多治見ききょう法律事務所

弁護士 木下 貴子 ブログ

建物の損害賠償額の算定方法~建物を壊されてしまったら

建物の損害賠償額の算定方法~建物を壊されてしまったら

いつも読んでいただき,ありがとうございます。

突然ですが,みなさんは,交通事故や工場のガス爆発で大事な自宅を壊されてしまった場合,自宅建物の損害がどのように計算される可能性があるか知っていますか?

もし,建物の破損は一部であり,その修繕によって,元の生活が回復されるのであれば,そうして欲しい,と思わないでしょうか・・?
しかし,この修繕費用が,「建物の価値」と比較して,著しく高い場合はそれでも修繕を損害賠償として求められるのでしょうか・・?

全て壊れてしまって建物を立て直すしかない場合,今までの生活が出来なくなったのだから,建物の再建築費用を賠償して欲しい,と思いませんか?
しかし,建物はすでに建築から40年経過していて,古くなっている場合,それでも新築の建物建築費用を支払ってもらえるのでしょうか・・?
このような場合,「建物の損害」はどのように裁判所では計算されるのでしょうか?

最近,交通事故による建物の損壊に関する事案,所有する土地から借地人である建物の所有者に立ち退いてもらう場合の損失補償(立退料)の検討をするのを通じて,「建物の損害」の算定,その家に住むことが出来なくなって,建物を建て直す場合の損害の算定について,改めて考える機会がありました。

建物が壊れてしまった場合,全く元の生活と同じように戻ることは不可能な中で,どのように損害を算定していくのが一般の方にも納得し得るのか・・・

裁判所や弁護士がこれまで考えてきた算定の方法と一般人の方の感覚の「ズレ」も感じましたので,
お伝えしたいと思います。

ご自身の大切な自宅や事業用の事務所などの建物が壊れてしまった場合に少しでも,ご自身が納得し得る損害を求めるための参考にしていただけたらと思います!
また,地主さんの場合には,「立退料」を考える際の,借地人の所有する建物の損害について計算する際の参考にしていただけたらと思います。

3種類の建物損害額の算定方法とは?
建物の損害額でもめてしまうケースと理由は?
損失補償と損害賠償の違いとは?

算定でよくトラブルになりがちな「建物の損害」の取扱いについて3つお伝えします。

1 建物損害算定が難しい理由

自宅の建物が,修繕では回復できないほどに壊されてしまった場合・・・
つまり,建て直すしかない場合,どのようにその「損害」額は計算される可能性があるのでしょうか?

相手のせい(過失)で壊れて建て直すしかないのだから,建て直し費用全額支払って欲しい,と思われるのではないかと思います。

でも,それだと極端に言うと,当時は古くてぼろぼろの家だったのに,新築ピカピカの建築費を支払ってもらえて,不当に得していない??
・・と,賠償をする側からは言われることになります。

ならば,どのように建物の損害額として賠償金額を決めたらいいのでしょうか・・?

この場合の算定方法として,調べてみたところ,3種類の方法が考え得るかな・・と思いました。
(他にもあると思いますが,見つかって興味深い,と私が思ったものを取り上げます)

2 3種類の建物損害算定方法

(1)減価償却資産として算定

事業用の建物を取得した場合,一度に建築費を費用として計上できず,「耐用年数」に応じて,少しずつ費用を計上することが認められていて,ざっくりいうと,これを「減価償却費」としています。
そのため,建物を取得したときの費用がその当時の「建物の価格」「建物の価値」と考えて,次第に計算式によって減っていき,例えば木造事務所ならば24年で価値はほぼゼロと評価される。
この方法だと例えば3000万円で建てた木造の家は24年後には全く価値はない,としてほぼ損害の賠償をしてもらえらないことになる。

→しかし,これは税務上の取扱いで,以前は耐用年数を超えても,残存価値を1割認めていたのを近年になって変更していたりするし,実際にはここでいう「耐用年数」を越えても,実際に居住したりして使っているのだから,それによる不利益は大きいので,ここで建物の価値がほぼゼロ,と認定されたとしても,
住めなくなった人にとっては,納得しがたいと思われますが,どうでしょうか??

(2)公共用地の取得に伴う損失補償基準(用対連基準)

公共用地として,土地を取得する場合に,その土地上に建物を所有して居住する人に立ち退いてもらわないといけない場合がある。
そのときも建物の「損失」を計算しているのだけれど,こちらは(1)の基準よりも建物所有者に優しい。
(1)だと,木造の事務所だと耐用年数は24年にしかならないけれど,この基準なら木造でも最大70年で考えてくれて,耐用年数を越えても,残存価値として2割は残る,として算定してくれる。
この方法だと3000万円で建てた木造の家が24年後に壊されたら,住宅金融支援機構住宅程度(耐用年数48年)だと,最大で3000×60%=1800万円と計算してもらえる可能性がある。

→(1)の基準で,家を建て直さないといけない人は,到底建て直せない,住めていた私の利益はどうなるの!という不満を解消するためにも,考えられた方法だと思う。
でも,1800万円もらっても,再建築費には程遠い・・再建築しなければ,元のような家に住んで,生活することはできないのに,その差額は埋められないのか?

