多治見ききょう法律事務所

弁護士 木下 貴子 ブログ

後遺障害による逸失利益の定期金賠償~賠償方法で1億円もの差が生じる場合

後遺障害による逸失利益の定期金賠償~賠償方法で1億円もの差が生じる場合

いつも読んでいただきありがとうございます♪今回は,交通事故によって後遺障害が残った場合の請求方法についてお伝えします。

交通事故によって後遺障害が生じた場合,これによって労働能力を喪失する(働けなくなる)と,被害者は,後遺障害による逸失利益(働けなくなったことによって得ることが出来なくなった利益)について損害賠償請求をすることが出来ます。

被害者は損害賠償金について,一時金(一括)で支払うよう請求でき,加害者は一括で支払うことが実務では原則とされています。

しかし,被害者が事故当時幼少の場合など,実際に後遺障害による逸失利益の損害が現実化するのはかなり先のこととなり,また,長期的,継続的に発生していくことになりますので,その後に後遺障害の程度や賃金水準等が大きく変わった場合を予測するのは難しく,予め損害賠償額を固定してしまうのは,被害者としては不安や不公平感を感じる場合があります。

また,今の計算方法を考えると,一時金による支払いにすることで,総額で受け取れる賠償金に大きな差が生じることもあります。

後遺障害の逸失利益を賠償してもらった後の不安を解消する,損害賠償請求の方法はあるのでしょうか?
損害賠償の請求方法の違いによるメリット,デメリットは?
どのようにして,損害賠償の請求方法を選択したらいいのでしょうか?

1 定期金賠償

後遺障害を負った場合のように,将来の状況によって実際の損害額の変動が予測されるような場合,一時金による支払いよりも,定期的に一定額を支払う定期金賠償の方が適切な場合もあります。

このような定期金賠償による請求方法は,以下の民事訴訟法117条にこれを前提とした規定があり,認められるとされています。

「口頭弁論終結前に生じた損害につき定期金による賠償を命じた確定判決について,口頭弁論終結後に,後遺障害の程度,賃金水準その他の損害額の算定の基礎となった事情に著しい変更が生じた場合には,その判決の変更を求める訴えを提起することができる。ただし,その訴えの提起の日以後に支払期限が到来する定期金に係る部分に限る。」

この条文は,定期金賠償による判決が出た場合に,後遺障害の程度や賃金水準等が大きく変わった場合には,判決の変更を求める訴訟を提起することができることを規定したもので,定期金賠償が可能であることを前提としています。

定期金賠償によることは,実際には少ないですが,私が関わっている事案の中にもあります。
定期金賠償は,請求権の具体化が将来の時間的経過に依存する関係にあるような性質の損害(後遺症に関する治療費・看護費用等)について実態に即した賠償を実現するために行われるものとされ,以前から典型的に認められているものとして,将来に生じうる介護にかかる費用(将来介護費用)があります。

2 最高裁判例(令和2年7月9日)

少し前になりますが,交通事故で後遺障害が残ったケースで,その逸失利益について定期金による賠償を認めた判決が最高裁で出されています。

この事案は,道路を横断中に大型貨物自動車に衝突され,事故当時4歳の子が脳挫傷及びびまん性軸索損傷の傷害を負い,自賠法上の後遺障害等級第3級3号に該当する高次脳機能障害の後遺障害を残した事案で,これによって,被害者は,後遺障害による逸失利益として,本来であれば働くことができた18歳から67歳までに取得できたはずの収入額を,一括金ではなく,各月払いの定期金によって支払うよう求めました。

これに対して,最高裁は,不法行為の時(交通事故発生時)から相当な時間が経過した後に逐次現実化する性質のものであり,その額の算定は,不確実,不確定な要素に関する蓋然性に基づく将来予測や擬制の下に行わざるを得ないものであるから,将来,その算定の基礎となった後遺障害の程度,賃金水準その他の事情に著しい変更が生じ,算定した損害の額と現実化した損害の額との間に大きなかい離が生ずることもあり得るとして,交通事故の被害者が事故に起因する後遺障害による逸失利益について「定期金による賠償を求めている場合」において,定期金による賠償の対象となるものと解される,としました。

その理由として,

不法行為に基づく損害賠償制度は,被害者に生じた現実の損害を金銭的に評価し,加害者にこれを賠償させることにより,被害者が被った不利益を補填して「不法行為がなかったときの状態に回復させることを目的とする」ものであり,また,「損害の公平な分担を図ることをその理念とする」ところである。このような目的及び理念に照らすと,交通事故に起因する後遺障害による逸失利益という損害につき,将来において取得すべき利益の喪失が現実化する都度これに対応する時期にその利益に対応する定期金の支払をさせるとともに,上記かい離が生ずる場合には民訴法117条によりその是正を図ることができるようにすることが相当と認められる場合があるというべきである。

としています。

元々,全く事故が無かったとき元の状態に身体的に戻すことは出来ないですが…
金銭賠償として出来るだけ元の状態に回復しようとするものであることと損害の公平な分担を図ることを,裁判所も意識しているのが,注目されます。
「建物の損害賠償額の算定方法~建物を壊されてしまったら」にも記載しましたが,出来るだけ,被害者が現実に近い形(現実から乖離しない形,実態に即した形)での損害を回復してもらえるために定期金賠償も認めようとしてくれているのかな,と思いました。

