いつも読んでいただきありがとうございます♪今回は,交通事故に関するテーマで,直接事故を発生させたわけではないのに損害賠償を支払う責任を負わなければいけなくなってしまう場合,反対に,交通事故の被害者となってしまった場合に,直接事故を発生させた加害者以外にも責任を追及することが出来る場合についてお伝えします。
人身事故,つまり,けがをするような交通事故にあった際,交通事故の相手(加害者)が「任意保険に加入していない場合」,損害賠償が十分になされない,被害回復が十分になされない可能性があります。
この場合,自賠責保険で被害を回復してもらうのは限界があるため,トラブルが生じやすいです。
任意保険にも加入していない方であるため,被害回復に十分なお金を持っていないことも多く,被害者としては加害者に被害回復のための損害賠償請求をしても,実行を期待できないことが多いのです。
そこで,以前,自動車事故により人身傷害が発生した場合,加害者以外にも,交通事故の被害者が責任追及することが出来る相手方があり得るので,「人身事故で損害賠償してもらえない~加害者以外に請求できる場合」にてお伝えしました。
今回は,以前紹介した加害者以外に請求することが出来る相手となる「運行供用者」について,裁判で認められた事例,認められなかった事例をさらにご紹介します。
交通事故被害者となった場合,どのような場合に,加害者以外の人に対しても「運行供用者」として損害賠償請求を出来るのでしょうか?
直接運転しているわけではなくても,どのようなことをしてしまうと,「運行供用者」として責任を追及されてしまうのでしょうか?
離婚を前提に別居している場合,自分名義の車を配偶者がそのまま使っている場合のリスク,責任は?
1 運行供用者責任
事故が起こった場合に,被害者は,加害者たる運転者(民法709条)にまず,損害賠償請求が出来ます。
さらに,法律は,「運行供用者」に対しても賠償請求することを認めています。
自動車損害賠償法3条で「自己のために自動車を運行する用に供する者は,その運行によって他人の生命又は身体を害したときは,これによって生じた損害を賠償する責に任ずる」と定めています。
この「自己のために自動車を運行する用に供する者」を運行供用者といいます。
詳しくは,「人身事故で損害賠償してもらえない~加害者以外に請求できる場合」で解説していますが,判例は,自動車の運行を支配し(運行支配),その運行から利益を得ている(運行利益)者が「運行供用者」となる,という考え方をしています。
「運行供用者」であると認められれば,運転者に過失があったことを立証しなくても原則として責任が肯定され,損害賠償請求が出来ることになります。
そこで,具体的にはどのような場合に「運行供用者」となるのか,被害者として損害賠償請求をする場合にも知っておくことが大切ですし,自分自身が交通事故を生じさせたわけでもないのに,思わぬ責任を負ってしまうことが無いよう,知っておくことが重要です。
2 運行供用者の責任が認められた判例
「人身事故で損害賠償してもらえない~加害者以外に請求できる場合」でご紹介した事例の他,少し前の事例になりますが,平成30年12月17日の最高裁判例では以下のような事例で,運行供用者責任が認められています。
生活保護を受けていたA。本件自動車を購入することとしたが,自己の名義で所有すると生活保護を受けることができなくなるおそれがあると考え,弟であるYに対して名義貸与を依頼し,Yは,これを承諾した。Aは,その後,本件自動車を購入し,所有者及び使用者の各名義をYとした。その後,Aは,X1が運転しX2が同乗する普通乗用自動車に追突させる事故(以下「本件事故」という。)を起こし,X1らは,本件事故により傷害を負った。
YとAとは,本件自動車購入当時及び本件事故当時,住居及び生計を別にし,疎遠であった。Yは,本件自動車を使用したことはなく,その保管場所も知らず,本件自動車の売買代金,維持費等を負担したこともなかった。
この事案で原審では,運行供用者として認めなかったのですが,最高裁は,以下の理由で運行供用者として認めました。
「Yは,Aからの名義貸与の依頼を承諾して,本件自動車の名義上の所有者兼使用者となり,Aは,上記の承諾の下で所有していた本件自動車を運転して,本件事故を起こしたものである。Aは,当時,生活保護を受けており,自己の名義で本件自動車を所有すると生活保護を受けることができなくなるおそれがあると考え,本件自動車を購入する際に,弟であるYに名義貸与を依頼したというのであり,YのAに対する名義貸与は,事実上困難であったAによる本件自動車の所有及び使用を可能にし,自動車の運転に伴う危険の発生に寄与するものといえる。また,YがAの依頼を拒むことができなかったなどの事情もうかがわれない。
