多治見ききょう法律事務所

弁護士 木下 貴子 ブログ

セクハラ被害者が出来ること。追求される加害者・会社の責任

セクハラ被害者が出来ること。追求される加害者・会社の責任

「セクハラ」された,と感じたら,被害者が被害回復のために出来ることは?
「セクハラ」被害によって,加害者はどんな法的責任を負う?
会社内で「セクハラ」があった場合,企業,会社はどんな責任を負う?

私は,女性弁護士であることもあって,時々「セクハラ」被害を受けた,という女性から相談されることがあります。
また,企業側の相談として,社内で「セクハラ」があったと問題になっている,という相談をされることもあります。

この場合,被害者としては被害回復のために,どんな法的手段を取ることができるのでしょうか?

職場内で「セクハラ」があった場合,企業としては,被害者がどんな法的手段を取ることがありうるのか,それによって加害者本人や企業,会社がどんな責任を負担することになるのか,を知って,適切に対応することで,損害賠償義務を負うことを避けられたり,損害の拡大を防ぐことができます。

被害者としても,特に,今後も継続して働こうと思っている場合には,企業や加害者との関係が悪化することは避けたいところもあると思いますので,取りうる多様な手段を知ることで,どのような法的手段があり,どの方法を選択していくことが,自分にとって良いのか,選ぶことも出来ます。

では,セクハラの被害者は法的にどんなことができるのか・・?

セクハラされたと感じたら,加害者本人に対してできることは何か?
セクハラされたと感じたら,会社,企業には何ができるのか?
セクハラ被害を相談されたら,企業は何をし,どんな点に注意すればいいのか?

今回は,実際に「セクハラ」被害があった場合,被害者としてはどうしたらいいのか?企業,会社としてはどのように対応したらいいのか?セクハラ被害を予防し,また被害発生後も適切に対応することで,被害を拡大しないための事後的な対応方法について考えていきたいと思います。

1 加害者への損害賠償請求・刑事告訴

セクハラ行為は,被害者の性的自由や名誉権,プライバシー権等を侵害するものです。
そのため,民事的な手段としては,「人格権」の侵害として加害者に慰謝料等の損賠賠償請求することができます。

また,「セクハラ」という表現にすると,軽くとらえられてしまうことがありますが,性的な犯罪も成立する場合があります。
考えられる犯罪としては,女性の胸などを触ったりする場合,「不同意わいせつ罪」,相手の同意を得ずに性交する場合,「不同意性交等罪」,脅迫や暴行を用いて性的な行為を強制する場合,「強要罪」,異性関係のことなど,性的な内容を言いふらす場合「名誉毀損罪」などが考えられます。

被害者としては,警察に被害届を出すことや告訴を行うことが考えられます。
具体的な手続きについては,直接弁護士に相談するほか,日本司法支援センター(法テラス)や,各都道府県の犯罪被害者支援センターに相談することが考えられます。

会社,企業側としては,職員が「加害者」として損害賠償請求や犯罪者として告訴されないよう,また,職員の中で被害者を発生させないよう,「セクハラ」行為が,民事的な損害賠償請求の対象になるだけでなく,犯罪行為になることも含めて,日常から啓発することが大事です。

2 会社への損害賠償請求・環境改善要求

雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(略して男女雇用機会均等法)は,セクハラの防止のため労働者からの相談に応じて,適切に対応するため,必要な体制の整備,その他の雇用管理上必要な措置を講ずることを事業主に義務づけています(男女雇用機会均等法11条1項)。

そこで,被害にあった場合には,会社(大学内セクハラであれば大学内)の相談窓口を通じて,セクハラを防止するための職場環境や教育環境の改善要求を行うことが考えられます。

この場合,会社,企業は,「セクハラで加害者本人・企業はどんな法的責任を負うのか?」「セクハラに対する企業の法的責任~セクハラ防止体制構築と損害賠償賠償請求」に記載した通り,加害者である社員が職場で行ったセクハラについて使用者責任として加害者本人と同様に損害賠償責任を負うことがあります。

また会社は,会社自身の責任として,損害賠償義務を負うこともあります。
会社は,被害者である社員との間で雇用契約に付随する義務として,職場環境を整える義務を負担しているため,会社はセクハラが行われている状況を放置して,セクハラ被害を生じさせた場合には,会社自身に対する責任として,会社に対する損害賠償請求をされることが考えられます。

会社,企業側としては,会社そのものを守るためにも,セクハラが生じない環境整備の他,実際にセクハラが行われてしまった場合の適切な対処,職場環境の改善についても意識的にしていく必要があります。

3 労災請求等

セクハラにより精神疾患となってしまった場合など,セクハラ被害が,労働災害にあたる場合もあります。
この場合,国による労災保険給付の対象となります。

厚生労働省では,労働者に発病した精神障害が業務上生じた疾病として労災認定できるかを判断するために,「心理的負荷による精神障害の認定基準」を定めています。
認定基準では,発病前の概ね,6ヶ月間に起きた業務による出来事について,強い心理的負荷が認められる場合に,認定要件の一つを満たすとしています。

