多治見ききょう法律事務所

弁護士 木下 貴子 ブログ

セクハラ被害者が精神的ケアをする方法~企業・会社の責任

セクハラ被害者が精神的ケアをする方法~企業・会社の責任

「セクハラ」被害者が,精神的につらい場合,どうしたらいい?
「セクハラ」被害者の精神的ケアをするには,どんな方法がある?
「セクハラ」被害者の精神的ケアをするため,企業,会社は何をすべき?

私は,主に企業側,会社側でご相談を受けることが多いのですが,職員から「セクハラ」があったと言われているというケースでは,すでに職員が病院の「精神科」に通院していたり,「うつ状態」「うつ病」「適応障害」などの診断書が出ていたりすることがあります。

また,私が女性弁護士であることもあって,セクハラ被害を受けた女性からの相談を受けることも時々あるのですが,やはり,話していて,とても疲弊していて,精神的につらそうな様子が分かります。
病院に通院していたり,服薬していることも少なくありません。

この場合,被害者としては精神的ケアをするために,何をしたらいいのでしょうか?

職場内で「セクハラ」があった場合,企業としては,被害者にどのような精神的ケアが必要になるのか,企業,会社は被害者の精神的ケアに関して,どんな責任を負担しなければいけないのか,を知って,適切に対応することで,損害賠償義務を負うことを避けられたり,損害の拡大を防ぐことができます。

被害者としても,特に,今後も継続して働こうと思っている場合には,企業や加害者との関係が悪化することは避けたいところもあると思いますので,取りうる精神的なケアの方法も知ることで,どの方法を選択していくことが,自分にとって良いのか,選ぶことも出来ます。

では,セクハラの被害者は精神的ケアが必要な場合,相談する窓口はあるのでしょうか?

セクハラ被害で精神的なケアが必要な場合の相談窓口にはどんなところがあるのか?
セクハラ被害の相談窓口として,会社,企業には何ができるのか?何をすべきか?
セクハラ被害による精神的ケアを求められた場合,企業,相談窓口の担当者は,どんな点に注意すればいいのか?

今回は,「セクハラ」被害があった場合に精神的なケアが必要な場合の相談窓口として,一般的には何があるのか?企業,会社の内部組織ととしてはどのように対応したらいいのか?セクハラ被害発生後も適切に対応することで,被害を拡大しないための内部相談窓口による対応方法を中心に考えていきたいと思います。

1 精神的ケアの相談窓口

セクハラ被害にあった場合精神的ケアの相談窓口には,職場や学校等に設置されている内部の相談窓口と行政機関やNPO法人等が運営する外部の相談窓口があります。
相談窓口では,セクハラに関する相談に加え,被害者に対する精神的ケアの役割も期待されていますので,精神的にしんどい場合にも利用することが考えられます。

会社,企業側としては,「セクハラ」被害を生じさせないよう予防することが重要ですが,実際に被害が生じた場合には適切に対応できるよう,内部の相談窓口の設置をしたり,外部の相談窓口について利用できるかどうか知っておくことも重要です。内部の相談窓口の担当者には,被害者の精神的ケアの役割も期待されていることを伝えて,具体的な相談対応スキルに関する研修,指導をすることも被害の拡大を防ぐために重要です。

2 内部のセクハラ相談窓口

雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(略して男女雇用機会均等法)では,職場において行われる性的な言動に対して,その雇用する労働者の対応により,当該労働者がその労働条件につき不利益を受け,当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されることのないよう,当該労働者からの相談に応じ適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならないとされています。

つまり,セクハラに関して労働者からの相談に応じて,適切に対応するため,必要な体制の整備,その他の雇用管理上必要な措置を講ずることを事業主に義務づけています(男女雇用機会均等法11条1項)。

そして,事業主が講ずべき措置について,セクハラ指針では,「セクハラ相談窓口」の整備や適切な相談対応を挙げています。被害者に対する配慮のための措置として,管理監督者または事業場内産業保健スタッフ等によるメンタルヘルス不調への相談対応もあげています。

そのため,職場でセクハラ被害に遭った場合にはまず,職場内のセクハラ相談窓口への相談をすることで,精神的ケアを求めることが考えられます。

セクハラによる被害を受けた場合,被害者となった職員がメンタル面の不調を訴えるケースは多いので,会社,企業側としては,セクハラが行われてしまった場合の適切な対処として,相談窓口における精神的ケアを充実することは,被害の拡大を回避するためにも重要です。損害賠償請求金額が増加してしまう可能性にも関わるので,意識的にしていくと良いと思います。

