多治見ききょう法律事務所

弁護士 木下 貴子 ブログ

経済的全損~納得いかないと言われることが多い交通事故の類型

経済的全損~納得いかないと言われることが多い交通事故の類型

いつも読んでいただきありがとうございます♡私が弁護士として交通事故のご相談を受けていると,「なんでそれしか支払ってもらえないの!納得いかない」と言われるケースがあります。この部分は,一般の方とは感覚がズレてしまっているところだな・・といつも思うのですが,それはどういう場合でしょうか?

私が自分の加入する任意保険の会社の方(東京海上日動)にこの話をしてから,いつも,その担当者は弁護士の先生も勧めていました,と言ってその意外な部分をカバーしてくれる保険の加入を勧めてくれているようです。
(私も加入しています)

実は物損事故,車両が損傷した場合に賠償される範囲の内容なのですが・・・
どのような場合に,損害賠償として補償されるのに限界があるのでしょうか?

こういうケースでよくトラブルになる車両の損害についてのご紹介と,それをカバーする方法(保険)についてご紹介します。

1 経済的全損とは

「納得いかない!」とよく言われてしまう車両の損害のケースは,
私たち弁護士,法律家が使う言葉で言いますと,「経済的全損」と言われるものです。

事故で車両が損傷した場合に修理代は全て損害賠償の対象となるかというと,実はそうではありません。
…元の状態に戻すのが当たり前なのに,なぜ?と思いませんでしたか。

交通事故の裁判,交渉実務においては,「物理的全損」つまり被害車両が修理不能の状態,もしくは「経済的全損」つまり修理費が時価額(と買替諸費用)を上回る状態となった場合には,事故直前の車両交換価格(時価額)をもとに賠償額を算定し,そうでない場合には修理費相当額をもとに損害額を算定することとされています。

たとえば,大切に乗り続けていた愛車が,事故の時には20万円(買替諸費用を加えても30万円程度)の価値しかなかった場合,修理費用として100万円を要するということであれば,「経済的全損」として100万円の修理費は原則として補償されません。

その根底には,中古車市場で,同種,同等の自動車を入手することができれば,被害者の原状回復はなされるという考えがあります。損害賠償では金銭賠償を原則としていますので,物そのものを事故前の状態に戻すというより,損害を金銭的に評価して事故前の財産状態に戻すために,被害車両と同種・同等の車両を購入するための費用を賠償すれば足りると考えられているわけです。

購入して載ってきた車両に愛着がある場合も多いと思うのですが,修理するよりも安く,同等の車が購入できるのであれば,それをする方か社会通念上,一般的,合理的な判断,と裁判所は考えているのではないかな,と思っています。

2 時価額の認定

経済的全損かどうかは,車両の時価額の評価にかかることになるわけですが,その評価方法としては,裁判上の鑑定による場合のほか,レッドブック(オートガイド自動車価格月報)やイエローブック(中古車価格ガイドブック)の販売価格を参考にするのが一般的です。

しかし,相談をお受けしていると,レッドブック等の価格には納得できないという方が多々いらっしゃいますし,お気持ちもとてもよく分かるな・・と思うところです。
やはり経済的全損という考え方には限界があるように思います。
しかし,中古車市場にある程度の数が出ている車両については,レッドブック等の数値はある程度の客観性を有していると考えられるので,この価格を覆すのは大変です。つまり,争ったとしても,裁判になれば,損害賠償額の限界は,この時価金額となってしまうと思います。
一方で,特殊車両で市場にあまり流通していない車両などについては時価額の算定は難しくなる反面,独自の時価額を主張出来る可能性が上がります。

3 買替諸費用(修理代と比べるもの)

全損の場合で,被害者が車両の買替えをした場合,買い替え後の車両の自賠責保険料,自動車重量税,被害車両の未経過の自動車税,自賠責保険料は損害とは認められていません。車両の取得行為に付随して必要となる費用ではなく,車両を現に所有していること等に伴って生ずる費用で,いずれも,事故によって車両が全損となった場合には,所定の手続を執ることにより未経過分の還付を受けることができるものだからです。

一方,買替えのために必要な検査・登録費用,車庫証明手数料,納車費用,廃車費用のうち法定手数料や同程度の中古車取得に要する自動車取得税,被害車両の未経過期間の自動車重量税は損害と認められると考えられています。

被害車両の自動車重量税は,自動車検査証の有効期間に末経過分があったとしても,自動車税や自賠責保険料のように還付されることはないので,事故時における自動車検査証の有効期間の未経過分に相当する金額は,例外的に還付された場合を除いて事故による損害と認められます。
また,検査・登録費用及び車庫証明費用は,車両を取得する都度支出を余儀なくされる法定の費用であり,これら代行費用及び納車費用は,販売店の提供する労務に対する報酬ですが,車両購入者が通常それらを販売店に依頼している実情から,これらの費用も買替えに付随するものとして賠償の対象となるとされています。

このように,買替諸費用も損害の対象と考えられることから,経済的全損か否かの判断に当たって,修理費の額と比較すべき金額としては,車両時価額に限定すべき理由はなく,全損を前提にした場合に事故による損害と認められるべき車検費用や車両購入諸費用等を含めた金額と解すべきという判断もなされています(東京地判平成14年9月9日)。

4 まとめ

このような「経済的全損」の場合には,修理費相当の賠償金を支払ってもらえないこともあり,損害賠償をしてもらえる額に限界があることで,納得いかない,と言われることがとても多いです。
評価された時価額では,実際に買えないよ~と言われることもあります。

そのため,これを補償する保険として,現在は,「対物超過修理費特約」「対物超過特約」「対物超過修理費用補償特約」を保険会社も開発しており,この特約を付帯していれば,よく言われる「納得できない」部分の超過修理費用を支払ってもらえることになります。

これが,冒頭の私が加入する任意保険の担当者の方(代理店)が勧めている保険になります。
保険料の負担や内容については注意が必要ですが,この記事を読んで,一度ご自身の車の時価相場を調べた上で,その金額しか補償してもらえないなんて納得できない!と思われた方は,
検討してみるといいかなと思います。

知っておくことで備えておくことも可能になりますね。

ちなみに,交通事故で,車両が激突し,ご自身の家の「塀」を壊された場合や「建物」に傷をつけられた場合はどうなるでしょうか?
中古車市場のようなものがなく,同等のものを簡単に手に入れられない「建物」「塀」の損害については,当時の時価が損害賠償の限界ではない・・,やはり時価よりも「修理代」が高くなっても(塀なんて,時価にしたら,僅かになりそうですしね・・・)修理代を損害賠償してもらえる,と私は思っています。

そして,今この件については,まさに訴訟中ですが・・・・
また,改めて「車両」の損害の場合との違いや結果については,ご報告していきたいと思います。

それでは,今回も最後まで読んでいただきありがとうございました!!