多治見ききょう法律事務所

弁護士 木下 貴子 ブログ

就業規則とは?就業規則が無効にならないために必要な2つの要件

就業規則とは?就業規則が無効にならないために必要な2つの要件

いつも,読んでくださり,ありがとうございます!今回は,「就業規則」について考えます。
就業規則を作るとき,会社の経営者(事業主,企業,使用者)は,どのようなことに気をつけるとトラブルを回避できるのでしょうか?
これを知らないと,せっかく就業規則を作ったのに,従業員への拘束力がない,意味がない,という事態も実はあり得ます。
就業規則とは違う合意(労働契約)をした場合には,どちらの拘束力が発生するのでしょうか?

就業規則の意味と拘束力がある場合について理解して雇用関係に入ることで,入社してから「こんなはずじゃなかった」という労働者の齟齬も回避できます。

また従業員の問題行動があった場合に,適切に懲戒処分をするためにも,就業規則はとても重要です。
実際に,従業員に問題行動があった場合に,このような就業規則,賞罰規程を定めておくべきであった・・というケースもあります。

就業規則が有効となるために必要な2つの要件とは?
そもそも,就業規則とは何でしょうか?
就業規則は,何の目的で作り,どのように変更するのでしょうか?

1 就業規則とは

「就業規則」とは,労働時間,賃金などの労働条件や従業員が守るべき服務規律を集団的・統一的に定めた規則の総称です。
事業主として,もちろん,基礎的な労働条件を定めておくことも重要ですが,どのようなことをして欲しいのか,どのようなことはしてはいけないのか,具体的に列挙することで,従業員に会社,事業主が求める規律を守るように言えることになります。

つまり,会社,事業主が従業員に対して求める姿,行動を明確にできるのも就業規則の大きな役割の一つです。

就業規則を策定した当時は予測していなかった,業務中にSNS投稿をすること,会社や事業主の誹謗中傷をすることなど禁止したい場合には,改めて,就業規則を変更する必要があります。
時代に適合しているのか,時々見直しが必要になります。

2 就業規則の作成・変更方法

労働基準法には,就業規則制定・変更に関する手続きが規定されています。
労働基準法によると,事業場単位で常時10人以上の労働者を使用する使用者は,就業規則を作成しなければならないと定めています(89条)。
そして,労働者代表(労働者の過半数で組織する労働組合,これが存在しない場合は労働者の過半数代表者)の意見を聴いた上で(第90条第1項),労働基準監督署に届け出るとともに(第89条,第90条第2項),労働者に周知しなければなりません(第106条)。
「意見を聴く」とは,文字どおり意見を聞くことを指し,同意を得る必要はありません。

「労働契約法」の規定にも注意が必要です。
労働契約法によると,労働者及び使用者が労働契約を締結する場合において,使用者が「合理的な労働条件が定められている就業規則」を労働者に「周知」させていた場合には,労働契約の内容は,その就業規則で定める労働条件によるものとされています(7条本文)。

つまり,「合理性」「周知」という2つの要件をちゃんと満たす場合に,当事者(使用者と労働者)に就業規則の拘束力が及びます。

また,一定の場合には,就業規則により労働条件の不利益変更が可能となります(8条以下。詳細については次回以降お伝えします)。

3 労働契約と就業規則・労働協約・法令との優先関係

個別労働契約において,就業規則以上の労働条件を合意すれば,これが優先します。
つまり,就業規則以上に労働者にとって良い条件を個別の労働契約で決めれば,この合意が優先します。
一方で,就業規則に達しない労働契約(就業規則よりも労働者にとって悪い条件の労働契約)は無効となり,就業規則が労働契約の内容となります(12条,7条但書)。
また,就業規則が法令又は労働協約に反する場合には,その法令や労働協約の適用を受ける労働者との間の労働契約については,法令や労働協約が優先するという関係になっています(13条)。

4 就業規則で労働者の行動を拘束できる理由

使用者が一方的に定めた就業規則が,どうして労働者を拘束することになるのでしょうか?
民法の大原則からすれば,当事者が合意をしなければ,その合意の効力は発生しないはずなのに,
どうして労働契約法は,そこまでの効力を就業規則に認めているのでしょうか?

