多治見ききょう法律事務所

弁護士 木下 貴子 ブログ

セクハラをしないために、気を付けるべきこと

セクハラをしないために、気を付けるべきこと

「セクハラ」と言われてしまったら,法的な責任を追及される・・
会社で「セクハラ」の「加害者」とされてしまったら,左遷されてしまう。働きづらい・・
家族に分かったら,恥ずかしい。悲しませてしまう。
友人に分かったら,憐れまれそう。バカにされるかも・・

だから,「セクハラ」加害者となることを避けたい。

これは誰もが思うことなのではないかなと思います。

では,どうしたらいいのか・・?

セクハラをしない為に何に気を付ければいいのか?
セクハラは,どのような場面で,気をつけなければならないのか?
業務上必要な行為をする場面で,セクハラをしないよう気をつけるべき事は?

これまでも,「セクハラ」をしないように,現在求められている「セクハラ」を回避するために意識してほしい基準や,実際に「セクハラ」が問題となった事例をご紹介してきました。
今回は,特に「業務上必要な行為」をした場面で,「セクハラ」が問題となった裁判例も検討しながら,どんな場面で「業務上必要な行為」がセクハラとされてしまうリスクがあるのか,これを避けるために何をしたらいいのか,「セクハラ」を根本的にしなくなるための注意,心構えを考えていきたいと思います。

1 セクハラに気をつけなければいけない場面

これまでも何度か紹介している国家公務員を対象とした人事院規則10条ー10で,セクハラの定義が定められており,その運用についても定めていますので,これを参考にするのが分かりやすいでしょう。
人事院規則10条ー10運用通知では,「具体的にどのような言動がセクハラになるのか?」の「2 人事院規則10-10運用通知による具体例」で記載した通り,具体的にセクハラをしないようにするために職員が認識すべき事項も定められています。
このような事項は,国家公務員に限らず民間企業や教育機関その他の場面でも参考になりますので,まずは,記載されている具体的な場面をイメージして「セクハラ」が生じないように意識することから始めましょう。

2 業務上必要な行為とセクハラ

「パワハラ」の場面では,業務上の指導,注意が必要な場合で問題になることも多く,業務上必要な指導をやめることができないことから,その限界が問題になるところです。
他方,一般的には「セクハラ」をすることが,業務上に必要な行為,指導となる場面は少ないため,多くの場合では「業務上必要な(避けられない)セクハラ」は考えづらく,「セクハラ」の方が「パワハラ」に比べて意識さえすれば,仕事,業務の場面で避けられることが容易だと思われます。

しかしながら,業務の内容によっては,業務上必要,だけれども,性的に嫌だと感じられる場面もあります。
そのために,「性」に関係する言動が,業務上必要な行為でもセクハラと訴えられる恐れがあることには,注意が必要になります。

男性から女性に対する「セクハラ」や職場内のセクハラが一般的にイメージされやすいところですが,「女性から男性に対するセクハラ・同性同士のセクハラはある?基準と裁判例」でお伝えしたような女性から男性に対するセクハラが問題となる場面や「セクハラが生じやすい4つの誘因・特にセクハラを注意すべき場面は?」でお伝えしたような職場外のセクハラも存在します。

正当な業務遂行でも,その業務の遂行時の対応等が不適切だとセクハラに当たるとして訴えられる場面も見受けられます。

①防犯パトロール中の女性管理者の事例

「女性から男性に対するセクハラ・同性同士のセクハラはある?基準と裁判例」の大阪高判平成17年6月17日判決があります。
この事例は,一審で「セクハラ」が認められて15万円の損害賠償請求が認められています(大阪地判平成16年9月3日判決)が高裁では取消されて,損害賠償は認められませんでした。
一審では,職場の内部規程に反するとして,セクハラ該当性を肯定されていましたが,不愉快な思いをさせたことを否定できないとしても,「職務上の正当な目的」のために,「目的に沿って必要な範囲で」基本的に相当な方法で行われた行為であるとしてセクハラ該当性を否定されました。

一審ではセクハラと認められてしまったことからすると,職場の内部規程に従った言動が「業務上必要な行為」と認めてもらえるかどうかについては大事な点である一方,不審者がいるかもしれないという緊急対応,確認が必要な場面では,すべて規程に従った行為ができるわけではないという点で,相手が嫌な思いをしたとしても,法的な責任が発生する「セクハラ」とは認められなかったということになると思います。

②臨床検査技師(男性)の事例

患者女性の下半身を検査した行為が,準強制わいせつ罪に当たると指摘された刑事事件もあります。
この事件では,検査過程に配慮に欠ける部分があったものの,わいせつ行為があったということには,合理的疑いが残るとして無罪判決がなされています(京都地判平成18年12月18日)。

③お笑いスクールの講師の事例

受講生に対して,下ネタのアドバイスをしたことについて「セクハラ」が問題になった事例もあります。
この事案では,受講生が,元々下ネタ芸をしていたことなどから,社会通念上許容される限度を超えた違法なものとまでは言えないとされました(東京地判平成23年3月11日)

このようにみてみると,「セクハラ」も,業務上必要な行為,アドバイスと関連する場面があることも分かります。

職場の上司と部下や同僚といった関係だけでなく,業務上の必要な行為であっても,その対応次第でセクハラに当たると主張されて,訴えられたり,場合によっては民事責任や刑事責任が問われることもありうることを踏まえて,特に業務行為が「性的」な言動に関わる場面がある仕事の方は注意が必要です。

なぜ「その言動をするのか」,なぜ「それが業務上必要なのか」,相手がその言動によって性的に嫌な思いをしたとしても,それが必要最小限度となるような「方法」「手順」を選択しているのか,には気をつける必要があると言えるでしょう。

3 セクハラをしないための注意

このようなことを踏まえて,業務上必要な場面でも,セクハラをしないようにするには,何に気を付けたらいいのでしょうか?

