多治見ききょう法律事務所

弁護士 木下 貴子 ブログ

DVの子どもへの影響~児童精神医学博士・杉山登志郎先生

DVの子どもへの影響~児童精神医学博士・杉山登志郎先生

「どんな場合も面会交流って,子どものために必要なの?」
これは,ずっと私の中で,意識していること。

面会交流は,両親から愛されていると実感できるため,「子の利益」のために重要なこと,と私は思っています。
だからこそ,最近は特に,別居親となることが多い父親向けに,どうしたら面会交流が円滑にできるのか・・をテーマに動画解説もしています。

でも,一方で,「面会交流は本当に子どものために必要か?」「DVにさらされる子ども達~面会交流での子への悪影響を見抜くポイントと伝え方」に書いたように,面会交流することがかえって「子の利益」を害してしまうことは,本当にある。

そんな中で,「面会交流は本当に子どものために必要か?」にも書いた面会交流の支援もしている団体である「NPO法人あゆみだした女性と子どもの会」で児童精神科医の杉山登志郎先生の講演会「DVの子どもへの影響」を企画して下さったので,参加しました。
杉山先生は,「子どもの脳を傷つける親の行動,発達を促す親の行動」の友田先生とも一緒に働いていらっしゃって,DVの子どもへの影響,直接子が暴力を受けない場合の脳の損傷についても理解をされています。

「面会交流」って何が何でも実施することが「子の利益」になるのか・・?
どんな親であっても「面会交流」した方が,「子の利益」となるのか・・?
「面会交流」よりも守られるべき,子の健全な成長に必要不可欠なことは何か?

私自身も,子にとって良い親であるために,また,子に関わる紛争を取り扱う弁護士として,子どもの健全な発達のために必要だと感じたポイントを3つお伝えします。

1 アタッチメント(愛着)

杉山先生は,0歳後半から2歳代の「安全の輪」が大切,だと言われる。
怖いことがあったら,安心できる人にくっついて,エネルギーをもらう。「アタッチメント」が大事。

①確実な避難場所・安全基地(親)とくっつく

②積み木を積むなどのチャレンジをする
「見守ってね」「手伝ってね」「すごいって見ててね」「一緒に楽しんでね」(子の内心)

③失敗して転んでしまう(痛み)
「守ってね」「慰めてね」「大好きって受け止めて」「気持ちを落ち着かせてね」(子の内心)

①に戻って安心。エネルギーをもらう(②に続く)

(参考:https://www.ryo-iku.jp/06_gpress/31/p02-03.pdf:図2に記載)

この輪を繰り返して,子どもは,①の親から離れていて,すぐに物理的に「くっつく」ということが出来なくても,心の中に内在した「安全基地」を持てるようになり,失敗しても「大丈夫」という気持ちが芽生えるようになる。

そのため,この「アタッチメント」は子どもが健全に心身共に成長するためにとても重要なもの。

私は,子の健全な成長のため,面会交流の実施も重要だと思っていますが,「DVにさらされる子ども達~面会交流での子への悪影響を見抜くポイントと伝え方」にも記載しているとおり,面会交流の無理な実施が「安全基地」を形成を阻害してしまうこともある。
だから,何と言ってもこの「アタッチメント」「安全基地」の形成の重要性を両親,裁判所,弁護士など親子,離婚問題にかかわる弁護士は忘れていはいけないと思いました。

2 最もよい愛着関係

愛着関係のパターンは4つに分けられる。

母親が子と遊んでいる。
その後,母が部屋を出て行き,見知らぬ人が入ってくる。子はどう反応するか?(A)
しばらくしてその見知らぬ人が部屋を出て,母親が戻ってくる。子はどう反応するか?(B)

  • ①安定型 B型 60% 健常な発達
    (A)で泣いて,(B)で母が戻って笑顔になる。喜ぶ

1の子どもの出すサインにきちんと親が反応でき,アタッチメントの形成がうまくできているパターン

  • ②回避型 A型 15% 時に不適応
    (A)でも(B)でもあまり反応しない。
  • ③アンビバレント型 C型 10% 分離不安や不登校になることがある
    (A)で大泣きするなど激しい不安や混乱をして,(B)で母にべたっとくっつくだけではなく,母親を叩くなどの攻撃をする。