(3)原発による建物損害の賠償基準

原発による事故によって,別の場所に建物を再建築せざるを得なくなった被害者の方たち。
「紛争解決センター」で,建物の損害について,計算がされている。

ここでは,住居の耐用年数を(2)の48年として計算して,48年経過後も残存価値は4割前後は残るとして計算されることが多い。
別に住宅を確保しないといけない損害がある場合には,8割前後の残存価値を認めている。
細かい計算式は省くと,この方法だと3000万円で建てた家は,24年後に壊されたら,3000×80%=2400万円として計算してもらえる可能性がある。

従来は,建物の取得価格を基本に再取得価格を算定し,減価償却費相当額を控除した額を事故発生時点における財物の時価(つまり(1)の計算方法)と考えていたようです。
しかしこれは,「税務上処理のための基準であるため,築年数が経過している場合には,基準を形式的に適用すると事故時の建物の価格が不当に低い価格で算定される可能性があるもの」として,変更したという経緯があります。

→(2)の基準でも賠償してもらっても,元と同じような生活は到底できない・・・
新築費を全額認めてもらうのは無理だとしても,一般の方の感覚で納得が得られるための変更に近づいたと言えるのではないでしょうか?

3 建物損害額の正しい認定方法は?

損害算定の考え方は,色々あるのだけれど,交通事故などの誰かの違法行為で損害が生じた場合の「損害賠償額」としての算定方法は,公共事業で公共用地として取得する場合に建物の「損失」を補償する,行政の適法行為による「損失補償額」とは算定が違っているのはあり得ると思う。

ただ,2(2)の基準は適法行為による損失補償なのだから,これよりも違法行為による損害賠償としての算定金額が少ないのはおかしい,と思うから,やはり,(1)の基準で建物の損害賠償の金額を計算するのは違和感がある。

もし,交通事故によって,建物が損壊してしまって,住むことが出来なくなったのなら・・・
前の状況と全く同じになるわけではないけれど,少しでも事故前の生活状況に近づけるべき,と考えるなら,(3)のような算定を考えていくべきだと私は思う。

さらに言うと,こちらのブログに書いたけれど,中古車市場のある自動車の損害であってもよくもめるのだけれど,建物場合には,自動車の損害との比較で建物の損壊が一部分であって,修繕すれば元の状態に近い状態で使えるのであれば,安くなってボロボロになってしまった建物の「経済的価値」(≒売値)で損害を考えるのではなくて,仮に,修繕費用の方が高くなってしまうとしても,修繕費用で損害を賠償して欲しい,と思うのが一般人の感覚なのじゃないかな・・と思う。

それはなぜなのか・・と考えると,その家に住んでいる人たちは,その家を売ってお金にすることを「価値」「利益」と考えているんじゃなくって,自分たちが住みたい家に「住むことのできる利益」を「価値」と考えているからなのだと思う。
この自分たちの住みたい家に「住む利益」の計算方法がなかなか数値化するのが難しいから,建物の損害額の認定って難しくて,もめてしまうのだろうな,と改めて思いました。

みなさんは,どのように算定すると,より納得感があるでしょうか・・・?

まとめ 論理的で納得のできる基準を

個別の事案でそれぞれ事情は違うので,一律の基準を作るのは難しいのだけれど・・・
交通事故の案件などは,通院,入院慰謝料など,ある程度の算定基準があるために,紛争の解決が迅速化した。
離婚関係で言えば,婚姻費用や養育費算定表が作成されて,「基準」が作られたことで,やはり紛争の解決は迅速化した。

建物の損害についても・・・

原発の事故の関係で,関わる弁護士もとっても頑張って,建物の損害額をより,被害者の納得のできるものに近づけてきた。すごい!
こういう経験を踏まえて,ある程度の算定基準が作られると,紛争解決も迅速化するのではないかなあ・・と思う。

建物に損害を受けて,住めなくなってしまった被害者にとって,2(1)や(2)の基準では,一般人の感覚を前提にするとなかなか納得しがたいのが現実ではないかと思う。

損害賠償請求は,損害があったことを請求する側が主張,立証しないといけないのだけど,
このあいまいなる「建物の損害額」の算定を被害者の方にさせるのは・・・なかなか厳しい話です。

裁判所は根拠のない被害金額の数字を認めてくれないから,請求する側が根拠を示すしかないのだけれど・・・
「住む利益」の計算方法が難しいから・・算定が難しくなっていると思った。

そういう意味では,住む利益を考えると,全く同じではないにしても,修繕できる場合は修繕費用,修繕できない場合には,同じような家を建築したらいくらくらいかかるのか?(再取得費用)を前提に数字化するのが,基本になるんじゃないかな,と思っていますが,みなさんはどう思いますか?

私はマニアックかもしれませんが,基準が確立されていないところを自分なりに考えていくのが好きです!(笑)

これからも,多角的に物事を見ながら,裁判所の「考え方」がハッキリしていない点について,どのようにしたら,論理的な基準を重んじる裁判所に対して,説得的に話が出来そうか,一般の方とズレている,と思う点はどんなところにあるのか,それを裁判所にも納得してもらうにはどうしたらいいのか?楽しく考えつつ,どんな「話し方」「書き方」で裁判所に伝え,どんな「言葉」を選んだら伝わりやすいのか,研究して伝えていけたらと思っています。

時々裁判所や弁護士の感覚は,一般の方の感覚と離れすぎているのでは?と思うこともありますので,皆さんのご意見もドシドシ教えてもらえたらと思います。

また,研究発表,これからも致しますね(笑)!

それでは,

このブログを読んで下さった皆さまが,建物の損害額の計算って意外と難しいんだ!,裁判所や弁護士ってこんなことを考えているのか?と思いをはせてみるきっかけとなりますように。

今回も最後まで読んで下さって,ありがとうございました!