そうすると,上記…のとおりYとAとが住居及び生計を別にしていたなどの事情があったとしても,Yは,Aによる本件自動車の運行を事実上支配,管理することができ,社会通念上その運行が社会に害悪をもたらさないよう監視,監督すべき立場にあったというべきである。したがって,Yは,本件自動車の運行について,運行供用者に当たると解するのが相当である。」
Yは,本件自動車について,実際の管理はおよそしていない状況,ということになると思いますが,Aの生活保護を受けることができなくなることを脱法的な方法によって回避して,その結果,Aが本件自動車を所持することが出来るようにすることで,危険性を増大させたという,社会正義に反する行為をした結果,交通事故による被害の危険を増大させている点で,責任が認められたと言える事案かな,と思います。
そのため,自分名義の車を誰かに使わせている場合には,その経緯にもよりますが,広い範囲で「運行供用者責任が認められる可能性がありますので,意識しましょう。
被害者としては,加害者と車の所有者の名義が異なる場合には,その所有名義人にも「運行供用者」の責任を追及できないか,弁護士に相談するといいと思います。
3 運行供用者の責任が認められなかった判例
一方で,地裁の判断にはなりますが,運行供用者の責任が認められなかった事例もあります。
大阪地判平成30年7月18日では,以下のような事例でY1に運行供用者責任を認めませんでした。
Aは,自動車ローンを利用して加害車を購入。登録上の使用者及び自動車保険の契約者となり保険料負担。
船員として1年の大半を洋上で過ごし,加害車にほとんど載っておらず,加害車の主たる使用者は購入当初から妻のY2。
Y1とY2は,事故の約1か月前に離婚を前提に別居し,事故の約10日前に行われた離婚調停においてもY2が加害車を使用することが確認された。
Y3はY2の連れ子。Y1と同居したことも会ったこともない。
自動車保険は「運転者年齢条件」特約で補償対象外だった。
Y3は自動車運転免許を有さず,Y2から鍵を借りて加害車を運転したために,被害者となったXがY1~Y3に損害賠償請求した。
この事案では,「別居後,加害車を使用・管理していたのはY2のみであり,Y1において,Y3が加害車を運転することは(略)およそ想定していなかった」等と認定して,運行供用者責任を認めませんでした。
自動車の所有者と運転者が全く面識のない場合であっても,運行供用者の責任が認められた事例もあるので(最判平成20年9月12日),面識がない人が運転していれば,運行供用者責任を負わない,ということではなく,どの程度当該車を管理できる状況だったのか,という点も問題になるかなと思います。
今回の事案では,Y1の本件加害車への管理は,購入当初からの管理状況や,Y2との別居,その後の離婚調停の経過などによって,かなり薄くなっていることから否定する方向になったのかなと思いました。
しかし,もし,運転していたのが別居中であっても,Y1が使用を認めていたY2だったらどうなのかな…と思うところではあり,この場合には運行供用者責任を認められる余地もあるかな,と思うところなので,別居中に自分名義の車を使用させ続けるのは,任意保険の加入で対応できるのかの検討など,リスク管理が必要です。
まとめ 加害者と同じ責任を負わないようにも注意
冒頭にお伝えしたように,人身事故で被害を受けた場合に,事故の加害者本人だけでは十分に被害回復がされない,という場合には,他に請求できる相手がいないのか?という視点を持っておくことで,被害回復の可能性が上がるので,知っておくことが重要です。
一方で,以前もお伝えしましたが,車を所有,管理している人は,その管理を怠ると,自分自身が起こした事故でないにもかかわらず,加害者と同様の損害賠償義務を負うことになり得ることにも,意識が必要です。
今回ご紹介した事例は,離婚を前提として別居している夫婦,離婚調停中の夫婦間で,自分の名義の車を使用させているときの事故に関するものなので,離婚手続き中の車の管理については,争いなく渡そうと思っている車については早めに名義変更をしておくなど,注意が必要だと思います。
事業で会社の車を使用させる場合にも,同様の問題はありますが,引続き,車を所持,管理する人,自分名義の車を使用させている人は,自分自身が運転していなくとも,当該車の運転者による交通事故によって,責任が生じることを知っておくことも重要だと思います。
知っておくことで,被害の回復が出来る可能性が上がります。
そして,知っておくことで,防ぐことが出来る事故,避けられる損害賠償の負担もあります。
これからも,そのための「知識」についてお伝えできればと思います。
それでは,今回も最後まで読んでいただいてありがとうございました!!