多治見ききょう法律事務所

弁護士 木下 貴子 ブログ

こわれた関係のなおし方~人間関係を修復できれば,あなたはもっと楽になれる(イルセ・サン著)

こわれた関係のなおし方~人間関係を修復できれば,あなたはもっと楽になれる(イルセ・サン著)

「先生,妻と別れたくないんです。今でも妻を愛しています」
「夫と別れたくないんです。どうしたらいいでしょうか?」

私のところに相談に来られる方は,離婚調停を申立てられたけれど離婚したくない,妻,夫と夫婦関係を修復したいという希望の方が少なくない。

「弁護士で離婚したくない人の立場で関わってくれる人を先生の他に見つけられなかった」
「他の事務所で相談したら,弁護士には離婚したくない場合に出来ることはない。離婚すると決めたら来て,と言われた」
と言われることもあります。

・・確かに,弁護士になるために必要なスキルとして,何か特別に夫婦関係を修復できる知識を学んだり,スキルを身に着ける機会はない。弁護士の仕事は,紛争を「法的」に解決することです。

でも,その前の段階で,法律の関わる場面でサポートしてほしいことがある。
離婚調停や面会交流調停では,代理人として一緒に調停室に入れるのは弁護士だけ。
だから,離婚したい場合だけではなくて,離婚したくない場合であっても,弁護士にサポートを受けながら調停に参加したい。

そういう希望が多いことを弁護士として関わる中で気づいた。

どうしたら,もっと離婚したくない,夫婦関係を修復したい,という人の力になれるだろう・・

そんな中で,夫婦関係などの人間関係を円満に保つためのスキルを教えてくれる本,こわれた人間関係をなおすための本を読んで,少しでも夫婦関係の修復を望む人に活かせるようにしたい,と思った。
実際に自分でも実践してみると,自分自身の夫との関係や子どもとの関係も少しずつ良くなってきた,のを感じています。

今回ご紹介する本「こわれた関係のなおし方」の本も,私が参考にしている本の一つで,心理療法士で,講演者,セラピストとして活動している著者イルセ・サン氏がこわれた関係を治す方法を紹介しているものです。

本を読んでみて・・
これは,夫婦関係修復して行くための方法であるだけでなく,親子など家庭での人間関係,職場での人間関係も修復するためのヒントになると思いましたのでご紹介します。

本の中で,夫婦関係を修復するために大事なこととして,私が気づいたことを3つお伝えします。

1 相手の視点があるということを認める

弁護士という仕事をしていて,すごく感じるのは,依頼者から見ている「事実」と相手方から見ている「事実」は全く異なるということ。
・・だから,争いにもなる。
裁判で言えば,原告と被告,調停で言えば申立人と相手方。それぞれの代理人弁護士として関わることがあるので,本当にその「事実」の捉え方,「解釈」もに大きな違いがあることを感じます。

どちらの視点,解釈が「正しい」のだろう・・?
裁判では,それを「白黒」ハッキリさせることにはなるのだけれど,実は,日常生活でこれをすることは人間関係を悪化させてしまう。

喧嘩になったとしても,日常生活で夫婦関係,親子関係など人間関係を上手く修復したいと思ったら,

「相手の視点があるということを認める」が大事。

同じ出来事をめぐって相手と自分の見方が違っていても,「話し方」をちょっと工夫するだけで,こちらは相手を否定するつもりはないという姿勢を示すことができる,ことをこの本でも伝えてくださっています。

たとえば,次のような表現が役に立つ。
「私は〇〇〇だと思う」
「私には〇〇〇のように見える」
「私の考えでは〇〇〇だ」

自分が語っているのは,ありのままの真実ではなくてあくまでも自分の解釈にすぎない,ということを理解して,それが伝わるように工夫して話す。
相手と「解釈」が違っているかもしれないけれど,違っていることを恐れず表現する。
具体的には話す際に,言葉を以下のような感じで言い換えて言うといい。

「あなたはいつも頭痛を起こしているわね」
「私にはあなたがいつも頭痛を起こしているように見える」

「この家はいつも散らかっている」
「私にはこの家がいつも散らかっているように見える」

「あなたはすごく怒っていた」
「私はあなたが怒っているように感じた」

私自身も,振り返ると,夫や子どもたち,親とけんかするとき,以前は「○○って言ったよね!」と決めつけて話すことで,関係が悪化してたな・・
でも,「○○って言ったように聞こえたんだけど,それでいい?そうすると,私は△△って感じるんだよね」という言い方をしたら,喧嘩がヒートアップしにくくなったな・・と思う。

