多治見ききょう法律事務所

弁護士 木下 貴子 ブログ

交通事故によるしびれ,痛みがある場合の損害賠償の制限

交通事故によるしびれ,痛みがある場合の損害賠償の制限

いつも読んでいただきありがとうございます♪今回は,交通事故による被害で,神経症状(しびれ,痛みなど)が生じた場合についてお伝えします。

交通事故によって,しびれや痛みが続いているために,交通事故以前のように仕事ができなくなってしまった場合,働ける期間は,ずっと損害を補償してもらいたいところですが,後遺障害が神経症状のみの場合,補償される期間を制限があることが多いので,トラブルが生じやすいです。

そもそも,後遺障害としての補償そのものが認められにくいので,以前,自動車事故により「むち打ち」になった場合の補償について,「交通事故で「むち打ち」。補償してもらうためのポイントは?」にてお伝えしました。

今回は,神経症状により後遺障害があると認定された場合に,「むち打ち」の場合に一般的に認められる補償期間の制限と,むち打ち症以外の原因で神経症状がある場合の補償期間が制限される場合について,裁判で認められた事例,認められなかった事例から,どのような場合に,いつまで補償の制限があるのか,制限なく,働ける期間はずっと補償してもらえるのはどのような場合なのか,お伝えします。

交通事故によって,しびれや痛みが続いているために,交通事故以前のように仕事ができなくなってしまった場合,その損害はどのように補償されるされるのでしょうか。
いつまでの期間について,補償してもらえるのでしょうか?
むち打ち症による後遺障害の場合と,それ以外の場合では期間の制限は違うのでしょうか?

1 むち打ち症による場合の期間制限

治療をしても,これ以上の回復が困難と見込まれる障害が残った場合,「後遺障害」とされます。
「後遺障害」があるために,以前のように働けなくなった(労働能力喪失)場合,これによって生じた損害を被害者は賠償請求できることになります。
そして,いつまで,この労働能力の喪失状態が続くのか,によって,補償対象となる期間が変わる,ということになります。

むち打ち症の場合,14級(局部に神経症状を残すもの)に認定されると5年程度,12級(局部に頑固な神経症状を残すもの)に認定されると10年程度までに制限されることが多いです。
これは,それ以上は良くならないことを前提としている「後遺障害」の定義からすると,おかしいようにも思いますが,むち打ち症による神経症状の場合,永久に症状が緩和されないとは考えられていないためです。
しびれや痛みという神経障害は,次第に馴れることによって影響の緩和が一般に期待されること,特に被害者が若い場合には,可塑性に富むことから,日常生活での訓練によって回復する可能性がより高いと医者から指摘されています。そのため,多くの裁判例ではこれを踏まえて,むち打ち症の労働能力喪失期間を他の後遺障害の場合に比べて制限しているようです。

むち打ち症によって後遺障害が認定された場合には,このような傾向があることを知っておくことで,なぜ,認めてもらえないのだろう?という怒りやストレスが少しでも,緩和されたらと思います。

2 むち打ち症以外の原因による神経症状の場合

むち打ち症以外の原因(頭部や手足等への外圧による神経系の一部または全体の侵害)による神経症状の場合についても,やはり労働能力喪失期間が制限される傾向があります。
一方で,「むち打ち症以外の原因による場合には,神経症状であるとの一時から直ちに喪失期間が5年ないし10年に限定されると論じるには慎重であるべき」とされています。

そして,具体的に検討すべき事項として4点が挙げられています。

①症状固定後相当期間が経過しているのに改善の徴候がない場合
②脳挫傷等脳に障害を負ったことに伴う神経症状及び脊髄損傷に伴う神経症状の場合
③自賠責の後遺障害等級に該当しないために神経症状としてとらえられるものの,運動・機能障害が認められる場合
④年齢,職業,後遺障害の程度に応じで事案ごとに判断

もし,自分自身が交通事故の被害者となり,むち打ち症以外の原因によって神経症状が生じている,と言える場合には,この①~④に照らして,5年,10年といった喪失期間の制限はなく,働ける期間(症状固定から一般的な就労可能年数とされる67歳までの期間」と「平均余命の2分の1」のどちらか長い方で算定)はずっと補償の対象となる,と言える可能性があることになります。

