多治見ききょう法律事務所

弁護士 木下 貴子 ブログ

交通事故でペットがケガをしたり,死亡してしまった場合の治療費・慰謝料は請求できる?

交通事故でペットがケガをしたり,死亡してしまった場合の治療費・慰謝料は請求できる?

いつも読んでいただきありがとうございます。今回は,交通事故に遭って大切なペットがケガをしたり,死亡してしまったりした場合の損害賠償請求について,お話します。

昔は,「番犬」などのイメージで,人間の生活を守るために必要,ということもありましたが,現在,ペットは大切な家族,「愛玩動物」として人と一緒に生活しているということが一般的になってきていると思います。そのため,ペットが怪我をして治療を続けないといけなくなったり,障害が残ってしまったりすると,治療費が多くかかって経済的な負担も大きくなったり,死亡した場合も含め,精神的にも大きな苦痛を感じると思います。

しかし,交通事故では,実際には,「人間」である「家族」がケガをしたり,死亡してしまったりした場合とは,やはり,取扱いが異なります。
それは,なぜなのか?
一方で,「人間」と同様に損害賠償が考えられる部分は何なのか?

予め知っていただくことで,少しでも実際に交通事故被害を受けたときの不安を解消していただけたらと思います。
また,どんな損害が生じ,どんな損害については,賠償を受けられるのか,受けるのが難しいものは何か,を知っておくことで,予めできることも知っておいてもらえたらと思います。

交通事故によってペットがケガをしたり,死亡してしまった場合に,発生する損害はどんなことがあるのでしょうか。
交通事故によるペットの被害について,人間の被害と同じように考えられること,考えられないことは何でしょうか?
被害を予測して,減らすために知っておくと良いことは何でしょうか?
3つお伝えします。

1 ペットは「物」という扱い

交通事故に遭った場合に,「物損事故」「人身事故」のように区別をして対応されることが一般的です。
ここでいう「物損事故」は,通常,人には被害がなく,乗っていた車だけが損傷して被害を生じた,というイメージがあると思います。
しかし,「建物の損害賠償額の算定方法~建物を壊されてしまったら」で記載したような,誰かの所有している建物に損害を与えた場合も,人に被害がない場合,「物損事故」ということになります。

そして,ペットについても,確かに「命」はあるのですが,やはり,「人」ではないことから,「物」として取り扱っていて,交通事故による被害が,人にはなく,ペットの損害だけを考えると,「物損事故」ということになります。

そして,「物」に対しては,通常,その「物」の価値を弁償すればよい,と考えられており,原則として,慰謝料は認められていないので,交通事故によってペットが被害を受けた場合であっても,慰謝料が認められないというのが基本的な考え方となります。一方で,自動車が損傷した場合の「修理費」は認められているので,同様に考えると,ペットを元の状態に戻すための「治療費」については,認められるのではないか,ということになります。

ペットの「物」としての価値,時価そのものをいくらと考えるのかは,「建物の損害賠償額の算定方法~建物を壊されてしまったら」で記載したことと同様に,中古市場があまり考えられないことから,その算定はとても難しい点があると私は思いますが,血統書付きで高額で購入したペットであっても,購入したときの購入費用そのものを損害額として認めてもらうのは難しいです。
ペットの購入価格や年齢などを考慮して判断されたり,無料で譲り受けたり,拾ってきたりしたペットのように,購入価格を想定できない場合も,ペットの種類や年齢を踏まえて,損害額を認定しています。
この場合,特殊なケースとして,死亡したペットがブリーディングに用いられる犬や猫であった場合や,品評会等での入賞の実績がある場合,盲導犬の場合などペット死亡時の客観的な経済価値が認められると考えらえる場合を除いて,大きな金額にはなりにくいです。

2 ペットの治療費

交通事故という不法行為によって物が損傷した場合の修理費については,「経済的全損~納得いかないと言われることが多い交通事故の類型」に記載した通り,基本的には不法行為時である交通事故発生時の時価相当額までしが認められない,と考えられているので,物の損害としてのペットの場合についての治療費も,物的損害の限界として,時価相当額までしか認められないのではないか,ということが問題とされます。

しかし,やはり,命があるものであり,愛玩動物として家族の一員であるかのように扱われてるため,それではあまりに社会通念から離れてしまう,と思われるところになります。

そのため,時価相当額に限られるものではなく,以下のように,社会通念上,相当と認められる限度で,不法行為との間に相当因果関係のある損害にあたるとして,治療費,入院雑費,介護用具代として,ペットの購入代金である6万5000円を超える計13万6500円の損害を認めた(実際には,犬用シートベルトをしていなかったとして1割の過失相殺をしている)裁判例(名古屋高判平成20年9月30日交民41巻5号1186頁)があります。

「一般に,不法行為によって物が毀損した場合の修理費等については,そのうちの不法行為時における当該物の時価相当額に限り,これを不法行為との間に相当因果関係のある損害とすべきものとされている。
しかしながら,愛玩動物のうち家族の一員であるかのように遇されているものが不法行為によって負傷した場合の治療費等については,生命を持つ動物の性質上,必ずしも当該動物の時価相当額に限られるとするべきではなく,当面の治療や,その生命の確保,維持に必要不可欠なものについては,時価相当額を念頭に置いた上で,社会通念上,相当と認められる限度において,不法行為との間に因果関係のある損害に当たるものと解するのが相当である。」として,