相手の視点に立った話し方をする意識は,離婚調停で離婚したくない場合や,面会交流調停で面会交流を求める場合も,とても大切なポイントだと思っていますので,お伝えしています。
相手の視点に立つには,まず,相手にも自分とは違う視点があると認めること,それを話し方を工夫して伝えることから始めるといいなと思いました。

2 自分を正当化するような事情は説明しない

多治見ききょう法律事務所の場合・・

離婚調停を申立てられたけれど,離婚したくない,夫婦関係を修復したいと相談に来られる方は多い。

「相手が提出した離婚調停申立書には,調停を申立てた理由,動機として「精神的に虐待する」に〇が書かれている。
でも・・私は,そんなことはしていない。」

「子どものために,相手のために「こうした方がいい」「こうした方が良くなる」と思ったことを伝えただけ。
傷つけようというつもりも,悪気もなかった。そんなつもりじゃなかった。」

・・けれど,夫婦関係を修復したい,という場合には,この点を伝えることはあまり効果的ではない,と思っていました。

それはなぜなのだろう?・・その理由が,この本に書いてあった。

「仲たがいや絶縁状態を解消するために必要なのは,事情を説明することだ」と多くの人が思っている。
そして,「自分には悪気があったわけではない」とか「良かれと思ってやった・やらなかった」とかそういうことを相手に理解させようとする。

でも,
「自分の立場を説明しようとすると,とかく,自分を正当化しているように聞こえたり,相手をやんわり非難しているように聞こえたしがち」
「ですから,説明しようなどという考えは,まず,頭から追い出」す必要がある。

私自身も,夫と喧嘩すると,そんなつもりじゃなかったのに,そんな風に受け取ったの?と驚くことはたくさんあって・・
つい,自分を守るため,「そんな意味で言ってない」と言ってしまいがち。

でも,夫は夫として,私の言動の何かに深く傷ついたんだ・・

自分としては,悪気はなかったとしても(それはひとまず置いておいて),相手の視点,相手の立場に立った場合に,「相手から見たら,○○ということでとても傷ついたんだ・・・本当に申し訳なかった」と思えるかどうか,がまず,修復の方向へ向かっていけるかどうかの第一歩だと思う。それが無ければ,またこれからも「悪気はなく」傷つけてくるのではないか?と相手は思う。

傷つけてごめん,というときに,結果として傷つけたことに対してだけじゃなくて,なぜ相手が傷ついたのか,知ろうとする気持ち,それを想像して寄り添う気持ちが伝わると,「この人はもしかしたら,本当に私の気持ちを分かってくれて,(今度こそ)これからは変わってくれるかもしれない」とやっと少し思える。

「許しを求めるなら,相手の感情に寄り添う」
「あなたが相手に許しを求める立場であるなら,相手には相手の感情があることを認めなければなりません」
「その人に向かってあなたはもう十分,怒ったでしょう,などというのではなく,私に対して,きっとあなたは複雑な感情を抱いているでしょう,ポジティブな感情を持ってもらえるように,私にできることはないですか,あなたを傷つけてしまったことを深く反省しています。どうしたら償えるでしょう(略)と言うべき」と著者も言っています。

もちろん,それだけで修復できるわけではないけれど,改めてこの点は,相手に修復を希望する話をしたり,修復を希望するための手紙を書いたりするときには,意識してもらえるといいな,と思いました。
このあたりは,「人生を変える“愛と幸せと豊かさの秘密”3つの真実(野口嘉則著)~愛する人を失わないために知っておいて欲しいこと」で書いた「執着愛」と「相手を尊重する愛」の違いを知っておくことがとても大切だと思った。

3 自分と相手を区別する

健全な絆を結ぶために,自分と相手を区別することが必要。
心理的な距離が遠い人は親密にならないけれど,心の距離が近くなりすぎるのも問題,というお話。

「自分と考え方や感性が似通った人と付き合うのは安全で正しいことかもしれ」ない。
「しかし,同じであることには代償が伴」う。
「おそらくどちらの側も相手に合わせるためにどこかしら自分を抑えているに違いないから」
「自分らしさを抑えて,ありのままの自分を見せず,しかも,自分でもそれを意識しないようにするのは疲れるもの」

「絆を結ぶためには自分は自分であることを意識し,それを相手に見せる必要があ」る。
「さらには,相手を,自分とは異なる,計り知れない魅力を持った存在として受け止めなければならない」

私と夫は違うところも多くて,衝突することも多いのだけれど・・・
「最強のパートナーとは?~結婚10周年♪」で書いたように,補える関係だと思えていて,とてもありがたい存在。

私の考え方や捉え方を頭ごなしに「おかしい」「間違っている」とバカにすることもない。
十分に私も気持ち,考え方も聞いてくれるから・・怖れることなく自分の本音も見せることができている,と思う。
私も落ち着いて,夫はどう思っているのだろう?と尋ねることも出来る。