認定要件に該当する場合,労災認定請求をして,給付を受けることが出来ることになります。

セクハラ相談を受け付けた企業,会社側としては,「労働災害」として申請されることで企業イメージが悪くなったり,実際に保険を利用することで保険料が上がってしまったり,手続きの手間が面倒であったりなどするため,職員が労災申請をすることに抵抗したり,非協力的な態度をとるケースも少なくなく,問題とされることがあります。

会社の不適切な労災申請への対応そのものが,「セクハラ」による被害を増幅した,と言われるトラブルもありますので,被害者が労災請求を考えている場合には,「事実認識」に違いがあるとしても,一切協力しないという態度ではなく,適切な認定がされるよう,協力する態度は,状況を悪化させないためには必要だと思います。

もっとも,「事業主の証明」を被害者から求められた際,同意できない部分があることもこのようなケースでは予測されるところです。その場合には,証明できない事情について記載,説明するという協力方法になりますが,具体的な対応に迷う場合には弁護士に相談しながら進めるのが良いでしょう。

多角的視点を持つ~まとめ

「セクハラ」が生じないように,予防するための知識,組織作りは,とても重要です。
その際に大事な視点は,「相手ならばどう感じるか?」「何を望むか?」という視点です。

企業,会社側,経営者側からすれば,こんなことが「ハラスメント」「セクハラ」になるわけがない,と感じることも,労働者,従業員にとっては,「ハラスメント」と感じることがあります。
「男性」目線で見た場合に,「これくらいは,ハラスメントになるわけがない」と感じることが,「女性」目線から見た場合,「ハラスメント」と感じるものものもあります。

自分自身とは異なる「属性」の人の感覚,「感じ方」は想像しにくいことが多いですが,もし,自分がその立場だったら・・を意識してみるといいと思います。

私自身は,今は経営者,事業主の立場ですが,勤務弁護士として10年働いた経験から,働く側の気持ちってこんな感じだよな・・というのを思い出すことを意識しています。また,企業側の他,セクハラ等の被害を受けたとする職員側の話を聞くこともあるので,その視点を意識しています。

ただ,「世代」によるギャップがあるのも,とても感じています。
自分のころなら,やり方は,先輩弁護士のやり方を見て学ぶ,それでもわからない場合は「聞く」のが「常識」「当たり前」と思っていたところがありますが・・
今から働く「世代」の方にとっては,上司の方から教えてくれることが「当たり前」「教えられないのは,上司の能力不足」という考え方があることに話していると気づきます。

上司から「何やってるんだ」と怒鳴られたり,「女性職員は社長の横に座って~」と懇親会の席で声がけをすることが「当たり前」として働いてきた世代にとっては,「これくらいの言葉でパワハラ,セクハラになるはずがない」「俺ら(私たち)は当たり前にしてきたんだ」と思いがちですが,今の世代の「常識」「当たり前」はそうではないので,時代による「常識」「当たり前」の「感じ方」の変化を意識することも大事だと思います。

その意味で,「セクハラ」を含めた「ハラスメント」を出来るだけ防ぎ,また,それでも起きてしまった場合に適切な対処をするためには,相手の立場の視点,現状では何が「社会通念上」「ハラスメント」と考えられているのか,という「多角的な視点」を持つことが重要だな,と改めて思います。

私自身も,自分より下の世代の方の「常識」「当たり前」を理解しておらず,トラブルになってきた経験もあるので・・注意したいと思っています。
そのためには,率直にその世代の方の「考え方」をトラブルが生じる前からよく話をして聞く,という姿勢も大切だと思いました。

また,弁護士は,最近の裁判例などから,現在では,どんな言動が「ハラスメント」となるのか,損害賠償の対象になってしまうのはどんな言動なのか,知っていますので,継続的に,定期的に意識を喚起するために,研修を実施するのも有効だと思っています。

この「多角的な視点」を持つことができるように,セクハラについても,何が現在の基準に当てはめると「セクハラ」となるのか,「セクハラ」となった場合,加害者本人や会社にどんな損害が生じるのか,セクハラ被害が発生後にどのような対応が必要になるのか,どんな対応をしないとトラブルになるのか,・・など,これからも伝えていきたいと思います。

そうすることで「セクハラ」行為をした,ということで行為をした本人及び雇用主が損害賠償請求などの責任をとらなければならなくなったり,信頼を大きく失ったり,人間関係が悪くなってしまうリスクを避けつつ,人と人が温かい交流が続けられて,安心して過ごせる空間づくりをするお伝いが出来たら嬉しいな,と思います。

引続き,近年意識されている「セクハラ」について,お伝えしていきたいと思います。

今回も最後まで読んでいただいてありがとうございました!