多治見ききょう法律事務所

弁護士 木下 貴子 ブログ

労働組合の組合活動としてビラ貼り,ビラ配り等はどこまで出来る?組合活動の正当性の判断基準

労働組合の組合活動としてビラ貼り,ビラ配り等はどこまで出来る?組合活動の正当性の判断基準

いつも,読んでくださり,ありがとうございます。今回は,集団的労働関係(労働組合関係)として,労働組合の組合活動全般に対する注意,対応についてお話します。

権利として保障されている労働組合の組合活動に対して,不適切な対応をしてしまうと,「不当労働行為」とされることがあります。
労働委員会が,使用者の行為が「不当労働行為」であると判断した場合には,救済命令を発することができ,この救済命令に従わない場合には,行政罰である過料や刑事罰(一年以下の禁錮もしくは100万円以下の罰金又はその両方)の対象となるので,「不当労働行為」となる対応を避けること,労働組合の争議行為へ適切に対応することは,重要です。

また,例えば,裁判所によって,労働者の解雇が不利益取扱の不当労働行為であると認定され,確定した場合には,当該解雇は無効となります。
その他,不当労働行為に該当した場合,不法行為として,労働者や労働組合から損害賠償請求をされる対象ともなり得ます。

しかし,他方で,組合活動の態様によっては,会社の事業,業務への支障も少なくないため,「正当性」を欠く組合活動について,会社は受け入れる必要はありません。
「正当性」を欠く組合活動が,直ちに組合員ないし労働組合に対して,民事ないし刑事上の責任が認められるわけではありませんが,組合活動としての適法性が否定されるため,刑事責任における刑罰を受ける可能性や,民事責任としての損害賠償責任が発生する可能性,懲戒処分を受ける可能性もあります。

そのため,「正当性」のある組合活動と言えるかどうか,は会社にとっても,組合活動をする労働者,労働組合にとっても,意識すべき重要な点になります。

「正当性」のある組合活動となるかどうか,3つの判断基準とは何でしょうか?
組合活動として,ビラ配り,ビラ貼りをする場合,どのようなことをすると「正当性」がない,とされ,懲戒処分等の対象になるのでしょうか?
実際の組合活動の場面で,どんなケース,言動が「正当性」が認められず,懲戒処分することが認められているのでしょうか?

今回は,争議行為以外の団体行動の正当性について,どんな行為については「正当性」がないものとして,やめるように求めていいのか,組合員の施設使用を拒否していいのか,不当労働行為とならないための対応,注意点を見ていきたいと思います。

1 組合活動の正当性の基準

組合活動が正当と言えるかどうか,つまり,適法な行為として問題とされないかどうかは,その目的,主体,態様を中心に判断されることになります。
以下の3つの基準を意識して,判断されています。

①時間的側面

就業時間内の組合活動は正当性が認められないのが原則です。

②場所的側面

事業場内の組合活動は,使用者の施設管理権に基づく制約に服することになります。

③目的と手段の正当性

全体的な側面として,目的と手段に正当性があり,労働契約上の誠実義務に違反しないか,という誠実義務に基づく制約があります。

それぞれの基準を,順番に見ていきましょう。

2 時間的側面(職務専念義務による制約)

組合活動と独立してなされた就業時間内の組合活動が,労働契約の本質的義務である職務専念義務(仕事中は職務に集中しなければならない,という義務)に違反しないかという問題です。
これは,典型的には,労働者が就業時間中に労働組合の要求などを書いたリボンやワッペンを着用する業務自体には,直接の阻害行為とはならないように思われる組合活動について問題となります。

この点,民間企業の事案である大成観光事件(最判昭和57年4月13日)は,ホテル内で組合員が「要求貫徹」又は「〇〇労組」と記入したリボンを就業時間中に約5日間にわたり着用するというリボン闘争について,職務専念義務を根拠に正当性がないとされています。

もっとも,職務専念義務を,精神活動のすべてを職務にのみ集中すべきとするような厳格なものと解することには批判もあり,この判例には「職務専念義務といわれるものも,労働者が労働契約に基づきその職務を誠実に履行しなければならないという義務であって,この義務と何ら支障なく両立し,使用者の業務を具体的に阻害することのない行動は,必ずしも職務専念義務に違背するものではないと解する。そして,職務専念義務に違背する行動にあたるかどうかは,使用者の業務や労働者の職務の性質・内容,当該行動の態様など諸般の事情を勘案して判断されることになる。」との伊藤正己裁判官の補足意見が付されていることに注意が必要です。

