多治見ききょう法律事務所

弁護士 木下 貴子 ブログ

セクハラで企業が固有の慰謝料を支払うべき場合と慰謝料相場

セクハラで企業が固有の慰謝料を支払うべき場合と慰謝料相場

「セクハラ」被害の申告があったのですが,企業の対応を間違えると慰謝料が発生することありますか?
「セクハラ」被害に対して,加害者とは別に企業そのものが支払う可能性のある慰謝料金額はいくらですか?
「セクハラ」の慰謝料が認められるケース,認められないケースの違いは何ですか?

私は,主に企業側,会社側でご相談を受けることが多いのですが,「セクハラ」の被害申告があって慰謝料の請求をされているけれど,慰謝料を支払わないといけないのか,その場合,どのくらいの金額になるのか,聞かれることもよくあります。

また,私が女性弁護士であることもあって,セクハラ被害を受けた女性からの相談を受けることも時々あるのですが,誰にどのような請求ができるのか,と聞かれることもあります。

セクハラ被害があった場合,被害者は加害者本人に対して請求できる金額と同額の金額を加害者を雇っている企業(会社,事業主)に「使用者責任」として請求することも出来ますが,企業はこの「使用者責任」とは別に固有で「セクハラ」による慰謝料を支払わなければならない場合もあります。

それは,どんな場合にどんな金額を支払うことになるのでしょうか?

今回は,「セクハラによる慰謝料金額の相場は?どのように決まる?」「セクハラによる慰謝料金額が高額になる場合の共通点」に引き続き,事例を検討することで,企業,会社自身が固有に負う可能性のある慰謝料としての損害賠償金額を検討し,そもそも「慰謝料」が発生するかどうかを見極めるためには何が重要なのかも検討することで,「セクハラ」の予防,事後対応のヒントにしてもらえたらと思います。

「セクハラ」による慰謝料はどんな場合に発生する?
「セクハラ」で企業固有の慰謝料が発生するのはどんな場合?
 被害者の「同意」「合意」があれば「セクハラ」にならない?

今回は,「セクハラ」被害に対する企業(会社,事業主)の支払う慰謝料発生の有無,慰謝料金額の決まり方や相場などについて考えていきたいと思います。

1 使用者が支払う慰謝料の金額

使用者が,セクハラの被害者に対して,慰謝料を支払うが認められたケースには,①セクハラ加害者の行為が事業の執行につき行われた場合に使用者責任を負う場合と,②使用者が職場におけるセクハラに対し,事前あるいは時後に適切な措置をとらなかった場合に職場環境配慮義務違反としての債務不履行責任又は不法行為責任を負うものがあります。

①の場合は,加害者の支払うべき慰謝料金額と同様になりますが,②の使用者固有の慰謝料額として,50万円程度が認められているものがあります。
職場環境配慮義務違反の債務不履行責任を認めたケース(男性看護師から女性看護師へのセクハラ)として,津地判平成9年11月5日,職場環境の悪化を放置した会社に不法行為責任を認めたものとして,岡山地判平成14年5月15日があります。

セクハラ加害者を雇用している事業主(使用者)が加害者が事業の執行の場面で行うセクハラに対しての責任以外に,事業の執行場面でなく行われたセクハラに対しても,使用者には,「固有」の義務として事前,事後に適切な措置を取ることを求められていますので,事前,事後の対応について注意が必要です。

また,「セクハラ問題で従業員から内容証明郵便が届いたときの対処法」で記載している通り,「慰謝料」とは別に被害者が退職せざるを得なくなったことによる逸失利益による損害賠償金額については,1000万円を越える高額になることもありますので,別途注意が必要です。

2 セクハラ慰謝料が認められなかった事例

慰謝料を認めなかった裁判例の多くは,セクハラの証拠がないことを理由としていることが分かります。
これは,密室に2人きりで,秘密裏に行われることの多いセクハラは,立証が困難であることを示していると言えます。

また,セクハラの事実が認定されていても,必ずしも慰謝料が発生するわけではなく,セクハラの事実は認めているけれど,慰謝料を認めない裁判例も見られます。
例えば,東京地判平成16年4月26日では,勤務中に下着の色を耳元で囁くなどの行為を認定して,これはセクハラに当たるとしつつも,精神的損害を被ったとは言えないとして,当該セクハラについての慰謝料請求を認めませんでした。

最近報道される事案では,パワハラが発覚した経緯などは「録音」されているものが証拠となっているケースも多いです。
企業側としては,「証拠」の有無に関わらず,そもそもセクハラ自体が発生しないようにすべきですが,すべての職員が,以前よりも,比較的容易に録音,録画などによる証拠が残せるようになってきたことをふまえ,この言動が録音,録画され,公表されたとしても困らない,堂々と出来る言動なのか,という意識で行動することが大事でしょう。

また,すべての「セクハラ」に該当する言動が慰謝料の発生につながるわけではありませんが,その内容,頻度によっては,慰謝料請求されることもふまえ,「セクハラ」に該当する言動を認識した場合には,早い段階から丁寧に対応し,繰り返されたり,拡大したりすることのないよう,適切に対処することも必要でしょう。

3 合意があり,セクハラとされなかった事例

当事者が恋愛関係にあるため,被害者の合意があるとして,セクハラに当たらないとされたケースもあります。
これは「恋愛の抗弁」「同意(合意)の抗弁」と呼ばれています。

会社の同僚に対してキスをする,性器に触れさせるなどの身体的接触に留まらず性行為に及んだ事案について,身体的接触はセクハラに当たるとして慰謝料を認容したけれども,性行為については,強要によるものではないとして慰謝料を認めなかった裁判例も平成の頃にはあるようです。

