として,従業員には職務に専念し,競業を回避する義務があるからです。
それゆえに,個別に雇用主が認めたものだけが例外的に競業する可能性があっても認められると考えられるからです。

なので!従業員の方は・・・

「副業」が認められているから,とか,
会社の取り扱う業務と競業する可能性のある業務をすることも一部認められているからと言って,
新しく競業する可能性がある行為を開始する場合にまで無断で行うことは,競業避止義務違反になり得ますから,避けましょう。

競業避止義務違反となれば,雇用先から損害賠償請求される可能性もあります。
その後の態様によっては,信頼関係を破壊して解雇事由になることもある,と私は思います。

今後は「副業」を認める企業も増えてくると思いますが・・・

私は,このようなケースであれば,損害賠償請求等も認められ得ると思いますので,
経営者の方で,「副業」を認めたら,競業するような方法で行われたなど,このようなことでお困りのことがありましたら,ご相談いただけたらと思います~

 

3.企業側の出来る対策とは~

とはいえ・・・

「個人案件」「副業」と言っても,
それは,会社の利益を害しないように当然に限界はあるよね・・・

と思いがちなのが経営者ですが,こちらが思っている「当たり前」「常識」は通じないということを
最近ことごとく体験しています・・・

なので,会社が「副業」を認めたのだから,なんでもやっていい・・・

と思う従業員がいるのも想定しないといけないのが経営者なのですね。

「そのやり方は競業する可能性があるからやめてね」と言っても,
「そんなことは最初に聞いていない」「個人でやってもいいと最初に言われた」と言い続け,
やり続ける従業員もいます。

なので!
経営者の方は,やはり,色々な失敗例や体験を踏まえた上で,
これをあらかじめ明確に禁止するような
「競業避止義務」に反する事項を明示しておく,

例えば,
「副業の内容やその集客方法などをあらかじめ申告した上で,同意を得たものだけを副業として認める」
などというように明示しておく方がトラブルを回避しやすくなります。

私自身も色々と体験しましたので,その失敗例や体験も踏まえた上で,
どのようにしたら出来るだけ,そのようなトラブルを回避できるのか?

「副業」「個人案件」を認める場合に,経営者が決めておくべき条項作成のお手伝いをさせていただきたいと思っています!

まとめ 競業でなく,協業をめざして

法的な競業避止義務の考え方と予防策は,これまで書いたとおりですが,やはり,法律上の予防策には限界がある…と私は感じます。

色々な理由で退職されるので,社長との関係が悪化して,退職する場合もあるでしょう。
しかし,そのような場合であっても,できるだけ,「競業しない」方が,双方にとって,メリットがありますよね。
「A地域は,うちがやっているから,君は地元で,地縁もあるB地域を頼むよ,そちらのお客さんがいたら紹介するよ」
・・・という,「協業」ができたら理想的ですね。

↑ということを,以前のブログで書きました。
私自身は今でもそう思っています。

でも,こちらはそう思っていても,相手はそう思っていない場合もありますよね・・・
人間関係は本当に難しいです。

多様化する社会の中で,世代間ギャップなどもあり,こちらが思う「常識」は通じないことも多いと感じますから・・・
やはり法律で定められたもの以外は,契約書でしっかり決めておくことが大事な世の中になりましたね・・・

阿吽の呼吸でできていた日本文化から,
明確に合意したことと法律上決められていることだけが人として守るべきこと!という時代に突入ということでしょうか・・・

そういう意味では弁護士の必要性が増す時代となったのかもしれませんね(笑)

経営者の方は,日々の事業の遂行に力を注がなければいけませんから・・・
少しでもスタッフとのトラブルで業務に支障が生じないように,予め準備しておくことが大切になりますね!

地域の発展,事業の発展のために経営者には事業活動に全力で取り組んでいただきたいので・・・
そのために弁護士としてお役に立てたらと思います。

私自身もいい経験をして,学ばせていただいています!

それでは,このブログが,労務管理をする部署の方々,企業の経営者の方,また働いている皆様がお互いに「いい関係」で過ごすためのお役に立てますように…

今回も最後まで読んで下さって,ありがとうございました!