多治見ききょう法律事務所

弁護士 木下 貴子 ブログ

交通事故で減収無し。逸失利益が認められる場合・認められない場合

交通事故で減収無し。逸失利益が認められる場合・認められない場合

交通事故によって,後遺症が残り,将来的にこれまで通りに働けなくことによる損害(逸失利益)が生じた場合,この損害を回復するために損害賠償請求をすることができることになります。
しかし,後遺症があっても,収入減少がない場合には,その「損害」は発生していないように見えますが,損害を受けたとして損害賠償請求はできるのでしょうか?

これが,減収がない場合の消極損害(後遺症逸失利益)の認定として,争われることがあります。

減収がない場合でも「逸失利益」として損害を認めていいのでしょうか?
身体的機能は失われているのに,減収していなければ「逸失利益」を認めないのは不当ではないのでしょうか?

交通事故による後遺障害の逸失利益が認められないのは,どんな場合?
裁判所は,減収がない場合でも,逸失利益を認めている場合が多い?
どんな「事情」があると,減収していなくても後遺障害による逸失利益が認められる?

「交通事故による後遺障害。事故前より減収しなくても逸失利益の請求出来る?」に引き続き,最近の裁判例の判断内容を検討しながら,逸失利益が認められる場合と認められない場合の違いを考えていきたいと思います。

1 減収がない場合の消極損害

「交通事故による後遺障害。事故前より減収しなくても逸失利益の請求出来る?」でご紹介している最高裁判判決や裁判例をみてみると,減収がない場合の消極損害(後遺症による逸失利益)は,一律に「認められる」「認められない」と決まらないことが分かります。
つまり,個別の事情にって,減収がない場合の消極損害(後遺症逸失利益)が認められる場合,認められない場合があることになります。

それでは,どのような「事情」「場合」が減収がない場合の消極損害(後遺症逸失利益)が認められないのか?
どのような「事情」「場合」には,認められるのか,裁判例をみてみると,傾向が分かるので,ご紹介していきたいと思います。

2 逸失利益を認めなかった裁判例

名古屋地裁令和4年4月25日の判決では,「被害者が生活保護を受給して単身生活をしている人物であり,かつそれまでの就労期間や就労の経過を見ると就労は継続せず,多くの期間で生活保護を受給している状況からすると,将来的な就労により収入を得る蓋然性があるとは認められない」と判断されています。

金沢地裁令和3年2月25日判決でも,被害者(給与収入者)の収入が一定しており,現実の減収が見られないことを,逸失利益が認められない理由として挙げられています。
この裁判の事例では,「被告には,本件事故前にはすでに,相当程度に深刻な下肢痛がみられていた。」との認定もされています。

こうしてみてみると,「後遺障害」は確かに発生したけれど,単に収入の減少がないだけでなく,交通事故以前の状況も,後遺障害が発生した後の心身の状況が大きく変わっていない場合や,これまでの勤務の傾向から,今後も勤務傾向が変わらないと予想されるような場合,逸失利益があったとは認められない,と認定されやすいと思います。

3 逸失利益を認めた裁判例

多くの裁判例では,減収がなくて逸失利益を認めています。
どのような「事情」「場合」に逸失利益が認められやすいのでしょうか?

裁判例を検討すると,逸失利益を認める場合の「事情」「理由」として使われやすいと言えるものとして2つの「事情」がみられます。

  1. それは,
    ①後遺障害が発生した時点で減収がなくても将来において影響が生じるおそれがある
    ②本人や周囲の努力があって減収がない状態である

この2つの事情が指摘されることが多い傾向にあると思いますので,また次回に具体的に裁判例を見ていきたいと思います。
裁判例の数からすると,どちらかと言えば「減収」がなくとも「逸失利益」を認めようと考えるのが,今の裁判所の傾向かな・・と思いますが,その理由はなぜなのか,それでも認められない場合があるのはなぜなのか,引続き,考えていきたいと思います。

まとめ 原則と例外

「交通事故による後遺障害。事故前より減収しなくても逸失利益の請求出来る?」で紹介した最高裁の判例では,「特段の事情のない限り」「損害を認める余地はない」という表現がされています。
この場合,「特段の事情」を主張,立証できない限り,損害(ここでは後遺症逸失利益)を認めないと,そのまま読めば捉えられます。
つまり,「原則」は認めない,しかし,「例外」的に「特段の事情」があれば,「原則」でない結果≒損害を認めることが出来る,という感じ。

でも,ここで注意が必要なのは,「後遺症の程度が比較的軽微であって,しかも被害者が従事する職業の性質からみて現在また将来における収入の減少も認められないという場合」という「事情」「条件」がある場合には,原則損害を認めない,という判断のところかなと思います。

そのために,収入減少がなければ,「原則」的に逸失利益を認めないわけではなくて,「後遺障害の程度」が重かったり,将来の収入減少が認められやすい場合には,そもそもこの最高裁の判例の前提,「事情」に該当しないから,個別に判断していこう・・ということかなと思います。

その後の裁判例を見ていくと,実態としては,「後遺障害の程度」が軽い場合には,認められにくいことは考えられますが,その程度が重い場合には,現在の傾向からすると認めようとする傾向にあるのかな‥と思っています。

このあたりは,身体的機能が確実に落ちているのに損害を認めないことだけでなく,「若年女性の交通事故による逸失利益~損しない算定方法」「若年で収入が低い場合の交通事故。将来増える予定の収入で損害を計算してもらう方法は」等で記載したように,現在の収入予測,状況を前提に,直ちに「将来の収入」も少ないはず,とか,変化はないはず,と否定的,限定的に将来の見込みを考えることへの不公平感もあるのかな,と思ったりします。

時代の流れを反映しているようで・・面白いなと思います。

ご自身や知っている方の事案で,今回ご紹介したような事情がある場合には,弁護士に相談した上で,弁護士の予測も聞きながら,裁判等までやっていくのか,検討をしてもらえたらと思います。

交通事故が生じた場合の具体的な賠償金額の算定の方法,どんな被害が生じるのか,被害を回復してもらうために注意しておくべきことは何か,どんな選択があるのか,などを知っておくことで,被害の回避をしたり,回復が出来る可能性が上がります。
これからも,そのための「基準」「考え方」についてもお伝えできればと思います。

それでは,今回も最後まで読んでいただいてありがとうございました!!