なので,ペットの時価相当額を越える治療費であっても,認められる場合はあります。
一方で,やはり,「人」ではなく,「物」であることから,「時価相当額を念頭に置」く,とされているので,あまりに治療費がかかる場合には,人間と同じように,治療費が認められるわけではないので,注意が必要になります。

ペットを家族の一員として大切にしてきたことが分かる資料や,購入した場合には,その金額が分かるもの,を準備しましょう。

3 ペットに関する慰謝料

「物」の損傷の場合,「車両の評価損とは?」で少し触れていますが,原則として慰謝料は発生しない,とされていますが,やはり,社会通念上,このようなケースでは精神的な苦痛が生じることも当然だよね,と思われるケースでは慰謝料の発生が認められることがあります。

ペットの場合,飼い主との交流を通じて,家族の一員であるかのようになり,飼い主にとってかけがえのない存在になっていることが少なくありません。
そのため,交通事故という不法行為によって死亡したり,死亡にも匹敵する重い傷害を負って,飼い主が精神的苦痛を受けたときは,社会通念上,合理的な一般人の被る精神的損害として,財産的損害の賠償によって慰謝されることのできない精神的苦痛があるとして,以下のように,慰謝料を認めている裁判例もあります。

①愛犬の火葬費用2万5000円と死亡慰謝料5万円を認容(東京高判平成16年2月26日交民37巻1号1頁)
②セラピー犬のパピヨンが死亡,シーズーが傷害した事故によるショックなどで通院日数が増えたこと等を考慮して慰謝料10万円を認容(大阪地判平成18年3月22日判時1938号97頁)
③後肢麻痺,自力での排尿,排便ができなくなった犬の飼い主2人に各慰謝料20万円(過失相殺後18万円)を認容(前記名古屋高裁判例)

このため,家族の一員である,ペットが死傷した場合には,人間同様に慰謝料が認められることがあります。しかしながら,人間の死傷の基準のような金額の慰謝料は認められないので,注意が必要です。
また,慰謝料が認められる場合とは,「重い傷害を負ったことにより,当該動物が死亡した場合に近い精神的苦痛」を受けたときとして,「全身の震え」や「食欲不振」という症状に留まる場合には,認めていない裁判例(大阪地判平成27年8月25日交民48巻4号990頁)もありますので,人が傷害を受けた場合の慰謝料が認められる基準よりも限定される傾向にあると思います。

家族同様に大切にしているペットが傷害を受けたり,亡くなってしまった場合には,強い精神的ショックがあると思いますので,なぜ,これだけしか損害を認めてくれないのだろうか?ということに,不誠実さを感じて,さらにつらくなることがあるかと思いますが,予め,それがどのような理由からなのか,知っておくことで,相手の(保険会社の方も含め)不審に思ったり,怒りを感じたりする心の負担が減るのではないかな,と思います。

まとめ 情報を知っておくことで負担軽減を

以前,私自身も交通事故に遭遇したことで,改めて,交通事故に遭った場合の負担感や不安な気持ちを実感しました。
私の場合は,速やかに解決してもらえましたが,この事案だと過失割合はこのくらいになりそうだな,とか,
こういう流れで解決してもらえそうだな…と分かっていると,安心して待っていることが出来ます。

私の場合は,自分の保険会社の代理店の方が,とても親切で親身になってくださる方なので,途中経過の報告も何度もして下さって,安心感がありました。

交通事故のご相談を受けていると,この保険会社からの報告が少ないことによって,不安に感じる方も多いと思いますので,その場合には,遠慮なく,状況を尋ねてもらえたらと思います。

相手の保険会社の対応や場合によってはご自身が加入している保険会社の対応にも不信感を持ってしまわれる場合もありますが,少しでも交通事故における被害回復の流れ,「基準」などを予め知っておくことで,安心感を持って,進めていただけたらなと思います。

ペットの治療費については,人間のように公的保険で医療費が3割負担で済むということはなく,全額損害賠償として認められないこともあります。
ケガや病気で治療が必要だということになったときに,治療費を理由に病院にかかるのを控えることは避けたくない場合には,「ペット保険」などへの加入も検討するといいと思います。

大切なペットが亡くなってしまった場合は,お金で解決できる問題ではないかもしれませんが,自動車に同乗中にペットが事故で死傷してしまった場合に保険金を受けられる特約を提供している保険会社もあるようですので,内容を尋ねてみてもいいと思います。

弁護士費用特約によって,弁護士への相談料も保険で負担していただけそうな方であれば,今後どうなるのか不安な場合,保険会社の説明が良く分からない,納得できない,と思われる場合には,弁護士への相談を利用してみる,という方法もあると思います。

実際に交通事故に遭遇すると,車がつかえない,体が痛い,などで,とても大きな負担も感じられると思いますので…

少しでも,心の負担を軽減するような準備,知識を得ておいていただけるといいかな,と思います。

交通事故が生じた場合に,実際にはどんなことが問題となり,どのように解決されていくのか,円滑に解決するために準備しておくと良いことは何なのか,を知っておくことで,心の負担を減らして被害の軽減をしたり,最適な回復が出来る可能性が上がります。
また,知っておくことで,万一加害者として交通事故を引き起こしてしまった場合にも,相手に十分な賠償金額を支払ったり,自分自身も十分な補償を受けられることに繋がります。

これからも,そのための「知識」についてお伝えできればと思います。

それでは,今回も最後まで読んでいただいてありがとうございました!!