3 内部相談窓口の現状

「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律等の一部を改正する法律」の成立(令和元年5月29日)によって,事業主は労働者がセクハラの相談を行ったことまたは事業主による当該相談への対応に協力した際に事実を述べたことを理由として,当該労働者に対して解雇その他不利益な取り扱いをしてはならないとの規定も明記されました(雇用機会均等法11条2項)。

また,学校やその他の団体でも,セクハラに関する指針等に基づき相談窓口が設けられているケースが多くなったのを私自身も感じています。
これらの相談窓口では,必要に応じて,精神的ケアや専門機関との連携等,セクハラ被害者に対するサポートをしています。

このように,学校やその他の団体においても,セクハラ被害に遭った場合について内部の相談窓口を通じて精神的ケアを求めることができる状況となってきています。

裁判所は,会社,企業が通常備えるべきセクハラ防止義務をしていない場合に,セクハラ被害が発生したり,拡大したりすると,企業にはこれらの義務違反があり,損害賠償を認めることになります。
この企業が通常備えるべき「義務」の範囲は,「社会通念上」必要とされるというような言葉で説明されることが多いのですが,これは「社会一般に通用している常識や見解に照らして」という意味です。
そもそも内部のセクハラ相談窓口について設置していない場合や,相談窓口は設置していても,被害者が窓口に相談したことに対して追及するような対応は,現状の法規制や相談窓口が一般的に設定されるようになってきたことからすると,「社会通念上」必要とされる義務を守っていない,と言われる可能性がありますので,注意しましょう。

精神的ケアの方法~まとめ

冒頭でお伝えした通り,「セクハラ」を受けた被害者は精神的なダメージが大きく,ケアが必要とされていると感じています。

これらの精神的ケアや治療は,もちろん医療機関のサポートを受けることは重要だと思っています。

しかし,そのような状況で,もし職場で働き続けているとしたら,身近な職場内,内部の相談窓口として精神的ケアに対応できると被害者にとっては安心だと思います。

一方で,「セクハラ」被害が生じた場合には,中立的に淡々と事実関係を確認していくということも重要なことです。
その際に,不必要に被害者に悪いところがあったのでは?と非難するような言動をしないよう気をつけなければいけません。
他方,あまりに被害者に寄り添って,会社,企業としての責任を決定する前に,事情聴取する担当者が「それは○○さん(加害者)が悪いね,あなたは悪くないよ」と発言することは,中立的な立場で事情聴取をする,という場面には不適切ですし,会社としても安易に担当者が責任を認めるような発言をするのは避けたいでしょう。

でも,淡々と中立的に事情聴取を受けているだけだと,被害者は精神的にしんどいのではないか・・と思います。

なので,出来れば事情聴取をする担当者と精神的ケアをする窓口の担当者は役割を分けて,被害者に接するのがいいのではないかなと思っています。
少ないですが,産業保健師さんを雇ったりしている企業や定期的に外部のカウンセラーの方が企業にきたり,リモートで相談を受けられる体制を作っている会社もあります。

人材や費用面で,出来ることには限界があるかもしれませんが,事情聴取とメンタルケアをする担当者を分ける,という意識はあってもいいのではないかと思っています。

セクハラ被害の発生予防や発生後の被害拡大を避けるために・・

何が現在の基準に当てはめると「セクハラ」となるのか,「セクハラ」となった場合,加害者本人や会社にどんな損害が生じるのか,セクハラ被害が発生後にどのような対応が必要になるのか,どんな対応をしないとトラブルになるのか,・・など,これからも伝えていきたいと思います。

そうすることで「セクハラ」行為をした,ということで行為をした本人及び雇用主が損害賠償請求などの責任をとらなければならなくなったり,信頼を大きく失ったり,人間関係が悪くなってしまうリスクを避けつつ,人と人が温かい交流が続けられて,安心して過ごせる空間づくりをするお伝いが出来たら嬉しいな,と思います。

引続き,近年意識されている「セクハラ」について,お伝えしていきたいと思います。

今回も最後まで読んでいただいてありがとうございました!