3 定期金賠償のメリットとデメリット

被害者の視点で考えると,定期金賠償は,より現実に近い,実態に即した賠償を受けることができるというメリットがあると言えます。

例えば,一時金で賠償金を受ける場合,「民法改正による交通事故の損害賠償金の増額と必要な備え」でお伝えしたように中間利息控除がされた金額を受け取ることになり,その際の利率は,民法改正により現在は3%です。
しかし,実際に一括でもらったお金を3%で運用することは,現状では簡単ではありません。

一方で,定期金賠償であれば本来の金額を,時間の経過ごとに控除されない状態で受け取ることができます。
特に,一時金で賠償を受ける場合,まだ就労していない若年者は,就労期間前に受領することで,さらに大きく減額されてしまいますので,就労前の若年者にとって定期金賠償で受け取れる場合のメリットはとても大きくなります。

その結果,本事案のような例で算定してみると,被害者は,賠償を受けられる金額として1億円以上の差が生じうることになります。

一時金払いの場合,最初に多額の現金が入るため,使いすぎてしまうことも現実にあり,後になって困ることがあります。
判例の事案のように被害者が未成年者の事案や後遺障害により被害者が自分でお金を管理することが困難な場合,親や親族など,実際にお金を管理する人が使ってしまうという危険性もあります。

この点,私自身が成年後見人として関わった事案も,定期金賠償の形で損害賠償金が支払われていたため,親が亡くなった後も,被後見人(事故当時未成年)に定期的に賠償金が支払われることで安心して生活を続けることが出来ていますので,将来も安心して過ごせる生活を維持していく上でも定期金賠償の方法は有効だと思います。

また,必ず認められるわけではありませんが,先述した民事訴訟法117条により,障害の程度に大きな変動があったり,大幅なインフレが生じたりした場合には,その時の実態に即した賠償金を支払ってもらうよう,定期金の金額を変更する判決を求めることも可能ということになるので,この点もメリットです。

他方で,定期金賠償を選択した場合のデメリットは,支払義務者が消滅したり,支払能力がなくなったりした場合に,定期金を支払ってもらえなくなる可能性があることです。交通事故等の損害賠償金は,実質的には保険会社が支払うというケースが一般的なので,支払われなくなる可能性は小さいですが,破産する可能性なども考慮すると,あり得ないとは言えません。

また,後遺障害の程度が事故当時(症状固定時)より,後に大幅に良くなった場合や大幅なデフレがあったりした場合には,民事訴訟法117条によって,反対に定期金金額が下がる可能性もあります。
また,判例の事案のように,被害者が就労前の若年者の場合,就労可能年に達する(18歳)まで逸失利益が支払われないので,早期に多くの賠償金を受けたいと考える場合には,問題もあります。

この意味で定期賠償を選択した場合のリスク,デメリットはありますが,損害賠償が被害者が被った損害についてできるだけ実態に近づけて賠償しようとしていること,損害の公平な負担を図る,ということからすると,実態として労働できない範囲が改善され,収入の減額程度が軽減されたと言えるのであれば,減額されるのはやむを得ないかな,と思います。

まとめ 弁護士相談で不安・疑問はお気軽に解消を

私は,交通事故の被害を受けた場合,どのように損害が計算されるのか,どのように手続きは進められていくのか,まず,最初に何をすべきなのか,などを知っておくことで,不安や疑問が解消して,安心して進めていけるといいな,と思って伝えています。

交通事故によって後遺障害が生じた場合,今後予測もしなかったほど身体の状態が悪化したらどうなるのだろう,今よりも物価が上がって,他の人たちは給与水準も上がっていく場合に,今の状態で決めてしまって本当に生活に困らないのだろうか,など心配になることもあると思います。

そのような場合に,今回お伝えした定期金賠償という選択肢が,参考になったらと思います。
どのような事案で定期金賠償が認められるか,の判断は一律ではないので,この点は弁護士に相談してもらえたらと思います。

就労可能期間の終期(67歳)よりも前に亡くなってしまった場合,一時金でもらえば,67歳まで働き続けられることを前提にもらえるのに,定期金賠償にしたら,亡くなった瞬間にもらえなくなってしまうのではないか,という心配もあるかと思いますが,この点についても前記の判例で,「交通事故の時点で,被害者が死亡する原因となる具体的事由が存在し,近い将来における死亡が客観的に予測されていたなどの特段の事情がない限り,就労可能期間の終期より前の被害者の死亡時を定期金による賠償の終期とすることを要しないと解するのが相当である」とされていますので,これによって,終了可能期間の終期よりも前に亡くなっても,それで賠償金が打ち切られるということではなく,一時金でもらう場合との大きな差が出ないよう衡平を保たれていますので,安心してもらえたらと思います。

傷害,後遺障害の状況によっては,直ぐに弁護士に相談に行くことも出来ない状況のこともあると思いますし,出来るだけ時間を短くして弁護士に相談したい,と思う場合,予め知識を得て,解消できる疑問点は解消しておけるといいかなと思っています。

それでも,不明なところや分かりづらいところはあると思いますので,その際には,遠慮なく弁護士に質問して,疑問を解消することで心を少しでも軽くしてもらえたらと思います。

このように,損害賠償請求の流れや選択肢などを知っておくことで,被害の回復までの道のりを安心して進むことが出来,必要な損害賠償請求を効率的,効果的に過不足なく請求出来ることに繋がります。

また,交通事故被害に遭った時にどんな問題が生じるのか知っておくことで,防ぐことが出来る事故,適切な任意保険に加入するなどにより,避けられる損害賠償の負担もあります。

これからも,そのための「知識」についてお伝えできればと思います。

それでは,今回も最後まで読んでいただいてありがとうございました!!