3 むち打ち症以外の原因による神経症状で期間制限がある事例・ない事例

実際の裁判例を検討すると,①で改善徴候のない場合(4年程度期間が既に経過したり,5年以上経過)には,労働能力喪失期間を限定するのは相当でない,という判断をされているものがあります。

また,②の場合,少なくとも12級の場合は限定しないのを原則として考えるべきとされています。損傷している部位(脳や脊髄)からして,神経症状の改善が容易ではないと通常考えられるから,ということになります。
脳や脊髄損傷でなくとも,偽関節形成や金属プレートの埋め込みがあった事案では,神経症状の改善が容易ではないと通常考えられるために,制限なく,67歳まで労働能力喪失が認められています。

③の場合には,①,②の場合に比べると,限定される傾向はありますが,慎重に判断すべき,とされています。
神経症状以外に運動・機能障害がある場合でも若年で改善が期待されそうな場合や,「指の動かしにくさ」というような軽微と言われる障害の場合には,期間制限が認められる傾向にありそうです。

④の場合,高齢者の場合には就労可能年限まで認められる可能性が高く,若年者であるほど,就労可能年限まで認められる可能性は低くなる傾向です。
2021年3月から過去5年程度の裁判例を見ると,12級の場合,50歳以上では,全ての裁判例で就労可能年まで認められていて,40歳代でも約8割が認められているのに対し,30歳代以下では半数にとどまっている。14級の場合には,60歳以上ではすべて就労可能年まで認められているけれど,それ以外はばらつきがある。
12級では,40歳代以上であると就労可能年まで認められる可能性が高まるのに対し,14級の場合には60歳代以上でないと限定されやすい,と言えそうです。

また,神経症状が痛み(疼痛)を中心とする場合には,労働能力喪失率(後遺障害12級で14%,14級で5%の労働能力が喪失されたとして損害を計算しています)を低減させたりするのも合理性があるとされ,裁判例でもそのような傾向が見られます。
「むち打ち症以外の原因による後遺障害等級12級又は14級に該当する神経症状と労働能力喪失期間」は,「神経症状が痛み(疼痛)を中心とする場合には,原則として喪失期間を5年ないし10年に限定するのが相当なケースが多い」と指摘されています。

ご自身が被害に遭った場合には,ご自身の年齢者職業,障害発生経緯,症状などに応じて,具体的に①~④のどの点に該当するか考えることで,裁判で認められにくい点と認められる可能性がある点をご自身でも把握する目安が出来ます。
弁護士費用特約で弁護士費用を賄える場合には,金銭的な負担は避けられるかもしれませんが,訴訟になると,解決までの時間もかかり,訴訟準備に伴う弁護士との打合せなど,精神的な負担もありますので,裁判になった場合の予測,見込みを知ることで,どこまでの損害賠償で納得するのか,裁判まで進めて争うのか,検討するのが大事になります。

まとめ 弁護士相談で不安・疑問はお気軽に解消を

私は,交通事故の被害を受けた場合,どのように損害が計算されるのか,どのように手続きは進められていくのか,などを知っておくことで,不安や疑問が解消されるといいな,と思って伝えています。
傷害の状況によっては,直ぐに弁護士に相談に行くことも出来ないこともあると思いますし,出来るだけ時間を短くして弁護士に相談したい,と思う場合,予め知識を得て,解消できる疑問点は解消しておけるといいかなと思っています。

それでも,不明なところや分かりづらいところはあると思いますので,その際には,遠慮なく弁護士に質問して,疑問を解消することで心を少しでも軽くしてもらえたらと思います。
なぜ,そのような計算になるのか,なぜ,その期間までしか認めてもらえないのか,なぜ,その額になるのか,丁寧な説明を省かれてしまうこともあるかなと思いますが,その場合でも,疑問に思ったら弁護士に聞いていただいて大丈夫です。ただ,相談時間も限られるし,聞きづらい,と感じる方もいらっしゃると思いますので,そのようなときに,今回のブログの情報が役に立ったらと思います。

知っておくことで,被害の回復までの道のりを安心して進むことが出来,必要な損害賠償請求を効率的,効果的に過不足なく請求出来ることに繋がります。
また,知っておくことで,防ぐことが出来る事故,避けられる損害賠償の負担もあります。

これからも,そのための「知識」についてお伝えできればと思います。

それでは,今回も最後まで読んでいただいてありがとうございました!!