親が自分の気分の都合で子と関わっていて,子の様子に敏感に反応することができていないことによって,子供側は不安定になって,一貫性のない行動になる。

  • ④無秩序型 D型 10~15% 愛着障害
    (A)で親が出ていくことに知らんぷり。(B)は無視,おびえるような反応もあって一貫性が無い。

この中で,現在,最も良いと考えられる愛着関係は①。
以前,欧米では,親から離れても動揺しない子が望ましいと考えられていて,②が最適とされ,その結果「A型」と名付けられているようでした。
現在では,最も良い関係は,①とされています。

親からの虐待を受けているケースでは,④の反応を示すことがある。

みなさんのお子さんやお孫さんは,どんな反応をしそうでしょうか?
言葉を話せない頃は,お子さんの発達状況,身近な親が適切に養育しているかどうか,はお子さんの「反応」から感じ取ることが重要だと改めて思いました。
「親権者」を誰にするのか,や「面会交流」を実施しても良いのか,などにも関わるところなので,私も意識していきたいと思います。

3 愛着形成の影響

愛着形成が上手くいっていると,対人関係を形成する基盤となる。自律的に情動コントロールできるようになる。
その結果,社会的な行動の基盤形成にもつながる。

例えば,幼児がお菓子を取ろうとする。
そのとき,そのお菓子は今とってはいけないもの,だとすると,親は止めようとする。
良い愛着関係が形成されている親であれば,「嫌な顔」(いわゆる,メッというような表情かなと思います)を親がするだけで,子はしてはいけないことだと気づいて止める。

1で書いたような子の中に親(養育者)のイメージが内在化する。リラックス・安心して過ごせる。
離れていても,愛着関係のある親(養育者)がいつも子を守る,まなざしを向けている,という感覚を持てる。
だから,何か悪いことをしようとしたとき,これをしたらお母さんやお父さんが悲しい顔をするだろう,と思い浮かんできてやめる。

そして,もう一つ重要な良い影響がある。
愛着形成が上手くいっていると,対人関係のトラブル,交通事故,犯罪,災害など,自分ではどうしようもないことが起きても,「トラウマ」から守ってくれる。
人生では,こういう困難が生じて,色々と大変な思いをする。
でも,お父さんが,お母さんが「守ってくれる」,だから大丈夫と感じられる。

私自身も,これまで攻撃を受けたりして,つらいときもあったけれど・・
やっぱり,それでも頑張ろうと思えたのは,親や大事な夫(配偶者),子がいつも応援してくれている,って思えたから。

杉山先生はこれを「トラウマ防波堤」と言っていた。
愛着をしっかりと結べた人の存在が,人生のいろいろな場面で助けてくれる。

でも,ゆがんだ愛着形成がなされると,こういう基盤が作れない。

トラウマに対して弱くなる。緊張,警戒状態が続き,生理的な乱れが出る。
子の場合,「愛着障害」と言われる症状が出る。

安心感がない状態で育ったために,「やってみようか」といっても,「ダメ」「イヤ」「やらない」とチャレンジしなくなる。気分の低下,無価値観を持つ。
他の子と全く協調ができない。
平気で嘘をつく,落ち着きがなく,常にイライラとかしている。
叱られてフリーズするだけでなく,褒められてもフリーズしてしまう。

大人になった場合には,大事なものが欠けてしまった,何か満たされることのない人になりやすいとのこと。
そのために,物を大量に買って捨てられずにごみのようにためてしまったり,飼えないほどのペットを集めたりしてしまう。

そう考えると,親だからと言って,子どものニーズをとらえることが出来ず,「愛着関係」を上手く築けない親と過ごすことは,子にとっては,その後の健全な成長に大きな問題となってしまうことが分かります。