・・その結果,「へ~こういうこと考えているんだ。こんな考え方もあるんだ!」と新しい気づきがあって,とても嬉しい。

言わなくても私の気持ちを「察して」くれて,私の思う通りに動いてくれたなら・・なんて楽なんだろうと思うこともある。
衝突も減って,楽しくて安全,と感じるだろうな・・と思う。

でも,やっぱり,そもそも全く「同じ」なんてことはないんだ。
もし,いつも自分の意見が通っているとしたら…それは,相手が私に合わせるために「自分を抑えている」から。

妻が突然家を出ていってしまった。あんなに仲が良かったのに・・と私のところに相談に来るご相談者が言われるケースでは,妻の話を調停の中などで聞くと,全く違う答えが返ってくる。
夫は,何を言っても,全く自分の意見を変えないから言っても無駄だと思った,すべて自分の思い通りにする人,と言われる,など。

・・男性の場合も,強く妻に言われると,言いたいことが言えなくて黙ってしまう方も相談しているといらっしゃるので・・
妻の場合も,夫がいつも自分の意見を言わずに黙っているな,と感じたら,じっくり待ってみる機会も必要かも,と思った。

まとめ 大人として対等な関係を築く

この本を読んでいて私が一番心に残ったのは・・

「両親の離婚など釈然としない経験をした子どもの大半は自分をしっかり愛してくれていると感じるほうの親にその怒りをぶつけ」るということ。
「怒りを受け止めてくれそうな人を無意識に選ぶ」
「それは十代の若者であっても同じこと」
「ティーンエイジャーがその種の怒りを親にぶつけないとすれば,その子は親に愛されているという確信がないか,あるいは,怒りをぶつけたら,親を精神的に参らせてしまうと思っているかのどちらか」
という言葉。

だからこそ,やっぱり,離婚をするケースでは,子が親に気兼ねせず,怒りを表せる,安心して受け止められる親,特に子どもと一緒に住む親の精神的な安定は重要だと改めて思う。
子どもたちは,そうして,親に受け止めてもらいながら,親から離れても大丈夫,「DVの子どもへの影響~児童精神医学博士・杉山登志郎先生」で書いたようないつでも親が見守っているという気持ち,愛着形成がされることで,少しずつ自分で怒りを納める方法を学んでいくのだと思う。

でも,大人になったら・・・
誰かが誰かに自分の「怒り」をそのままぶつけてしまうのは,その「誰か」との関係を破壊してしまう。
大人になるということは,大切な誰かに怒りをそのままぶつけたりしないこと。

「お門違いの怒りの犠牲にされるのは,たいていの場合,とばっちりを受けても反撃してこない人」
「そういう人だからこそ点安心して怒りをぶつけてくる」

と本でも書かれていた。

・・でも,反撃しないからと言って,怒りをぶつけ続けられたら,やはり,「大人」として対等な関係は築けない。
妻から「彼も母親との関係では色々大変だったと思うのですが,私は母親ではない。母親の代わりになれない」と言われることも少なくない。

いくら怒ったとしても,怖い上司やいわゆる「ヤクザ」と言われる方のような人に,怒りをそのままぶつける人は多くないと思うから・・
相手を見て,怒りをぶつけても大丈夫だと思っている人に対して,「選んで」怒りをぶつけてしまっている,という意識は必要だなと思った。
・・それが,大事な人が離れていかないため,関係を継続するために重要だなと思った。

私自身,いつでも怒りをコントロールできるわけではないけれど,大事な人との関係が壊れないよう,また,こわれかけても修復していけるよう,改めて意識したいと思いました。

この本は「こわれた関係のなおし方」とはなっているけれど,必ず修復しないといけないと言っているわけではなくて・・
むしろ,どんな場合には離れた方がいいのか,ご自身の場合に当てはめてチェックできる「自己診断テスト」も記載されていますので,ぜひ読んでもらえたらと思います!
きっと離れるにしても,関係を続けるにしても,これからの皆さんの職場や家庭での人間関係をより良いものにしてくれると思います。

うちに相談に来て下さる依頼者の方々のため,そして自分自身の子ども達,家族,友人のため,弁護士として,母として,幸せに生きるための方法,考え方についてお伝えしていきたいと思います。

また,研究発表,致しますね!

それでは,

このブログを読んで下さった皆さまにとって,人間関係を構築するためのヒント,夫婦,親子,職場などで大切な人との関係が壊れてきていると感じていて,直したい,修復したいと思っている方,修復した方がいいのか迷っている方,幸せになるために変わりたい,と思う方,元妻(夫)や子との関係を離婚後の在り方を良いものとしていきたいと考えている方のヒントとなりますように。

今回も最後まで読んで下さって,ありがとうございました!