ホテルという空間では,ゆったりと過ごすためのサポートが期待されるところ,闘争中であることを知らせる内容を顧客に知らせることは,ホテルとして顧客が期待するサービスと相反する点があるため,「業務の正常な運営を阻害する意味合いに深甚なものがあるから,その違法性は顕著」と判断されたのではないかなと思います。

その後の裁判例を踏まえても,一律に接客業でリボンの着用が許されないというわけではなく,例えば,業務が接客業でありリボン・ワッペンが客の目に触れることになるかどうか,リボン・ワッペンの記載内容や大きさから客に対してどのような印象を与えるかといった観点から,業務に具体的支障が生じるおそれがあるかどうかという視点から,その正当性を判断することが必要となると考えておいた方が良いと思います。

3 場所的側面(施設管理権による制約)

組合活動は,使用者の施設内において行われることが多いので,使用者の施設管理権との緊張関係が生じてきます。
例えば,労働組合の組合員が使用者への要求事項を書いたビラを事業場の壁に貼るといったビラ貼りに対し,使用者は施設管理権(会社の施設を目的に沿うよう包括的に管理する権利)を根拠としてその組合員を懲戒処分とすることができるかという問題です。

この点,国鉄札幌運転区事件(最判昭和54年10月30日)は,国鉄の従業員である国鉄労組の組合員が,就業時間外に,一般の目に触れない国鉄の職員ロッカーに組合の団結力昂揚のためにおこなったビラ貼りをしたことを理由として懲戒処分を課した事案において,「労働組合又はその組合員が使用者の許諾を得ないで…企業の物的施設を利用して組合活動を行うことは,これらの者に対しその利用を許さないことが当該物的施設につき使用者が有する権利の濫用であると認められるような特段の事情がある場合を除いては,職場環境を適正良好に保持し規律のある業務の運営態勢を確保しうるように当該物的施設を管理利用する使用者の権限を侵し,企業秩序を乱すものであつて,正当な組合活動として許容されるところであるということはできない。」と述べています。

2の時間的側面の事例と比較すると「一般の目に触れない」場所であるため,業務への影響は少ないとは言えそうですが,施設をどのように使うのか,は所有者である会社(使用者)の判断が何よりも優先されますから,使用者の許諾を得ることなく,施設内にビラを貼ることは,原則として正当な組合活動とはいえないので,注意が必要です。
この判決で言われるように,使用者が利用を許さないことが施設管理権の濫用といえるような特段の事情がある場合に限って例外的に施設内での組合活動が許されることがあるとしています。

4 目的・手段の正当性(誠実義務に基づく制約)

以上に見てきたリボン闘争,特にビラ貼りといった組合活動の場面において,その記載の目的や内容が,会社の名誉や信用を不相当に毀損するものであってはなりません。
労働契約を締結した労働者は,労働力を提供するという本来の契約義務以外にも「付随義務」として,誠実義務(使用者の正当な利益を不当に侵害しないよう配慮する義務)があります。

正当性が認められるかどうかは,その記載内容が,①使用者の労務管理政策,②使用者の経営方針,③使用者側個人に向けられたものであるかにより結論も変わってきます。

①労務管理政策に関する場合には,組合の本来の関心事項であるので,摘示した事実が真実であるとか,真実であると信じるにつき相当な理由があれば正当性が認められ,②経営方針に関する場合には,労働条件・労働者の待遇と関連して全体として摘示した事実が真実であれば原則として正当性が認められると考えられます。

一方,③使用者個人に向けられた場合には,内容が真実であっても正当性は認められないというのが一般的解釈となります。

この点,中国電力事件(最判平成4年3月3日)は,電力会社に勤務する労働者が,「原発の社員は地元の魚は食べません」,「放射能がみなさんの頭の上に降ってきます」などの記載のある原子力発電所の設置に反対する趣旨のビラを配布したことに対する懲戒処分の適法性が争われた事案において,「労働者が就業時間外に職場外でしたビラの配布行為であっても,ビラの内容が企業の経営政策や業務等に関し事実に反する記載をし又は事実を誇張,わい曲して記載したものであり,その配布によって企業の円滑な運営に支障を来すおそれがあるなどの場合には,使用者は,企業秩序の維持確保のために,右ビラの配布行為を理由として労働者に懲戒を課することが許される」「本件ビラの配布は,組合活動としての正当な範囲を逸脱しており,本件懲戒処分が不当労働行為に当たるとはいえないとした判断は,正当」と判断しています。