実は,労働契約法が制定されたのは,比較的後になってからのことだからです。
それまでに判例で積み重ねられてきた法理が,労働契約法において明文化されたという経緯があります。
そのため,労働契約法の趣旨,就業規則になぜ,拘束力を認めているのか,就業規則の法的性質,については,過去の重要判例を読み解いていくとよく分かるということになります。

5 就業規則の法的性質

就業規則の法的性質について述べた判例をみてみましょう。
秋北バス事件(最高裁昭和43年12月25日大法廷判決)です。

「元来,「労働条件は,労働者と使用者が,対等の立場において決定すべきものである」(労働基準法2条1項)が,多数の労働者を使用する近代企業においては,労働条件は,経営上の要請に基づき,統一的かつ画一的に決定され,労働者は,経営主体が定める契約内容の定型に従って,附従的に契約を締結せざるを得ない立場に立たされるのが実情であり,この労働条件を定型的に定めた就業規則は,一種の社会的規範としての性質を有するだけでなく,それが合理的な労働条件を定めているものであるかぎり,経営主体と労働者との間の労働条件は,その就業規則によるという事実たる慣習が成立しているものとして,その法的規範性が認められるに至っている(民法92条参照)ものということができる」。

対等の立場で個別に決定するのが実際には困難である労働者と使用者,という関係において,「就業規則」がこれまで必要とされる背景があった。それは,いわゆる約款のようなもので,そのために,労働契約の内容は合理的な就業規則によるという事実たる慣習が存在するとして,就業規則に法規範性(拘束力)を認めているのです。

つまり,これまで「慣習」として,就業規則が合理的なものであれば,これに基づいて労働関係は規律されてきたという経緯があるので,慣習法として,個別に労働者の合意を得なくても,拘束力を認めている,ということになります。

6 就業規則の「周知」の必要性

とはいえ,就業規則はやはり,会社,事業主が一方的に定めるものですから,これに拘束力を認めるためには,「合理性」のあるものを作成するだけでなく,就業規則の「周知」が必要としています。
この要件については,フジ興産事件(最高裁平成15年10月10日第二小法廷判決)以降の判例法理を明文化したものです。
ここでは,従業員が就業規則の内容を知ることができる状態に置かれていること,すなわち「実質的周知」が必要とされていることが重要です。

みなさんの就業規則は,いつでも従業員が見られる場所に置かれていますか?
従業員に,就業規則の設置場所がどこであるのか,従業員に知らせていますか?
されていない場合には,就業規則が無効になってしまいますので,「周知」を必ず行いましょう。

7 時代にあった合理的な就業規則を

就業規則は,労働者の意思と関係なく法的効果が発生するので,その法的な効果,従業員を拘束できるようにするための要件が判例上決められています。
就業規則が有効になるためには,「合理性」のある就業規則にしなければいけませんが,どのようにしたら,合理性に問題がある,と言われるのでしょうか・・・?

一方的に会社にとって有利な就業規則や不公平な就業規則は「合理性」がある,と言えない場合があるので,注意が必要ですから,弁護士に確認するといいと思います。

就業規則は,全てのリスクに対応したものを最初から作るのは難しい部分もありますので,これまで生じたリスクについて知っている弁護士に起こりうるトラブルを尋ね,細かい点については,修正をしていくといいと思います。
それでも,予測しなかった問題が生じることはあるので,その場合には,次に同じような問題があった場合には適切に対処できるように,手続きを踏んで,就業規則を随時変更していくことも重要です。
実際に,そのように対応されている企業もありますので,一旦就業規則を作ったら終了,ということではなく,時代に合わせて,不都合があった場合には,順次改定していく,ということが大事だと思います。

弁護士としては,多くの案件を見ながら,こういう場合にはトラブルが生じやすい,ということが分かるため,これを踏まえてトラブルを回避するための就業規則,労働契約を作成するなど事前対策のお手伝いをすることになりますし,実際にトラブルが生じてしまった場合には,就業規則をどのように解釈し,どのように使うことで,違法にならずに懲戒等の手続きを進められるのか,訴訟になったらどのように判断されることになりそうか,を考えて事後対応をアドバイスすることになります。

どのような規定方法で,どのような点を定めれば,就業規則の内容が有効になるのか…?
は結局,事業主側と労働者側の立場の公平感,バランスによるので,とても難しいと思うのですが,時代によって変わっていく法制度,「考え方」を知ったうえで,これに応じられるように見直し,変更していくことで,トラブルを回避しやすくなると思います。

就業規則にどんな文言を入れると良いのか,こういう文言を入れたいけれど有効になるのか,などご不明な点がある場合には,一度,弁護士に相談いただけると良いと思います。

法律上,何が許されていて,何は許されないのか,トラブルを回避するために法的にとりうる手段は何なのか,を知っておくことが重要です。
そうすることで,万一の時に,少しでも「こんなはずじゃなかった」というダメージの発生,トラブル発生のリスクを減らして,気持ちよく業務をしていただけたらと思います。

それでは,今回も最後まで読んでいただいてありがとうございました!