これはやはり,前記の人事院規則10条ー10運用通知を意識するのが一番わかりやすいのではないかと思います。

この通知では別紙1において,「意識の重要性」と「基本的な心構え」を伝えています。

「意識の重要性」(第1の1)

① お互いの人格を尊重し合うこと
② お互いが大切なパートナーであるという意識を持つこと
③ 相手を性的な関心の対象としてのみ見る意識をなくすこと
④ 女性を劣った性としてみる意識をなくすこと

「基本的な心構え」(第1の2)

① 性に関する言動に対する受け止め方には個人間で差があり,セクシュアル・ハラスメントに当たるか否かについては,相手の判断が重要であること。
② 相手が拒否し,又は嫌がっていることが分かった場合には,同じ言動を決して繰り返さないこと。
③ セクシュアル・ハラスメントであるか否かについて,相手からいつも意思表示があるとは限らないこと。
④ 職場におけるセクシュアル・ハラスメントにだけ注意するのでは不十分であること。
⑤ 職員間のセクシュアル・ハラスメントにだけ注意するのでは不十分であること。

このような具体的な言動が,「セクハラ」に該当するかどうかを考える際には,常に相手の立場に立って,自らの言動がセクハラに当たらないように気をつける必要があることが分かります。
具体的なイメージを持つことで,想像しやすくなりますので,「具体的にどのような言動がセクハラになるのか?」の「2 人事院規則10-10運用通知による具体例」の具体例も参考にしていただけたらと思います。

またセクハラが疑われかねない言動だと感じた際には,基本的には会社の経営者,管理職の対応が求められるところではありますが,そうではない周囲の同僚の方も,職場環境に重大な悪影響が生じないうちに,注意を促したり,被害者の方に声をかけて相談に乗るなどの対応することも,被害の深刻化を防ぐためにも必要なことになりますので,一般職員の方も意識していただくことが必要になります(同通知別紙1,第2の2)

人格の尊重~まとめ

今回のテーマである「セクハラ」をしないために気を付けるとしたら,一番大事なことって何だろう?

一つはやっぱり,自分が思う当たり前,こんなこと「セクハラ」になるはずがない,という基準が,現在の基準とはずれてしまっていないか?を確認することが重要です。
そのために,私もブログやHPで現在の基準や具体的な事例で「セクハラ」となる場面,言動についてお伝えしています。

それでも,やっぱり,気づかないところで,自分には悪気がなくとも,「ユーモア」「冗談」のつもりであっても,不快な思いをしたり,傷ついてしまう方がいるのも事実。

根本的に「セクハラ」となる言動を避けるには,どうしたらいいのか?

今回書いていて改めて,それは日常の「意識」が何よりも大事だと思いました。
相手が男性でも女性であってもですが,相手の人格を尊重する,という意識。

相手は尊い人で,性的な自由もあって,それは尊重しないといけない,ということ。
何をしてもらったら嬉しくて,どんな言動は嫌なのか,それぞれ異なる目の前の相手が有している「大事なこと」が何なのか,考えて配慮する意識。

自分の方が相手よりも社会的な地位があるから,お金を稼いでいるから,経験があるから・・
これは私自身が,特に子どもに対して思っている「親なんだから」というような意識,つい,自分の方が「上」で「管理」している者だからと思ってしまうような意識・・
これを注意しなければいけないな,と改めて思います。

年齢,性別,社会上の地位(役職など)に関わらず,すべての人間は対等に人格を尊重されるべき存在。
これをいつも意識して相手と接すると,「セクハラ」だけでなく,「パワハラ」「モラハラ」など,あらゆる「ハラスメント」を回避しやすくなる,と思います。

それでも・・自分では「配慮」している,尊重しているつもりであっても,意図せず,傷つけてしまうこともある。
そんなときは,「基本的な心構え」にあるように「相手が拒否し,又は嫌がっていることが分かった場合には,同じ言動を決して繰り返さないこと」が大事。
「嫌です」と明確に伝えにくいケースもあるので,相手が嫌そうかどうか・・?も注意深く観察することも大事。

人間は多様なので,一律の扱いをすればいいわけではないから難しいし・・
全く言葉かけや身体的な接触がない関係性が,よいものではないとは思うから・・

私自身も,常に意識しつつ,相手が嫌な思いをしないように発言に気を付け,身体に触れるときも,相手の様子を意識して,注意をしていきながら,それでも関わることは,やめないで生きていきたいと思います。

実際の裁判例,基準と共に,実際の自分自身の感じることもお伝えすることで,「セクハラ」行為をした,ということで行為をした本人及び雇用主が損害賠償請求などの責任をとらなければならなくなったり,信頼を大きく失ったり,相手との関係が悪くなってしまうリスクを避けつつ,人と人が温かい交流が続けられて,安心して過ごせる空間づくりをするお伝いが出来たら嬉しいな,と思います。

引続き,近年意識されている「セクハラ」について,お伝えしていきたいと思います。

今回も最後まで読んでいただいてありがとうございました!