なので,親だから会う権利がある,とか,会わないことが子に不利益になる,という一律に決めてしまう「考え方」は,改めて注意が必要だと思った。
自分自身,愛着関係を上手く築ける「完璧な親」とは到底言えないけれど・・少なくとも,「愛着関係」がうまく作られていないときに,不完全な親だから,学ぼうという意識が無く,それでも,このまま何も変えなくて問題ない,「自分は正しい」と思ってしまう親と無条件に会わせるのは,「子の利益」のために注意したい,と思った。

まとめ 最も大切なキーワードは「安心」

先生は,最も大切なキーワードは「安心」と言っていた。
子育てでは,子にとっても,親にとっても「安心」出来る環境が最重要。

・・そう考えると,改めて,「面会交流」でも子が愛着関係を築こうとしている親の「安心」な環境を守るのは,子の利益にとっても,不可欠だと思いました。

自分の子どものころを思い出すと,やっぱり,記憶として明確に刻まれているのは,父親が母親を蹴っていた場面。
私自身は,直接父親から暴力を受けたことはなかったけれど,いつ,そういうことが起きるのか,と父と母が一緒にいると,いつも不安な気持ちがあった。

でも,うちの場合は,途中からは父が単身赴任で離れて過ごすことも多くなったので,日常がとても安心に過ごせるようになった気がした。
母親が笑ってくれていると,笑顔でいてくれていると,「安心」した。
私が傷ついて悲しんでいれば,「お母さんが言ってやる!」と学校に対しても,必要があれば,意見もしてくれた。
私が自分で電話して意見を言うのを,そばで聞きながら,見守ってくれることもあった。

・・結果,私は,上手くいかないことや,他人から誹謗中傷されたりすることがあっても,何とか過ごせている。
・・それでも,私には,ちゃんと無条件に愛してくれる人がいる,だから,大丈夫,何とかなる,と思える。

その原点はやはり,私は「母が守ってくれている」という気持ちがもらえたから,だと思う。
今は,夫が「私を守ってくれている」とも思えている。

・・そして,そういう基盤があるからこそ,父も私のことを「愛してくれていたんだ」と冷静にみることができる。
もし,この基盤が無くて,常に,緊張,不安定な状況が続いていたとしたら・・冷静に客観的に物事をとらえられる余裕なんて,やっぱりなかっただろうなと思う。

「安心」が守られている場所があるからこそ,危険なことにもチャレンジできる。
「安心」が守られている場所があるからこそ,危険な目に遭っても,また,立ち直れる。

私は,離婚に関わる事案を取り扱うことも多いので,親権者を決める場面や,面会交流を本当に実施していいのか,実施する場合にはどのような方法がいいのか,その際の注意点にはどんなことがあるのか,については,「安心」を守るということも意識しながら進めていきたいな,と思っています。

・・それが長期的にみれば,別居親として関わる親と子の関係も良いものとして続いていくものになる,と思っているので!

一方で,事情によっては,それまで良好な「愛着関係」を築いていた親のところから離れることになって,子が「愛着関係」を築けていない親と一緒に住むことになっていることもある。
この場合は,そもそも,その状況がいいのか?子どもを愛着関係のある親の元に戻した方がいいのではないか?というところから問題にはなるのだけれど,戻せない場合には,せめて「面会交流」を充実させて,沢山「愛着関係」を上手く築けている親と接触することも重要だと思う。

でも,こちらは,同居親と別居親がうまく話合いができない場合には,対立構造になるので,同居親の「安心」状況は壊れやすい。
それでも,子の「安心」を守りながら,会うことができるのか・・・は本当に難しい問題だと思う。だからこそ,これからも学びながら,諦めずに出来ることを探していけたらいいなと思っています。

このブログを読んで下さったみなさまにも,親子関係,また,周りの方とよい人間関係を築くためのヒントとなりますように,そして,離婚事件や面会交流事件など,親子関係の調整,「子の利益」を考える立場で支援をする方にとって,お仕事する際のヒントになりますように…

今回も最後まで読んで下さって,ありがとうございました!