そのため,現在でも被害者の「同意の有無」「合意があったかどうか」は刑事事件,民事事件に共通して争われている点になります。

しかしながら,昨今の報道を見ていても,「同意」については,それが「真の同意」であるのか,関係性によって「強いられた同意」なのではないか,と問題にされているところです。
「セクハラで加害者本人・企業はどんな法的責任を負うのか?」で記載した通り,昨今の法改正や社会通念をふまえた再認識が必要だと思います。

企業,会社側として慰謝料が発生するかどうかを検討する場合,社内恋愛が一切禁止されているわけではないことを踏まえると,確かに「同意」「合意」があったかどうかは,重要な観点です。
一方で,安易に「同意」「合意」があったとして「セクハラ」ではない,慰謝料は発生しない,と考えてしまうのはリスクが大きいという意識が大事でしょう。

感受性豊かに~まとめ

「これは,嫌だと思って良かったことだったんだ」
「傷ついていいんだと分かった」

私の同級生が就職をしたころ・・
高校を卒業して就職する友人も多かったから,30年位前になるかな・・

同窓会などで話をすると,女性の友達から当たり前のように飲み会では上司の隣に座らされて,お酌をし,体を触られることもある,という話を聞いた。
男性からも,酔ってキスしたりとかもあったよね・・というような話も。

その頃,法律を学び始めていたこともあって,それはおかしいよね,と思っていたのだけれど,上手く言えなかった。
当時それはあまりにも「当たり前」のように行われていたから,「セクハラです」「やめてください」と言うとか,そもそも「これくらいのことで嫌と思うのはおかしいのではないか」「減るものじゃないし」とか,「嫌だ」と思ったり,されて「傷ついたり」することが何か自分がおかしいような,大袈裟なような気がしていたんだと思う。

でも,昨今の報道を見ても,そういう時代は明らかに変わってきているのを感じる。

私のブログでの発信を読んで下さる方からも,このまとめの冒頭に書いたような「そうか,(当時の)あれは傷ついて良かったことだったんだ」と言ってもらえることもあって,何か確かに・・そうだよね・・と,じわじわ思った。

あの発言は,私も嫌だった・・と思い出すものもある。今なら・・黙らないぞ(笑)。

私は離婚のような家庭問題を中心に「モラハラ」のことも書くことが多いけれど,これも「何となく嫌だと思っていたけれど,これがモラハラだったのですね」「スッキリしました」と言われることは今でも多い。

時代が変われば,「当たり前」も変わってくるから,その時代の意識の変化に敏感に「感受性豊かに」生きていきたいなと思う。
法改正は,その時代の変化,「社会通念」としてあるべき姿をを明確に「法規範」として規定するものだから,これからも改正については意識しながら,発信していきたいなと思いました。

以前は「セクハラ」として認められなかったような事例も今なら認められるかも・・そういうものにも「感受性豊かに」意識してみていきたいと思います。

セクハラ被害があったと従業員から申告を受けた際,その後の対応には迷うことも多い。
そもそも,これはセクハラとして,慰謝料が発生するようなことなのか?
企業として,どう対応するのが適切なのだろう?

・・など,被害者への対応に困って,弁護士である私に会社の管理職の方から相談されることがある。

セクハラで慰謝料の支払いをしないといけない場合は,どんな場合なのか?
企業として損害賠償請求を受けないよう,配慮すべきことは何か?
被害者にどんな間違った対応をすると,企業としても慰謝料を支払わないといけなくなるのか?

その際に,現在の「社会通念」「法的な考え方」を知っておくことで適正な対応につながります。
「社会通念」「法規範」と離れた対応をすれば,「不誠実な対応」として,その後の交渉などにも悪影響を与えることもあります。

これらを知っておくことで,どのように対応することが適切なのか,の判断を後悔しないように決めていけます。

そのために,今回のような「企業固有の責任」「慰謝料」が認められる要素となる内容と共に時代の変化も知っておくことは重要です。

セクハラ被害者から文書が届いて,対応に困った場合には,これからも弁護士に相談していただけたら嬉しいなと思います。
被害者が求める対応を断ったときには,どんなことになるのか?その場合の,企業としては金銭的に,また時間としてどのような負担があるのか?
これらのことを考えて,会社としてどのように進んでいったらいいのか,サポートできたらと思っています。

企業や会社が「セクハラ」対応をする際に,不安に思ってしまった場合や,反対に会社側からの視点だけで誤った対応をしてしまわないよう,これからも伝え続けていきたいと思います。

セクハラ被害の発生予防や発生後の被害拡大を避けるために・・

何が現在の基準に当てはめると「セクハラ」となるのか,「セクハラ」となった場合,加害者本人や会社にどんな損害が生じるのか,セクハラ被害が発生後にどのような対応が必要になるのか,被害者はどんな対応を取ることが考えられるのか,どんな対応をしないとトラブルになるのか,・・など,これからも伝えていきたいと思います。

そうすることで「セクハラ」行為をした,ということで行為をした本人及び雇用主が損害賠償請求などの責任をとらなければならなくなったり,信頼を大きく失ったり,人間関係が悪くなってしまうリスクを避けつつ,人と人が温かい交流が続けられて,安心して過ごせる空間づくりをするお伝いが出来たら嬉しいな,と思います。

引続き,職場,仕事に関わる場面での「性的な被害」に関する問題は,近年大きく問題とされるようになってきていますので,「性的自由」「性的自己決定権」の侵害として共通している「セクハラ」について,これからも注目してお伝えしていきたいと思います。

今回も最後まで読んでいただいてありがとうございました!