ビラの内容は,③使用者個人に向けられたものではありませんが,②経営方針に関わるものとは言えそうですが,労働条件や労働者の待遇を改善するためという「目的」からすると,関連性が低く,「手段」も誹謗中傷,名誉棄損と言えるような表現方法で,会社の社会的信用を害するものであったため,会社に与える不利益も大きく,組合行為としての正当性が認められないため,就業規則に定める懲戒事由の「会社の体面をけがした者」及び「故意または重過失によって会社に不利益を及ぼした者」に該当するものであるとして,懲戒処分の対象となったと思われます。

5 労働契約の本質を見誤らない~まとめ

雇用契約の「考え方」は,現在でも,会社,使用者の方が力を持ち,優位であることを前提に,力の弱い労働者,従業員が対等に交渉するには,団結し,「団体」として交渉することを保障しなければ,憲法上の権利として,労働者の権利が正当に守られないとして,労働者の権利として,「団結権」「団体交渉権」「団体行動権」の3つの権利を認めています。

そうすることで,労働者が力が弱くても,労働条件や労働者の待遇をより良いものとしてもらえるよう,労働者の権利を保護しています。

その際,使用者とは意見が「対立」するところから始めることもあって,意識しないと,まるで敵対関係で対立し,戦っているような気持になって,使用者である相手をとにかく「打ちのめす」「負けさせる」,自分たちが絶対に「勝つ」,とにかく自分たちの要求を「貫徹」する,という気持ちになってしまうことがある,結果として「正当性」のない,労働組合の組合活動に発展してしまう・・というのをご紹介したような裁判例をみていると感じます。

しかし,そもそもなぜ,「労働契約」をするのでしょうか・・・?
一度この点に立ち戻ってみると,「正当性」の無い不当な組合活動をしてしまうことを避けられると思います。

労働者の方は,この会社,この使用者のところで働きたいと思って,働く,使用者は,そういう労働者に働いてもらうことで,働いてもらう前よりも,事業が発展し,ますます利益を上げられる。そうだからこそ,働いてくれる労働者の労働条件,労働環境,待遇などをもっと良くしていきたい,良くしていくことが出来る,と使用者(会社)は考えられる。

これが,労働契約をすることの「本質」にあるのだと思います。

そうであるのに,会社の評価を下げるような言動して,社外の方,「一般の目」に触れさせてしまったら,多くの場合,会社(使用者)の利益は下がり,そんなことをした職員(労働者)に対して,よりよい労働環境,労働条件を与えようという気持ちも,実際的な金銭的な余裕も無くなってしまう,と思います。

事例によっては,会社の業務内容自体を,まるで社会に害悪を与えるものとして批判したりしていると捉えられる事例もありますが・・・
もし,そうであるならば,そんな社会に良くない会社(使用者)の元でなぜ働くのか・・それによって給与をもらっているのか・・・という「労働契約」の本質に反する部分があるので,会社(使用者)としては納得しがたいですし,社会通念で考えても,矛盾を感じる部分もあるのではないかな,と思います。

労働契約は,一緒に協力しながら,事業を発展させていこう,というためになされるものであるので,契約の一方当事者である労働者にも,単に労働力を提供すればいい,自分たちの労働条件を良くするために何をしてもいい,という訳ではなく,「職務専念義務」「誠実義務」を果たすことが求められ,「施設管理権」に従った職場施設の使い方を守ること,勝手に業務目的以外に使わないこと,が求められます。

「正当性」のない組合活動で業務への支障も大きい場合には,懲戒処分の対象となるだけでなく,その態様によっては,労働組合側も違法行為として損害賠償義務を負うこともあるので注意が必要です。
その組合行為に「正当性」があるかどうかは,判断基準によって,判断されるのですが,ひと言で言えば,やはり,使用者との信頼関係を破壊してしまうような信義に反するかどうか,労働契約の本質,趣旨から考えて,「信義則」に反する場合かどうか,ということになると思います。

組合活動で会社の業務に支障があると感じた場合には,会社(使用者)としては,対応として何が求められていて,何は許されないのか,事業の支障を減らすために,どんな場合であれば当該組合活動をやめるように求めることが出来たり,その行為をする労働者や労働組合に対して,懲戒処分をしたり,損害賠償請求を求め得るのか,トラブルを回避するために法的にとりうる手段は何なのか,を知っておきましょう。

どのような対応をすべきか,判断に迷う場合には,弁護士に相談しながら進めて行くことも大切だと思います。

そうすることで,万一の時に,「こんなはずじゃなかった」というダメージの発生,トラブル発生のリスクを減らしつつ,争議行為などの場面でも出来るだけ影響を少なくしながら,業務ができる会社になると思います。

今回も最後まで読んでいただいてありがとうございました!